変身忍者嵐より 千恵(毒蛾くノ一)の異なる未来   作:shpfive03

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意識を取り戻した千恵

彼女は目を覚ました。

 

「ここは」!

 

飛び起きようとするが、手足に激痛が走り、立ち上がれない。

 

彼女は白い布団の中で自分が寝ていたことを知った。

 

「無理はしなくてもいい、三日三晩意識不明で寝込んだままだったのだから」

 

彼女にそう声をかけたのは、水色の忍び装束を着て、金属製の現代風にいうとバンダナをのようなものを巻いた、優しげな笑顔の好青年だった。

 

 

「無理しないでよ、お姉ちゃん!」

 

と、その隣から声をかけたのは緑色の忍び装束を着た笑顔が可愛らしい少年だった。

 

無論、彼女はこの二人のことを知っている。

 

「ハヤテ!‥さん、ツムジさん‥」

 

「千恵さん、いや[[rb:貴女 >あなた]]は千恵はいないと言っていた」

 

水色の忍び装束の青年、ハヤテは彼女にそう声をかけると

 

「[[rb:貴女 > あなた]]のことはどう呼べばいい?」 

 

と、やや迷ったように続ける。

 

彼女は少し迷ったように首を少しふった後で、小さな声で、こう答えた。

 

「千恵は‥‥、化身忍者になる前の私の名前です‥」

 

「じゃあ、お姉ちゃんは、やっぱり千恵さんだよ!」

 

緑色の忍び装束を着た少年、ツムジが明るく答える。

 

そして、満面の笑顔で

 

「だって、千恵さんは、もう血車党の化身忍者じゃないんだから!」

 

と明るく声をかける。

 

その瞬間、「千恵」は大粒の涙を流したと思うと、「うっ!、くっくっ ‥えっ!」と大きな声で嗚咽した。

 

彼女は自分が「嬉しくて泣いている」ということに驚いていたのだ。

 

「千恵さん」、あらためてハヤテが声をかける。

 

「[[rb:貴女 > あなた]]は地割れに落とされることなく、九死に一生を得たんだ。」

 

言葉を選びながらハヤテは続ける。

 

間一髪で彼女を助け出したのは、地割れに落ち、炎に包まれる寸前だった彼女に無我夢中で飛び付き、突き飛ばしたハヤテだった。

 

だが、彼はそんなことは言わなかったし、言う必要も感じていなかった。

 

ハヤテは少し間を置いて、こう声をかけた。

 

「だから[[rb:貴女 > あなた]]はこれからの人生を自分で選ぶことが出来るんだ」

 

嗚咽を続けながらも、そのハヤテの言葉を聞いて、千恵は微かに頷く。

 

「これからのことは、もう少し落ち着いたらにしよう、今はまだ、傷が癒えるまで休むんだ」

 

そしてハヤテは

 

「ここも血車党が襲ってくるかもしれない」

 

一旦言葉を切り

 

「傷が癒えたら、一緒に江戸へ行こう。タツマキの家でしばらくは面倒を見てくれるそうだ」

 

と今後について話した。

 

千恵は嗚咽を止め、顔を上げた。

 

「どうして‥」

 

「どうして、ついさっきまで殺し合いをしていた相手の、[[rb:貴方 > あなた]]たちから見れば邪悪に見えるはずの、血車党の化身忍者である、この私を‥」

 

「どうして、そこまで信じることが出来るんですか?」

 

千恵の問いは、ある意味当然だったかもしれない。

 

ハヤテは、キッパリとこう答えた。

 

「それは、俺たちがそう決めたからだ」

 

そして

 

「それに血車党が[[rb:貴女 > あなた]]を切り捨てたことはハッキリしている。むしろ、これからは[[rb:貴女 > あなた]]の身が危険にさらされる」

 

「それがわかっていて、放ってもおけないだろ?」

 

と続ける。

 

千恵は涙で綺麗な顔をくしゃくしゃにした。 

 

「また、後で話をしよう」

 

とハヤテ。

 

「もう少し休むんだ、俺たちはもう少し、ここで待っている」

 

千恵は微かに頷く。

 

ハヤテとツムジは、千恵が休むのを見て、部屋を出て、ふすまを閉めた。

 

 

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千恵は、あるきっかけで幕府転覆と、最終的な日本支配を目的とする血車党に自ら望んで入党した。

 

千恵の両親は徳川幕府に敵対する豊臣家に味方する真田家の忍者であり、父も母も真田忍者の中では実力者として知られていた。

 

そして千恵だけではなく、弟も幼い頃から父や母に追い付きたい一心で修行に励んでいた。

 

が、大阪夏の陣で豊臣家の象徴、大阪城は落城し、父も、母もそこで戦死した。

 

その少し後に弟も修行中の事故で亡くなり、千恵は天涯孤独となった。

 

あるいは弟も、父や母の死により、少しでも早く「強い忍者」になろうと修行を焦ったのかもしれない。

 

父や母の仇をとりたいと弟が言っていたことを思い出す千恵。

 

そして、千恵は「家族の無念をはらすため」に、自らに力を与えてくれる組織として血車党を選んだ。

 

血車党は千年の伝統を持つと称する忍者たちによる秘密結社だが、首領の魔神斉は、あまり表面には出ず、専ら上忍である骸骨丸が作戦計画などを仕切っていた。

 

そして血車党は組織として「化身忍者」と呼ばれる特定の動物に「化身」できる能力を身につけた中忍が、それぞれの作戦計画を実行するリーダーとなっていた。

 

この「化身忍者」は通常は血車党に元から所属する下忍たちが昇格することになっており、千恵のような新参者がなるのは困難なようにも思われた。

 

いや、リーダーである骸骨丸も、実は化身忍者であるといわれている。

 

だが、千恵は少しでも早く、血車党で力を得たかったし、「女だから」という理由で軽く見られることは、彼女のプライドが許さなかった。

 

だからこそ千恵は自らの忍者としての実力を強くアピールし、自ら「化身忍者」となることを望んだのだ。

 

そして、彼女の望みは叶えられた。

 

もっとも、当時の血車党には「女性の化身忍者」がおらず、骸骨丸が千恵を「化身忍者として抜擢」したのも、結局は彼女が「女性」だったからなのだが‥

 

千恵は化身忍者になったことを喜び、徳川の世への「復讐」のため、自らが「毒蛾作戦」の実行隊長に選ばれたことで意気込んでいた。

 

「血車党への裏切り者で、かつ有力な敵対者」であるハヤテこと「変身忍者嵐」、そして幕府直属の隠密であり、嵐をサポートする伊賀忍者タツマキと、その子カスミとツムジのことは骸骨丸から聞かされており、「敵」だと思い込んでいた。

 

が、作戦実行の中で、現実のハヤテたちとふれあい、その豊かな愛情を知り、千恵は内心では動揺していた。

 

まだ千恵が「毒蛾くノ一」であると気づかず、ハヤテたちが無防備でいる間に必殺の狂い粉を使うチャンスはあったから、おそらく彼女は勝利を得ることは容易だったはず。

 

だか、千恵にはできなかった。

 

そして、千恵から「毒蛾くノ一」に「化身」し、嵐と戦ったときにも、嵐を目の前に心は激しく動揺し、十分に力を発揮することはできなかった。

 

そして

 

千恵は今、ここに自分がこうして「ハヤテたちに守られて」休んでいる。

 

その事をあらためて思った。

 

自分は、これからどうすればいいんだろう‥

 

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一方でハヤテも考えていた。

 

血車党の「化身忍者」を作り出すための秘法は、元々はハヤテの父である谷の鬼十が基礎理論を組み立てたものである。

 

ハヤテ自身、父である谷の鬼十によって「変身忍者嵐」に生まれ変わった身である。

 

化身忍者は確かに普通の人たちから見れば「妖怪じみた忍達」である。

 

いや「嵐」だって、もし血車党の「化身忍者」としてタツマキたちの前に現れていれば

 

やはり「異形の邪悪なもの」に見えていたには違いないのだ。

 

千恵は今、人の姿で休んでいるが、彼女が「毒蛾くノ一」に「化身」する能力はそのまま残っている。

 

その千恵を受け入れるというのは、タツマキたちにとっても、かなりの勇気が必要であるのは間違いない。

 

「ハヤテさん、どうしたの?」

 

ツムジが声をかける。

 

「いや、ちょっと考え事を」

 

ハヤテが答える。

 

「考え事?」

 

ツムジが問い返すと、ハヤテは先ほどまで思っていたこととは違う話をした。

 

「千恵さんは魔神斎によって処刑されそうになる直前に、血車党の新しい髑髏館について、何かを伝えようとしていた」

 

一呼吸おいてハヤテは

 

「それが今、タツマキたちが調査に行っている宿場町で起きている人々の失踪と関係があるのかもしれない」

 

と言った。

 

実は、タツマキとカスミは、今、幕府から別の任務についての指示があり、ある宿場町に調査に行っている。

 

ハヤテもツムジも、勿論、同行したかったのだが、昏睡状態にある千恵をそのままにすることはできないし、彼女が血車党から襲われることも予測できたので、彼女の回復を待っていたのだ。

 

「血車党が新たな企みをもって、何かをはじめようとしているのは確かだと思うし、それについて千恵さんが何かを知っているのかもしれない」

 

その後でハヤテは、ツムジに問うように続ける。

 

「だから千恵さんから、その血車党の企みを早急に聞き出し、タツマキたちの危機を未然に防ぐべきなのかもしれないんだが‥」

 

迷ったようなハヤテ。

 

「千恵さんは、そこまで心の整理がつけられるだろうか?」

 

ツムジも

 

「うーん‥」

 

と腕を組んで考える様子を見せるが

 

「難しいことはおいらにはわからないけどさ」

 

そして真顔になり

 

「聞き方だと思う。」

 

と答えた。

 

「そうだな」

 

ハヤテは微苦笑する。

 

「もう少ししたら千恵さんに」

 

いったん言葉を切ると

 

「前に話そうとしてくれた血車党の新しい髑髏館について話を聞かせてほしいと」

 

ハヤテはそこで笑顔になり

 

「聞いてみることにするよ」。

 

とツムジに答えた。

 

「うん!」

 

ツムジも答える。

 

「おいらは千恵お姉ちゃんのことを信じてるよ」

 

まるで先ほどまでのハヤテの内心の問いに応えるように、ツムジは言った。

 

 

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そろそろ日没の頃合い。

 

ハヤテとツムジはお粥を作り、それを茶碗に盛る。

 

三日三晩寝込んでいた千恵の健康状態を考え、お粥は少な目に茶碗に盛ることにした。

 

「千恵さん、いいかい?」

 

ハヤテが襖の前から声をかける。

 

「はい」

 

か細げな、しかし、しっかりした千恵の声。

 

ハヤテとツムジは襖を開けると、千恵は床から起き上がっていた。

 

「無理して起きなくても‥」

 

と、ハヤテは膳の上に粥の入った茶碗を置く。

 

「とりあえず、粥を用意した。まだ本調子じゃないから無理はしない方がいい」

 

とハヤテ。

 

が、千恵は首を振る。

 

「私は[[rb:忍 > しのび]]です。このくらい、もう大丈夫です」

 

「千恵さん‥」

 

「でも、お粥はご馳走になります、ありがとうございます。」

 

千恵は深々と頭を下げた。

 

言うまでもなくハヤテとツムジは既にこれとは別に食事をすませており、二人とも複雑な表情になる。

 

千恵が粥の食事を済ませ、茶碗などをツムジが片付けにいく。

 

ハヤテはそれを見送ると

 

「千恵さん」

 

と声をかけた。

 

が、千恵の方から

 

「カスミさんをずっと見かけないんですけど‥」

 

と、不安げな表情で、先に問われた。

 

「カスミは、タツマキと一緒に今、御公儀からの急な使者があって、近くの宿場町に調査に行っている」

 

ハヤテは正直に答える。

 

「公儀からの使者?」

 

千恵は駄目だと言わんばかりに首を横に振る。

 

「いけません!、それは血車党の罠です」

 

キッパリと千恵は言った。

 

「ええっ?!」

 

聞いていたハヤテだけではなく、戻ってきたツムジも驚きの声をあげる。

 

「その使者というのは、すぐに他のところに行かなければとかいって立ち去りませんでしたか?」

 

一呼吸おいて、ハヤテが返事をする。

 

「ああ」

 

「血車党はカスミさんを狙っています。ええ、カスミさんを血車党の化身忍者にするために‥」

 

ハヤテも、ツムジも、さすがにショックを隠せない。

 

「血車党はくノ一の化身忍者を何人か育成し、幕府や各藩の奥向きにも潜入させようと考えています」

 

「けれども、血車党の内々では、女の化身忍者はなり手がいません」

 

千恵は、だからこそ新参者の自分が「くノ一化身忍者」の第一号になったのだ、と、あらためて思う。

 

そして実力で勝負したいといった自分は、骸骨丸にとっても内心煙たかったのではないかとも思った。

 

が、それは口に出さない。

 

「そして、西洋医学の心得があり、忍術もしっかりと心得ているカスミさんは‥」

 

千恵は一瞬言葉を切り

 

「血車党にとって欲しい人材です」

 

とキッパリと言い切った。

 

自分を切り捨てた血車党への、それは千恵なりの「決別」だったのかもしれない。

 

「そうか‥」

 

ハヤテは一瞬言葉に詰まるが

 

「千恵さん、ありがとう!」

 

と頭を下げた。

 

「でも涼風が‥、まだ反応していないよ」

 

とツムジ。

 

カスミが持つ「涼風」という笛は、それを吹くと、ハヤテの刀に反応して彼女の危機を知らせることになっているのだ。

 

「いや、だとしても急いでカスミたちのところに行かないと‥」

 

普段は意識して父であるタツマキの名前を先に挙げるハヤテだが、さすがに「危ない」と名指しされたカスミのことは心配であり、それが言葉にもあらわれている。

 

「千恵お姉ちゃんは?」

 

勿論、カスミのことが心配ながら、千恵を気遣うツムジ。

 

「私なら大丈夫です」

 

千恵はゆっくりと立ち上がる。

 

「私も忍者として修行を積んだ身です。ハヤテさん、ツムジさんたちの足手まといになるわけにはいきません!」

 

そして表情をきつくすると

 

「私も一緒に行きます!」

 

と宣言した。

 

「いずれにしてもハヤブサオーに三人は乗れない」

 

ハヤテが首を振る。

「ここは私が一人でいく、ツムジ、千恵さんを頼む」

 

「わかった、ハヤテさん頼むよ」

 

とツムジ。

 

千恵は

 

「血車党の化身忍者だった私をツムジさんと二人きりにするのは不安じゃないんですか?」

 

と言った。

 

「私は、[[rb:貴女 > あなた]]を信じる」

 

とハヤテ。

 

「むしろ心配なのは‥」

 

「私のことなら心配しないでください!」

 

キッパリと千恵は言った。

 

「私は戦えます。例え別の化身忍者が刺客として目の前に現れたとしても」

 

千恵は唇をかみしめる。

 

「ツムジさんを絶対に守ります」

 

「ちょっと、千恵お姉ちゃん!」

 

ツムジがむくれる。

 

「お姉ちゃんを守るのは、おいらの方だよ!」

 

それを聞いて千恵は

 

「ツムジさん、ありがとう」

 

と微笑んだ。

 

とても美しい笑顔。

 

[ハヤテも、ツムジも、そんな千恵の笑顔を見て、思わずドキッとしたものの

 

「わかった、すぐに行って戻ってくるから留守を頼む!」

 

ハヤテは言い、飛び出すようにして小屋を出ると、ハヤブサオーにまたがり、急ぎ出発した。

 

それを見届けたツムジと千恵の二人。

 

「ツムジさん」

 

千恵が微笑む。

 

「えっ?」

 

とツムジ。

 

「ありがとう、信じてくれて」

 

千恵は深々と頭を下げた。

 

ツムジは照れながら

 

「とにかく頑張ろうよ」

 

と返事をする。

 

「そうね」

 

千恵は頷いた。

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