ーーー失敗した。
2030年9月12日、月からお迎えがきて、月でバリキャリしてから何十年かたった頃。
彩葉の歌声だけをモチベに、業務引き継ぎも完璧に終わらせた私は再び
月人の超高度な技術が詰まったタケノコ型宇宙船『もと光る竹』は月人を乗せるただの宇宙船じゃなくて、時間遡行も可能なタイムマシンでもあるのだ。
だから、彩葉とお別れになったあの日に帰ろうとしてたんだ。約束したハッピーエンドに連れていくために。
犬DOGEと一緒に宇宙船に乗り込んで、最速で、最短で、真っ直ぐに地球へ向かってた矢先、すごい大きな隕石に衝突しちゃった。
衝突が原因で宇宙船は故障。なんとか地球にはたどり着いたものの、どこかも知らない海に不時着してしまったのだ。
あちゃー…ドジっちゃったな。
声を出そうとして、気づく。私には喉がなかった。いや、正確には肉体そのものがなかった。
月人は肉体を持たない思念体だから、『もと光る竹』には着陸した星の環境に最適な肉体をナノマシンで生成し乗員の月人に付与する環境への擬態機能が施されている。
でも、私の体はどれだけ待っても生成されなかった。
手も足もない。耳も、声を出す喉も、涙を流す瞳もない。正常な機能が停止していることを理解するのはとても簡単だった。
唯一救いがあるとすれば、もと光る竹に残されたエネルギーで同行していた犬DOGEを実体化できたことだろう。
海底に沈んだ宇宙船のすぐ近くにいたウミウシに擬態した犬DOGEの体を依代にして、私は宇宙船の外に出ることができた。
彩葉たちみんなと遊んだあの爛々と輝いた海と比べて、ウミウシの体から見る一面濁って緑がかった海はひどく恐ろしく感じて、孤独感がより一層高まる。
恐る恐る海中を進み、地上を目指す。
一日が経った。二日、三日経ってようやく陸地に這い出た。
ウミウシの体からどうにか声をひり出して周囲に人がいないか確認する。
「誰かいませんかーっ!!」
いくら呼びかけても誰からも返事はなくて。
森閑とした空気が、痛いほど突き刺さる。
静寂が嫌で、彩葉がくれた歌を歌って誤魔化した。
一夜、また一夜と夜が明けて。
歌も歌う気力も無くなって。
私の心は限界だった。
そんな時、貴方は現れた。
「…ふむ。抑止に呼ばれたはいいもの、特段する仕事がないとはな。」
久方ぶりに聞く、人の声。
人の声!!!????
「わっ!!!、ね、待ってっ!!!!」
「……私に語りかけているのは貴様か?」
赤いマントと黒のインナースーツを身に纏った、褐色肌の白髪の青年。鷹と見紛うほどに鋭い目が私に突き刺さるが、不思議と怖くはなかった。
「ひとがいたぁあ''あ"あ"あ"!!!よがっだぁあ''あ"あ"あ"!!!」
私は押し留められたダムが決壊したかのように、溢れ出る感情のまま泣き喚いた。
「日本語を話す、奇妙な生物……?」
眉間に手を当てながら、頭を押さえる男を置き去りにして。
「とりあえず落ち着きたまえ。このままでは何もわからん…。」
◇
ひとしきり叫んで疲れたのか、目の前にいる珍妙な生き物は、肩で息をするかのように上下している。
「ふぅ…あっ!!そうだ!!ねぇ今って何年!!??」
思い出したかのように問いを投げかけられる。
抑止から得た情報によると、この地は紀元前6000年ほどの日本。縄文時代中期に分類される。
この時代では人語すらままならない言語体系しか築き得ないはずである。
しかし私の目の前の生物は流暢な日本語で語りかけてきている。
ーとなるとこの流暢に日本語を話す生物は明らかに時代にそぐわぬ異物であることは間違いないだろう。
というか、そもそも見た目からして異物である。
「その前に、まずは私の質問に答えてもらおうか。貴様の疑問にはその後答えてやる。」
「貴様は何者だ。」
「かぐやはかぐやだよ!!月から飛んで来たんだけど、来る途中に宇宙船が壊れちゃったの!!!で、本当ならちゃんと人間になれるんだけど、今はウミウシの体にしかなれなくて、それで、それでね、」
「本当は、彩葉たちのいる2030年に帰るつもりだったんだけど、あっ、彩葉は私の大好きな人でね、一緒にツクヨミでライブとかしてたんだー!!なんでもできちゃう天才で、かぐやにたくさん歌を作ってくれるし!!あ、でも、パンケーキを作るのは下手だっt「一旦落ち着きたまえ。」っあ。うん!、」
感情の昂りが抑えきれんと言わんばかりに、休みなく話す珍生物。こちらが制止しなければ会話が成り立ちそうにない。
「…でもほんとによかった。誰もいないと思ってたから。」
心底安心したかのような声を出す。
「なるほど。聞くところによると、貴様は月から、そしてはるか先の未来から来たというわけだ。」
「あ、やっぱだいぶ過去だった!?あちゃー薄々気づいてたんだけど、ほんとやらかしちゃったなー。あ!あと貴様じゃなくてかぐやって呼んで!!」
「……続けるぞ。君の乗って来た宇宙船はこの時代に似つかわしくない高度技術が搭載されている。間違いないな?」
「だからかーぐーやー。んー、まぁ今はほとんど壊れちゃってるんだけどねー…でも地球のよりもハイレベルなのは間違いないよ!」
抑止に呼ばれる理由は理解している。
守護者を召喚する目的は呼ばれた時点での世界を安定させることにあり、世界を破滅に追い込む要因が発生した場合に出現し、その要因を抹消する。
今回はその月の技術が人類史を滅ぼす要因になり得るのだろう。
「そうか。…良い知らせと悪い知らせがあるが、どちらから聞きたい?」
「えー、じゃあ悪い方からにしてー。」
「悪い知らせは、今は紀元前6000年。縄文時代中期と呼ばれる時代だということ。」
「そして良い知らせは、君は私に殺されずに済む可能性があるということだ。」
もっとも、抑止からすでに業務終了の報告が来ているのだが。
「ってそれどっちも悪い知らせじゃん!!!!!!!」
「てか紀元前6000年ってことは彩葉と会えるまであと8000年!!!!??やだああああああああぁああ、、、」
再び、縄文の地に叫び声が響く。
◇
幾ばくかの時間が経過した。
「ぅぅぅぅ…耐えられない…8000年も昔…彩葉と…会えない…。」
さっきまで騒がしかった声が、今度は糸が切れたように小さくなる。
「約束、したのに。」
「……。」
「ハッピーエンドに連れて行くって。」
「なのに……。」
ウミウシの小さな身体が震える。
涙を流す目なんてない。それでも泣いていることだけは分かった。
「……彩葉。」
その名を呼ぶ声だけが、静かな森に消えていく。
守護者はただ目を閉じた。何も語ることはない。
◇
「よし!決めた!!彩葉と会えるまで頑張って待つ!!あとヤチヨを探す!!確か8000歳って言ってたし、多分どこかにいるはずっ…。」
気丈に振る舞っているのか、はたまた立ち直ったのか。
さっきまで肩を落としていた小さな身体は、もう前を向いていた。
「そうと決めたら俄然やる気出てきたかも!…ところで貴方の名前は?」
「あいにく、名乗る名など持ち合わせていなくてね。」
「え!!!そうなの?じゃあかぐやが名前をあげるね!!」
「全身真っ赤マンだから略してママね!!なんでかわからないけど、しっくりくるし!」
わかりやすく眉がひそめられる。
「なぜそうなる…ではアーチャーと呼んでくれ。」
「え、でも名前ないっt「役職のようなものだ。アーチャーで頼む。」うわすっごい食い気味。よろしくね、アーチャー!!」
ため息混じりに、アーチャーは小さく頷いた。
◇
「ところで、君が乗って来た宇宙船は一体どこに置いてある?事によっては私はその宇宙船を破壊せねばならんのでな。」
その一言で、私は反射的に身を引いた。
「え!!破壊するってどういうこと!??無理無理無理!!絶対教えないよ!!壊されちゃったらかぐや死んじゃうし、そしたら彩葉に会えないもん!!」
「あいにくこちらも仕事でな。まぁ上からの報告では損傷具合がひどすぎてこれ以上手を加える必要もないらしいが。」
「ぐぬぬぬ〜…そうは言われても、、、あ〜でもかぐや的にも回収はしておきたい〜!!非力な身体が恨めしいぃぃい!!絶対教えないからね!!!」
小さな身体を目一杯反らして威嚇してみせる。
もっとも、ウミウシが怒ったところで迫力などあるはずもなかった。
当然、アーチャーは怯みもしない。
顎に手を当て、何か考え込んでいるようだった。
「…ふむ。ところで高度な技術を用いているとはいえ、宇宙船は機械だろう?こう見えて、機械の修理は得意でね。状態によっては直せんこともないぞ?」
「え!?ほんと!!直せるの!!??じゃあすぐに回収しよう!!ここからすぐの海に沈んでるから!!」
「…君は恐ろしく純粋だな。」
「なんか褒められた!!??でもありがとう!!」
「褒めてはいないのだが…よし。ならばナビゲートしてくれ。君を抱えて移動するとしよう。」
アーチャーはウミウシ姿の私をひょいと持ち上げ、そのまま海岸へ向かって歩き出した。
不思議なことに、その腕は思っていたよりずっと丁寧だった。
◇
アーチャーは無事海底に沈んだ宇宙船『もと光る竹』の回収に成功した。
海水を滴らせる船体を手に、彼は静かに息を吐く。
「では、解析してみよう。抑止が動くレベルの高度技術だ、あまり期待はしないでくれたまえ。『
アーチャーの詠唱を起点に宇宙船が淡く光りだす。見たこともない技術に、かぐやは思わず息を呑んで佇む
「なにこれ!!?魔法!??すごい!!」
わけもなく、賑やかに騒ぎ立てる。
解析は順調に進行する。
――――基本骨子 解明
――――構成材質 解明
「魔法ではない。魔術と呼ばれるものだ。知らないのかね。」
「知らない知らない!見たことない!!アーチャーすごい!!」
――――基本骨子 変更不可
――――構成材質 補強
「ふむ。ガワだけならなんとか解析はできたが、中身は一筋縄ではいかないらしい。期待させて申し訳ないが、修理は不可能だろう。」
「まぁそうだよね…大丈夫!実は回収できただけでもすごく助かるから!!」
私はそう笑ってから、ふと重大なことに気付く。
「っって宇宙船直ったらかぐや殺されるじゃん!!アーチャーもしかしてかぐやのこと騙した!!?このひとでなし!!」
「ひどい言われようだなまったく。」
肩を竦めるアーチャーに悪びれた様子はない。
「まぁこちらとしては最低限責務は果たしたのでな。お詫びと言ってはなんだが、現界が続く限りは君に同行しよう。監視も兼ねてな。それにその身体では人里1つ見つけるのも骨だろう。」
「な、ななななんか複雑〜っっ!でも確かにウミウシの身体じゃあんまり動けないし〜でもアーチャーは信用できない〜っっ、あぁ〜!!助けて彩葉ぁぁ!!」
「いちいち騒がしい奴だな君は」
じたばた暴れる私を見て、アーチャーは呆れたように息を吐く。不思議とその声は少しだけ柔らかく聞こえた。
「うーん…とりあえず、他の誰かと会えるまではよろしくね!!あと多分どこかにヤチヨがいるはずだから、ヤチヨ捜索隊結成ね!!」
「捜索と言われても、こちらはヤチヨがどんな人となりをしてるのかも知らんのだが。」
「えっとね、ツクヨミの管理人で歌がめちゃ上手な8000歳の配信者!!一緒にライブもやったの!」
「概要が掴めんのだが…それにこの時代のヤチヨとやらは君のことを知らないのではないのかね。」
その事実に気づいた私は、思わず固まる。
「あっ!確かに!!やばいどーしよ!!」
アーチャーは額に手を当て、小さく溜め息をついた。
人里を目指し始めた私たちの間に流れる空気は、思ったより悪くなかった。
今はただ、ひとりぼっちじゃないだけで心強かった。
◇
違うもん。Netflixは入ってるもん。嘘じゃないもん。
初視聴は映画館でライブ感味わいたくて、、、およよ。
誰か続き書いて♡