変身忍者嵐より 千恵(毒蛾くノ一)の異なる未来   作:shpfive03

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千恵、タツマキたちにこずえのことを尋ねる

 

ここは箱根宿の宿。

 

タツマキ、カスミ、ツムジの三人は、この宿の一室で少し前、こっそりと早川城下に向けて出発した千恵の帰りを待っていた。

 

ふいに天井の片隅でガタッと音がする。

 

「何奴!」

 

咄嗟に剣をとるタツマキだが

 

「シッ!、私です」

 

天井の板をそっと外して、口に人差し指を立てる忍び装束の千恵の顔を見て

 

「ああ、千恵殿、戻られたか‥」

 

と安堵の表情を見せる。

 

それを見て

 

「千恵お姉ちゃん、お帰り!」

 

と喜ぶツムジ。

 

「夜食用にお握りも用意してあるよ」

 

が、千恵はそれには答えず

 

スッ、と軽やかに天井から舞い降りると、片膝をつきながら挨拶する。

 

「タツマキさん、カスミさん、ツムジさん、千恵はただ今、戻りました」

 

報告を優先させる、いかにも忍びらしいその様子に共感したタツマキは

 

「ハヤテ殿とはお会いなさったか?」

 

と、まず確認をする。

 

「はい」

 

千恵は、まずハヤブサオーを早川城そばの丘の上で見つけたところから話をはじめ

 

吸血鬼と化した町の人たちが、こずえという少女を追いかけまわしており、ハヤテが危ういところで救ったものの、本来は普通の人たちである『吸血鬼たち』を無闇に斬ることもできず、苦慮していたこと

 

丁度駆けつけた自分が転移の術でハヤテと、そのこずえという少女と一緒に町から離れた丘の上に緊急避難したものの

 

急病で薬を必要としているという、そのこずえという少女の奉公先の主人に薬を届けるため、ハヤテが、こずえという少女と二人でハヤブサオーに乗り、大急ぎで早川の城下町に戻ったこと

 

などをタツマキたちに伝えた。

 

その上で千恵は

 

「タツマキさんは、そのこずえさんという女性について、何かお心当たりがおありでしょうか?、ハヤテさんは事情はタツマキさんがご存じだからとおっしゃっていましたけど‥」

 

と、先ほどから気になっていた『こずえの素性』について、タツマキに尋ねる。

 

タツマキは腕を組ながら

 

「ううむ、こずえ殿か‥‥」

 

と考え込む。

 

そこへカスミが

 

「お父さん、差し支えなければ、こずえさんの件は私の方から千恵さんに説明してもいいですか?」

 

と、口を挟む。

 

「カスミ、そうしてもらえるかの?、わしはこずえ殿とは直接、それほど話をしておらぬゆえ」

 

タツマキはそう返事したあと

 

「こずえさんの兄上である山彦小次郎殿とは直接話をしておるが、あれは小次郎殿の本心からの発言とも思えぬしな‥」

 

とも付け加えた。

 

それを聞いて、カスミはコクッと頷く。

 

そしてカスミは千恵に向けて語り始めた。

 

「こずえさんの兄上である山彦小次郎さんは、ハヤテさんとは生まれた時からの親友だったそうです。でも小次郎さんは血車党に忠誠を誓うものとして自ら化身忍者となり、血車党の裏切り者ハヤテさんを討つために現れました。表面上は自分も血車党の抜け忍となり、ハヤテさんの手助けをしたいのだと言って私たちに近づきながら‥‥」

 

血車党‥‥

 

ほんの少し前まで千恵自身がいたところである。

 

が、そこに三年足らずしかいなかった千恵にとっては、もはや「敵の集団」以上のものではないし、そこに懐かしくなるような人がいるわけでもない。

 

あるのは、むしろ消し去りたいような思い出くらいである。

 

が、生まれた時から血車党と共に生き、育ち、今は袂を分かったものの、そこでの人間関係も人並み以上にあったであろうハヤテにとっては

 

確かに別な感慨もあるのだろうとは思う。

 

「妹であるこずえさんは、兄である小次郎さんがハヤテさんを殺そうとしているのを知り、二人の殺し合いを止めようと、はるばる血車の郷から小次郎さんを追いかけ、そして、それを骸骨丸に見つかり、あいつに斬られました」

 

そこへ

 

「斬られていたこずえさんを助けたのはおいらだよ」

 

とツムジ。

 

「もう一人、その時一緒に行動していた珍念さんという寺の小僧さんと一緒に、怪我をしていたこずえさんを助け出して、すぐにカスミ姉ちゃんに手当てしてもらい、ようやく一命を取りとめたんだ。もし、あの時カスミ姉ちゃんがすぐに手当てしてくれなかったら、こずえさんの命は危なかったと思う」

 

千恵は驚いた。

 

だって、彼女は、こずえさんは‥‥

 

それとも自分の方が何かの勘違いをしているのだろうか?

 

「それでも、こずえさんは諦めずにハヤテさんと小次郎さんが殺し合うのを必死に止めようとして、再び骸骨丸に捕まってしまい‥」

 

カスミはいったん、そこで言葉を切ると

 

「恥ずかしながら、私たち三人もその時一緒に骸骨丸たちに捕らえられてしまったんです。でも、その直前に私が涼風を吹いたことで、ハヤテさんがすぐに駆けつけてくれました」

 

と続けた。

 

「そしてハヤテさんは、そこでかつての親友だった小次郎さんこそが、自分を付け狙っていた化身忍者の正体であることを知ってしまいました。それを知ったときのハヤテさんの苦渋に満ちた表情を見ていた私は、今でもその表情をハッキリと覚えています」

 

それを聞きながら千恵は、血車党に襲われた村娘を装おってハヤテたちに近づき、その正体が露見した時の自分自身のことを思い出していた。

 

今にして思うと、あの時のハヤテは、それほどのショックを受けていなかったようにも思える。

 

そのハヤテが、親友だった小次郎の正体を知ったときに見せた苦渋に満ちた表情とは‥‥

 

「ハヤテさんは直ぐに変身忍者嵐になり、そして、こずえさんが恐れていた通り、二人の壮絶な斬り合いがはじまりました。死闘を制したのは嵐の方です。その嵐の秘剣『影うつし』に敗れた小次郎さん、いえ化身忍者は橋から転落の上、爆死しました」

 

その場で見ていたカスミは思い出す。

 

その化身忍者は、かなりの強敵であり、嵐の方に手加減などする余裕があったとも思えない。

 

また、既にその心は人間のものではなく、自分の妹だったこずえさんさえも、必要とあらば手にかけようとさえしていた。

 

ここでカスミは疑問を感じて、あえて千恵に質問する。

 

「千恵さん、なぜ千恵さんは化身忍者になっても『人の心』を失ったりしなかったんですか?」

 

「えっ?」

 

急に問われた千恵は目を丸くする。

 

「私が見た化身忍者の小次郎さんは、もう『人の心』を完全に失っているようにしか見えませんでした。でも千恵さんは違う。私たちとはじめて出会ったあの晩、亡くなった大助さんのことを懐かしそうに話していた千恵さんは間違いなく『人の心』を持っていたように、少なくとも私には感じられました」

 

「‥‥‥‥‥‥」

 

「それは、おいらも思ったよ」

 

とツムジ。

 

「おいらのベロベロバーを見て、優しそうにニッコリと笑った千恵さんは、とても化身忍者には見えなかった」

 

「そういわれても‥‥」

 

千恵は困惑した。

 

そんなことは自分だってわからない‥

 

「それよりも、その後のこずえさんはどうなったんですか?」

 

千恵は話を戻そうとする。

 

カスミもそれに気づいたのか、今度はその後のこずえについての話をする。

 

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「たった一人の兄を失い、天涯孤独となったこずえさんは、その時に私たちと行動を共にしていた珍念さんという僧侶の方のいたお寺に、しばらくお世話になることとなりました。そのお寺には亡くなった山彦小次郎さんのお墓も作られ、こずえさんは、それを弔っていきたいと言っていたんです。そして私たちと別れました」

 

ここでカスミは疑問を口にする。

 

「そのこずえさんが、なぜ、早川の城下町にいるのか?、私にはちょっと不自然なものを感じるんですけど‥‥」

 

大体の事情は分かった、と千恵は思った。

 

「カスミさん、ありがとうございます、こずえさんのこと、少しはわかりました。血車党を裏切ろうとして殺されかかったというなら、私とも似ていますね」

 

千恵はそう言って微笑むと

 

「もしかしてこずえさんも、また、化身忍者だったのですか?」

 

と問いかけた。

 

この千恵の発言にはカスミだけではなく、タツマキも、ツムジと一斉に驚愕の表情を浮かべる。

 

それを見て、千恵は

 

ああ、やっぱりと思った。

 

だとしたら、可能性は三つ。

 

一つは自分の完全な勘違い。

 

一つは、あそこにいたのはハヤテや、タツマキたちの知るこずえではなく、その偽物である

 

こずえのことをよく知っているはずのハヤテが、そのような偽物に騙されるというのも考えにくいが‥‥

 

そして、最後の一つであり、もっとも可能性が高いのは

 

こずえがその後、何らかの事情で化身忍者になったということである。

 

少なくとも、あの時ハヤテと自分の目の前にいた『こずえ』には

 

化身忍者が持つ、そして化身忍者同士なら分かる

 

独特の雰囲気があった。

 

逆に言えば、あの時の『こずえ』もそのはずである。

 

もっとも、こちらは最初から『毒蛾くノ一の姿』を見せているわけだから

 

それは、別にどうでもいいのだが‥‥

 

千恵は思いきって、そのことを目の前のタツマキ、カスミ、ツムジに

 

あくまでも自分の考えであると前置きして

 

三人に打ち明けたのだ。

 

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千恵は目の前にいるタツマキ、カスミ、ツムジの三人の前にハッキリと語ることにした。

 

「少なくとも私が出会った、先ほどハヤテさんと一緒にいた『こずえさん』からは、前にあざみが発していたのと同じ化身忍者の気配が感じられました。私の気のせいではないとは完全には言い切れないかもしれませんけど‥‥」

 

タツマキが、まず発言した。

 

「だとしたら、ハヤテ殿は、それに気づきなさっている様子ですかな?」

 

千恵は首を横に振った。

 

「いいえ、ハヤテさんがこずえさんのことを大切に思っている様子なら、これ以上ないくらい伝わってきましたけど‥‥」

 

そして千恵は

 

「私はその場でこずえさんから化身忍者の気配がすることを告げようとも思ったのですけど、十分な確信はありませんでしたし、ハヤテさんが、私の口出しを望んでいないというのもハッキリと感じました。恐らくはハヤテさん自身、何かは感じていらっしゃるのだと思います。それで私としては、お二人がどのような関係だったのかを、まず知りたいと思って、こうして急いで戻ってきたんです。その上で緊急の必要があるようなら転移の術で急ぎ向こうに戻ればと思いました」

 

と胸のうちを吐露する。

 

あの時のハヤテとこずえとの間には、『他人』である自分が割って入ることができないような『何か』を確かに感じずにはいられなかった。

 

それは千恵にとっても辛くはあったのだ‥‥

 

「でも、千恵お姉ちゃんもハッキリとした確信まではないんだよね?」

 

とツムジ。

 

「なにかのわけは、あるのかもしれないけど、こずえさんが本当に化身忍者なのかどうかも決められないわけだし」

 

ツムジは、いくら千恵の言うことであっても、さすがにこれは俄には受け入れがたかった。

 

骸骨丸に斬られて倒れているこずえを助けだしたのは、他ならない自分(と珍念さん)である。

 

その後も小次郎とハヤテの死闘を必死になって止めようとして血車党に捕まったこずえの姿を見ているのだ。

 

そして、そのこずえと一緒に捕まった自分たち‥‥

 

「少なくとも、私たちが以前出会ったこずえさんは間違いなく化身忍者ではありませんでした。医術を学んだものとして断言します。あの時のこずえさんを診たのは私です」

 

とカスミ。

 

だが、彼女はもう少し冷静だった。

 

「ただ、私たちと別れた後で、無防備なこずえさんが血車党に拉致され、無理矢理化身忍者にされてしまった可能性もありますし、だとしたら珍念さんたちのお寺に預けて、それきりにしていた私たちにも責任があることになります。少なくとも私は千恵さんがここまで言うのは確信あってのことだと思っていますから、その上で考える必要はあると思います」

 

それを聞いたタツマキも

 

「千恵殿とは異なり、わしらからすれば、前に小次郎殿が既に化身忍者となっていたことにさえ気づけなかったのが事実。そのおかげで血車党に捕まるという失態までさらしておるし」

 

と、その時のことを思い出したのか、苦々しくいう。

 

「それに対して、千恵殿があえて、ここまで言い切るのであれば、わしらにはそれを理由もなく否定することは出来ないし、いずれにしても用心するに越したことはない」

 

千恵は不安を隠せなくなった。

 

「こずえさんの真意はわかりませんけど、いずれにしても一緒に早川城下に向かったハヤテさんに危険が迫っている可能性は高いと思います。なんでしたら私一人でも、もう一回向こうへ行って‥‥」

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

それを聞いたカスミがゆっくりと立ち上がった。

 

「千恵さん、待って!」

 

その手にあるのは、カスミがハヤテからもらった笛、あの『涼風』である。

 

「涼風には、こういう使い方もあるんですよ」

 

言いながらカスミは涼風を吹く。

 

いつもの涼風とは違う、どことなく寂しげな音色が流れる。

 

カスミが吹き終えて少したつと、側に置いてあったカスミの剣がプルプル、プルプルと震え、光が点滅した。

 

「ハヤテさんに、身近なところに危険が迫っていて心配です、注意してくださいという『伝言』を、さっきの曲で送りました。今、ハヤテさんからの返事で『こちらは大丈夫だから、心配するな、何かあれば知らせる』という返事が返ってきたところです」

 

千恵は驚いた。

 

この涼風を通じて、カスミとハヤテの気持ちは、距離は離れていても、確かに通じあっているのだ。

 

「ハヤテさんに本当に危険が迫れば、必ず、この涼風を通じて、私たちにもそれは分かるように出来ます。こちらからの『伝言』はすでに送りましたから、もし、本当にハヤテさんの方で、私たちに伝えたいことがあれば、必ず、私の剣に『ハヤテさんからの伝言』が届くはずです。少なくとも私は、そう信じています」

 

カスミは千恵に、キッパリと言った。

 

「千恵さんもそこまで焦らないで。ハヤテさんもそうですけど、私たちも、こうした修羅場は、今までに何回も経験しています。今晩はここで休みつつ、これからどうするかの『作戦』を、ちゃんと立てておきましょう。私には考えがあります」

 

「考え、ですか?」

 

ここでタツマキがゆっくりと

 

「わしら一家は三人とも、ある出来事をきっかけに、現在の早川城主である阿部備中守様とご面識をいただきましてな」

 

と説明しようとする。

 

それを聞いたカスミは

 

「お父さん」

 

とタツマキを呼び止める。

 

「上様の鷹狩りの一件、そして、亡くなったお母さんのことは、私の一存で、すでに千恵さんには、お話ししました」

 

タツマキは大きく息を吐くと

 

「そうか‥‥」

 

と呟くように言った。

 

そして

 

「備中守様も、その鷹狩りの時には参加しておられてな。だから備中守様は勿論、家中の一部の方々もハヤテ殿が『変身忍者嵐』であることもご存じでいらっしゃる、箱根の関所で名前が出た早川阿部家の家老、阿部外記(げき)様も本来はそのはず」

 

と千恵に説明する。

 

早川阿部家の家老である阿部正成は、官職名を外記といった。

 

「まず、私がこっそり早川のお城に忍び込んで、備中守様とお会いしようと思います」

 

とカスミ。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

明日からのおおよその段取りも決まり、ひと安心したところで千恵は、ツムジに

 

「ツムジさん、それじゃ、握り飯ご馳走になりますね、ありがとうございます」

 

と声をかける。

 

ツムジの心遣いに気がつかなかったわけじゃない。

 

「千恵お姉ちゃん、腹が減っては戦は出来ぬ、だよ」

 

ツムジは微笑む。

 

千恵は、この亡き弟、大助に似た少年忍者の、まだ、あどけなささえ感じられる微笑みを見るのが好きだった。

 

そして、ふと目の前の四つの握り飯を見る。

 

一つだけ綺麗に握られた、茶店や料理屋、旅館などで出されても恥ずかしくないような形のよい握り飯

 

あとの三つは、どこか不格好で、でこぼこしており、作り手が見よう見まねで苦労しながら握ったのが一目でわかるような握り飯だった。

 

これは、どう見てもカスミが最初の一個だけ見本を作り、あとの三つはツムジが苦労しながら作ったのに違いない。

 

恐らくはカスミにいろいろ注意されながら、ツムジなりに『千恵お姉ちゃんのために』一生懸命作ったのだろうことが、見た目にも伝わってくる。

 

ツムジさん、本当にありがとうございます!

 

千恵は内心で、そう呟きながら握り飯を食べる。

 

「ツムジさん、この握り飯、とっても美味しいです!」

 

とツムジに声をかけた。

 

それを聞いたツムジの顔は、とても嬉しそうだった。

 

それを見た千恵も、とても幸福な気持ちになる。

 

・・・・・・・・・・・

 

その晩、千恵は夢を見た。

 

夢の中で、千恵はすでにタツマキたちの家の居候になっており、訪問してきた来客に出すための料理を作ろうとして、目の前のカスミに叱責されながら、慣れない料理作りのために悪戦苦闘していた。

 

それを見かねたツムジが一生懸命、千恵の手伝いをしようとする。

 

その夢の中で、料理作りのために四苦八苦しているはずの千恵は、しかし

 

とても幸せな気持ちだった。

 

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