【ガンダム×マクロス】ガンダム ゼロ ――鳥の人は、まだ歌を忘れていない   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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宇宙世紀0078年11月15日 午後3時30分 起きろ、ララァ

村の高台では、シローがララァの身体を抱えたまま、彼女の名を呼び続けていた。

 

「ララァ。起きろ」

 

呼吸はある。だが、意識は完全に戻らない。瞼の下で、瞳が忙しなく動いていた。まるで、遠い場所で何かと対話しているかのように。

 

「起きろって言ってるだろう」

 

シローの声は掠れていた。だが、それでも彼は呼び続けた。他に、できることがなかったからだ。

 

ハモンは苛立たしげにその様子を見ていた。

 

「無駄よ。彼女は今、装置の中心と接続している。物理的な声かけで戻るレベルじゃない」

 

「うるさい」

 

シローは彼女を無視した。

 

「ララァ。約束しただろう。眠ったら、俺が起こすって」

 

そのとき、上空で新たな衝撃が走った。灰色機の1機が、ついに光柱への直接攻撃を成功させたのだ。

 

装置内部で、悲鳴に似た波形が走る。ララァの身体が、シローの腕の中で大きく痙攣した。

 

「ララァ!」

 

シローは思わず叫んだ。

 

意識の海の中で、ララァはその衝撃を全身で受け止めていた。装置の恐怖が、一気に膨れ上がる。せっかく緩みかけていた警戒が、たった1度の攻撃で、また硬く閉じようとしていた。

 

——やっぱり、こわい。やっぱり、みんな、こわがらせる。

 

「違う」

 

ララァは必死に呼びかけた。

 

「あれは、一部の人たちだけ。全部じゃない」

 

——わからない。もう、わからない。

 

装置の意識が、暴走の方向へ傾き始める。ララァの意識も、その渦に巻き込まれかけていた。

 

その瞬間、彼女の意識の奥で、もうひとつの声が響いた。

 

「ララァ、起きろ」

 

シローの声だった。物理的な声帯を通した声ではない。もっと直接的な、心の奥から届く呼びかけだった。

 

「約束、忘れたのか」

 

ララァの意識が、その声に引き寄せられる。

 

「まだ、終わってない。まだ、俺は起こしてない」

 

——その声。

 

装置の波形が、シローの声に反応した。

 

——こわがらせない、声。

 

「そう。だから、聞いて」

 

ララァは、装置の中心へ最後の力を振り絞って語りかけた。

 

境界の歌(うた)の最後の一節が、ようやく形になる。鳥の人(バードヒューマン)が遺した子守唄は、そこで初めて、歌い手を得て完成した。

 

「これが最後。あなたを裁くのは、あなた自身。壊すも、壊さないも、あなたが決めていい。でも、決める前に、もう1度だけ、外の声を聞いて」

 

装置の波形が、大きく揺れた。

 

そして、ゆっくりと、静まっていった。完全な鎮静ではない。それでも、暴走へ向かう勢いは、確実に緩んでいた。

 

ララァの意識が、急速に自分の身体へ引き戻される。

 

高台で、彼女の瞼が開いた。

 

「シロー……」

 

「起きたか」

 

シローの声には、安堵と、まだ消えない緊張が混じっていた。

 

「約束、守った」

 

ララァは弱々しく微笑んだ。

 

「うん。守った」

 

その光景を見て、ハモンは舌打ちした。

 

「まだ間に合うわ。彼女を装置に接続すれば、完全に鎮静できる」

 

「させない」

 

シローはララァを抱えたまま、後退した。

 

「彼女は、もう十分やった。これ以上、あなたたちの道具にはさせない」

 

その声には、負傷や疲労を超えた、揺るぎない意志があった。ハモンはその目を見て、一瞬だけ、交渉の余地がまったくないことを悟った。

 

ハモンの部下たちが動こうとした瞬間、上空から新たな砲撃音が響いた。

 

スレッガー機と、ラルのザクIが、連携して灰色機の一団へ攻撃を仕掛けていた。敵対していたはずの2人が、この瞬間だけは同じ方向を撃っていた。片腕を失った試験機と、装甲のあちこちが焼け焦げたザクI。どちらも満身創痍だったが、その連携には迷いがなかった。

 

ハモンは、忌々しげにその光景を見た。片腕を失ったスレッガー機が、それでも前線を離れず戦い続けている。連邦とジオン、本来相容れないはずの2つの色が、この瞬間だけは同じ目的のために並んでいた。

 

「戦争ってやつは、本当に趣味が悪いわね」

 

彼女は誰にともなく呟いた。皮肉のつもりだったが、その声には、わずかに動揺が混じっていた。計算通りに進まない状況に、彼女自身が最も戸惑っているようだった。

 

「後退します。強行突破は」

 

「わかってる。撤収の判断は、私がする」

 

ハモンは端末を確認した。本国からの新たな指令が、すでに届いていた。文面は簡潔だった。状況掌握不能、撤収を検討せよ。彼女の口元が、皮肉げに歪んだ。

 

「上の人間は、いつも都合よく逃げ道を用意してくれる」

 

シローは、腕の中のララァを見下ろした。彼女の呼吸は、まだ弱々しかったが、確かに規則正しくなっている。額の汗を拭ってやると、彼女はかすかに目を細めた。

 

「まだ、終わってない」

 

ララァが小さく呟く。

 

「わかってる」

 

「でも、さっきより、少しだけ静か」

 

シローは頷いた。彼女の言う通り、川底からの鼓動は、先ほどよりも間隔が伸びている。まだ危険域を脱してはいない。それでも、確かに何かが変わり始めていた。

 

クスコが、息を切らして駆け寄ってきた。

 

「ララァ、目、覚めた」

 

「うん」

 

「よかった……ほんとに、よかった」

 

クスコは、涙と煤で汚れた顔のまま、ララァの手を握った。ララァもまた、その小さな手を握り返す。言葉はいらなかった。

 

上空では、まだ戦闘が続いていた。だが、その音は、少しずつ勢いを失いつつあるように、シローには聞こえた。あるいは、それは願望に過ぎないのかもしれない。それでも、今はその願望にすがるしかなかった。

 

「シロー、まだ、聞こえる」

 

ララァが、川の方角へ視線を向けた。

 

「装置が、まだ迷ってる。壊すか、壊さないか」

 

「決めるのは、あいつ自身だって言ったんだろう」

 

「うん。でも、迷ってる時は、そばにいてほしいものでしょう」

 

その言葉に、シローは思わず苦笑した。人間も機械も、迷っているときに欲しいものは、そう変わらないのかもしれない。

 

長老が、遠くからその様子を見守っていた。彼の表情には、まだ困惑が残っている。だが、それは先ほどまでの敵意とは、明らかに違う色をしていた。声の守護者という役目の重さを、彼は今、初めて正しい形で理解しようとしていた。

 

「われらは、あの子に、ずっと重荷を背負わせてきたのかもしれん」

 

老人が、誰にともなく呟いた。その声には、これまでの威厳とは違う、ひとりの老いた人間としての弱さが滲んでいた。誰も、それに答えなかった。答える必要もなかった。老人自身が、その言葉の重さを、ようやく噛みしめ始めていたからだ。




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