私は親友のままでいたくない   作:さぶろー

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第15話 相棒

 推薦を受けたあと、やることは思っていたより少なかった。

 

 ダンデから、次に向かう場所を聞く。

 

 エンジンシティ。

 

 ジムチャレンジの開会式が行われる町。

 

 そこへ行けば、いよいよ本当にジムチャレンジが始まる。

 

「開会式で待っている」

 

 ダンデはそう言った。

 

「二人とも、遅れるなよ」

 

「兄貴じゃないんだから迷わないよ」

 

「ホップ、それはどういう意味だ?」

 

「そのままの意味」

 

 ソニアが横で小さく笑った。

 

「ダンデは本当に迷うからね」

 

「ソニアまで言うのか」

 

「事実でしょ」

 

 そのやり取りに、ホップは少し笑った。

 

 ダンデもソニアも、マグノリア博士もいる。

 

 けれど、ホップの意識はもう次の道へ向いていた。

 

 ダイマックスバンドは手首にある。

 

 推薦も受けた。

 

 ポケモンたちも、ダンデに回復してもらった。

 

 行ける。

 

 今度こそ、本当に。

 

「図鑑も忘れないでね」

 

 ソニアが言う。

 

「うん。ちゃんと埋めるよ」

 

「無理しすぎないこと。昨日みたいに、疲れたらちゃんと休む」

 

「分かってる」

 

 ホップが頷くと、ソニアは少しだけ目を細めた。

 

「なら大丈夫かな」

 

 マグノリア博士は、玄関先で二人を見た。

 

「行っておいで」

 

「はい」

 

「自分の目で見て、自分で考えるんだよ」

 

 ホップはもう一度頷いた。

 

 その言葉は、二年前に聞いたら、少し重かったかもしれない。

 

 何を見ても、何を考えても、答えが出ない気がしていたから。

 

 でも今は違う。

 

 分からないことがあっても、歩いていける。

 

 隣に、マサルがいる。

 

「行こう、マサル」

 

「うん」

 

 二人はマグノリア博士の家を出た。

 

 庭を抜け、門を出る。

 

 二番道路の空気は、昨日より少し明るく感じた。

 

 実際には、同じ道だ。

 

 昨日もここを歩いた。

 

 ポケモンを捕まえて、バトルをして、キャンプをして、願い星を見つけた。

 

 けれど、今日は腕にダイマックスバンドがある。

 

 鞄の中には、推薦を受けた事実がある。

 

 同じ道なのに、少しだけ違って見えた。

 

 ホップは歩きながら、自分でも分かるくらい口元が緩んでいた。

 

 前を見ているつもりなのに、気づけば頬が上がっている。

 

 ウールー。

 

 ココガラ。

 

 ヒバニー。

 

 みんなで勝った。

 

 マサルに勝った。

 

 昨日は負けた。

 

 今日は勝った。

 

 今は一勝一敗。

 

 そう考えるだけで、胸の奥が軽くなる。

 

「嬉しそうだね」

 

 隣から声がした。

 

 ホップは足を止めかけた。

 

「あ、ごめん。出てた?」

 

「うん」

 

 マサルは普通に頷いた。

 

「すごくニコニコしてるなって」

 

 ホップは自分の頬に手を当てる。

 

 熱いわけではない。

 

 でも、言われると急に恥ずかしくなった。

 

「なんか、そう言われるとちょっと恥ずかしいね」

 

「何か良いことあったの?」

 

「うん」

 

 ホップは少しだけ視線を外した。

 

 隠すことでもない。

 

 でも、正面から言うには少しだけ照れる。

 

「マサルにさっき勝てたなぁって思ってさ」

 

「うん」

 

「今が一勝一敗でしょ」

 

「そうだね」

 

「次も勝つぞって考えてたら、私たち、ライバルなのかもって思っちゃって」

 

 言いながら、ホップは少し笑った。

 

「なんか、それが嬉しくてさ」

 

 マサルは少しだけ目を瞬かせた。

 

 それから、ほんの少し笑った。

 

 声を上げるほどではない。

 

 でも、確かに笑っていた。

 

 ホップはその表情を見て、少しだけ不安になる。

 

「やっぱり変だった……?」

 

「いや」

 

 マサルは首を横に振った。

 

「ごめんね」

 

「何が?」

 

「互いにチャンピオンを夢見てた頃から、俺はホップのこと、ライバルだと思ってたからさ」

 

 ホップは瞬きをした。

 

「そうだったんだ」

 

「うん」

 

「昔から?」

 

「昔から」

 

 マサルは前を見たまま、普通に言った。

 

「ホップはダンデさんに挑むってずっと言ってたし。俺もチャンピオンになりたいって思ってたし」

 

「うん」

 

「同じものを目指してたから、ライバルだと思ってたよ」

 

 ホップは黙ってその言葉を聞いた。

 

 嬉しかった。

 

 今、自分がマサルをライバルだと思ったことが、変ではなかったから。

 

 それどころか、マサルはずっと前からそう思っていた。

 

 ホップだけが、今になって浮かれていたわけではなかった。

 

 昔から、そこにあった言葉だった。

 

「そっか」

 

 ホップは小さく言った。

 

「マサルは、ずっとそう思ってたんだ」

 

「うん」

 

「そっか」

 

 同じ言葉をもう一度言ってしまう。

 

 でも、他にすぐ出てこなかった。

 

 嬉しい時ほど、言葉は少なくなるのかもしれない。

 

 ホップはもう一度歩き出した。

 

 マサルも隣を歩く。

 

 二番道路の先には、ブラッシータウンがある。

 

 その先に駅があって、もっと先にエンジンシティがある。

 

 ジムチャレンジの開会式。

 

 スタジアム。

 

 兄が待つ場所。

 

 考えることはいくらでもある。

 

 けれど、今は隣を歩く足音が一番近かった。

 

「俺も、少し思ったことがあってさ」

 

 マサルが言った。

 

 ホップは顔を向ける。

 

「何?」

 

「一緒に旅して」

 

「うん」

 

「一緒にご飯を作ったりして」

 

「うん」

 

「テントを立てたり、ポケモンを休ませたりして」

 

 昨日のことが頭に浮かぶ。

 

 曲がりそうになった支柱。

 

 少し焦げたカレー。

 

 夜の冷たい空気。

 

 落ちた願い星。

 

「相棒だなって思ってさ」

 

 ホップは足を止めた。

 

 マサルも少し先で止まって、振り返る。

 

「ホップ?」

 

「相棒」

 

 ホップはその言葉を繰り返した。

 

 親友。

 

 ライバル。

 

 そして、相棒。

 

 どれもマサルとの言葉だった。

 

 どれか一つにしなくてもいい。

 

 昔から親友で。

 

 昔からライバルで。

 

 今、旅に出て、相棒にもなった。

 

 そう思うと、胸の奥がまた温かくなる。

 

「そうだね」

 

 ホップは顔を上げた。

 

「私たち、相棒だね!」

 

 言葉にすると、思ったよりも嬉しかった。

 

 ヒバニーのことも相棒だと思う。

 

 ウールーも、ココガラも、これから一緒に進む大事な手持ちだ。

 

 でも、今マサルが言った相棒は、たぶんそれとは少し違う。

 

 同じ道を歩いて、同じものを目指して、隣にいる相手。

 

 そういう意味の、相棒。

 

 マサルは少し笑って頷いた。

 

「うん。相棒」

 

 ホップはまた歩き出した。

 

 さっきより少し歩幅が大きくなる。

 

「嬉しそうだね」

 

「うん」

 

 今度は隠さなかった。

 

「嬉しいよ」

 

「そっか」

 

「うん」

 

 ホップは前を見る。

 

 二番道路の先へ。

 

 その先にある町へ。

 

 もっと先にあるスタジアムへ。

 

 マサルは隣にいる。

 

 親友で、ライバルで、相棒。

 

 その言葉が増えただけで、同じ道が少し違って見えた。

 

「マサル」

 

「何?」

 

「次も勝つよ」

 

「俺も勝つよ」

 

「じゃあ、次で二勝一敗だね」

 

「俺が勝てば、俺の二勝一敗だよ」

 

「そうはさせない」

 

「俺もさせないよ」

 

 ホップは笑った。

 

 マサルも少し笑っていた。

 

 勝ったことが嬉しい。

 

 ライバルだと分かったことが嬉しい。

 

 相棒だと言われたことが嬉しい。

 

 嬉しいことが増えていく。

 

 その全部が、今のホップのものだった。

 

 ホップは手首のダイマックスバンドに軽く触れる。

 

 願い星は、形を変えてここにある。

 

 言葉にならなかった願いも、たぶんどこかにある。

 

 今はまだ、全部を言わなくていい。

 

 ただ、この道を進めばいい。

 

 マサルと一緒に。

 

「エンジンシティ、楽しみだね」

 

「うん」

 

 マサルが頷く。

 

「楽しみだね」

 

 二人は二番道路を歩いていく。

 

 ジムチャレンジの開会式が待つ町へ。

 

 親友で。

 

 ライバルで。

 

 相棒として。

 

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