変身忍者嵐より 千恵(毒蛾くノ一)の異なる未来 作:shpfive03
「おはようございます」
と、こずえの声。
それを聞いたハヤテは
「こずえさん、おはよう」
と返事をすると、自分から襖を開けた。
そこには、前掛けをし、部屋の片付けの支度をしたこずえが立っていた。
「ハヤテさん、昨晩はごめんなさいね。私、おかしなこと言ってしまって」
こずえの表情は昨晩とはうって変わって明るいものだった。
「朝食の準備、出来ていますのでお食事処へお願いします」
「ありがとう、こずえさん」
こずえがここでハヤテに問いかける。
「今晩もうちに泊まっていかれるんですか?」
それにより後片付けをどうするのかということも考えなければいけないこずえとしては当然の問いだろう。
ハヤテは少し考えると
「これから、タツマキたちと合流することになるが、そうすると人数も変わるし、カスミたちがいるから女子用の部屋も必要になる。それに早川城下の様子もあらためて自分の目で確認したい。だから、いったん今朝までの分までで、今晩はあらためてという形にさせてほしい」
と答えた。
カスミたちという言い方をしたのは、こずえが明らかに『千恵』のことを意識していることがハヤテにもわかったからだ。
「わかりました」
こずえは恭しく一礼すると
「じゃ、お部屋の片付けしちゃいますね、忘れ物はないようにしてください」
とハヤテに言った。
「こずえさん」
とハヤテ。
「えっ?」
とこずえ。
「私が不在のうちに昨晩のような異変があるとも限らない。その時は、この鈴を鳴らしてくれ」
そう言ってハヤテは懐から鈴を取り出すと、それをこずえに手渡した。
「まあ!」
と嬉しそうにするこずえ。
「本当は『涼風』がもう一つあればいいんだが‥‥」
目の前のこずえに心配そうな表情を向けるハヤテ。
「いずれにしても、この鈴をならしてくれれば、近い場所なら、私は何があっても必ず駆けつける」
こずえは思わず、ハヤテを注視した。
「ハヤテさん‥‥」
「ほら、そんな表情しないで」
ハヤテはこずえの頭を撫でる。
こずえは思った。
本当にハヤテは血車の郷にいたときと変わらない‥‥
「じゃあ、こずえさん、朝御飯ご馳走になってくるよ」
ハヤテはそう言って部屋を出る。
「行ってらっしゃいませ」
こずえは深々と頭を下げた。
だが、結果的にハヤテがここで朝食をご馳走になることはなかったのだ。
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ハヤテがお食事処に入ると、そこには、物々しく武装した何人もの役人たちが、いかにも犯罪者を引っ立てんとする様子で待ち構えていた。
その役人たちの中心と思われる武士がハヤテを呼び止める。
「ハヤテなるものはそちらか?」
ハヤテは警戒しながらも
「いかにも」
と答える。
「首席家老阿部外記様より、このような指示をいただいておる」
言いながら、その武士は書状を広げた。
そこには大意として、御公儀を騙る悪党集団『血車党』のものが早川城下に潜伏しており、これを摘発すべしという意味の内容が、ハヤテのものとしか思われないような人相書きつきで書かれていたのだ。
何かの間違いとはハヤテは思わなかった。
早川藩家老阿部外記の様子がおかしいということは箱根の関所で既に聞いていたことでもある。
どう考えても、これは血車党の罠だ。
問題は
自分自身だけなら、多少手荒でも、役人たちを振り切ってその場を逃れることは、さほど難しくはないが、生憎とここは宿の中であり、それでは残された宿の人たちにも迷惑がかかってしまう
ということだ。
勿論、血車党はそこまで計算済みに違いあるまい。
どうしたものかとハヤテが思案していると
「ハヤテさん!」
とこずえの大きな声が聞こえる。
何と、部屋の片付けをしていたはずのこずえが役人たちに捕らえられ、縄で縛られていたのだ。
「こずえさん!!」
思わずハヤテも叫んでしまった。
そして役人たちをキッと見ると
「何をするんだ!、その
と、きつく役人たちに向かって言う。
「そうはいかんのだ!」
先程の役人たちの中心と思われる武士が答える。
「この者は昨晩、お前と一緒に夜の早川の町を彷徨いていたとの証言もある。しかも、その時、お前は怪しげな術を使ったそうだな!」
間違いなく、これは変身と羽隠れのことを言っているのだろう。
「しかも、どう見ても蛾の怪物としか思われないようなものが空から飛んできて、お前たちと一緒に姿を消したという証言さえある、これで疑わしくないというつもりなのか?」
万事休すである。
「とにかく、その
ハヤテとしては、こう言う他の術はなかった。
「あと、お前が持っていた書状にしてもだ」
さらに、その武士は続ける。
「公儀隠密ということであるなら、その忍び装束には必ず伊賀忍者であることを示す紋様があるはず。お前の忍び装束も調べさせてもらうぞ!」
ハヤテにとって痛いところをつかれた。
ハヤテが現在着用している忍び装束は、血車党時代から愛用しているものであり、当然ながら伊賀忍者であることを示す紋様などはない。
そのことは例の書状にも書いてあることなのだが‥‥
「ハヤテさんっ!、逃げて!」
と叫ぶこずえ。
ハヤテは観念した。
ここはむしろ大人しく捕まり、早川城の方に連れていかれた後に脱出した方が良さそうだ。
が、カスミたちには異変があったことは伝えなければいけない。
ハヤテは素早く背中の刀の鍔をパチンと鳴らすと、すぐ鞘に戻した。
本来は変身の時に行う動作の一番最後の部分。
これだけでカスミの剣に「異変があったこと」は伝わるはずだ。
「この者たちを引っ立てい!」
ハヤテとこずえは縄に縛られ、宿から連れ出された。
そしてハヤテは城内の牢に入れられたのだ。
こずえは女子ということで、別なところへ連れていかれた。