【ガンダム×マクロス】ガンダム ゼロ ――鳥の人は、まだ歌を忘れていない   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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宇宙世紀0078年11月15日 午後2時45分 暴走する神話

川底の光が、ついに水面を突き破った。

 

白い柱が空へ立ち上る。太さは家1軒分はあろうかという規模で、村全体を真昼のように照らし出した。空で戦っていた機体たちが、一斉に動きを止める。灰色機体も、連邦艇も、ジオン降下艇も、その光の前では等しく無力な観客になった。

 

裁きは、罰ではないはずだった。浄化と試練(じょうかとしれん)——古い言葉が、そのままの形でこの瞬間に蘇ろうとしている。だが、目覚めかけているものは、浄化の作法も、試練の手順も、とうに忘れてしまったように見えた。長い眠りというのは、記憶にとってあまり優しくないらしい。

 

光の中心、川底の空洞で、巨大な影がゆっくりと形を変えていた。

 

折り畳まれていた翼状の構造物が、軋みながら開いていく。中央の隆起は、うずくまっていた姿勢を解き、ゆっくりと首をもたげるような動きを見せた。羽を広げた巨人——伝承がそのまま、目の前で現実になっていく。鳥の人(バードヒューマン)が遺した最後の器が、何千年ぶりかに、その翼を伸ばそうとしていた。

 

「なんだよ、あれ……」

 

クスコの声が震える。両腕で自分の身体を抱きしめ、それでも視線だけは逸らさなかった。かつて墜落機の残骸を「鳥みたい」と言い当てた彼女の目には、今、その言葉の意味が、あまりに正確な形で突きつけられていた。

 

シローは、意識のないララァを背負ったまま、村の高台へと後退していた。肋骨の痛みなど、もう感覚の外にあった。

 

「全員、下がれ。できるだけ遠くへ」

 

「でも、逃げ場がない」

 

長老が呻く。村は川に囲まれた孤立集落だ。逃げるための陸路そのものが乏しい。

 

そのとき、上空でスレッガーの声が響いた。

 

「アマダ、聞こえるか。輸送機をもう1機呼んだ。村の東側、河原に着陸させる。人数分は乗れねえが、まずは子どもと年寄りからだ」

 

「わかりました」

 

シローは怒鳴り返し、村人たちを東へ誘導し始めた。クスコが年少の子どもたちを、他の若者たちが老人を支える。パニックはまだ完全には収まっていなかったが、それでも人々は動き出した。恐怖の中でも、誰かが方向を示せば、人は歩ける。足の悪い老婆を背負う若者、泣きじゃくる幼子の手を引く少女。誰もが自分にできることを、必死に探していた。長老でさえ、杖を放り出し、幼い子どもを抱えて走っていた。信仰の言葉より、今は腕の力の方が役に立つ。

 

一方、光の中心では、灰色の機体たちが不穏な動きを見せていた。

 

「対象、覚醒段階5。回収は不可能と判断。次善策へ移行」

 

合成音声が冷たく告げる。次の瞬間、灰色機の1機が、光柱そのものへビームを撃ち込んだ。

 

「破壊するつもりか」

 

ラルが叫ぶ。

 

「制御できないものは処分する。それが我々の任務だ」

 

灰色機の答えは端的だった。

 

ビームが光柱に触れた瞬間、周囲の空気が震え、村中の水面が一斉に逆巻いた。破壊行為への反応は、むしろ覚醒を加速させただけだった。水しぶきが村の屋根を叩き、遠くで悲鳴が上がる。

 

「馬鹿な連中め」

 

ラルが吐き捨て、青いザクIを灰色機へ突撃させる。マシンガンの弾幕が装甲を削るが、決定打には至らない。装甲の質そのものが、これまで戦ってきたどの相手とも違っていた。

 

その混乱の最中、シローの視界の端で、地下からもうひとつの光が漏れているのに気づいた。

 

先ほどとは違う、人工的な明滅を伴う光。誰かが、装置の内部で機器を操作している証拠だった。

 

——ハモンたちが、まだ地下にいる。

 

シローは背中のララァを揺すり上げ、光柱の根元へ視線を戻した。翼状の構造物が、さらに大きく開こうとしている。もし完全に開ききれば、その先に何が起きるのか、誰にもわからなかった。伝承にも、記録にも、そこから先のことは書かれていない。

 

「アマダ少尉」

 

マチルダの声が、乱れた通信越しに届いた。

 

「本国から新たな指令です。査察部隊が排除に失敗した場合、対象一帯への戦略級火力投射を検討、と」

 

「戦略級、って」

 

「衛星軌道からの精密攻撃です。村ごと消える規模の」

 

血の気が引いた。連邦もまた、この装置を最終的には「消せるもの」として扱っている。ハモンたちの傲慢さと、根っこは同じだった。

 

「止めてください」

 

「私にそんな権限はありません。ただ、決定までにはまだ時間がある。その間に、何とかしなければ」

 

その「何とか」が、具体的に何を指すのか、マチルダ自身にもわかっていないようだった。それでも、彼女の声には、諦めではなく、まだ何かを探そうとする意志があった。

 

灰色機の残りの2機が、包囲を狭めるように光柱へ接近していく。連邦艇とジオン降下艇は、もはやそれを止める余力を失いつつあった。何度目かの被弾で、連邦艇の片翼から黒煙が上がっている。

 

「くそ、燃料も弾もそろそろ底が見える」

 

スレッガーの声には、いつもの余裕が薄れていた。それでも軽口を完全には手放さない。

 

「新入り、そっちで何か手はないのか。俺たちはもう、時間稼ぎしかできそうにねえ」

 

シローは、腕の中のララァを見た。呼吸は浅く、額には玉のような汗が浮いている。彼女の唇が、また微かに動いた。声にならない旋律の断片。まだ終わっていない歌。

 

「時間を稼いでください」

 

シローは無線に向かって叫んだ。

 

「彼女が目を覚ませば、まだ止められる。俺はそう信じてる」

 

「信じてる、で持つ保証はどこにもねえけどな」

 

スレッガーは苦笑まじりに答えながらも、機体を灰色機の前へ滑り込ませた。中間形態の関節が、限界を超えた悲鳴を上げる。

 

村の高台では、避難を終えた人々が、遠く光る川を見つめていた。誰も声を上げない。ただ、祈ることさえ許されない静けさの中で、事の成り行きを見守るしかなかった。

 

クスコは、シローの隣に立ち、震える指で光柱を指さした。

 

「あれ、ララァのお母さんも、見たことあるのかな」

 

唐突な問いだった。だがシローには、その問いの意味がすぐにわかった。

 

「ララァのお母さんは」

 

「もういない。ずっと前に、川で」

 

クスコは、それ以上は語らなかった。だが、その短い言葉だけで、声の守護者という役目がどれほど過酷なものかを、シローは思い知らされた。母から娘へ受け継がれる歌。その歌を継いだ先に待っているものを、村は誰も口にしない。口にすれば、次に選ばれる子どもが怯えてしまうからだ。

 

シローは、腕の中のララァを見下ろした。彼女の頬を、汗とも涙ともつかない雫が伝っていた。

 

「お前だけを、その役目のまま終わらせやしない」

 

誰に向けた言葉なのか、シロー自身にもわからなかった。ただ、口にした瞬間、腕の中の重みが、わずかに軽くなった気がした。




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