変身忍者嵐より 千恵(毒蛾くノ一)の異なる未来   作:shpfive03

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ハヤテ、吸血鬼と化した町の人たちに取り囲まれる

一方で、先に出発したハヤテはハヤブサオーと共にようやく早川城下に着いたところである。

 

既に日は暮れかかっており、この分では今晩の宿泊先を探すのも難しいかもしれない。

 

相州最大の城下町とまでいわれる早川であるはずなのに、町の雰囲気は暗く、道行く人たちもハヤテとは目を合わせようともしない。

 

寒々とした雰囲気の城下町だった。

 

恐らく、少し前まではこんなではなかっただろうに‥

 

ふとハヤテは、以前、この早川からもさほど離れていない、ここから北のとある町で血車党時代の親友、山彦小次郎と再会し、そして、彼が化身忍者となり自分に挑んできたことを知り、最終的には心の底まで化身忍者と成り果てていた彼を斬ったことを思い出した。

 

ハヤテの故郷でもある血車の郷から、はるばる兄である小次郎を追いかけてきて、何とかしてハヤテと小次郎との死闘を止めようとした彼の妹こずえは、結果として兄を失い、その町にある寺の住職に預けられることになった。

 

その寺には、今でも小次郎の墓があるはずだ。

 

あの時、小次郎を斬らずに済むことは出来なかったのだろうか‥‥

 

ハヤテは、それについては当時も自問自答し、今も自問自答をしている。

 

いや、化身忍者毒蛾くノ一だった千恵を斬ることなく、それどころか、自ら危険をおかしてまで、魔神斎によって処刑されるはずだった彼女を救いだしたのも

 

そして、今は同行しているのも

 

小次郎の事がハヤテの心の傷になっていたことと無関係ではない。

 

それは過去の話としても

 

その時にもハヤテたちは一度、この早川には立ち寄っているのだが、その当時はずっと賑やかな町だったように記憶している。

 

一体、どうしてしまったのか?

 

 

「きゃあーっっ!」

 

突然、女性の悲鳴が聞こえ、ハヤテは我に返る。

 

ハヤテは急いでハヤブサオーから降りる。

 

ハヤブサオーの方は、心得たとばかりに、いずこかへ姿を消した。

 

そしてハヤテが悲鳴の方向に駆けつけると、顔は青白く、口から小さな牙を生やした二、三人の男たちが、妙齢の若い女性を取り囲み、今にも襲いかかろうとしているところであった。

 

若い女性といっても、まだ少女のあどけなささえ残る、カスミと同年代くらいの、ぽっちゃり顔の可愛らしい女の子である。

 

丸髷に黄色を基調とした着物を着て、前掛けをしている女の子。

 

その女の子は、顔を真っ青にしながら、恐らくは恐怖でガタガタと震えている。

 

だが、ハヤテは、その女の子に強烈な見覚えがあった。

 

「こずえさん!、なぜ貴女がここに!?」

 

彼女は、ここから北の町にある寺の住職の元にいるはずではなかったのか?

 

が、そんなことを考えているより前に、まず彼女を三人の男たちから救い出さないといけない。

 

「止めろ!」

 

ハヤテは声をあげ、三人の男たちに向かっていく。

 

すると男たちは現れたハヤテに対して、まったく戦意を見せることもなく、獲物を諦めた犬たちのようにさっさと逃げ出していったのだ。

 

一体、これはどうしたことか?

 

呆然とするハヤテの前に、先ほどまで震えていたはずの女の子が、いきなりハヤテに抱きついてきた。

 

「ハヤテさん、お久しぶりです!、こずえです!」

 

彼女はハヤテにしっかりと抱きつきながら、そう挨拶した。

 

そのハヤテを抱き締める力強さ、彼女の嬉しさが伝わってくるように感じる。

 

戸惑うハヤテだが、とりあえず

 

「こずえさん、ケガはなかったか?」

 

と、ますは彼女を気遣う。

 

「ハヤテさん‥、私は大丈夫です‥‥」

 

とこずえは答える。

 

「でも、早くここから逃げ出さないと、多分、大変なことになります‥‥」

 

「どういうことなんだ?」

 

不審がるハヤテ。

 

だが、本当に遅かったようだ。

 

恐らく、先ほどの三人の男たちが仲間を集めてきたのだろう。

 

今度は二、三十人と10倍以上の人数が集まり、しかも年齢層はバラバラ。

 

壮年の男だけではない。

 

若い娘もいれば、老人も、まだ少年としか見えない子供も、いや、恐らくは妊婦と思えるお腹の大きな女性までいる。

 

皆、ゆっくりとした歩みながら、少しずつハヤテとこずえを取り囲んでいく。

 

こずえが震えながら、ハヤテに言った。

 

「ハヤテさん!、この人たちは、みんな町で生活していた 普通の人たちなんです、そう、血車党とかじゃありません!」

 

「なんだって!」

 

ハヤテは率直に驚く。

 

「これは血車党の仕業じゃないのか?」

 

こずえは首を横に振る、彼女は半ば泣きそうな顔をしていた。

 

「わからないんです!、わかっているのは何日か前から町の人たちの生き血を吸う、黒いコウモリのような怪物が夜になると現れては、町の人たちの生き血を吸うことを繰り返しているんです‥‥」

 

こずえは震えながらも、それでもハヤテに簡単な説明をする。

 

「その怪物に血を吸われた町の人は、みんな、目の前の人たちみたいに、自分も、その怪物と同じように、誰かの生き血を欲しがるようになり、その人に生き血を吸われた人が、更に、その怪物と同じように生き血を欲しがるようになり‥‥」

 

こずえの震えは止まない。

 

「今、この町は大混乱です。早川城の家中の人たちも、何とかしようとは思っているらしいんですけど、今のところは、なんにも‥‥」

 

ハヤテはここで気になって、こずえに

 

「そんな危険があることがわかっていて、こずえさんは、なぜ、こんな夜に、しかも一人で外出したんだ?!」

 

と確認しようとする。

 

「旦那さまが急病なんです!」

 

こずえの返事は、とてもハッキリとしていた。

 

「私は今、この城下で一番大きな旅籠で働いています。そこの旦那さまが急な腹痛を起こして、急いで薬が必要になったんです、」

 

今にも泣き出しそうなこずえ。

 

「でも、女将さんもそうですけど、みんな、夜の外出をするのを、とても怖がっていたので、多少なりとも忍術の心得があり、いざという時にも逃げられると思った私の方から『行ってきます』と申し出たんです、薬はお医者様から、もう頂きました。でも、その帰りに、やっぱり、こんなことになって‥‥」

 

事情はわかった、とハヤテは思った。

 

だが、この状態からどうやって抜け出せばいい?

 

気がつくと、二、三十人と思っていた人々の数は更に増え、五十人くらいはいるかもしれない。

 

青白い顔をし、口に小さな牙を生やした老若男女の人々が、じりっ、じりっ、とハヤテとこずえを取り囲む。

 

やはり、これは血車党の仕業に違いないとハヤテは確信したが、見た目にも明らかに普通の人たちが何者かに操られているだけであり、こずえの話によっても、それは間違いなさそうである。

 

とすれば、どうすればいい?

 

ハヤテはこずえを背後に庇いながらも、今までにない窮地に立たされたことを自覚したことに焦りを感じていた。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

やっぱり空を飛ぶって、気持ちいいな‥‥

 

千恵は今、毒蛾くノ一の姿で、箱根の宿場町から、すでに日の暮れた早川の城下町に向かう上空を飛んでいた。

 

さすがに昼間なら、いくら上空でも目立ってしまうのだろうけど、すでに日は暮れており、町も静まり返っており、上空に注意を向ける人も見かけない。

 

それにしても‥‥

 

タツマキたちに限らず、普通の人たちは元より徒歩以外の交通手段もなく、否応なしに長い距離でも歩くしかないというのは、頭では分かっているつもりだったが、いざ、自分が実際に歩いてみると、その大変さが実感できる。

 

転移の術に限らず、こうして空を飛ぶことだってできるのを考えたら

 

血車党も、その技術力を自分たちの野望のために使うのではなく、人々の役に立つように使えばいいのに、とも思えるのだ。

 

あるいは、ハヤテの父、谷鬼十の本来の理想がそうだったのかも知れないが‥‥

 

そんなことを考えていたとき、ふと下の方を見た千恵は

 

早川城にほど近い小高い丘の上で、彼女に向かって

 

ヒヒーン!

 

と、まるで声をかけるかのように鳴く馬の姿を見つけた。

 

「ハヤブサオー!、どうして、貴方がここに?」

 

千恵は

 

「イーッ!、ヨーウゥゥー」

 

と声をあげると、ゆっくりと、丘の上で待つハヤブサオーの元へ舞い降りる。

 

千恵は毒蛾くノ一の姿のままなのだが、なぜかハヤブサオーには、その姿の彼女が千恵であることがわかるらしい。

 

千恵のところにすり寄ると、顔を彼女にこすりつけてきた。

 

千恵は思いきって

 

「ハヤブサオー、ハヤテさんは?」

 

と尋ねてみる。

 

勿論、ハヤブサオーは人語で返事をすることは出来ないが、さかんに、この丘の上から見える城下町の特定の一角の方へ向けて首をさかんに振る。

 

「あそこにハヤテさんがいるのね?」

 

毒蛾くノ一の姿をした千恵が、ハヤブサオーに向かって問い返す。

 

ハヤブサオーは『我が意を得たり』と言わんばかりに、ヒン、ヒン、ヒン、と首を縦に振りながら、続けて返事をする。

 

「いったん、あそこまで飛んで、帰りは転移の術でここまで戻ってくれば‥‥」

 

千恵はそのように決心すると、ハヤブサオーに向かって

 

「待っててね、ハヤブサオー。今、私がハヤテさんを連れてくるから!」

 

と声をかける。

 

ハヤブサオーは嬉しそうに体を揺らせる。

 

千恵は再び宙に向けて舞い上がると、そのままハヤブサオーに教えてもらった方向へと飛んでいった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「やむを得ない!」

 

ハヤテはそう言うと、背後のこずえに

 

「こずえさん!、少しさがっててください」

 

と声をかける。

 

「はいっ!」

 

こずえは頷くと、ハッキリとした声で、ハヤテに向かって返事をする。

 

ハヤテもこずえに向かって頷くと、すぐに両手をクロスさせ、右手を上に挙げた。

 

「吹けよ、嵐!、嵐!、あ、ら、し!!」

 

言いながらハヤテは右手をおろして、再度両手をクロスさせる、そして抜刀しながら、背中の刀の鍔をカチッと鳴らした。

 

ハヤテは、愛刀「速風」のその時の特殊な振動により、脳神経が異常活動を始め、体の細胞配列を変えて、「変身忍者嵐」に変身するのだ。

 

たちまちハヤテの周囲が大量の羽毛に囲まれたかと思うと、次の瞬間には「荒鷲の変身忍者である嵐」が、その場に出現していた。

 

「嵐、見参!」

 

異形の「変身忍者」出現に、それまで二人を囲んでいた青白い顔をし、口に小さな牙を生やした群衆も、いささか怯んだようだ。

 

そしてハヤテ、いや変身忍者嵐の背後にいるこずえは、そんな嵐の様子を不安げに見つめる。

 

ハヤテは操られているに過ぎない町の人たちを斬るつもりなのだろうか?

 

だが嵐は、そんなこずえに

 

「こずえさん、私にしっかりと掴まっていてください」

 

と声をかける。

 

「わかりました、ハヤテさん(・・・・・)!」

 

こずえも、すぐに嵐にしっかりとしがみついた。

 

が、その上で嵐にしたことはというと、

 

右手をかざすなり

 

「忍法、羽根隠れ!」

 

と叫ぶことだった。

 

たちまち嵐とこずえの周りに大量の羽毛が発生したかと思うと、その羽毛は完全に二人の姿を見えなくし、そして、羽毛が消えてなくなったかと思うと

 

二人の姿も消えていた。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

次の瞬間には、辻二本ほど離れた道に、羽毛とともに嵐とこずえは姿を現していた。

 

「こずえさん、もう大丈夫」

 

嵐が声をかけ、こずえは恐る恐る嵐から手を離した。

 

「ハヤテさん、今のは?」

 

怪訝そうなこずえが、嵐に尋ねる。

 

「簡単にいうと『煙幕』を張って、その場から逃げ出しただけさ」

 

嵐は苦笑いする。

 

「このためだけに変身するのは、さすがの私も初めてだけどね」

 

そんな嵐に、こずえは

 

「とりあえず、さっきの人たちから逃げることは出来たかもしれませんけど、私、早く旦那様にお薬を届けないといけないんです。どうすれば?‥」

 

と問いかける。

 

「こずえさんの働いている旅籠はここから遠いのか?」

 

と嵐。

 

「ちょうど、さっきの道からみて反対側です。そこへ戻るには、またさっきの道を通らないといけません‥‥」

 

こずえは困ったような顔をする。

 

が、別な意味で、その心配をする必要はなかったようだ。

 

この辻の近くの家々からも、次々と青白い顔をし、口に小さな牙を生やした老若男女の「吸血鬼たち」が姿を現したのだ。

 

さっきよりは少ないものの、それでも十人以上はいる。

 

人々の顔ぶれは、さっきとは全て違っているようである。

 

「くそ!、一体、どうなっているんだ?」

 

さすがの嵐も、この状態には焦りを感じる。

 

そんな嵐とこずえの前に、青白い顔をし、口に小さな牙を生やした十人以上の「吸血鬼」たちは、じりっ、じりっと迫ってくる。

 

これでは先ほどまでと状況は変わらない。

 

それとも、また羽根隠れでこの場から姿を消しても、次の場所で、また同じようなことになるなら‥‥

 

どうすればいい?

 

が、その時空から

 

「イーッ!、ヨーウゥゥー」

 

という、嵐にとっては聞き覚えのある、女性のかん高い、知らぬものにとっては不気味に聞こえる声が聞こえてきた。

 

嵐とこずえは、思わず上空を見上げ、そして、こずえは

 

「きゃあっ!!」

 

と、思わず叫んでいた。

 

そして、こずえは上空からやってきた、「長い金髪の、大きな毒蛾の姿をした怪人」を指差して

 

「ハ、ハヤテさん、あれっ、どう見ても血車党の化身忍者じゃ?」

 

と震えながら、嵐を見る。

 

「こずえさん、あの人のことなら心配はいらない」

 

嵐は優しい口調で、こずえに言った。

 

「千恵さんは、私たちの仲間だ」

 

千恵は、嵐とこずえの前に、ちょうど群衆を遮る形で舞い降りた。

 

そして千恵は、やや躊躇った後に

 

「ハヤテさん、その女の子は?」

 

と嵐に問いかける。

 

「千恵さん、こずえさんなら、私の古い友人だ。そして、私にとって亡き親友の、たった一人の肉親として、大切にしなければいけない人でもある」

 

嵐は、千恵にそう答えた。

 

そのハヤテ(・・・)の言葉を聞いて、こずえは思わず胸がときめくのを感じずにはいられなかった。

 

「ハヤテさん‥‥」

 

こずえの瞳は潤んでいた。

 

とりあえず、今はそれどころではない、はずだった。

 

はずだった、というのは、先ほどまで嵐とこずえを取り囲んでいた人々は、なぜか立ち止まり、自失状態になってしまっているからだ。

 

突然現れた毒蛾くノ一の姿をした千恵に驚いているのだろうか?

 

「いずれにしても、話は後にしましょう」

 

千恵は、とにかく、この場から撤収するのを第一に考えることにした。

 

その後で考えなければいけないことは沢山ありそうだが‥‥

 

「ハヤテさん、あと、こずえさんも、今は理屈抜きに私に掴まってください」

 

「こずえさん、今は私たちを信じて!」

 

嵐はいうなり、千恵にしがみついた。

 

本当は嵐だけなら、この場から抜け出すことは困難ではないのだが、とにかく、この場にこずえを残していくわけにはいかない。

 

こずえは、やや躊躇った後に、その嵐の後ろにしがみついた。

 

「忍法、転移!」

 

千恵は印を切った。

 

次の瞬間、この場から三人の姿は煙と共に消え失せ

 

そして、早川城そばの、ハヤブサオーが待つ丘の上に

 

三人は煙と共に姿を現したのだ。

 

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