変身忍者嵐より 千恵(毒蛾くノ一)の異なる未来 作:shpfive03
煙と共に丘の上に降り立った嵐は変身を解き、ハヤテの姿に戻る。
千恵も、落ち着かない様子のこずえを見ながら、少し考えた後に「化身」を解き、いったん「千恵の人間体」となった。
とは言え、黒い忍び装束姿の千恵に対して、こずえはなおも警戒心を解かないようだ。
「ハヤブサオー!、無事だったか」
元の姿に戻ったハヤテはハヤブサオーに声をかける。
ハヤブサオーは、そんなハヤテに嬉しそうにヒヒーンと返事を返した。
そしてハヤテは千恵の方を振り返ると
「千恵さん、タツマキたちは?」
と聞く。
千恵は
「タツマキさんたちは、今晩は箱根の宿場町にいます。明日ハヤテさんと合流するつもりでしたけど、箱根関所の様子などから、やはり早川城下のことが気になるということで、私が偵察をかねて、こうしてやって来ました。これからタツマキさんのところへ転移の術で戻って、今の様子を伝えるつもりです」
と答えると
「よければハヤテさんとこずえさんも、私と一緒にこのまま箱根まで行きませんか?、こずえさんは追われているようにも見えましたし‥‥」
とハヤテとこずえに声をかける。
が、ハヤテは千恵に対して首を横に振ると、あらためてこずえに
「こずえさん、旅籠の旦那さんへ急いで薬を届けないといけないとのことだったはずだが?」
と問いかける、
こずえは
「は、はい。でも、こんな離れたところに来てしまって、私、どうしたら?」
と、戸惑ったように返事をした。
「こずえさんが働いている旅籠の名前は?、あと馬は泊められるかい?」
こずえは戸惑いながらも
「は、はい‥‥、旅籠の名前は早川宿緑屋です。厩舎はあるので、ハヤブサオーを泊めるのは大丈夫です‥」
と答える。
「なら、これから直ぐに二人でハヤブサオーで旅籠まで行こう!」
ハヤテはキッパリと言った。
「千恵さんはいったん、タツマキたちのところへ戻って、今の状況を伝えてくれ。ハヤテはこずえさんが働いている早川城下の旅籠へ行くと、彼女が働いている旅籠の旦那さんが急病で薬を届けないといけないんだ!」
千恵は不安げに
「ハヤテさん、それで大丈夫なんですか?」
と、ハヤテに問いかける。
実は千恵には、ある確信があったのだが、それを今、この場でいうのは躊躇われた。
「私は大丈夫だ!」
力強くハヤテ。
「その結果何があっても、私は何とかする」
「わかりました」
千恵はここはハヤテの意思に任せることに決めたが、一応確認しておきたくなった。
「ところで、ハヤテさんとこずえさんの関係というのはどのような?」
が、皆まで言わせずハヤテは
「事情はタツマキたちが知っている、とにかく旦那さんが急病ということなら急がなくては!」
言いながらハヤテは、まず、こずえをハヤブサオーに乗せようとする。
が、ハヤブサオーはそれに対して、嫌そうな身振りをしたのだ。
千恵は注意深く、それを見逃さない。
が、ハヤテはハヤブサオーを宥めながら、まず、こずえを騎乗させると、自らも、その後ろで、こずえを支えるように乗った。
その様子から千恵にも、ハヤテがこずえの事を大切に思っている様子が伝わってくる。
「千恵さん、後は頼む。明日、合流しよう!」
言い終わらぬうちに、ハヤテはハヤブサオーを走り出させる。
ハヤテとこずえの二人を乗せたハヤブサオーは、もう夜だというのに、猛烈な勢いで早川の城下町へ向かっていった。
それを見届けた千恵は
「ハヤテさん、本当に気をつけて‥‥」
と祈るような気持ちになる。
が、今はタツマキたちに報告をしなければいけない。
千恵は再び毒蛾くノ一の姿になると
転移の術で、その場から煙のように消え失せた。
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ハヤテとこずえを乗せたハヤブサオーは夜の早川を駿足で走り
予期に反して、途中の道で吸血鬼と化した群衆に襲われたりすることもなく、無事にこずえの働く早川宿緑屋についた。
既にその門の前に人気はなく、静まり返ってはいるが、飾られている提灯などに灯りがともっていることが、少々刻限は遅いながら、まだ宿が閉められていないことを裏付けてくれる。
あるいは宿の者たちも、こずえが帰ってくるのを待っていたのか?
ハヤテはここでハヤブサオーを立ち止まらせると、こずえと共に降り、門の前に立つ。
こずえは、いかにも勝手知ったるといった感じで、すぐに門を開け、扉を開くと
「こずえです!、今、戻りました!」
と大きな声をあげる。
すぐに奥から何人かが姿を現し、その中には品の良さそうな、おそらくはこの宿の女将と思われる、やや年配の女性もいた。
その女性が、こずえを労うように
「こずえさん、お帰りなさい。無事で本当によかった‥‥」
と声をかけ、そこで、あらためてこずえの隣にいるハヤテを気にするように
「こずえさん、この方は?」
と、こずえに対して問いかける。
こずえは
「この方は、私の以前からの友人で、ハヤテさんと言います。今宵は危ないところを助けてもらいました」
と、その女性に対して答える。
「そうですか、それはどうも‥、私はここの女将を勤めさせてもらっております糸と申します」
その女性はハヤテに向かって、深々と一礼する。
「糸さん、挨拶は抜きで申し訳ない、ハヤテと申します」
ハヤテは一礼し、単刀直入にいった。
「こずえさんから、ここのご主人が急病で、至急に薬が必要だと聞いています。まずは急いで薬の方を、早くご主人に処方してあげないと」
糸はわかっています、と言わんばかりに頷いた。
「こずえさん、お薬の方は無事にもらえたのですか?」
こずえは少し慌てたように
「は、はい。女将さん、これが、そのお薬です」
と懐から包みを取り出す。
「源さん!」
糸はこずえから包みを受けとると、すぐ側に立っていた番頭らしき男に声をかける。
「このお薬、早くうちの人に処方してあげておくれ、私は、まず、宿の女将として、お客様にご挨拶をしなければいけません」
番頭らしき男は頷く。
「女将さん、承知しました!」
そう答えると、もう一人の男性と共に奥の方へと急ぎ足で戻っていく。
「ハヤテさん、本当にありがとうございます」
糸はあらためて深々と頭を下げる。
「詳しいお話はこれからあらためてうかがわせていただきますけど、宿の女将として先に確認させてください。今宵は、ここ緑屋に泊まっていかれるのですか?」
ハヤテは答える。
「忝ない、そうさせていただけると助かります。一応、これを」
ハヤテは懐から書状を取り出し、糸に読んでもらうことにした。
糸は書状に目を通すと、すぐに、それをハヤテに返す。
「そうですか、御公儀のお役目で‥‥」
ハヤテは首を振る。
「いや、それは、今、ここにはいない私の連れのものたちのことで、私は、たまたま、その手助けをしているだけなんだが‥」
本当はハヤテは、この書状などは出したいわけではない。
ただ、タツマキの方から幾度も
後で、宿などの関係の経費がかかったところに御公儀の方から精算をする必要があるし、それがないと、逆にそうした人たちも困ってしまうから、そこはハヤテ殿もキチンとしてほしい
と言われているから、不本意ながらそうしているに過ぎない。
「いずれにしても、お客様を大切にするのが、当緑屋の考えです」
糸はキッパリいうと
「こずえさん!」
ハヤテの隣に立っているこずえに指示をする。
「は、はい」
こずえが慌てて糸に返事をする。
「ハヤテさんをお部屋に案内してあげなさい。その後、これから夜食の支度をしますので、その準備の手伝いと、出来上がったら、それをハヤテさんのところへ運んであげてください、こずえさんも疲れているとは思いますけど、頑張って」
「わかりました、女将さん」
こずえは糸に向かって一礼すると、今度はハヤテに言った。
「ハヤテさん、まず外にいるハヤブサオーに厩舎の方で休んでもらいます。それから、私がご案内しますので、お部屋の方へ。それからお夜食とお風呂の準備をします。それまではお部屋の方でお寛ぎください」
いかにも宿の者らしいテキパキした語りである。
「こずえさん、忝ない」
ハヤテは感心したように答える、
そしてこずえとハヤテは、まずハヤブサオーを休ませるため、いったん外にいる出ることにした。
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「失礼します」
ハヤテのいる部屋にこずえは声をかけると、障子を開け、食事を運んでくる。
ハヤテはあらためて、こずえに
「こずえさん、大変だったね」
と声をかける。
「いえ、もう大丈夫です」
とこずえは返事をする。
「宿の旦那さんの方は、もう大丈夫なのかい?」
とハヤテ。
こずえは
「はい、おかげさまで」
と答えたあと
「ごめんなさいハヤテさん、私、どうしても聞きたいことがあります」
と真剣な表情でハヤテに問いかけた。
「なんだい?」
ハヤテはそう答えたものの、こずえの熱のこもった眼差しに、思わず圧倒されるものを感じた。
「さっきの千恵さんという方、どう見ても化身忍者ですよね?、なぜ今は、ハヤテさんたちの『仲間』として同行しているんですか?」
と聞くこずえ。
ハヤテは苦渋の表情を浮かべながら
「話せば長いことになるんだが‥‥」
と、血車党の化身忍者毒蛾くノ一だった千恵がどういう経緯で、かつて戦った自分たちの仲間となり、今は共に江戸に向かうようになったのかを、なるべく手短、丁寧に説明した。
説明を聞いたこずえは表情を変えることなく
「わかりました、では私からハヤテさんにお聞きします。私のたった一人の兄、小次郎は、なぜ、その千恵さんのように助けてもらうことは出来なかったのですか?」
と、ハヤテに尋ねる。
ハヤテはそれに対して、今でも明確な「答え」は持っていなかった。
理屈はいくらでもつけられる。
小次郎の戦意、実力を考えれば、自分には手加減する余裕はなかった
(千恵こと毒蛾くノ一の場合には、少なくとも二度目の対戦の時には戦意に欠けていた)
小次郎は自分と決着をつけたがっていた
当時は、その後の毒蛾くノ一、あるいは毒蛇くノ一の時に使った『二段斬り』のような技を思い付いていなかった
等々‥‥
いや、その『二段斬り』という、相手を殺さずして、その戦意を完全に奪うための方法を思い付いたのも、元はと言えば小次郎のことが自分の中で心の傷として残っていたからに他ならない。
だが、何を言ってみたところで、こずえの前では言い訳になってしまうようにハヤテには思えてしまう。
「こずえさん、‥‥すまない‥‥」
ハヤテは言い訳をすることなく、こずえに、ただ、ただ、深く頭を下げた。
こずえは微笑むと
「ありがとうございます。ハヤテさんの気持ちは伝わってきます」
とハヤテに答える。
が、その目は少しも笑っていなかった。
そして、こずえは
「ごめんなさい、ご飯、冷めちゃいましたね」
とハヤテに謝罪した。
「いや、そのままご馳走になるよ」
とハヤテ。
「明日はタツマキたちもここに来る。その上であらためてこずえさんとも話を‥‥」
ハヤテに皆まで言わせず、こずえは
「お食事が終わって少ししたくらいに、私の方で食膳を片付けにまいります、その上でお風呂に入っていただき、その間に私が床の準備をしますので、よろしくお願いいたします」
と事務的に言った。
「こずえさん、あの‥‥」
ハヤテがさらに何か言おうとするのを皆まで言わせず、こずえは
「ては失礼させていただきます。また、後ほど」
と言い、恭しく一礼して退席し、障子を閉めた。
こずえがいなくなった部屋でハヤテは冷めた食事をしながら
こずえのこと、そして、今は亡きかつての親友、小次郎のことを考えていた。