私は親友のままでいたくない   作:さぶろー

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第16話 ワイルドエリア

 ブラッシータウンへ戻る頃には、空は高く明るくなっていた。

 

 昨日は、ここから二番道路へ向かった。

 

 ポケモン図鑑を受け取って、初めての道を進んで、キャンプをして、願い星を拾った。

 

 そして今日は、推薦を受けて戻ってきた。

 

 同じ町なのに、昨日とは少し違って見える。

 

 手首にはダイマックスバンドがある。

 

 鞄には、旅の荷物がある。

 

 ボールの中には、一緒に戦ってくれたポケモンたちがいる。

 

 隣にはマサルがいる。

 

 ホップは駅へ向かう道を歩きながら、少しだけ自分の手首を見た。

 

「気になる?」

 

 マサルが言った。

 

「うん」

 

 ホップは頷く。

 

「まだ、ちょっと不思議な感じがする」

 

「そうだね」

 

「兄貴と同じものなんだよね」

 

「うん」

 

「それを私たちも持ってるんだね」

 

 言葉にすると、少しだけ胸が熱くなる。

 

 兄の背中を追いかけるためのもの。

 

 スタジアムへ向かうためのもの。

 

 昨日、夜の草むらで拾った願い星は、今は腕にある。

 

 願い事はまだ分からない。

 

 けれど、それでも前へ進むための形にはなった。

 

 駅に着くと、エンジンシティへ向かう人たちの姿がいくつも見えた。

 

 大きな荷物を持つ人。

 

 ポケモンの入ったボールを腰につけている人。

 

 ジムチャレンジャーらしい子たちもいる。

 

 ホップは自然と背筋を伸ばした。

 

 自分たちも、その中の一人になったのだと思う。

 

「人、多いね」

 

「うん」

 

「みんな、開会式に行くのかな」

 

「たぶん」

 

 マサルの声はいつも通りだった。

 

 でも、視線は駅の中をよく見ている。

 

 ホップはそれを見て、少し笑った。

 

「マサルも気になってる?」

 

「うん。気になるよ」

 

「だよね」

 

 同じものを見ている。

 

 同じ場所へ向かっている。

 

 それだけで、少し落ち着く。

 

 二人は列車に乗った。

 

 窓の外を、見慣れた景色が流れていく。

 

 ハロンタウンから出た時よりも、遠くへ行く感じがした。

 

 ホップは座席に座りながら、膝の上で指を軽く握った。

 

 ジムチャレンジへ向かっている。

 

 二年前に行けなかった道を、今、進んでいる。

 

 そう考えると、少し緊張する。

 

 でも、不思議と怖くはなかった。

 

「ホップ」

 

「何?」

 

「大丈夫?」

 

 マサルが聞いた。

 

 ホップは少しだけ驚いて、それから笑った。

 

「うん。大丈夫」

 

「そっか」

 

「緊張はしてるけど」

 

「うん」

 

「でも、嫌な感じじゃないよ」

 

 マサルは頷いた。

 

「なら、よかった」

 

 それだけ言って、また窓の外を見る。

 

 余計なことは言わない。

 

 でも、いつも気にかけてくれる。

 

 それが、嬉しかった。

 

 列車は途中の駅で止まった。

 

 エンジンシティの手前。

 

 ワイルドエリア駅。

 

 そこから先は、少し歩いてエンジンシティへ向かうことになる。

 

 駅の外へ出た瞬間、風の広さが変わった。

 

 ホップは思わず足を止める。

 

 目の前に、広い草原が広がっていた。

 

 ハロンタウンの道とも、二番道路とも違う。

 

 ずっと遠くまで、地面が続いている。

 

 草むらがあって、水辺があって、遠くには強そうなポケモンの影も見えた。

 

「広い……」

 

 言葉が自然と出た。

 

「うん」

 

 マサルも隣で頷く。

 

「すごく広いね」

 

 ホップは少しだけ息を吸った。

 

 風の匂いがする。

 

 草と土と、水の匂い。

 

 それから、どこかでポケモンが動く音。

 

 ここには、知らないポケモンがたくさんいる。

 

 知らない道がある。

 

 知らないトレーナーもいる。

 

 ジムチャレンジへ向かう途中なのに、もうそれだけで一つの旅みたいだった。

 

「このまま通り抜けるだけじゃ、もったいないね」

 

 ホップが言うと、マサルも頷いた。

 

「少し、手持ちを慣らしていこうか」

 

「うん。そうしよう」

 

 エンジンシティへ急ぐ必要はある。

 

 けれど、ただ歩くだけが旅ではない。

 

 昨日も、休んだからこそ見えたものがあった。

 

 ここでも、少し立ち止まることにした。

 

 二人はワイルドエリアを進みながら、何度か野生ポケモンとバトルをした。

 

 知らない動きをするポケモンもいた。

 

 二番道路よりも強い相手もいた。

 

 ホップは自分の手持ちが、昨日より少しだけよく動くようになっているのを感じた。

 

 マサルも、メッソンやガーディに声をかけながら、無理をさせないように戦っていた。

 

 勝つことだけではなく、慣れること。

 

 見ること。

 

 休ませること。

 

 それもトレーナーの仕事なのだと、少しずつ分かってくる。

 

 何度目かのバトルを終えたあとだった。

 

 マサルが、少し先の草むらを見た。

 

「ホップ」

 

「何?」

 

「あのポケモン」

 

 ホップもそちらを見る。

 

 草むらの向こうに、小さな青い体が見えた。

 

 丸い鼻のような部分を揺らしながら、地面を踏むポケモン。

 

「ゾウドウだ」

 

 ホップが言った。

 

 名前は知っている。

 

 けれど、実際に近くで見るのは初めてだった。

 

 ゾウドウは、こちらに気づくと足を止めた。

 

 逃げる様子はない。

 

 むしろ、じっとこちらを見ている。

 

「捕まえる?」

 

 ホップが聞く。

 

 マサルは少しだけ考えてから、頷いた。

 

「うん。捕まえたい」

 

「分かった」

 

 ホップは一歩下がる。

 

 マサルがボールを手に取った。

 

 バトルは長くはかからなかった。

 

 ゾウドウは見た目よりもずっと力が強く、地面を踏むたびに重い音がした。

 

 けれど、マサルは落ち着いていた。

 

 相手の動きを見て、無理に攻めず、少しずつ体力を削っていく。

 

 最後に投げたボールが、草の上で揺れた。

 

 一度。

 

 二度。

 

 三度。

 

 音が鳴る。

 

 ゾウドウは、ボールの中に収まった。

 

「捕まえた」

 

 マサルが言った。

 

 その声は大きくはなかったが、少しだけ嬉しそうだった。

 

 ホップは近づいて、ボールを見る。

 

「頼もしい子が増えたね」

 

「うん」

 

 マサルはボールを手に取る。

 

「力強いね」

 

「うん。すごかった」

 

「これからよろしく」

 

 マサルがボールに向かってそう言った。

 

 ホップはそれを見て、少し笑った。

 

 マサルの手持ちは、メッソンとガーディとゾウドウ。

 

 少しずつ増えていく。

 

 自分の手持ちもそうだ。

 

 昨日の朝には、まだヒバニーだけだった。

 

 今はウールーとココガラもいる。

 

 旅に出るというのは、こういうことなのかもしれない。

 

 一緒に進む仲間が、少しずつ増えていく。

 

 少し休んでから、二人はまたエンジンシティへ向かって歩き出した。

 

 ワイルドエリアの向こうに、大きな町が見えてくる。

 

 遠くからでも分かるほど、大きな建物。

 

 煙突。

 

 歯車のような形。

 

 町全体が、何か大きな機械のようにも見えた。

 

「あれが、エンジンシティ……」

 

 ホップは足を止めずに呟いた。

 

「大きいね」

 

「うん」

 

 ハロンタウンとはまるで違う。

 

 ブラッシータウンよりも、ずっと大きい。

 

 人も多いだろう。

 

 ジムチャレンジャーも集まっているはずだ。

 

 開会式がある。

 

 スタジアムがある。

 

 兄が待つ道の、最初の大きな場所。

 

 ホップは少しだけ緊張した。

 

 けれど、隣を見ると、マサルがいた。

 

 マサルも町を見ている。

 

 同じ方向を見ている。

 

「行こうか」

 

 マサルが言った。

 

「うん」

 

 ホップは頷いた。

 

「行こう」

 

 二人はワイルドエリアを抜け、エンジンシティへ入った。

 

 門を越えた瞬間、空気が変わる。

 

 人の声。

 

 足音。

 

 蒸気の音。

 

 遠くから聞こえる機械の動く音。

 

 町の熱が、一気に近くなる。

 

 ホップは思わず周りを見上げた。

 

 建物が高い。

 

 道が広い。

 

 人が多い。

 

 その中に、自分たちも入っていく。

 

 知らない人たちがすれ違う。

 

 誰もホップのことを不思議そうには見ない。

 

 ただ、一人のジムチャレンジャーとして通り過ぎていく。

 

 それが少し不思議で、少し楽だった。

 

「すごいね」

 

 ホップが言う。

 

「うん」

 

 マサルが頷く。

 

「すごいね」

 

 同じ言葉を返されて、ホップは少し笑った。

 

 エンジンシティ。

 

 ジムチャレンジの開会式が行われる町。

 

 そこに、マサルと一緒に来た。

 

 親友で。

 

 ライバルで。

 

 相棒として。

 

 ホップは手首のダイマックスバンドに触れてから、前を向いた。

 

 まずはホテルへ。

 

 開会式は、もうすぐそこだった。

 

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