私が先生?無理無理(笑)   作:近視類

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粗文ですが……


教員免許は持ってない

「……私のミスでした」

 

朧気な意識の中で、誰かの声が聴こえる。トーンは落ち着いているがややあどけない、少女の声。淡々と紡がれていく言葉には後悔が滲んでいる。

 

「……結局、この結果にたどり着いて初めて、あなたの方が正しかったことを悟るだなんて…」

 

……年頃の少女を思わせる可愛らしい声とは裏腹に、その声音はどこか自嘲気味だ。

 

『先生』ということはこの子は生徒なのだろう。……個人面談かな?進路かしら?

 

 

「……今更図々しいですが、お願いします。」

 

 

どうやら、『先生』に何かしらを託しているようである。……進路相談にしてはなんか……重くない?雰囲気。私が聞いてしまってもいいのだろうか?

 

盗み聞き判定を食らったら面倒なことになりそうだな……違うんです!たまたま聞こえちゃっただけで!……申し訳ないと思うならさっさと離れろって?ごもっともです。でもなんか動けないんだワ。金縛りかな?……そういうわけだから、聞きたくて聞いてたわけじゃないから。

 

……べっ、別に少し気になるとかじゃないんだからねっ!

 

「大切なのは……選択の数々……」

 

というか、『先生』もなかなかに大変なものだ。いくら少女……この場合は生徒になるのか?……いくら生徒だからといって、所詮は他人。他人の悩みを紳士に聴いて対応するなんて、私にはとてもじゃないが難しい。ぶっちゃけ面倒だ。当方、すでに自分に関する選択への責任で手一杯である。生徒関連まで責任を負っていたら潰れちまうよ……私はイナバじゃないからね、100人乗ったらだいじょばない。象が踏んだらお陀仏だ。

 

「私が信じられる大人である、あなたになら……」

 

「この捻れて歪んだ先の終着点とは、また別の結果を……」

 

 

それに加えて、この『先生』は何か大切なモノを託されているご様子。

 

いや〜、私じゃなくてよかった〜。ただでさえ納税、勤労、教育の義務を託されているのだ。不特定多数の生徒のことまで託されちゃ堪らない。教育の比重が重すぎるッピ!

 

責任と義務、私の嫌いな言葉です。これからこれらを果たすであろう『先生』に敬礼ッ!!

 

「……だから先生、どうか……」

 

心の中でくだらない独り言を垂れ流す間にも、生徒と思しき少女は言葉を紡いでいく。祈るように。縋るように。

 

……盗み聞きを強制されてどれくらいたっただろう、そろそろ気まずいんだけど?何故か『先生』は無反応だし……コイツホントに教師か?もっと生徒の声に応えてやれよ!会話って知ってる?……じゃあお前がやれって?……『先生』最高!!教師の鑑!!

 

 

そういえばここは『先生』の部屋である。他に来客があってもおかしくない。

 

……今誰か来たらバレるんじゃ?いや別にやましいことはありゃしませんけどね!

 

「先生」

 

ほら、ウワサをすれば別の生徒さんだ。凛として、少し呆れたような、これまた少女の声。……ごめん、もしかしたら女教師かも、そのくらい大人びて聞こえる。ところで、『おんなきょうし』よりは『じょきょうし』の方がなんというか、こう、えっちだよね!いちばんえっちなの?もちろんじょしこうs……この話はやめとこっか!お巡りさんとハンドシェイクは私の望むところではない。どうせ手を繋ぐならじょしk……やめとこっか!

 

いやはや、しかし、連続で少女とは……もしかして女子校?それともモテモテ?またはその両方が課せられてるの?いいなぁ……異性と関わりがなくなって久しいどうもぼくです。うらやましや〜

 

「先生!」

 

あーあー、呼ばれてますよー『先生』?もしもし?全くもー、女の子をシカトなんて随分なご身分ですn

 

「起きてください!先生!!」

 

「うぁぇい!?」

 

少女の声があまりに大きく聞こえ、思わず飛び起きる。あらやだ、わたしったら、寝ちゃってたのね。どうやら夢の中だったらしい。よかったぁ〜盗み聞きじゃなくて。……夢にしては随分と現実味があったな?バーチャルもビックリのリアリティ。

 

余程疲れていたのだろう、眠りに落ちるまでの記憶がない。これじゃ気絶じゃないの、こわいわ〜私の労働環境がこわいわ〜。さて、今わかっているのはとてつもなく疲れていたことだけだ。ここから導き出される最適解は……二度寝!おやすみ!世界!!

 

「何寝ようとしてるんですか!」

 

「ヴッ!?」

 

ゴン!!といういかにもな打撲音とともに、日常生活で体験できるギリギリなレベルの衝撃が頭から背中へ、背中から腰へと連鎖していく。……ベッドから落ちたのか?なんなら怒鳴られてないか?ていうか頭痛くないか?本当のことだからだ!!あぁ……痛ってぇ……痛すぎて二度寝失敗頭痛いおじさんになってしまった。誰だよ。

 

「手荒な真似をしてしまったことは謝ります。……でも、先生にも非があるんですからね?大事な話があると伝えておきましたのに……。」

 

庇えなかった頭を抱え、全身で痛みを表現しているとまた声が聞こえる。……夢で聞いたものと同じ、凛として、少し呆れたような……?

もう覚めるしかなかった目でようやく辺りを見渡す。そこには当然、住み慣れたアパートの一室に、もはや見慣れた空き缶が転がって……いない!?なんだここは!?俺が住んでいたホームは!?

 

痛む頭を抑え、声がする方を見上げる。そこには、おそらく俺が先程まで寝ていたのであろうソファを両手で持ち上げ、あたかも乗っていたものをひっくり返しましたという体制の少女がいた。……えっ

 

「……怪力?」

 

「なっ!?ちっ違います!キヴォトスでは平均的な筋力です!そんな、怪力だなんて……」

 

あっ、声に出てました?いっけね!あまりの衝撃から初対面の女性に怪力宣言をしてしまいました。これもノンデリに入るのだろうか……いやでも仕方なくない?待合室にありそうなソファーひっくり返すんだよ?成人男性ごとだよ?

 

そんな怪力少女はというと、凛とした佇まいをやや崩し、ソファーを元の位置にいそいそと戻しつつ、少し赤らめた顔で必死に普通アピール。かわいいとこあるじゃないの。わかるよ、可憐でいたいよね。女の子だもんね。自分が怪力持ちだなんて信じたくないよね。でも残念!事実です。ソファー浮いたもん!嘘じゃないもん!!

 

……それはさておき、何故夢の中の少女が現実でも語りかけてくるんだ?彼女は一体?

 

 

 

「……どちら様でしょうか?」

 

おそるおそる尋ねる。大事な話が云々言っていた気がするので、私が忘れている可能性も大いにある、なんなら多分そう。でも尋ねるしかない。だってわかんないんだもん!分からないことを分からないと言える大人になったよママ!

 

「……はぁ。連邦生徒会役員、七神リンと申します。……怪力ではないですからね?」

 

いきなりあんた誰よと聞いたのに、律儀に答えてくれる。ありがたいが残念ながら名前も顔もピンと来ない。記憶にございません。

 

「本当に覚えていないのですか?連絡は差し上げましたのに…まあ、こちらに赴任したばかりですし、仕方ないと言えばそうですが……」

 

はい、記憶にございません。

 

 

簡単な自己紹介を終えると、七神リンと名乗る少女……少女?大人びすぎでは?生徒会がなんちゃら言っていたので少女だとは思うが……生徒と言うよりは若い女教師……やめとこっか!

 

私が冷たい鉄製の輪っかがはまったその手でクラップハンズできそうなことを考える前に話し終えた彼女は、増々呆れた様子で、未だにリノリウムに蹲る私を見下ろしている。……なんなら睨まれてないかこれ?こわいめぅ。

 

 

 

「赴任されて早々で申し訳ないのですが……先生には、連邦操作部 S.C.H.A.L.E.(シャーレ)の先生として、キヴォトス全体の問題解決に動いて欲しいのです。」

 

 

仕方ない申し訳ないなどとは言いながらも、はいかYESかしかなさそうなお願いごとをされてしまった。まあ、もともと決定事項ではあったのだろうからそれこそ仕方のないことだが

……しゃーれ?きぼとす?聞き慣れない単語が並ぶ。難しい横文字使うね?覚えたて?

 

「……先生?聞いていらっしゃいますか?」

 

「はっはいっ!リンちゃんは怪力ではありませんっ!!」

 

「その話はもうしていないのですが……というかリンちゃんって……」

 

おっと、失敬失敬。分からないことだらけで集中できていなかったようだ。聞いていないことを指摘され反射的に飛び起きてしまう。……咄嗟に呼んでしまったが、気に入らなかっただろうか?リンちゃん。可愛いと思うけどなぁ、リンちゃん。

 

「……どうやら私の話を聞かれていなかったようですので、もう一度説明させて頂きますが、よろしいですか?」

 

「はい、是非、お願いします。」

 

願ってもない申し出である。今度こそは聞き逃すまいと言われずとも耳の穴をかっぽじる。

……よっしゃ。かかってこい。

 

「今度はちゃんと聞いてくださいね?先生は今日付けで、ここ、学園都市キヴォトスへ赴任されました。これからは連邦捜査部……通称シャーレの先生として、各学園、並びに都市全体の問題について対処して頂くことになります。勿論、給与は発生しますし、必要に応じで生徒からサポートを受けることも可能です。……ここまではよろしいですか?」

 

オーケー、オーケー。なるほどわからん。

 

 

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