私が先生?無理無理(笑)   作:近視類

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プロローグ的なsomethingです。
なんと、ブルーアーカイブ要素は一切登場しません。二次創作名乗るのやめなよ。


死んだように眠るように

「……んぐぁ…………っふう、やれやれだな」

 

 

労働の記号となって久しい不規則な打鍵音すらも止み、もはや神秘的とすら思える静寂の中に、間の抜けた呻き声が響く。

 

時刻が日付変更線を跨いでから、どれだけの時間が経っただろう。もうすっかり慣れてしまったが、依然として楽にならない残業の最中に、伸びを1つ。

 

本来なら誰もいないはずの社内。ポツンと1つ、辺りを照らす液晶は、未だ青白い光を放っている。その光線を何時間と浴び続け、身体が受けた凝りというデバフが、到底人の体から出たとは考え難い異音と共に解除される。

 

 

「……内容はこれで……まあ問題無いだろ。どちらかと言えばここの労働環境が問題まである。……そもそも、こないだ別の案件こなしたばっかなのに期限近すぎだろ。スケジュールどうなってんだ、バッファ組め、バッファ。」

 

 

伸びは1つ。文句は2つ、3つ……ひとたび吹き出せば止まるところを知らない。間欠泉かな?

 

 

「……まぁ、文句言って変わるんなら今こうしてないよなぁ……っと、よし。後はこれで……終わりィ!」

 

 

力強くEnterを打鍵する音が、ホイッスルの代わりに残業という名のアディショナルタイムの終わりを告げる。……このンッターン!!がやめらんねぇんだよな。このために仕事してるまで……ないな、うん、ない。仕事は超辞めたい。悔しいっ!でも勤めちゃう!!……お金が無いとやりたいことも出来ないこんな世の中じゃ……capitalism……。なんならお金があってもやりたいことは出来ないんだよなぁ……なぜなら時間が無いからね!!……あーマジ腹立ちぬ。生きねば……。

 

 

「いつもの事とはいえ、やっぱキツイよなぁ。お疲れちゃん……っと」

 

 

自分の他に誰もいないので、仕方なく……とかは関係なく、独りでに労いの言葉が出る。当店、セルフサービスとなっておりまーす。……サービス残業といい、うちの会社どうなってんだ。サービス精神旺盛すぎるだろ、社員の。次から採用情報に向上心だとかコミュニケーション能力だとか御託並べてないでサービス精神求むって書いとけ。犠牲になるのは俺らだけでいい。

 

なんてくだらないことを考えるうちに、残業時間を0.25単位におさまるようちょろまかして申請し、慣れた手つきで荷物をまとめ、残すは……退勤ッ!!……随分と手際良くなったよなぁ……よっぽどやったんだろうなぁ……残業。ふざけやがって。

 

 

「ロッカー戸締りヨシッ!……ぼちぼち帰るとしますかねぇ。……あ、コンビニ寄らないと。」

 

 

ようやく帰ることができると思ったが、コンビニに用があったことを思い出す。別に彼女とかに買い出しを頼まれている訳では無い。そもそも頼まれる対象が存在しない。これは純度100%、自分のための買い物だ。さみちい。死因は孤独死かな?墓地墓地。

 

でもいたらいたで色々面倒そうだよなーなんて、独身のメリットを絞り出し、憧れを誤魔化していると、既に目的地に着いていた。お、こんなところにコンビニあんじゃん。興奮してきたな、ちょっと入ってみるか。

 

 

「シャッセー」

 

 

「さてと、ストロングストロング〜」

 

 

入店するや否や、絶命危惧種レッドリストの準絶命危惧種に指定されるべきである夜勤の鳴き声を背に受けながら、ストロング系チューハイの生息地へと向かう。これがないとやってらんねんだワ。

 

ちなみに社畜も絶命危惧種に指定されるべきである。なんなら、このままでは絶滅しかねん。え?まだリストに載ってないんですか?……早く保護してくれよぉ。……いやほんと、マジで。深刻な危機である。……労働環境の整った保護区みたいなの、無いですかね?……そこになければ無いですね。そうですよね……。

 

生態系の保全についていよいよ真剣に考えんとしていると、目的地である缶チューハイ保護区とたどり着く。

 

いつものか期間限定かで悩んでから、結局両方の味を手に取るという、これまたいつもの流れで500mlの缶を2つ手に取る。その足で、両手で合計1kgのオアシスを感じながらセルフレジを通す。レジもセルフかよ……いやレジは別にいいだろ。でもそろそろ人のサービスが恋しいぜ。優しさが欲しい……なんだろう、優しく触れてもらって良いですか?頼む相手がいませんでしたね……。

 

 

「アリャシターマタオコシャッセー」

 

 

夜勤の縄張りから出ていくものへと向けた鳴き声を背に、再び帰路に着く。外に出ると、以外と店内は暖房が効いていたのだろうか、来店前よりも幾分か肌寒く感じる。

 

 

「うぃ〜……さぶさぶ。まだまだ冷えますなぁ……」

 

 

油断して、少し薄着で出勤したことを少し後悔した後で、気休めにふざけて自分で自分の肩を抱く。……セルフハグとか可哀想過ぎるだろ、哀れなり……でもなんか落ち着く……。あれ?まだ酔ってないよね?

 

そういえば、セルフハグでもハグと同様の快楽物質が脳から分泌されるらしい。これずっと肩抱いてれば無限に気分が良くなるのでは……?永久機関が完成しちまったなァ〜?!ノーベル賞は俺のもんだァ!!……それでも孤独は埋められないよな。セルフハグの状態で孤独死なんてしてみろ、その体勢で死んでるのオシリスしか見たことないわ。賞は賞でもダーウィン賞だぞ。

 

死因ダービー1番人気が孤独死であることを再確認していると、帰路は大通りを超え最後の直線へと差し掛かっていた。人生は短いぞ!彼女と子供は間に合うか?!

 

同僚に大差をつけられつつ、ようやく自宅にゴールイン。形骸化した手洗いうがいを済ませ、つまみも用意せず缶チューハイを開ける。炭酸ガスの抜ける爽やかな音の後、ほのかな独特の苦味を感じる程度には濃いアルコールを一気に呷る。その勢いは喉から鳴る音が証明していた。酒に溶けた二酸化炭素と引き換えに魂まで溶け出していくような気がした。

 

 

「ックァー!!っぱこれよこれ!」

 

 

あまりの爽快感に思わず声をあげる。労働後の飲酒気持ちよすぎだろ!!これの為に生きていると言っても過言。さすがにそれは無い。でもこれがなきゃやってられんのよなぁ……つらいよなぁ……本当はもっと他にやりたいことが……ねぇんだなぁこれが。虚しいなぁ……ばにたすばにたす……ばにたすってなんだ?まあなんでもいっか!お酒飲んで忘れよ!末期だなぁ。

 

その後なんだかんだでストロング500缶を2つ空け、調子に乗って余ってたウィスキーでハイボールまで作った俺は……

 

 

「くぁw背drftgyふじこlp;@:「」!ちくわ大明神!ちくわ大明神!!誰だ今の!?……俺だ!!!」

 

それはもう酔っ払っていた。ベロンベロンである。

 

もう何も考えられない。とりあえずトイレに行きたい気がする。こんなに酔っていても生理的欲求については少しは頭が回るらしい。焦点の定まらない目で進行方向を見つめ、おぼつかない足取りで前進する。とりかぁじ!いっぱぁい!!……あっなんか踏ん「ダッ!!」

 

倒れたウィスキーの空き瓶に片足で全体重をかけた俺は、氷で滑った時よりも勢いよく、それはもう思いっきり倒れた。うーん、近所迷惑。

……しかしふしぎといたくないぞ?はれ、なんか、あったかい……あったかいの……ねむい……ねよ……

 

こうして、俺は今日もまた、死んだように眠るのであった。

 

……翌日、俺が朝日を拝むことは無かった。

 




お付き合いいただきありがとうございました。
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