【ガンダム×マクロス】ガンダム ゼロ ――鳥の人は、まだ歌を忘れていない 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
すべての勢力が去った後も、光柱は村の中心に立ち続けていた。
村人たちは遠巻きにそれを見つめていた。恐怖はまだ残っている。だが、そこには以前とは違う何かが混じっていた。
長老が、杖を突きながらシローの前に立った。
「これから、どうなる」
「わかりません」
シローは正直に答えた。
「ただ、あれはもう、あなたたちを裁こうとはしていないと思います」
「なぜ、そう言える」
「彼女が、話をつけたからです」
シローは、腕の中でまだ疲労困憊しているララァを見た。
長老は、しばらく光柱を見つめた後、静かに膝をついた。
「われらは、長い間、勘違いをしていたのかもしれん」
「勘違い、ですか」
「神と呼び、崇め、恐れることが、正しい向き合い方だと思っていた。だが、あれは神ではなかった」
老人の声には、深い疲労と、わずかな悔恨が滲んでいた。
「機械なら、機械として向き合うべきだった。もっと早くに」
シローは何も言わなかった。それは、この村だけの間違いではなかった。連邦も、ジオンも、ハモンたちも、皆それぞれの形で、この装置を都合よく解釈し続けてきた。神として崇める者も、兵器として利用しようとする者も、根本では同じ過ちを犯していた。
光柱の中心で、巨大な影が、ゆっくりと沈み始めていた。
羽を広げかけていた構造物が、再び折り畳まれていく。眠りへ戻る動きだった。だが、先ほどまでの、恐怖に満ちた眠りとは違う。
「眠るのか」
シローが呟くと、ララァが弱々しく頷いた。
「うん。神としてじゃなくて、機械として、眠る」
「
その言葉の意味を、シローは完全には理解できなかった。だが、何か重要な区別が、そこにはあるように感じられた。忘れ物は、いつか誰かが拾いに来る。神の遺言のように、絶対的な意味を背負わされることはない。ただそこにあり、いずれ誰かの手に渡るのを待っているだけのものだ。
光柱が、徐々に弱まっていく。村を照らしていた白い輝きが、少しずつ川底へ吸い込まれていった。
やがて、光は完全に消えた。
残されたのは、静かな川の流れと、疲弊しきった村人たち、そして、意識を保つのがやっとのララァだけだった。
シローは、彼女を抱えたまま、空を見上げた。
戦闘機の音は、もう聞こえない。連邦艇も、ジオン降下艇も、灰色の機体も、すべてこの空から去っていた。
残ったのは、青すぎるほど青い、何事もなかったかのような空だけだった。
その空の青さが、シローには、ひどく残酷に見えた。
村人たちは、少しずつ動き始めていた。壊れた家屋の後片付け、負傷者の手当て、行方のわからない家族を探す声。日常に戻るための、静かで、しかし確かな営みが再開されていた。
クスコは、ララァの隣にぺたりと座り込み、彼女の肩に頭を預けた。
「疲れた」
「うん、疲れた」
「もう、こんなの、ずっとないといいね」
「そうだね」
その短いやり取りに、シローは救われる思いがした。どれだけ大きな出来事の後でも、日常の言葉は、ちゃんと戻ってくる。それこそが、失われかけた日常を取り戻すための、いちばん小さくて、いちばん確かな一歩なのだと、シローは思った。
長老は、村人たちに向けて、静かに何かを告げていた。声は遠くて聞き取れなかったが、その口調には、これまでとは違う柔らかさがあった。おそらく、これから村がどう変わっていくべきか、その第一歩を語っていたのだろう。
夕暮れが近づいていた。西の空が、燃えるような橙色に染まり始めている。その光の中で、村はゆっくりと、傷を数え始めていた。
マチルダが、負傷者の手当てを手伝いながら、シローのそばへやってきた。
「本国への報告書、どう書くか、まだ悩んでいます」
「正直に書けばいいと思います」
「正直に書けば、私は更迭されるかもしれません。あるいは、もっと悪いことも」
「それでも、嘘をつくよりはいいはずです」
マチルダは、シローの顔をしばらく見つめた後、小さく笑った。
「あなたは、本当にまだ士官学校を出たばかりなんですね」
「何かおかしいですか」
「いいえ。ただ、少し羨ましいだけです。そのまっすぐさが、いつまで保つのか」
その言葉には、皮肉ではなく、ある種の願いが込められているように、シローには聞こえた。
ラルとスレッガーの機体は、すでに撤収していた。それぞれの陣営へ戻り、それぞれの報告を上げるのだろう。今日という日の真実がどこまで正確に伝わるのか、誰にも保証はない。だが、少なくともこの場にいた者たちの記憶からは、消えることはない。
シローは、ララァを背負い直した。
「送っていく」
「うん」
「今度は、ちゃんと歩ける場所まで」
ララァは、小さく笑った。今日1日で、初めて見せる、屈託のない笑顔だった。
村の家々に、少しずつ灯りが戻り始めていた。破壊された部分は多い。それでも、人々は今夜を生き延び、明日を迎える準備を始めていた。その営みの中に、シローは確かな希望を見た。
クスコが、去り際に振り返って言った。
「お兄さん、また来る?」
「わからない。でも、来られたら来る」
「ララァ、待ってると思う」
その一言に、ララァは何も言わず、ただ頬を赤らめた。シローもまた、何と返せばいいのかわからず、曖昧に頷くしかなかった。
長老が、最後にシローの前へ来た。
「外の軍人よ」
「はい」
「今日、お前がいなければ、この村はもっと多くを失っていただろう。感謝する」
「感謝されるようなことは」
「いや。感謝する。それだけは、言わせてくれ」
老人の声には、これまでの威圧的な響きはなかった。ただ、ひとりの村の長として、素直な言葉があるだけだった。
シローは、深く頭を下げた。言葉より、その仕草の方が、今の気持ちにふさわしいように思えた。
川の水面は、何事もなかったかのように、静かに夕陽を反射していた。その下に眠るものが、今どんな夢を見ているのか、誰にもわからない。ただ、少なくとも今夜だけは、恐怖に満ちた夢ではないことを、シローは願わずにいられなかった。
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