初日にバラさんでもええやん…… 作:匿名うゆ
翌朝。
空が白み始めた頃、オレたちはベースキャンプを出発した。
今日の朝も、スポットの更新をしておく必要がある。
昨夜の更新から時間がそれなりに経っており、他クラスにスポットを奪われる前に更新しなければならない。
「朝から悪いな、平田」
「いや、大丈夫だよ。こういうところはしっかりしておいた方がいいからね」
「沖谷も眠くないか?」
「ちょっと眠いけど……まあ、このくらいなら平気かな」
オレ、沖谷、平田の3人で森の中を進んでいく。
朝の森は静かだった。
昼間なら聞こえてくる生徒たちの話し声もなく、聞こえるのは鳥の鳴き声と、時折吹き抜ける風によって葉が擦れる音くらいだ。
昨日まで何度も歩いた道だが、時間帯が違うだけで少し雰囲気が変わって見える。
「ここは問題ないね」
平田がスポットを確認する。
「次は少し遠いぞ」
「分かったよ。それにしても、朝からは中々きついね……」
オレたちは次のスポットへ向かった。
その後もいくつかのスポットを更新していく。
幸いなことに、今のところ他クラスに奪われた場所はなかった。
「これなら大丈夫そうだな」
「うん。Dクラス、かなり順調だね」
「食料も余ってるし、スポットも維持できている。今のところ大きな問題はないな」
「……そうだね」
平田が少し安心したように笑う。
一通りの確認を終え、オレたちはベースキャンプへ戻ることにした。
森の中を歩いていると、遠くにベースキャンプが見えてくる。
その時だった。
「……あれ?」
沖谷が足を止めた。
「沖谷、どうした?」
「あそこに誰かいる」
沖谷が指を差し、オレは視線を向ける。
ベースキャンプの一角、女子生徒たちの荷物が置かれている場所に、一人の生徒が立っていた。
「……伊吹か?」
「そうみたいだね」
平田が目を細める。
伊吹は周囲を気にしているようだった。
何度も辺りを見回している。
「何をしているんだろう?」
「さあな」
ただ、様子がおかしい。
普通に荷物を取りに来ただけなら、あそこまで周囲を警戒する必要はない。
オレたちは少し離れた場所から、そのまま様子を見ることにした。
伊吹はしばらく周囲を確認した後、女子生徒の荷物へ近づいていく。
そして、一つの荷物に手を伸ばした。
「……!」
平田が小さく息を呑む。
伊吹は荷物を開け、中を確認している。
「ねえ、あれ……」
「ああ、伊吹の荷物ではないな」
沖谷も黙って伊吹を見ている。
伊吹は荷物の中から布のような何かを取り出した。
そして、それを自分のポケットへ入れようとする。
その瞬間。
「伊吹」
オレは声をかけた。
そして、伊吹の動きが止まった。
伊吹はゆっくりとこちらを振り返る。
「……っ」
その顔に明らかな動揺が浮かんだ。
オレたちは伊吹の前まで歩いていく。
「……何よ」
伊吹は平静を装おうとしている。
だが、手に持っている物と、開かれた荷物を見れば何をしていたのかは明らかだった。
持っているものは誰のかは分からないが明らかに女子生徒の下着……
伊吹にそんな趣味があるのかは分からないが、どう見てもこれは窃盗だろう。
「それ、誰の荷物だ?もしかして、盗もうとしていたのか?」
「……」
「答えてくれないか?」
「別に、何もしてないし」
「でも伊吹さん、今、それを自分のポケットに入れようとしてなかった?」
「……見間違いでしょ」
「三人とも見ていたんだけどな」
オレがそう言うと、伊吹は黙り込んだ。
オレは伊吹の手元を見る。
「それをどうするつもりだった?」
「……」
答えは返ってこない。
平田が伊吹に問いかける。
「伊吹さん。もし何か理由があるなら、ちゃんと話してくれないかな?」
「……別に」
「別に、じゃないだろ。これは窃盗だぞ?」
オレは少し強い口調で言った。
「荷物を勝手に漁って、自分のポケットに入れようとしてたんだぞ?」
「……」
伊吹はオレを睨むが、何も言い返さない。
オレは少し考え、昨日までの状況を思い返す。
伊吹はCクラスから追い出された、という体でDクラスにスパイとして来た可能性が高い。
本人の話を信じるなら、龍園から暴力を受けたため逃げてきたということになるが、その可能性は低いだろう。
スパイとして考えるなら下着を盗もうとした理由は1つ、Dクラスを混乱させるためだ。
「なあ、伊吹」
「……何よ」
「龍園の指示か?」
「……」
伊吹の表情が変わった。
平田もそれに気づいたらしい。
「龍園って……Cクラスの?」
「ああ、そうだ」
「まさか……」
「まだ断定はできないが、お前が何らかの目的、Cクラスのスパイとしてここにいる可能性は高いと思っている」
「……」
「そして、今回の行動もその目的の一つなんじゃないか?」
伊吹はしばらく黙っていた。
やがて、小さく舌打ちする。
「質問に答えてくれ」
「……答える必要ある?」
「あるかないかで言えば、あるな。それを持っていたということは、お前にそういった趣味がなければ何か目的があるはずだ。それに、オレたちが報告したらCクラスは失格だぞ?自分の立場を考えたほうが良いとは思うが」
伊吹は何も答えない。
「まあ、仮にDクラス内で揉め事を起こすことが目的なら、下着を盗むのはかなり効果的だろうな」
伊吹が険しい表情になる。
「……分かったわよ。そこまで分かってるなら、もう誤魔化しても無駄でしょ。そうよ、私はスパイとしてここに来たの。それで何?報告でもするつもり?」
「やっぱりな」
「何よ、その反応」
「予想通りだっただけだ」
「……ムカつく。最初からスパイだと思ってて保護してたんだ」
伊吹は不機嫌そうに顔を背ける。
しかし、ここで一つ問題がある。
伊吹がスパイだと分かったが、どうする?
窃盗として教師に報告すれば、Cクラスを失格にさせられる可能性がある。
しかし、証拠が薄い。
Dクラスの証言だけで窃盗の証拠になるものか……
報告しても大した利益にならないと思ったオレは、別の方法を取ることにした。
「これを報告したとしたら、Cクラスは失格、クラスでのお前の立場はなくなるだろうな」
伊吹の顔色が悪くなる。
「だが、安心しろ。今回オレは今すぐに報告するつもりは無い」
「……え?」
伊吹がこちらを見る。
「ただ、1つ条件がある。Cクラスのリーダーを教えろ」
「……」
伊吹は口を噤む。
どちらが自分の利益になるか考えているのだろう。
そして、伊吹はゆっくりと口を開く。
「……龍園よ」
「証拠はあるのか?」
「ないけど……あいつが自分以外を信頼すると思う?」
「なるほどな」
正直、オレもリーダーは9割方龍園だと思っていた。
リーダーを伝えたことが龍園に伝わると面倒だが、伊吹を見張っておけば大丈夫だろう。
「リーダーの情報を伝えたことを龍園に報告したら、その時点で学校側に窃盗を報告するからな。そこは覚悟しておけよ」
「うん……でも、どうしてだ?」
「分からないなら良い」
Cクラスのリーダーの情報はこれで手に入った。
「それで、お前はこれからどうするんだ?別に、問題を起こさないのならここのベースキャンプにいてもいいぞ」
「どこまで行ってもお人好しだな……。私がここにいてお前らになんのメリットがある?」
「まあ、お前を監視できるのは1つのメリットだな。もう1つは、人が沢山いた方が楽しいだろ?」
「はあ……」
伊吹はため息をつく。
まあ、自分でも変な事を言ったという自覚はある。
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その後、オレは沖谷と共にBクラスのベースキャンプに訪れ、リーダーが白波であることを確信した。
最初に訪れた時は気にも留めなかったが、意識して観察すると、白波は他の生徒とは少し違う動きをしていた。
オレたちが偵察来た時には明らかにオレたちを見て警戒していたり、リーダーという単語に微妙に反応していたりと、決め打ちして見ると中々分かりやすいものだ。
Bクラスのベースキャンプを訪れてから、しばらく時間が経った。
本来なら、リーダーが白波であることを確認した時点で帰るつもりだったのだが……
「綾小路くんたち、これ食べる?」
「ん?」
一之瀬が差し出してきたのは、小さく切り分けられた果物だった。
「さっきみんなで見つけたの。甘くて美味しいよ」
「いいのか?」
「もちろん。前は綾小路くんたちが魚を持ってきてくれたしね」
「なら、有難く頂戴する」
初めて食べる味だが、中々に美味しい。
果物を食べていると、一之瀬がある提案をしてきた。
「綾小路くんと沖谷くん、暇なら少し遊んでいかない?」
「別に良いが、何をするんだ?」
「うーん、棒倒しとかどうかな?」
「棒倒し?」
「それ知ってる!楽しいやつだよね」
「うん、砂に棒をさして、砂を崩していって棒を倒した人が負けなんだ。結構白熱するよ?」
なんだそれ、初めて聞いたがめっちゃ面白そうだ。
「そうなのか。是非やってみたい」
「お、乗り気だねー。じゃあ、何人か呼んでくるね」
そして、棒倒しが始まる。
まずは一之瀬が砂を崩す。
……結構いったな。
「攻めすぎじゃないか?」
「えー、こんなもんだよ?」
次に沖谷、Bクラスの生徒数人と回って次はオレだ。
既に棒の周囲はそこそこ削られている
「ここなら大丈夫そうだな」
「え、本当?」
「ああ、自信はある」
指先で砂を少し掘ったその瞬間。
カタン。
棒が倒れた。
「「「……」」」
一瞬沈黙が走る。
「綾小路くん、弱っ!」
「いや、これは事故だ。決してオレが弱い訳ではない」
「いやいや、言い訳でしょ!」
「おかしい。物理的に考えて今のは倒れないはずなんだが……」
「論理を立てても負けは負けだよ……」
沖谷が呆れたように言う。
「綾小路くん、意外とこういうの苦手なんだね」
「……そうみたいだ」
周囲から笑い声が上がる。
まあ、たまにはこういう遊びで負けるのも悪くない。
「綾小路くん、もう一回やる?」
「当然だ。さっきの負けを取り返す」
「綾小路くん、意外と負けず嫌いなんだね」
「そういうわけじゃない。ただ、今の結果には納得できないだけだ」
「それを負けず嫌いって言うんだよ」
「……そうなのか」
どうやら、オレは負けず嫌いらしい。