アプレ・ラプルイの朝日 〜幽閉から始まる神喰らいの英雄譚〜   作:鹿鳴弥

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【伯方】へ

 

 

 

 

 

 

 

「――エディン。俺の言いたいことはわかるね」

 

 ――修羅(イルク)がいた。

 

 迎えに来てくれた水夫の人たちからもみくちゃにされながら戻ってきた先が地獄だった。

 

 うわあ……。立ち上る怒気が見て取れる。

 イルクの表情はいつもどおりヘラヘラと笑っている。だけど、その額には明確な青筋が立っていた。

 

 ずかずか、と大股でイルクは距離を詰め、虚空に手を翳す。

 黄金の腕輪に気魄が呑み込まれ、虚空に影が投影され、大きな盃が取り出される。

 

 そこに入っている七色の水を僕にぶっかけると、

 全身の傷は瞬時に癒えていった。

 

 凄い……。

 魔力強化で弄って、完治までに3日くらいかかるだろうと踏んでいた。

 だけど僕の傷は一瞬で癒えた。

 これも迷宮特典か。

 

「エディン〜?」

 

 ニッコニコの笑顔のイルクが、僕の顔を覗き込んできた。

 ひゅ、と息を呑むほどの壮絶な覇気を纏っている。

 

 あっ、リリア! 僕の影にすっと隠れるな!

 うわぁ……。完全に我関せずな笑顔だ。見事なアルカイックスマイル。

 

 ……よく考えたらイルクとリリアは初対面。リリアは無関係じゃないか?

 ほむ。リリアを責める所以(ゆえん)はなかった。

 

 イルクが怖すぎて一周回って冷静になってきた。

 もう現実味がない領域だ。実は夢だったりしないかな?

 

「お、怒ってるってことは……わかるよ?」

「そうだね。じゃあなんで怒ってると思う?」

 

 強烈な気迫を放ちながらイルクはこっちへ歩み寄った。

 むんず、と僕の襟首を掴む。そのまま膂力に任せて宙吊りにしてきた。

 こ、怖い……。背後に鬼が見える……。

 

 落ち着け、心を冷静に……。

 イルクめっちゃ怖い、ブチ切れてるのが手に取るようにわか――。

 ……無理だ。

 

 なら切り替えだ。頭だけで冷静に思考するんだ。

 大丈夫。リステリアで飢えの恐怖を乗り越えて思考してきた僕ならできる。

 

 脳天から足首までが怖さでビクつく。だけど思考を慎重に走らせ、思いついた言葉を口にしていく。

 

「い、イルクの活躍の出番を奪ったから?」

「違う」

「す、女の子と水夫さんを力任せにぶん投げたから?」

「違う」

「木剣を駄目にしたから?」

「違う」

 

 イルクは細い目つきのままだ。

 少し黒みがった青の瞳が、じっと僕を見つめてきている。

 

「違うよ、エディン。俺はな、エディンが無茶したことに怒ってるんだ。

 なんで一人で飛び出したの。なんで、一人で《蒼霆》を使ったの」

 

 イルクが淡々と詰めてくる。

 

「助けなきゃ、って思って……。そしたら、身体が勝手に動いたんだ。誰かが死ぬよりは、いいと思って」

「それでエディンが死んじゃったらどうするのさ」

 

 イルクが平坦な口調で詰めてくる。

 

「《蒼霆》はね、<蒼仙法>の奥義だ。

 法則を運用する不安定極まるエネルギーを生成する、神格クラスの奥義だ。

 聞くだけだったら都合はいいけど、どんな法則も運用できるってことはね、それだけその性質が不安定であるってことでもあるんだよ。

 魔法も物理もぶっつらぬく威力を持ってる。つまり、体内で制御を誤ったら即死の代物。……だから、ひとりでやるなって言ったのに」

 

 イルクが鋭い目つきのまま、僕に淡々と説教してくる。

 ……扱ってみて、とんでもなく危険な技なのはわかった。

 

 無色透明、原素を完全に省いた純粋な魔力で覆わなければ即座に暴発するようなとんでもない力。

 

 魔力は基本、どうあっても七種類の原素に傾く。

 その問題を《統巡》を使って浄化し、精製する必要がある都合上、魔力の制御をミスって原素を混ぜたら体内で大爆発を起こす。

 

「いざとなれば俺が助けに入るつもりだったさ。

 虎の子だけど、蘇生用の迷宮特典もあるからね。でも、エディンはそれを望まないだろう?」

 

 こくり、と頷いた。

 

「いいか、エディン。死んだら終わりなんだ。蘇生魔法があるとはいえ、万能なんかじゃない。どこかで妥協して、助けない選択を取らなきゃいけないんだ」

 

 イルクは僕を吊り下げたまま変わらない。

 じっと僕を見つめてくる。

 ……助けない選択、か。

 

「イルク、それはできないよ。どこかで妥協して、誰かを助けない選択を取ったら、僕はきっと後悔する」

 

 十日間食事を取れないのが今までの僕にとって一番辛い経験だった。

 けれど、誰かを見捨てる選択は、きっと何より辛い。

 

 誰かを見捨てた僕を、僕自身が永遠に許せなくなる。

 そんなのは御免だ。

 

「だから、助けるよ。誰かの為じゃない。僕が僕を嫌いにならないために。苦しんでいる誰かを助け出すために、僕は【勇者】アルフェウスのように強く、【勇者】アプレ・ラプルイのように誰かに寄り添って生きていたいんだ」

 

 そう。僕は誰かを助け、その健やかな日々を守るために。いつかリステリアへ帰り、あの国の穏やかな生活を守るために、外へ出たんだ。

 

 いつか、僕を救ってくれたあの日のイルクのようになりたいから。

 

 僕は、誰よりも強くなるんだ。

 

「――ふー。そっ、かぁ。じゃあ、俺からは何も言わない。俺はエディンの道を応援するだけ。

 ただ、エディン。自分も助かる道を選ぶ。これは守るんだよ?」

 

 イルクは僕を甲板の上に降ろし、「最後にもう1つだけ」と付け加えた。

 

「エディン。さっきの《蒼霆》――。良かったよ!」

 

 …………!

 ニカッ、と僕に微笑みかけてくれたイルクへ、僕は満面の笑みで返した。

 

「でしょ! だって僕、イルクの自慢の弟分なんだから!」

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

「ところで、エディンの背後にいるお嬢さんはどなたかな〜?」

 

 

 

 イルクの視線がリリアへ向いた。

 先程までの威圧感はない。へらへらと笑ったまま、僕の後ろにいるリリアへと笑いかけていた。

 

「――お初にお目にかかります。わたしはリリア・ヴェセル・アガレイド。西方諸国が一国、アガレイド護教国の者です。貴方の友からの言伝と、あのタコの魔獣の討伐を任されて降りてました」

 

 リリアはスカートの端を摘み、お辞儀をした。

 見事なカーテンシー。アレアから礼儀作法は色々躾けられたからわかるけど、かなり品のある作法だった。

 

 ん、イルク……。そんなに強く包帯巻かなくていいから、また骨折る気……!?

 

「……言伝〜? 俺に〜?」

「ええ。こちらを」

 

 リリアは真っ赤な封蝋が押された巻物をイルクへ手渡した。

 ――六芒星の封蝋。

 その封蝋を見た途端、イルクの眼の色が冷たいものに変わった。

 

「……なるほど、リモルからか」

 

 封蝋の中身も検めず、イルクは指を鳴らした。

 黄金の腕輪が輝き、伸びた影が巻物を巻き取り、イルクの影のうちへと収納した。

 

「にしても君、アイテールでも見ない顔だね〜。アガレイド護教国ってのも初耳だな〜。どうしてリモルの名代なんぞしてるのかな?」

「一ヶ月前に彼に拉()……。匿われまして。それ以来、彼の小間使いのようなものをしております」

「あ〜……。あいつの好奇心の暴走かぁ……。大変、だったねぇ……。今回の件、あいつがかかわってるのかな~?」

 

 すぅ、とイルクの目がわずかに開いた。

 一切動いていない。なのに、タコを超える威圧感がイルクの背中から僅かにあふれていた。

 

「お戯れを。あれが邪気を起こしたのなら、この程度の被害では収まってはいません」

 

 対するリリアは平然とした様子で返した。

 ど、度胸があるな……。後ろ手に組んだ小指が少し揺れてるけど、表情は一切変わってない。

 

「ま、それもそっか~。あいつは今どこに?」

 

 張りつめていた空気が霧散した。

 

「すでにイルクさんが抑えた宿に待機しております」

「あんにゃろ……。人の宿に勝手に入るか、ふつー」

 

 イルクが遠い目で空を見つめていた。

 

「あとでエディンにも紹介するけどね。リモルってやつは生粋のサディストのカスだけど、魔法の腕は確かだから。やらかしすぎて生死問わずの指名手配かけられてるけど」

 

 不穏な文言しか聞こえない。

 凄いなぁ、あんまり人のことを貶さないイルクがここまで悪様に言うなんて珍しい。どんなぶっとんだ人なんだろう。

 

「ま、そんなことはどうでもよろしい。さっさと入国しよっか〜」

 

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 艦を降りれば、熱狂の街があった。

 

「安いよ安いよー! 今揚がったばかりのタコだよー! 一カゴ一五〇テレス!」

「いかがです? いい宝石でしょう。今日迷宮で採れたばかりの熾紅玉(ルビー)! 純度も五〇%!1つ60万テレス!」

「お、兄貴! 今日は雑魚アジが安いよ! 一貫八〇テレスでどうだい?」

 

 大通りに、たくさんの人がいた。

 筋骨隆々の男性、『ちょん髷』なる髪型の刀を佩いた男性、(かんざし)を刺した和服の女性、和服の裾を折って走り回る男性。

 

 軽装の鎖帷子や丈の長い洋服……。確か、チュニックなどの洋服。

 と思えば作務衣、小袖を始めとした和服まで、あらゆる衣装がごっちゃになって歩き回っていた。

 

 出店も不思議だ。握り寿司や天ぷら屋、蕎麦屋に漬物屋、油屋と言った和の雰囲気のものもあれば、肉の串焼きやフライドポテト、スパイス料理など、大陸の文化のものもある。

 

 食だけじゃなく、呉服屋や宝飾店、魔導具の露店もある。

 

「わあ……! いろんな服にお店、食品がある!」

 

 すごい人の数。それに文化の交わり方だ。

 リステリアだと見たことのない、多種多様な文化が入り混じっているのに、ごちゃまぜ感がない。

 それぞれが1つの文化となって形成していた。

 

「【伯方】は貿易港だからね〜。あちこちの国の文化が入り混じってるのさ」

 

 先導するイルクが人混みをかき分けながら前に進んでいく。

 入国するとき一悶着があったとは思えないほど、イルクは自然に歩いていた。

 

 長々と事情聴取やらなんやらされると思ってたんだけど、イルクの一声で免除されたんだ。

 お役人に同席していた武士っぽい人ともめそうになったんだけど、イルクが何かを渡したらあとはスムーズに入国できた。

 

 なんだったんだろあれ。印籠っぽかったけど。

 

 にしてもリリアが借りてきた猫のように大人しい。人が大勢いるからかな?

 

「……なるほど。流石は迷宮が乱立する都市国家ね。強そうな人が多くて楽しみ。イルクさんとも手合わせしてみたいわ」

 

 あなたとも、ね。とリリアはウィンクしてきた。

 人酔いしているわけでも無さそうだ。鞘に手を添えたままじっとイルクと僕の方を見ている。

 

 一見可憐な動作だけど、視界の奥でぎらつくような戦意が隠れ見える。

 

 見なかったことにしよう。

 

「また今度ね〜」

 

 対するイルクの態度はとても適当だった。

 ……いや、興味はありそうだな。リリアの足運びを結構観察してるところあるし。

 

 ちなみにリリアの敬語はイルクが取っ払わせた。

 なんでも、やりにくいとのことだった。

 

「そういや、リリアちゃんは冒険者証持ってる?」

「――持ってないわね」

 

 リリアは返答に一瞬の間があった。

 

「ところで、どこに向かってるの?」

「おおっと、説明してなかったね」

 

 イルクは首だけこちらに向け、一言つぶやいた。

 

「冒険者ギルド、【伯方】支部だよ」

 

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 冒険者ギルド、その本部。

 そこには『夢』が詰まっていた。

 

「すっごいたくさんの冒険者だ……!」

 

 真っ昼間から響く乾杯。

 あちこちで楽しげに広がる真偽は定かでない武勇伝。大テーブルの上に広がる料理。

 

「色とりどりのツルハシだね。やっぱり迷宮の鉱石採集に結構使うんだな〜」

「あ〜。うん、そだね」

 

 大テーブルの足元や壁にはたくさんの種類のツルハシが立てかけられている。ツルハシの部分が銀だったり、石だったりする。こだわりかな?

 

「飲め飲め! 今日は前祝いだ!」

「馬鹿野郎、明日は武家様随伴の禁足地調査だぞ。酒臭漂わせて行ったら斬捨御免だわ! 飲めるかぁ!」

「そういうヤバイ状況でこそ飲むんだろうが! 平太も銀級から上がるチャンスだぜ!? 飲めよ、ガハハ!!」 

 

 ガハハ、と盛り上がる冒険者を横切り、受付へとイルクに先導されつつ、彼らを横目で見る。

 

 いやー、すごいな。なんかこう、冒険者って感じの会話。イルクから貰った本でしか読んだことのない世界がこうも広がってるの、胸が熱くなる。

 

「お! 英雄坊主どもじゃねえか!」

「港での攻防見てたぜー! 俺のダチ助けてくれてありがとよ! やるじゃねえか!」

「いやー、二人とも若いねぇ。おじさん、なんか涙出てきちゃったよ」

「先導してる奴、誰だ……? 見たことあるような?」

「どーでもいいわ、おっさんだぜ? それよりさ、あーいう二人を見ると、『瑠狼刺金布裂心中(るろうさしがねぬのざきしんじゅう)』を思い出すなぁ」

 

 ……なんだか、背中が痒い。

 そ、そこまで褒められることかな……? 僕はやって当然のことをやっただけなんだ。

 

 とても褒めてくれてるんだけど、なんだかそこら辺が僕の感覚と合ってないような、変な感じだ。

 

 隣で貴族(アルカイック)笑顔(スマイル)を浮かべたリリアが軽く手を振り、粗野な風貌の冒険者たちから歓声が上がった。

 

「こういうのは適当に手を振り返しとけばいいのよ。慣れてない?」

「慣れてない……。リリアって凄いね、全く物怖じしてないじゃん」

「慣れよ」

 

 なんてリリアと喋ってるうちに、受付のカウンターの前までたどり着いていた。

 

「ようこそ、冒険者ギルド【伯方】支部へ。本日はどのようなご用向きでしょう?」

「この二人の冒険者証を作りたい」

 

 イルクはカウンターに肘を置き、僕らを親指で指して言った。

 

「かしこまりました。冒険者証をお作りする前にお二人には試験を受けていただきます。直近の試験は明日となっております」

 

 ぴく、とリリアの眉が反応したのが見えた。

 

 試験、試験か〜。どんな感じなんだろう。ちょっとワクワクするな。

 キョロキョロと周囲を見ていれば、目立つ位置に掲示板が置かれてあり、そこには無数の依頼が貼り付けられているのが見えた。

 

(ほとんどが迷宮の依頼だ)

 

 迷宮都市国家の特徴なのだろうか。

 並んでいる依頼の殆どが迷宮の魔物の討伐依頼だったり、調査依頼だ。

 

「ご自信のない方の為に試験用の講座を用意しております。お値段はかかりますが、持ち合わせがない場合は今後の依頼料から天引きすることも可能です。どういたしましょう?」

 

 リリアが凄い勢いでイルクの方を振り返り、希望に満ちた目で見ていた。

 

「いや、結構。明日の試験だけで大丈夫」

「え゛っ」

 

 リリアから聞いたことのない声が響いた。

 あ……。試験とか苦手なのかな? というよりは勉強の方か。すごい顔が青ざめている。

 でも妙だな、リリアの立ち振る舞いからは一朝一夕では身につかない作法と品を感じるんだけど……。

 

「い、イルクー? リリア、そんなに勉強が好きじゃないみたいだから、講習を」

 

「いらないよ。それじゃ、一発試験でよろしく。代金は俺の冒険者口座から引いといて〜」

「かしこまりました。それでは明日、このギルド支部にて試験を開催いたします。お名前は記載いただいた通りで行わせていただきます」

 

 しかし、無情にも流れるように講座がない状態で話は進んでいた。

 リリアの顔が少し青ざめている。本当に大丈夫かな……?

 

「だ、大丈夫だよリリア。僕もわかんないから。一緒に勉強するから、ね? 頑張ろ?」

「え、ええ……」

 

 リリアはカクカクと頷いていた。

 本当に大丈夫かなこれ。絶対リリア大丈夫じゃない反応なんだけど。

 

「よーし! じゃ、次は宿に行こうかー! 試験は明日の9時からだからね! 締まっていこー!」

 

 とても元気なイルクの声と共にリリアの肩が叩かれていた。

 リリアは完全に固まり、頭がカクンカクンと揺れていた。

 

「大丈夫じゃないな、これ」

 

 僕は思わずため息をついた。

 こりゃ、前途は多難だな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 宿は、繁華街から少し離れた場所だった。

 

 時刻はすっかり夕方だ。

 茜色の空の上には雁が飛び、遠くにある山に連なって飛んでいるのが見える。

 

 木造の本陣のお宿だ。

 本陣とはイルク曰く、武家が泊まる由緒正しいデカめの宿らしい。

 

 かなりしっかりとした門構え。庭は広く、池もある。

 門をくぐれば灯籠に火がついていた。まだ夕方だが、どうやら既に火がつけられていたらしい。

 

「よくお越しくださいました」

 

 引き戸を開けた途端、玄関口に座っていた女将さんが僕らに頭を下げてきた。

 暗い、赤色の和装の女将だ。年頃は五十の中頃くらいかな。

 

「今回も世話になるよ、女将。さ、エディン、リリアちゃん。ここで靴脱いでねー」

 

 イルクは慣れた足で靴を脱ぎ、女将へ預けた。

 

「ん……。靴、脱ぐんだ」

「そうよ。迷宮都市国家では普通よ」

 

 ほんとか……?

 リリアも口ではそんなことを言っているが、若干目が泳いでいる。

 ははーん、さては僕と同じで本だけ読んでわかってた口だな。

 

 ちょっと親近感湧くな。わかるよ、僕も今日一日で戸惑いと発見の連続だったから。

 

「何してんのー、早く行くよー」

「はーい、今行くー!」

 

 さっさと靴を脱いでいたイルクに続き、僕らは急いで二階へと駆け上がった。

 

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ――違和感。

 

 見た目は至って普通の廊下。

 板張りの床に、障子の引き戸。漆が塗られた普通の部屋。

 所々に置かれている棚には花瓶が置かれてあり、生花が飾られている。高級感こそあれ、本で見た普通の宿だ。

 

 なのに――。

 

「空間が、引き伸ばされている……?」

「正解。よくわかったね〜」

 

 イルクが僕の呟きを拾い、軽々と答えた。

 

「あいつの迷宮特典だね。空間を拡張するタイプの。全く、宿とは言え本陣にこんな真似するかってのー」

 

 イルクはぶつくさと呟きながら前へ進む。

 一番奥の間へとたどり着いた。引き戸へ手をかけ、開いた瞬間。

 

「――全く、ジ・パンの文化には参ったものだな。これではプライバシーも何もあったものではない」

 

 ――膨大な魔力が、部屋の奥からあふれ出した。

 

 なぜ気づかなかったのか不思議に思うほどの絶大な魔力。活火山……。否、火山すらも遥かに凌駕する莫大な魔力。

 

 酔いそうなほど濃い魔力の中心には、青髪に赤い瞳の少年。

 ぶかぶかの白衣を身に纏い、金のモノクルをかけた少年。

 

「なあ?」

 

「わが友イルク。いや、()()()()()()よ」

 

 【魔神】リモル・ケッツァー。

 その名に恥じないほどの威厳と、暴力的な魔力。それに見合わぬ矮躯の持ち主は、僕らへ不敵に笑いかけてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

  

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

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