※R-15くらい……かな?
問題がありそうでしたら削除しますm(_ _)m
「おいで、アズリル」
大好きな人の甘い声で名前を呼ばれただけで、身体からすっと力が抜けそうになった。
目の前では、クロロが素肌にローブを一枚だけまとい、ベッドに横たわっている。
かつてヨークシンで世界を震撼させた蜘蛛の頭領とは思えないほど、今のクロロは穏やかに、こちらの反応を楽しむように微笑んでいる。
一方の僕はといえば、恥ずかしさのあまり部屋の隅まで逃げ込み、壁に背中をぴったりつけたまま固まっていた。頭の中で『落ち着け、自分』と何度唱えても、真っ赤になった顔と耳はどうにも誤魔化せそうにない。
──事の始まりは、念を使えなくなったクロロと旅を始めたことだった。
僕じゃ大した護衛にはならないし、そもそも彼は誰かに守られるような人でもない。
それでも、除念師が見つかるまではそばにいたかった。何かあった時には少しでも力になりたい。せめて、無事に旅団のみんなと再会するところまでは、この目で見届けたかった。
そんな、自分勝手かもしれない気持ちを抱えながら、半ば押しかけるようにして、僕はクロロと共に東を目指して旅を続けている。
その道中、ある宿に泊まった時のことだ。
せめて部屋だけは別々にしようと思っていたのに、クロロが勝手に僕の予約を取り消してしまい、結局同じ部屋で過ごす羽目になった。
嫌なわけじゃないけれど……正直言って心臓がもたない。
なにせ、最近のクロロは妙に僕に対して甘いのだ。
出会った頃に見せていた、あの氷のような冷たさはどこへやら。あまりの変わりように、最初はただ戸惑うばかりだった。
けれど、毎日のようにこんな熱のこもった声と言葉で迫られては、どうしたって意識してしまう。
「一緒の部屋、そんなに嫌だった?」
「嫌……じゃないけど……恥ずかしい……デス」
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに。男同士だろ?」
「だ、だって……僕の気持ち、知ってるくせに……なんでこんな……」
「だからこそ、喜んでくれると思ったんだけど」
「…………」
そう、僕の一目惚れだった。
初めて見た瞬間、胸に矢が突き刺さるような大きな衝撃を受けた。こんなにも完璧に、自分の理想をそのまま形にしたような人間が、この世に存在するなんて思わなかった。我ながらミーハーだとは分かっている。
それでも、あの見るからに危険で、冷酷で、他人を寄せつけないクールな佇まいは、どうしようもないほど僕の好みに刺さっていた。
「アズリルってば」
端っこで必死に壁と同化しようとしている僕を見かねて、クロロは静かにベッドから立ち上がった。
それを見た途端、僕は反射的にくるりと背を向ける。
「そんなに逃げなくても、取って食ったりしないよ。ほら、おいで」
近づいてきた彼の手が、後ろから僕の腰を優しく引き寄せた。背中越しに伝わる体温と、洗いたての髪から漂うほのかなシャンプーの香りに、心臓が大きく跳ねた。
「と、取って食うって何!? ちょ、あっ」
身体を軽々と持ち上げられ、思わず小さな声が漏れた。
「軽いな。俺がお前くらいの頃は、もう少し筋肉がついてたぞ」
「な……! こう見えて、ちゃんといっぱい訓練してるんだから!」
むっと頬を膨らませ、そっぽを向いて抗議する。
「はは、悪い悪い。そうだったな。ウボォを投げ飛ばすくらいには鍛えてるんだった」
「…………」
「あれ以来、ウボォは随分お前を気に入ってたな」
「……ウボォの話は、しないで」
「……」
ほんの一瞬、クロロの瞳の奥に冷ややかなものが覗いた気がした。
けれど次の瞬間には、僕はベッドの上にどさりと投げ出され、彼に上から跨がれていた。
見上げると、普段はきっちり整えられた前髪が乱れて額に落ち、その隙間からクロロがこちらを見下ろしていた。口元には、ぞくりとするほど妖しい笑みが浮かんでいる。
乱れたローブの隙間から覗く、引き締まった胸元に目のやり場を失い、顔を横へと背けた。
「あ、っ……」
無防備に晒されたうなじへ、不意に唇が落とされる。その感触にびくりと肩が跳ね、思わず身を捩った。だが、すかさず両手首を掴まれ、逃げる間もなく身体ごとクロロの方へ向き直される。
「逃げないで」
「待って、団長っ……」
「その呼び方、やめろと言ったはずだろ」
(団員でもないくせに……)
クロロはそう思いながら、わずかに目を細めた。
「クロロでいい」と、耳元で低く囁かれ、首筋に何度も唇を押し当てられる。くすぐったさに思わず吹き出しそうになるのに、それと同時に変な感覚がお腹の奥にまでじわじわと降りてくる。身体から力が抜け、逃げる自由すら完全に削ぎ落とされてしまった。
「く、ろろ……っ」
「口、開けて」
クロロの指先が僕の顎を掬い上げ、強制的に視線を合わせられた。黒い瞳が、逃げ場を塞ぐように迫ってくる。
唇が重なると同時に、ゆっくりと舌で口内を割って入られた。
ずっと憧れていた人の舌が、自分の口の中に──。その生々しい事実だけで頭がどうにかなりそうだった。
容赦なく深く入り込んでくる舌の動きに、喉の奥がひくついた。
自分とは比べものにならないほど上手なキスに、僕はされるがまま翻弄されるしかない。必死でクロロの胸元にしがみつき、与えられる熱をただ受け止めるのが限界だった。
唇が離れた、かと思うと、服の前の部分を思いっきり引っ張られ、胸が露わになった。
「わ、ちょっ!」
上からじっと見つめられ、恥ずかしさで身を縮めようとすると、クロロは指先で胸の間をなぞりながら、僕の動きを制した。
「……なあ、アズリル」
手を止めないまま、クロロが静かな声で問いかけてきた。
「お前の家族や、生まれ育った家のこと……まだ聞いたことがなかったな」
「え…………?」
愛撫の途中で投げかけられたあまりに不釣り合いな質問に、興奮でぼやけていた意識が一気に引き戻される。思わず視線を泳がせた。
「な、なんで…………?」
「知りたくなったんだ。君がどんな場所で育ち、どんな風に過ごしてきたのか」
クロロの表情は柔らかく、声も穏やかそのものだ。けれど、身体を抱き寄せる手にはしっかりと力がこもっていて、決してこの話題から逃がしてはくれそうになかった。
「……別に、大した話じゃないよ。どこにでもある普通の家だし……聞いても、たぶん面白くないと思う」
あからさまに答えを濁すと、クロロは探るような深い眼差しで僕を見つめ返してきた。その底知れない瞳に見つめられると、隠し事などすべて見透かされているような錯覚に陥る。
「教えてほしいな。 ……お前のすべてが知りたい」
クロロはそう言うと、答えを促すように僕の首筋に歯を立てた。痛みと快感が同時に走り、僕は小さく悲鳴を上げて背中を反らせた。
「兄弟はいないか? 兄とか」
「んぁっ……え、え!? ……なんでそんなこと聞くの……?」
肌に吸い付くようなキスを続けられながら、途切れ途切れに声を絞り出す。
「んー? なんとなく、末っ子な感じがするから」
ゆっくりと首から離れると、クロロは僕の髪をひと房すくい、指先で弄びながら何気ない調子で言った。
「兄とかに、甘やかされて育ってそうだなって思ってね」
「そんなこと……ないよ……」
「本当に? 嘘をつくのが下手だな、アズリル」
髪から指先を離すと、そのまま頬を撫で、胸元へとすうっと滑り落ちていく。
「嘘なんて……あ、っ……」
胸の突起をピンと指先で摘み上げられ、反論の言葉は喘ぎへと変わった。質問をかわそうとするたび、クロロは逃がさないと言わんばかりに愛撫を深めてくる。
「こんな姿を兄に見られたら、どう思うだろうな。……俺にすっかり奪われてるお前を見たら、狂うほど嫉妬するんじゃないか?」
「クロロ……お願い、もう……その話は……」
兄上の顔が脳裏に浮かびかけて、慌てて追い払う。
今だけは絶対に思い出したくない。
それにしても、なんでクロロは急にこんなことを聞いてくるんだろう。
そもそも、兄がいるなんて話したことあったっけ……? 記憶を辿ってみても、まるで思い当たらない。
クロロはくすりと笑うと、尋問をやめて僕の唇を再び強く塞いだ。
指先が服の上からそっと僕の下腹部へ伸び、固くなり始めたそこへ、迷いなく触れた。生地越しに伝わる体温と、圧をかける手つきに、身体がびくんと跳ねた。
「っ、ん!!?」
溢れた声を受け止めるように、クロロはさらに深く舌を絡めながら、あそこをじっくりとなで上げていく。
クロロにこんなことをされているなんて、恥ずかしさで頭がおかしくなりそうだった。それなのに、他人から触れられるという慣れない刺激は、恐ろしいほどに快感で、僕の意思とは裏腹に腰が勝手に浮いてしまう。
やがてクロロは唇を離すと、そのまま滑るように耳元へと移動し、囁いた。
「…………今日は、最後までする?」
「んっ、え……っ、…………? ……最、後……?」
「はは、かわいいなアズリルは」
ぐっと強引に腰を引き寄せられ、衣類越しにクロロの昂りがぴったりと押し当てられた。伝わる脈動と熱量に、びくっと大きく体を強張らせた。
「初めて、もらっていい?」
「は……っ………………」
思いがけない言葉の意味を理解するより前に、腰をガッチリと押さえ込まれる。ぐっと密着を深められた。
「……もう逃げられないよ。全部、俺が奪う」
そう言うと、クロロは微笑んだ。
──……✶……──
その優しげな表情とは裏腹に、黒い瞳の奥には冷徹な光が宿っていた。
(お前の地位も、その念能力も──使えるものはすべて利用させてもらう。骨の髄まで、余すことなくな)
──我々から奪った、その報いだ。
ふと、ウボォの顔が脳裏をよぎる。
クロロは、霊魂の存在を信じていた。
もし今もウボォがどこかで見ているのなら──せめて、あいつが生前やりたがっていたことくらいは、自分が代わりに叶えてやりたい。
それもまた、ウボォへの弔いになるだろう。
愛おしげにアズリルを抱き寄せ、耳元へ優しく囁きかけながらも、クロロの胸にあるのは、まだ恋情ではなかった。