*1つ目のワケアリ
「えー、ナツメちゃんもう帰っちゃうの?」
「もうちょい居てくれてもいいんよ?」
「そうしたいけど悪いね、この後外せない用事が入ってるから。のんびりするのはまた今度で」
ヒーローメンツでしばらくそうして茶をシバいた後。
嬉しいことに少し名残惜しそうにしてくれるアオホタに手を振りつつ、ワタシは一足先に席を立っていた。
理由は言った通り、用事である。
具体的に言うと『実家の手伝い』みたいなものだ。
曰く中々
変装用の伊達メガネを掛けてパーカーのフードを被り、長いゲソを上から羽織った薄手のコートの内側に収める。ゲソの色があまりに特徴的過ぎるので、これがワタシの定番の変装スタイルだ。
マンホールから地上に戻ると、バトル帰りのイカたちが連れ立って帰路についていた。
そんな彼らに紛れて歩きながらマンションに一度帰宅し、帰省の為の荷物を手早く纏める。
そして荷物を背負って再び出発、日中なのでちゃんと動いているエレベーターに乗ってマンションの外に出たワタシは、
そしてそこでスマホのマップ機能を起動し、仕掛けておいた『ビーコン』の位置へナビを設定した。
軽く説明すると、この世界のマップには『ビーコンナビ機能』なるものが付いている*1。周りの索敵と共にスーパージャンプの目印にも出来る便利なサブである『ビーコン』を、事前にアプリに登録しておき、いざ使う時にはナビを見ながら快適な空の旅。前世ではできない体験だったからか、慣れるまでにかなり時間が掛かったのを覚えている。
ナビに案内され到着した場所は、鬱蒼と木々の生い茂る山の麓だった。
『ナンタイ山』と呼ばれているその山を、更に向こうまで進んだ場所に、ワタシの『実家』への入り口がある。
スプラトゥーンについてよく知っているヒトなら、今からワタシが行こうとしている場所が分かっただろうか?
そう、ワタシの『実家』というのは━━━━━
「“……『オクタリアン潜入捜査官010』ホシノ・ナツメ…ただいま帰還しました”」
話す言葉を『切り替え』、口にする。
見上げると、天井に張り巡らされた液晶パネルに映された空と、肌を焼いてしまいそうな熱を放つ『人工太陽』と呼ばれる光源が目に入る。
地下空間に作り上げられた、地上よりも進んだ技術力と勤勉さを誇る一族の住処。
━━━━━タコツボバレー最深部。
ココがワタシの育った場所であり、『裏の仕事場』である。
それではここで、改めての自己紹介といこう。
ホシノ・ナツメ、18歳。
オクタリアンの潜入捜査官、コード010。
ワタシは物心ついた時から今日まで、オクタリアンの一員として育った。
他のタコゾネスたちと一緒に機械工学を学び、戦術を学び、種族がインクリングであるという特性を活かし、New!カラストンビ部隊への潜入任務を課せられている。
その為にタコ語とイカ語、両方を完璧にするのは中々骨が折れた(骨無いけど)し、ハイカラシティとタコツボバレーを行き来するのも大変ではあったが、どうにか今日までやってこられた。
司令にヒーローへと勧誘されることだって、ワタシ自ら計画して仕組んだ。わざと司令の目に留まるような動きをし、興味を引くよう誘導した。
しかし司令は安い演技には引っかかるヒトじゃないと思う。だからきっと、ワタシは彼からしたら本当に『イイ目』をしていたのかもしれない。
どう思われているかはワタシには分かりようもないが、悪いようにはなってないだろう、とは思っている。
「“あっ、ナツメさん! お疲れ様です、近況報告ですか?”」
「“お疲れ。そうだよ、あと『例の計画』の手伝いね”」
ワタシの姿を見るなり笑顔で声を掛けてくれた『タコゾネス』の子にそう返し、ついでに聞きたいことを聞いておく。
「“あー、あとさ。『あの子ら』どこに居るか知ってる? 将軍に報告したらその後話しに行こうと思ってんだけど”」
「“あのお2人ですか? おそらくそれぞれの持ち場にいらっしゃると思いますが…”」
「“なるほど、いつもの所か。情報ありがと。はいコレ、内緒で食べなね”」
「“あっ、ありがとうございます…!”」
タコゾネスちゃんに情報提供のお礼にと地上で買ったイカ型ビスケットを渡して別れ、更に最深部へと歩を進める。
途中でこっちでの自室に寄り道して『制服』に着替えた。タコゾネスお馴染みの臍出しインナーだが、ワタシの場合は長袖長ズボンにロングコートを着ているので比較的露出は少ない。
そして他と違い真っ黒な見た目のスコープを額に押し上げ、自室を出て更に先に向かった。
オクタリアンの基地の中でも、ごく一部のヒトしか入れない場所にて。
ワタシは目の前に聳える、重厚な金属の扉を叩いた。
……が、反応が帰ってこない。
もう一度叩いた。しかし相変わらず何も動きがない。
……なるほど、『いつもの』だな。とワタシは納得して、それ以上の返事を待たずに重く厚い扉を押し開けた。
《〜〜〜♪♪━━━━━!!》
入った瞬間に爆音が全身を貫いた。
今まで扉によって遮断されていた胸の奥まで震わせるような重低音が、容赦無くワタシに浴びせられる。
一瞬仰け反るも、体勢を立て直し、冷静に開きっぱなしの扉を閉め、部屋の奥へ向かう。
聴いた者のテンションをブチ上げるようなハイテンポの曲に合わせ、壁も床も天井に設置されたミラーボールに照らされてカラフルに光る中、広い部屋の奥に1つ影を見つけたので、ワタシはその影に目掛けて歩を進める。
そして、生半可な声じゃ届かないことを見越して、それなりの声量で呼びかけた。
「“━━━━━将軍ー! タコワサ将軍ー! 近況報告に参りましたホシノ・ナツメでーす!!! 一旦ワサビ擦んのストップお願いしまーす!!!!”」
「━━━━━ギ?」
どうにかワタシの声が届いたらしいお相手様が、やっと顔を上げた。
見た目は豪奢な兜を被り、両手に持ったワサビをDJブースで擦っているタコ。
彼が手を止めると同時に、部屋に響いていた曲がストップした。
━━━━━DJに夢中になっていた我らがオクタリアンのリーダー『DJタコワサ将軍』は、そこでワタシが来ていたことに気づいたらしい。こっちを見るなりフリーズした。『いつからそこに…?』と表情が物語っている。
「“今来たとこです。まったく、ハッスルするのは良いけどね、ヒトが来た時は気付けるようにして下さいよって言うの何度目です?”」
「“……肝に銘じる”」
「“8回くらい聞いた気がするんですけどソレ…”」
困ったおじいちゃんである。
心なしかションモリとした空気になった将軍にジト目を送りつつ、そろそろ容赦してやるかと本題に移る。
「“まぁいいや。それで、報告の内容ですけども”」
「“…何か変わりあったか?”」
「“変化自体は特に無いです。ただ…”」
「“何だ?”」
「“アタリメ司令、こっちの動きに目敏く気づいてますね。今朝監視を強化すると言われました”」
ワタシの発言に将軍は少し目を鋭くさせた。
「“…昨晩の偵察隊が見つかったか”」
「“偵察隊出してたんですね”」
「“突撃兵を数人行かせた…のだが、向こうの前線基地に近付けすぎたかもしれない”」
将軍は真剣そのものな表情でそう言うが、ワタシからすれば今もその両手に持っているすり減ったワサビと、先程のDJでハッスルしてた絵面がフラッシュバックするせいで真面目な目で見れない。なんだこの、さっきまでのパリピ将軍との差は。
「“…んまぁ、大丈夫ですよ将軍。見張りが強化されようが、その見張りがポカればデンチナマズ誘拐なんて朝飯前ですからね”」
「“……まさか”」
「“はい。司令ももうご老人ですからね。日干しの時間が必要です。その間の見張りはワタシに任されるでしょうから……その時にワタシが無線で指示を出します”」
思い出し笑いを全力で堪えつつも、ワタシはそう提案をした。
New!カラストンビ部隊の実質No.2としての立場を最大利用した、スパイであるワタシにしか取れない手段である。
「“…あまりにあからさまではないか? 内通を疑われるかもしれんぞ”」
「“それはそうですねぇ…攫われたってことにしてワタシも一緒に消えとけばどうにかなりません?”」
「“一緒に姿を消すのはますます怪しまれそうだが……”」
「“そうですかね? 血痕とか置いとけば信じてもらえるんじゃ?”」
「“待て待て待て、血痕はマズいだろう”」
「“そっかぁ……”」
確かに。流血は安心のCERO:Aからレーティングが上がってしまうからダメか。
しかしそれならどうする? 司令にそれなりの実力者と認められてるワタシが、みすみすナマズが攫われる瞬間を見逃すとは思われてない、と思う。自惚れてなければ。
不意を突かれて行動不能にされたとでも言い訳しなければ確実に怪しまれ……いや、待てよ?
………本当にそうか?
「“……あのー、将軍?”」
「“何だ?”」
「“……ここまで真面目な議論しといて今更なんですけどね”」
一息置いて、ワタシは言った。
「“多分、司令って別にそういうことは気にしないと思います。ましてや内通者とか、そういうの疑うヒトじゃないのは2年ご一緒しててよく分かってますんで”」
「“……確かに、それはそうだが”」
「“……それにワタシ、結構あの方には信頼されてる…と思いますし”」
あのヒトは身内には激甘なんだ。
いつ基地を訪れても穏やかに迎えてくれた。
オハギをご馳走してくれた。
偶にはラップを披露してくれた。
バトルに勝てないと嘆いていたアオリには、戦いの鉄則を伝授していた。
チャージャーのエイムが良くならないと言うホタルには、自分が竹使いとして常に気をつけることを話していた。
あのヒトは、組織の司令官であるよりも先に、頼れる年長者なのだ。
そんな彼ならば、ワタシを疑うことなんかより先に、オオデンチナマズを取り返す為に動き出すだろう。
「“……そうか”」
将軍が頷く。カタコトの話し方ばかり馴染んでいたからか、初めは流暢に話す将軍には中々戸惑ったが、今ではもう何の違和感も感じない。
地下で暮らした約10年間、地上で過ごした約2年間。
長いようで短かったその間に、ワタシはだいぶこの世界の皆の事を知ったと思う。ゲームでは知りえないような所も。
「“……聞くべきことではないかもしれないが”」
「“何です?”」
「“そこまで信用されている自覚があるなら…内通する事に罪悪感などは感じないのか?”」
「“……そうですねぇ、無いと言い切るまではできません。でも…そこまで強くはないですね”」
だからこそ思うのだ。イカもタコも、仲良くまた地上で暮らして欲しいと。
「“…これは『きっかけ』だと思うんですよ、ワタシは”」
「“…きっかけ? 何のだ?”」
「“それは内緒ですよ、自分でもよく分かってないので。ただなんとなくそう思うってだけです”」
2種族が、また手を取り合う為の『きっかけ』。
オクトエキスパンションで、スプラトゥーン3で、同じ目的の為に力を合わせる為の『きっかけ』。
全ては、この初代ヒーローモードから始まったのだから。
「“……じゃあ、ひと頑張りするとしましょうかね”」
「“ギ…そうだな”」
「“オオデンチナマズを攫ってエネルギー源にし”」
「“我らのナワバリを取り返す”」
タコの反逆を始めるとしよう。
ᔦꙬᔨ┈┈┈┈┈┈ ┈ ┈┈┈┈ᔦꙬᔨ
━━━ ━━ ━━━━━━ ━━ ━━━━━
『た■■て』
『こ■■れ■』
『お■■……い』
『■く■って……』
*笆?▽逶ョ縺ョ窶ヲ窶ヲ??
イカ作者の後書き(読み飛ばし可)
うーん時間かかったぁ……(疲労困憊)
という訳で1つ目のワケアリ、オリ主ナツメさんはなんと、タコ陣営でした〜!
あんまり見ない気がするんですよね、タコ側にイカの味方がいるーみたいなのを。
だから昔っからこのシチュエーションがやりたかった。夢ひとつ叶いましたね(満悦)
そしてうちの将軍はたいてい報告しに行くとDJでハッスルしててノック聞いてない系将軍です。おちゃめだね()
ナツメは割と将軍に砕けた態度取ってます。この子不敬罪ばっか犯してない?
更に最後……これは何時どこの誰の何なんでしょうね?(何も分からん)
文字化けを元に戻したら少しは何かわかる…かも?
是非考察含めて感想と評価をお願いします……恵んで…(乞食)