懐かしい声と共に目が覚めた。
もう一度会いたいと思っていたがもう会えない人の温かい声。
そんな声がリューの頭でこだまする。
「起きてリオン!起きなきゃこのプリティー可愛いお尻を揉みしだくわ!」
宣言の数秒後リューのお尻は揉みしだかれる、それと同時にリューはソファーの上から飛び起きた。
「フフーン!ようやくお目覚めねリオン!リオンのお尻とっても柔らかくて気持ちよかったわ!」
「な!アリーゼ!どうしてあなたがここにいるのです!」
いるはずのないかつての仲間を見て驚きの声をあげずにはいられなかった。
絶対に会えないとわかっていながらも姿、声、口調を生き移したような在り方が自分の知っているアリーゼとそっくりだったからだ。
しかし死者は決して生き返らないかつて何度願っても叶わず絶望したリューだからこそ分かってしまう。
「どうしちゃったのよリオン?まだ寝ぼけてるの?」
「私は断じて寝ぼけてなどいない!一体なぜあなたがいるのです!もし私を騙そうとしているなら絶対に許すわけにはいけない!」
「ええ!本当にどうしちゃったのよリオン?何か悪いものでも食べたの?それとも私の揉み方が気持ちよくなかったのかしら?」
「喚くな!。その姿でその声、口調でこれ以上喋るな。死者を冒涜するなど恥を知れ!ましてや私の尊敬する人にな」
スパン!!!
リューが言いかけたところで後頭部に鈍い痛みがはしる。
「真昼間からぎゃーぎゃーと騒ぐな青二才が」
「な!輝夜までも!一体何が狙いだ」
鈍い痛みなど気にも留めずかつてのライバルさえもいることに対する憤りが湧いてくる。
「何をわけのわからないこと言っておるのだ?本当にポンコツにでもなったか?」
「リオンが可哀そうだわ輝夜いつだってリオンはポンコツで可愛いんだから!」
フォローになってない慰めを言いながら今のリューの様子に疑問を抱く二人はリューをまじまじと凝視する。
「リオン本当に大丈夫?」
先ほどのおふざけとは違い真剣な表情で聞いてくるアリーゼにより一層本物ではないかと淡い期待を抱かずにはいられなかった。
必死に湧き上がる感情を強気な言葉で押し返す。
「私は決して騙されない!そのような姑息な手を使うなど万死に値する!」
そしてリューはアリーゼの顔を目掛けて握り拳を振り上げる。
しかし当たらない。すんでのところでアリーゼに組み伏せられてしまった。
その言動を目の当たりにした二人は事の重大さを理解したのか目くばせでお互いに確認する。
「団長 私はアストレア様を呼んでくる。その間その青二才が暴れぬよう押さえておいてくれ」
「わかったわ輝夜。なるべく早くお願い」
短い会話の後の刹那リューの体はうつ伏せになり腕は後ろで締め上げられた。
現レベル6のリューを瞬時に自分を締め上げられるなどレベル7の三頭領か猛者かナイト・オブ・ナイトくらいしか思い当たらない。
しかしヘスティアファミリアと友好関係にある彼らがこんなことをするとは考えられない。
そうなると未知の勢力か?
リューの中で打開策と犯人を練ろうと思考がめぐる。
そしてふと違和感を感じる。
いつものような力が入らない。
体感レベル4中位くらいの力しか出せていない。
それが今の自分の限界だとわかる。
そしてアストレアレコードを発動しようにも詠唱に魔力が宿らない。
紡ごうとした詩はただの声となり空気に消えていく。
おかしい。
明らかにおかしい。
自身のステータス、いるはずのない故人。
何かがおかしいのだ。
「リュー、アリーゼ大丈夫?」
思考に沈もうとしたその時慌ただしく走る音が近づき、かつての主神の声によって現実へと戻される。
「アストレア様?何故アストレア様がいるのです!」
オラリオにいるはずのない神を見て現実を夢を疑わざるおえない。
神に変装するなど到底人にはできるわけがない。それが常識なのだ。
いくら全知零能とはいえ放つ神威は正しく神を表す。
ましてや忘れることのない敬愛する神の神威を間違えるなどリューにはありえなかった。それがかえってリューを少し冷静にさせた。
冷静になったリュー落ち着いては辺りを見回す。
竈門の館ではない。
知っている場所ではある、かつて暮らした場所だ。
リューは今ハッキリと認識した。
自分は今星屑の庭にいると。
「アリーゼ 拘束をといてあげてちょうだい。今のこの子に敵意はないわ」
少し冷静になったリューを見てアストレアは拘束をとくように言う。
「アストレア様今この青二才を解放するのは危険です!」
「いいのよ輝夜。今のリューに私を害する気はないわ」
敬愛する主神の一言にこれ以上何も言わなかった。
「ねぇリュー 一旦私の部屋に行きましょうか。落ち着いて話せば大丈夫だから」
アストレアは子供に優しく言い聞かすようにリューへと慈愛の微笑みを浮かべ手を伸ばす。
何度も自分を導いたくれたその手をリューは疑いながらも取り立ち上がった。
温かい。
悠久の聖火を司るヘスティア様の温かさとも違う強く正義のともった母のような暖かさ。
ここが夢ではないと感じるにはそれは十分すぎる温かさだった。
「アストレア様2人きりで大丈夫ですか?」
「私たちも同席したほうが良いかと」
先程まで狂乱に見えたリューと2人きりにするのは危険だと判断した2人はアストレアの身を案じて同席を提案する。
「大丈夫よ2人とも。さっにも言ったでしょ今のリューに私をどうにかしようなんて考えないわ。だから少し2人にさせてちょうだい」
「うーん。まあアストレア様がそう言うなら大丈夫ね!」
「ええ、ですが何かあったらすぐに呼んでください」
主神の最終的な結論に反論など出るはずもなくファミリアの末っ子を主神へと託す。
「ありがとう2人とも。それじゃあリュー行きましょうか」
主神に手を引かれリューは主神室へと行く。
部屋の椅子に腰掛け、その対面にアストレアが座る。
かつてを思い出し懐かしい気持ちが湧いてくる。
しかし懐かしむ時間はそんなに長くなかった。
懐古する静かさを切るようにアストレアは冷静な眼差しでリューへと質問する。
「単刀直入に聞くわね。あなたはいつのリューなの?」
今の現状を見透かしたかのような言葉に動じながらもリューは質問に答えていく。
「私はおそらくですが未来から来ました。ここよりずっと先の」
「そう。薄々わかっていたはあなたがこの時空の住人じゃないことは。
だってアリーゼたちを故人扱いするんですもの。」
あまり驚かない主神の反応に違和感を覚えながらも会話は進んでいく。
「アストレア様は驚かないんですか?その私が未来から来たことに」
「驚いているわ。でも過去に前例があったから慣れているといえば慣れているの」
「前例ですか?過去に同じような人がいたのですか?」
「いたわ。その子は貴方とちがって未来から肉体ごと来たけれど。たしかにいたの。とても幼くて白くて未熟な子、でも私たちにとっての英雄」
「英雄ですか?」
「ええそうよ。きっと貴方も知ってるはずよ。だって彼貴方から正義をもらったって言っていたもの」
その言葉でピンと来た。私に正義をもらったと言うのは思い当たるのは1人しかいない。
私に正義を取り戻させてくれた彼しか思い当たらなかった。
「その英雄はベルって言いませんでしたか?」
「ええそうよ。やっぱり知ってたのね。彼が私達を助けてくれたの暗黒期にアーディや都市を救い、私の子供達の未来を救ってくれた」
それを聞いてリューの胸は陽だまりの花畑で埋め尽くされた心地がした。
かつて話した暗黒期、かつての親友、彼はその人たちを全員救ってくれたのだ。
私の思い人は私の知らぬところで私の幸せを守ってくれていたのだ。
その事実だけでリューは嬉しかった。
「そうでしたか。ベルがみんなを」
「そうね。ベルがやってくれたの」
少し赤らめた頬をしたリューを見ながらアストレアは微笑みを浮かべリューを見ていた。
「変わったのねリュー」
「そうですね。旅を終えました。」
その一言にどれだけのものが詰まっているかアストレアは理解していた。
軽くだがベルからリューのことは聞いていた。
だからこそ無言でアストレアはリューを抱きしめた。
「リューお帰り」
リューの目に大粒の涙が浮かぶ。
しばらくの間2人はこのままであった。
「ところでリュー貴方は帰れるの?」
長い静寂のあとアストレアは疑問をリューへと問う。
「今のところ帰れるか分かりませんね。ベルはどうやって戻ったのですか?」
「ベルは寝たら夢が醒めるって言ってたかしら。貴方は眠かったりするの?」
「まったく眠くありませんね。寝たら夢が醒めるですか。多分ですが私はその方法で帰れないかもしれません。」
「それは困ったわね。いくら肉体が今のリューだからと言っても今の貴方はこの世界のイレギュラー。長くいてはいけないと思うの」
「それはそうですね。しかし帰り方が分からないとどうしようも」
「ええそうね。だからそれまではこっちのリューとして振舞って欲しいの」
「わかりました。私もそのほうが良いと思います。帰り方が分かるまでの間お世話になります」
「ふふ そんなに畏まらなくて良いのよリュー。あっちではともかく貴方は今私の眷属なんだから。」
「しかし…」
何か言いかけたところでアストレアの微笑みで中断される。
「分かりましたアストレア様」
「良い子ねリュー。それじゃあリュー私に未来での貴方の話を聞かせてちょうだい」
「はい!アストレア様」
リューはその後無くなった時間を埋めるように自身にあったことを話した。
色んなことを話した。
アリーゼ達がいなくなり悲しかったこと。正義を捨てかけたこと。弟子?的なものができたこと。思い人ができたこと。友人と仲違いしたこと。仲直りしたこと。
これまであった沢山のことをリューは話した。
時には感情を荒げ、時には頬を赤らめた。表情豊かに話した。
子が親に宝物を自慢するようなそんな姿であった。
アストレアはそれをただ静かに聞いていた。
その顔には子を思う母としての一面と悪戯っぽい子供のような微笑みを浮かんでいる。
2人の光景は夕焼けに照らされ慈愛と懐旧に満ちた美しい光景にであった。