【ガンダム×マクロス】ガンダム ゼロ ――鳥の人は、まだ歌を忘れていない   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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宇宙世紀0078年11月15日 午後3時 触れれば、消える

地下空洞では、ハモンたちが目覚めゆく巨躯の足元で作業を続けていた。

 

制御用の球体を、根元の接続端子へ挿し込む。回路が発光し、周囲の壁面に無数の光の筋が走った。羽を広げた人型の浮き彫りのひとつひとつが、内側から発光し始める。まるで、長く眠っていた記録装置が、一斉に目を覚ましたかのようだった。

 

「接続完了。感応係数、限界値に到達しています」

 

部下の声には、明らかな怯えが滲んでいた。

 

「予定通りよ」

 

ハモンは冷静だった。だが、その手はわずかに震えていた。恐怖ではなく、興奮による震えだった。

 

「使用者を」

 

「今から連れてきます、あの娘を」

 

「急いで。この覚醒段階で放置すれば、この1帯ごと消し飛ぶ」

 

その瞬間、遠くから重い足音が響いた。武装した部下の1人が、地上との連絡通路から戻ってくる。

 

「捕捉しました。声の守護者は、村の高台に。連邦の少尉が抱えています」

 

ハモンの目が細まった。

 

「連邦の少尉、ね。少しは骨のある子みたいだけど」

 

「強行突入しますか」

 

「戦闘は面倒よ。でも、時間もない」

 

ハモンは端末を操作し、地下空洞から地上へ通じる隠し扉のロックを解除した。

 

「行きましょう。あの娘を連れてくる。手荒な真似はしたくないけれど、選んでいる余裕はないわ」

 

彼女の声には、良心の呵責より、業務効率への焦りだけがあった。

 

地上——村の高台では、シローがララァを背負ったまま、東の河原を目指して走っていた。

 

そのとき、背後の地面が突然開いた。

 

隠し扉から、防護服姿の人間たちが姿を現す。武装した部下が、迷いなく銃口をシローへ向けた。

 

「動くな。少女を渡してもらう」

 

「渡すわけないだろう」

 

シローはララァを庇うように身をよじった。だが負傷した身体では、逃げ切れる速度が出ない。肋骨の痛みが、限界を超えて背中まで走った。

 

「無駄な抵抗はやめて」

 

ハモンが前に出た。白衣に近い服装が、この状況にひどく場違いだった。

 

「その子は貴重なサンプルなの。壊されたら困る」

 

「サンプルだと」

 

シローの声に、初めて明確な怒りが乗った。

 

「彼女は人間だ。あんたらの実験道具じゃない」

 

「あら、正義感が強いのね。でも、正義感で装置は止まらないわ」

 

ハモンは背後の光柱を指した。

 

「今、この瞬間にも、あれは覚醒し続けている。止められるのは、適性を持つ人間だけ。そして、あなたの背中にいる子が、今のところ唯一の候補」

 

「彼女は限界だ。もう意識もない」

 

「意識がなくても、接続はできる。多少、負担が大きくなるだけ」

 

その言葉が意味するものを、シローは瞬時に理解した。ララァの命を、装置の部品として使うつもりだ。

 

「触るな」

 

シローは低く言った。

 

「一歩でも近づいたら」

 

「近づいたら、何?」

 

ハモンは冷たく笑った。

 

「あなたに、私たちを止める手段があるとでも?」

 

その挑発に応えたのは、シローではなかった。

 

背後から、青白い光線が一直線に走り、ハモンの部下が構えていた銃を弾き飛ばした。

 

「な——」

 

振り返ったハモンの視線の先に、スレッガー機が着地していた。試験機の腕部が、まだ焼け焦げた状態で武器を構えている。

 

「悪いが、その取引には乗れねえな」

 

スレッガーの声が、コクピットのスピーカーから響いた。

 

「アマダ、その嬢ちゃんを連れて下がれ。ここは俺が食い止める」

 

ハモンの表情が初めて崩れた。計算違いという苦い顔だった。

 

「連邦の兵器風情が、私たちの仕事を邪魔するの」

 

「仕事の中身次第だな。子どもを実験台にする仕事なら、大いに邪魔させてもらう」

 

その一言に、シローは救われる思いだった。だが、状況が好転したわけではない。

 

灰色機がなおも光柱を攻撃し続け、覚醒の進行は止まらない。地下ではハモンたちが手段を選ばずララァを狙う。そして頭上では、まだ本来の戦争——連邦とジオンの争いさえ、完全には終わっていなかった。

 

すべてが、崩れる寸前で辛うじて均衡していた。

 

その均衡を最初に破ったのは、意識を失っていたはずのララァだった。

 

「触れれば……消える」

 

譫言のような呟きが、シローの耳元でこぼれた。

 

「何が消えるんだ」

 

シローが問うと、ララァの瞼がわずかに震えた。完全に目覚めてはいない。だが、その言葉は、どこか別の場所からの警告のように響いた。

 

「境界に触れたら……この村ごと、消える」

 

ハモンの部下たちが、じりじりと包囲の輪を狭めてくる。スレッガー機の武器も、そう長くは保たない。弾倉の残量を示す表示灯が、すでに赤く点滅していた。

 

「アマダ、聞こえるか。俺の後ろに回れ。子どもたちのところまで、あと少しだ」

 

スレッガーの声は、いつもの軽さを保っていたが、その奥に切迫が滲んでいた。シローは頷き、痛む足を引きずりながら後退を始めた。ハモンの部下たちが追おうとするが、スレッガー機のマシンガンが、その進路を制するように地面を撃ち抜く。

 

「ここから先は通さない。それが、俺の今日の仕事だ」

 

ハモンは、忌々しげにその光景を睨んだ。

 

「時間の無駄ね。連邦の兵隊風情が、こんなところで意地を張るなんて」

 

「意地じゃない。ただの、当たり前のことをしてるだけだ」

 

その言葉には、飾り気のない誠実さがあった。ハモンは一瞬だけ怯んだように見えたが、すぐに冷酷な計算に戻った。

 

「部隊を再編して。正面突破は無理でも、側面から回り込めば」

 

彼女の指示に、部下たちは無言で頷いた。良心という装備を、最初から積んでいない者たちの動きだった。

 

シローは、走りながらもララァの様子から目を離せなかった。彼女の唇が、また小さく動いている。声にならない旋律。境界の歌の断片が、途切れ途切れに漏れていた。

 

「ララァ、頑張れ。もう少しだ」

 

自分の声が、どこまで届いているのかわからない。それでも、呼びかけることをやめられなかった。

 

背後で、爆発音が響いた。振り返ると、スレッガー機の右腕が吹き飛んでいる。ハモンの部下が持ち出した携行火器の直撃だった。

 

「くそ、当ててきやがった」

 

スレッガーの声に、初めて明確な苦痛が混じった。それでも機体は倒れない。片腕を失ったまま、なおも壁のように立ちはだかり続ける。

 

「アマダ、急げ。俺の保証期限、そろそろ切れる」

 

その言葉を最後に、通信が不安定なノイズに変わった。シローは奥歯を噛みしめ、足を速めた。肋骨の痛みなど、もはや数えるだけ無駄だった。

 

河原まであと少し、というところで、地面がふたたび震えた。今度は、川底からの鼓動ではない。もっと近く、もっと直接的な震動だった。

 

「これは……」

 

シローが振り返ると、光柱の根元、装置本体の一部が、明らかに人為的な操作を受けて明滅を強めていた。ハモンたちが、強引に核へ干渉を試みているのだ。

 

「まずい」

 

ララァの身体が、腕の中で大きく痙攣した。

 

「境界が、揺れてる……」

 

彼女の呟きは、もはや譫言というより、悲鳴に近かった。




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