メトロ・サブウェイは人気配信者であり、どうやら俺のことが好きらしい。

そして今日────彼女は死んだ。

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ハロー・ヘイヴン

 

「ハロー・ヘイヴン!! 今日も賞金稼ぎとしてやっていくわよー!!」

 

 メトロ・サブウェイは高い金を払って、俺達を用心棒として雇っている配信者だ。

 銀髪ショートに赤いメッシュとジャケット。でかい乳に綺麗な顔、それからちょっと抜けているようなぽやぽやとした声。なるほどたしかに動画サイトで人気になるのもわかる。

 

 この女が今やっている企画は賞金稼ぎ。

 今回の獲物は────ヴァルヴァデアという凶悪な殺人鬼エイリアンである。

 そいつを探すためにわざわざこんな第三銀河の辺境にある寂れた惑星に着き────。

 一日中調べ回った翌日のことであった。

 

「なに、囲まれているのに配信してんだよ」

 

 朝目覚めて、さて一階の酒場で作戦会議でもしますか……。

 といったところで、俺達はヴァルヴァデアの配下たちにブラスターを向けられていた。

 

 周りには二足歩行で歩く蜥蜴ども。リザリアンとか言ったかな。

 絶対絶命万事休す。だというのに雇用主は配信を始めたのである。

 何なんだよ、この女はよ。

 

「だって、今最高にテンションばり上げなシーンじゃない!?」

「そうか?」

「むしろ今配信しなくていつするの!?」

 

 ”ねー?”と宙に浮かぶ球体型ドローンに向けて首を傾げるメトロ。

 馬鹿だこいつは。ホンマモンの馬鹿なのだ。そんなやつに付き合って、金のためとは言え用心棒をしている俺達も大馬鹿モノだと言って良かった。

 

◯マジで草

◯これこのまま□されるんじゃないの?

◯メトロサブウェイチャンネル、最終回!!

◯ライフストリーマーの人生もこれで終わりかぁ~~?

 

 ドローンの表面に白い文字でコメントが流れていく。

 粒子ディスプレイというやつだ。あいも変わらず、画面の向こうは他人事のようである。

 

 これで人気チャンネルだというのだから笑える。

 まぁ人生配信(ライフストリーム)の民度なんてそんなものなのかもしれない。

 

「どうすんだよ、キネマ」

 

 俺は自分の相棒に声をかけた。

 ブラスターを向けられているというのに、椅子に座って優雅にコーヒーを飲んでいる。

 金髪グラサン、コート姿。サラリーマンのこの男。ちなみに身長は俺より二回りもデカい。

 

「そうですね……貴方達はどうしたいのですか?」

 

 キネマはコーヒーを啜ると、ゆっくりと蜥蜴どもに顔を向けてそう答えた。

 蜥蜴たちはその様子に少しばかり怯えながらも、しっかりとブラスターを構え直す。

 

【ボスが貴様らを連れてこいと言った!!】

 

 わけのわからない言語だったが────。

 耳に入っているリング型のイヤホンから、通訳音声が流れてくる。

 即座に通訳してくれるAIの力だ。ありがたいね。

 

「なるほど、メトロさま。彼らにつれていけばターゲットがわかるかもしれませんよ」

「え~~~? どうしよ~~~? 皆、どうすればいいと思う?」

 

 メトロがニコニコと笑いながら、そう聞く。

 するとドローンの表面にぽんぽんとコメントが流れ始めた。

 

◯とりあえず命乞いとか?

◯ついていく一択でしょ

◯大暴れが見たいかも

◯チート最強俺TUEEEEEを見せてくれ!!

◯なんかムカつくから皆殺しで

 

 おいおい、相手も海賊とはいえ生きてるんだぞ……と思うんだが。

 あれで一応フィルターがかかっているらしいから実際はもっと過激なんだろうな。

 まったく、どうかしている。人生配信(ライフストリーム)なんてやるもんじゃない。

 

「よし、それじゃあ皆、適当にボコしちゃって!!」

 

 そう言って、メトロが懐からブラスターを二丁引き抜く。

 蜥蜴どもが反応するよりも前に、それらは連射される。

 

【アギ!?】

 

 先頭の蜥蜴にぶっ刺さる針。

 そこから過剰な電撃が流れ始めた。

 

【アギャアアアアアアアアアアアア!?】

 

 一応、非殺傷な性能になっているのは、メトロの甘さゆえなのか。

 しかし電流の衝撃で奴らはブラスターの引き金を引いた。

 直射された後に、銃口が上を向く。さながら無制限の切り上げのようだ。

 

 俺はそんな撃ち出された銃弾の雨を、ゆっくりと見守っていた。

 まぁ、このままならメトロは蜂の巣になるな。

 

 そうなれば用心棒は失敗。俺達ルホルバン警備会社の信用はガタ落ちだ。

 ムカつくやつだが、守ってやるしかない。

 ハァ、これが仕事だね。

 

 すべてがスローに見える空間の中で、俺だけがいつもの速度で動ける。

 ゆっくりとメトロを掴むと抱え上げ、そのまま奥にあるカウンターの奥へと飛び込んだ。

 

 世界が戻る。ドドドドドドド、と銃声が世界に響き渡った。

 イヤホンが音量を下げているから大丈夫だが。

 ノイズキャンセリングってやつだ。

 

「うわぁっ!? びっくりした!!」

「するなよ。既に十回ぐらい見てるだろ?」

 

 自分が移動したことにいまさらながらに気づくメトロ。

 しかし抱きかかえたときに気づいたが、こいつ腰丸出しだな。

 思いっきり触っちゃったよ。どーせ配信には映ってないしいいか。

 

「アンタの瞬間移動、マジでマジックみたいなんだもん……」

「ただの高速移動だよ」

 

 これが俺の超能力の一つだ。単純にアクセルと呼んでいる。

 他にもいくつか出来るが、これが一番便利だな。

 

「さて、しゃがんどけよ。ちょっと様子見てくる」

「嫌よ! 活躍できないじゃない!!」

「敵減ってからでいいだろ……」

 

 少しアクセルを吹かして顔を出す。

 ふむ、キネマが頑張ってくれているようだ。

 

【な、なんなんだこいつ!?】

【銃器が効かねぇぞ!!】

 

 キネマは見た目はタダの人間だが、皮膚の下はほとんど鋼鉄になっている。

 民間人が持っているようなブラスターで傷つけられる相手じゃない。

 そのまま蜥蜴の服を掴んで、殴りかかった。

 

「貴方達の勝てる確率は────」

 

 ドゴォン、と殴られた蜥蜴が飛んでいく。

 驚いた隣の蜥蜴が恐怖からブラスターを連射するが、一切効いていない。

 これが軍事用に改造されたサイボーグの強さだ。

 

「0%!! 0%!! 0%ォ!!」

 

 一匹ずつ壁に埋め、床に埋め、テーブルに埋める。

 それが俺の相棒の姿であった。

 

 そうこうしている内に敵がいなくなってしまった。

 これじゃあメトロが活躍できないな。まぁいいけど。

 

「筋肉はすべてを解決する。これが私のデータです」

「筋肉じゃないだろ……」

 

 隠れている意味もなくなったので、外に出る俺達。

 ドローンの画面を見てみると……。

 

◯あ、終わった?

◯あっけなさすぎる……

◯さすがに敵が雑魚過ぎたね

◯キネマさんマジマッスル

◯計算通りです

 

 キネマのほうが人気になってんじゃねーか。

 それを見て、メトロは頬をふくらませる。

 

「ちょ、ちょっとぉ!! アタイも頑張ったし!!」

 

◯なにを?

◯挑発?

◯無能過ぎる

◯まぁ、最初に何人かは倒したし

◯もっと頑張ってください

 

 ははは、言われてら。

 しかし今の戦闘は無駄だったかもしれないな……。

 とはいえ、コイツラを起こしてボスの居場所を聞けばいいか。

 

「おい、メトロ。御託はいいからこいつらから情報抜き取ってみろよ」

「ああ、こいつなんか良いわね。サイバネ手術してるみたいだし」

 

 そう言ってメトロはうなじあたりにあるケーブルを引き抜いて、蜥蜴のプラグ穴に差し込んだ。

 肉体にある情報接続なんて無線で出来るわけがないので、仕方がない。

 

 メトロが宙を見ながらなにやら指をカタカタしている。

 なんとかタイピングってやつだったかな。サイバネ化してもクセが残るらしい。

 

「いやぁ、やっぱフレッシュハッキングはやめられませんなぁ~~~。相手を芯の髄から犯してる気分ですわ!! 騎乗位騎乗位! 696966!! ぬほほほ!! こっぽぉふかぬぽぉ!!」

 

 こいつ、ハッキングしてる時死ぬほど気持ち悪くなるんだよな。

 なんか白目向いてるし。

 

 俺、サイバネ技術してなくてよかったかもしれない。

 しばらくすると白目がもとに戻って、いつものアッパーテンションに戻った。

 よだれの跡、ついているぞ。

 

「わかったわ!  奴さん、はぐれの研究所にいるみたい!!」

「それじゃあさっさと行かないと逃げられそうだな」

「え? 相手はまだこっちのことわかってないでしょ?」

「おまえ今何してるんだっけ?」

 

 配信中だよ、馬鹿野郎。

 見ようと思えば、おまえの所業完全に丸わかりだよ……そんな事を話しているとキネマが少しばかり汚れたスーツを直し、酒場の店員に金を払って戻ってきた。

 

「大丈夫でしょう。この惑星から逃げない限り、賞金稼ぎがドンドン集まってくるんですから」

「えと、つまり……」

 

 この惑星にいる限り、あらゆる銀河から賞金稼ぎがやってきて増えるってことで。

 この惑星にいる限り、捕まるリスクが増え続けていくから…………。

 

「相手は宇宙空港に逃げるってことか?」

「ええ、嫌でも最寄りの宇宙空港に行くしかないでしょう」

 

 そして最寄りの宇宙空港は俺達がやってきた一点だけだ。

 それ以外はずいぶんと遠い……というか国境を超えなければならない。

 いくら辺境の惑星でも国境を超えられるのは容易ではないだろう。

 

「よし、それじゃあ宇宙空港に……」

「いや、誰かは研究所に向かったほうが良いでしょう。なんせ配信されてるんですから」

「…………それもそうか」

「私が空港に戻るので、二人が捕まえてください」

 

 キネマがそう言うと、メトロが立ち上がり、びしぃと指さした。

 俺達に、ではなくドローンの方向に。

 

「よし、任せなさい!! このメトロ・サブウェイがドカーンと捕まえてみせるわよ!!」

 

◯もうハッキングしないでね

◯めっちゃキショいし

◯おまえ精神状態どうなってんの?

◯少しは自分を顧みてくれ

 

 忙しいやつである。

 ともあれ、俺達二人は店の前にあるレンタルバイクに乗って、研究所に向かうことにした。

 

 後部座席にメトロ。運転は俺である。

 サイバネ手術をしているメトロが本来運転をするべきだろうと思うのだが……。

 面倒くさいから嫌!! だそうだ。

 

 途中、腹が減ったのでファーストフード店でハンバーガーを買う。

 すこしばかりドローンを見るとカップルチャンネルだのなんだろ揶揄していた。

 ちょっと恥ずかしいな、これ……。

 

「セックスライブってめちゃくちゃPVとれるらしいわよ」

「なに? どういう意味?」

「そのままの意味だけど」

「絶対にヤダ」

 

 何考えてんだ、このアマ。

 ライフストリーマーはセックスまで配信するのかよ。

 などと思いながら、荒野の道路を運転していると……。

 

「ねぇ、人生を配信に載せるなんてバカみたいだと思うでしょ」

「いや? でもプライベートもないのかよ」

「あるけど……配信してる間はなにしてもお金になるのよ? 失敗しても、殴られても、ひどいことされたって! だから私は配信が好きなの! 自分の存在を肯定してくれてるみたいで」

「……………………」

 

 正直、よくわからなかった。

 自分の存在? 生きてるだけでいいじゃんね。

 

 ちょっとメンヘラ気分になったのだろうか。

 

 ぶぉおおおおん、とエンジンの音と風を切る音が木霊する。

 それだって、俺の耳のイヤホンは最小限に抑えてくれた。

 

 俺の腰を掴んでいたメトロの手が、心なしか強くなった気がした。

 

「わかんないわよね。ラッドは優秀だもの。貴重なサイキッカーだし」

「まぁな」

 

 生まれてこの方、俺は優秀だった。

 当然だ。優秀なことが俺が生まれた意味なのだから。

 

「でも俺がいつも見せられてたヒーロー番組……え~~っと」

「プラグマン?」

「プラグマンも言ってたぜ? お金がすべてじゃないって」

「それはお金以外も持っている人が言うことなの」

「そうか……」

 

 お金を持ったことがないからよくわからなかった。

 さすが用心棒を雇える金があるやつは違うな……。

 ああ、でもプラグマンはこう言ってたな。

 

 女性が凹んでたらそれを埋めてやるべきだって。

 コンセントと……プラグみたいに……。

 

「でも俺、金があったらアレが欲しいな」

「なによ」

「プラグマンのマスコット。豆電球ドッグぬいぐるみ」

「あれプレミアついてんのよ?」

「だから……金があったらだよ!」

 

 ………………多分慰め方を間違えた気がする!!

 知らねぇよ、人を慰めたことなんてねぇし。

 俺はしょせん、実験動物だよ。

 

 う~~~ん、こういう時キネマならなんて言うだろう……。

 

【私の計算では100%金が全てです】

 

 ……とか? ダメっぽい。

 あいつ本当に既婚者なのかよ。

 よし、ダメだ。慰め不可能。俺のサイキックで何とも出来ない。

 とか言ってる間に着いたしな、研究所。じゃあいいか。

 

 ちょっと近くにバイクを着けて、降りる。

 相手がいるならば、大勢で待ち伏せしているはずだ。

 

 研究所は大型コンビナートのような作りで、無数のパイプがあちこちに広がっている。しかし、人の気配がない。俺、多少のテレパシー能力があるから近くに人がいれば気配でわかるのに……。

 

 う~~ん、逃げた? もしかしたらキネマの方にもう行っちゃったかもな……。

 そんな風に考えていると、メトロに連絡が入ったようで耳を手で抑えている。

 俺が何を話しているのか気になり近づくと、わざわざスピーカーモードに変えてくれた。

 

『すぐにそこから逃げてください!!』

「え?」

『爆弾が仕掛けられています!!』

 

 次の瞬間、爆発する壁面。アクセルを吹かす俺。

 ゆっくりと爆風に巻き込まれていく世界。しかし、だが、俺のほうが速い。

 俺はメトロを抱えると、そのまま走り出した。

 

 牢屋に出る。しかしまだ爆風は追いかけてくる。

 とっくにドローンは爆風に巻き込まれたが、それでも俺達は逃げる。

 

 割れた窓から飛び出し、それでも逃げて逃げて────。

 バイクの元までたどり着いた頃には、研究所が吹き飛んでいた。

 

「はーっ、はーっ」

 

 ちょっと力を使いすぎた。脳がジンジンと熱い。これは……二人で良かったな。

 下手したらメトロかキネマどっちかを見捨てなきゃいけないところだった。

 

「私のドローンが……」

 

 抱きかかえていたメトロを下ろすと、よろよろと立ち上がって炎上している研究所を見た。

 しかしさすがの俺でも燃えている研究所からドローンは回収できない。

 

「悪いな、ドローンまでは」

「あはっ、あははははっ、あはははははは!!」

 

 高笑いするメトロ。何考えてるか知らないが、ドローンが壊れて笑うしかなくなったのか。

 なにか声をかけるべきだろうが、頭がくらくらして、俺はそのまま横になってしまった。

 

「ライフストリーマーって生きてる限り、一日18時間以上配信しないと違約金が出るのよ」

 

 なるほど。やめたくてもやめられないってことか。

 まさに人生の配信者。人生を売りに出して、そしてようやく得られたお金。

 だけれども、もうドローンはなくて……。

 

「私、これ、死んだことにすれば自由にならない?」

 

 そう言って、メトロは倒れている俺に抱きついてきた。

 俺は抵抗する元気もなく、そのまま抱き枕になることしか出来ない。

 

 透き通った空の星が妙に綺麗だった。

 




【メトロ・サブウェイ】
人生配信者(ライフストリーマー)
一日でも配信を休めば莫大な違約金を払うことになる。

【ラッド】
サイキッカー。実験動物だった過去がある。

【キネマ】
用心棒。キネマとメトロの保護者みたいなもの。


好評だったら続きを書くかもしれません。

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