変身忍者嵐より 千恵(毒蛾くノ一)の異なる未来 作:shpfive03
一方、こちらは不審な噂のある寂れた雰囲気の宿場町。
交通の要所にあり、以前はもっと栄えていたのがうかがい知れる町並みが、今はガランとして、寒々とした空気すら感じられる。
そんな町並みを綺麗な黒髪が特徴的な一人の少女が歩いていた。
身なりは普通の町娘。
ただ、少女の足の動きは常人のものではなく、リズミカルで合理的、疲れない歩き方をしているのが、見る人が見ればわかる動き。
彼女の名はカスミ、御公儀直属の伊賀忍者であるタツマキの娘。
いや、彼女自身も厳しい修行を乗り越え、御公儀直属の伊賀忍者として認められた立場である。
忍としての戦闘力は高く、御公儀に敵対する血車党の下忍二、三人くらいなら、あっという間に斬ってしまう。
また、この当時は珍しかった西洋医学の心得もあり、医術に明るい、まさに文武両道の忍術少女であった。
そのカスミが、同行していたはずの父のタツマキと別行動をとり、寂れた宿場町を一人で歩いている。
いや、彼女は心ひそかに血車党をおびき寄せようとしていた。
「いざとなればハヤテさんが‥」
と思い、ふと涼風を握りしめるカスミだった。
実は父のタツマキは、それと悟られないようにカスミの後を追いながら見守っている。
が、カスミは三日ほど前にハヤテが気を失っているくノ一を肩に背負いながら
「この女性には手当てが必要だ」
と言っていたことを思い出す。
勿論、それは魔神斎により処刑されかかった千恵てある。
なぜだかカスミは、ハヤテに背負われている千恵に、軽い嫉妬のようなものを感じてしまい、本来なら医術に心得のある彼女が千恵の手当てをするのが自然と思われたのに
こうやって「お役目」を理由にハヤテたちと別行動をとり
自らを囮に無茶とも言える行動をとっている。
父のタツマキも、何とはなしにカスミの心中は察しているが、あえて、そこは聞かない。
そのカスミの前に
「助けてください!」
と、カスミと年格好も、さほど変わらないような女の子がヨロヨロしながら、カスミに助けを求めてきた。
「どうしたんですか?」
カスミが声をかける。
「この町を支配する血車様に町を助けるための生け贄になれといわれ、死にたくないので逃げてきたんです」
娘は息を切らせながら答えた。
「血車様?」
露骨に聞き覚えのある名前にカスミは不審なものを感じた。
思わず、つい最近にハヤテが「化身忍者に襲われて足を怪我した女性」を助けて、そのまま連れてきたことを思い出してしまったのだ。
勿論、その正体は「毒蛾くノ一」こと千恵だったのだが‥
血車党って、同じ手で人を何回も騙せると思っているんだろうか?
とは言え、疑いは持ちつつも、その女の子を無下にするようなことも思慮あるカスミは、さすがにしない。
「落ち着いて、まず、どこかに身を隠しましょう」
カスミは、自分と同年代くらいの少女にそう声をかけると、近くにいる父のタツマキに目配せで合図を送った。
「この近くにお寺があります」
少女は言った。
「一緒にそこに来てくれませんか?」
「わかったわ。」とカスミは答え、とりあえず少女に同行することにした。
「こっちです」
少女は手招きする。
カスミは少女についていく。
その後をタツマキが文字通りの忍び足で追う。
やがて、いかにも人気のなさそうなお寺に着く。
「ここです」
少女は手招きをする。
「ところで」
不意にカスミは少女に言った。
「あたしの名前はカスミ。あなたのお名前は?」
それまでは怯えたような表情だった少女は、不意にクックックッと笑う。
「血車党化身忍者、毒蛇くノ一!」
少女は身を翻すと、そのまま「化身」した。
いや、もはや少女とは言えない。
少なくとも年格好はハヤテとは同年代か、少し上くらいのかもしれない。
だか、その姿は毒蛇をモチーフにした化身忍者そのものであり、蛇のようなチョロチョロした舌に、いかにも噛み砕くのに適した強靭な歯を見せる。
青みのかかった鱗を全身にまとい、腹部のみが黄色の鱗に覆われている。
まさに「蛇怪人」と表現したくなるような異形の姿がそこにあった。
「シャー!」
化身忍者が雄叫びをあげる。
「やっぱり血車党の化身忍者だったのね!」
カスミが叫んだ。
そして
「お父さん!」
と呼ぶ声に応じて
「伊賀のタツマキ、参上!」
とタツマキも姿を現す。
「二人だけかい」
化身忍者「毒蛇くノ一」はクスクス笑う。
「でき損ないの役立たずが、結果的にはハヤテを足止めしてくれたよ」
毒蛇くノ一は高らかに笑う。
「多勢に無勢、やっておしまい!」
その声に応じて
「シャー!」と、幾人もの黒覆面の血車党下忍たちが姿をあらわし、カスミとタツマキを取り囲んだ。
「行け!」
毒蛇くノ一の号令のもと、覆面姿の下忍たちが一斉に飛びかかる。
タツマキが応戦する一方、カスミは素早く「涼風」を取り出した。
だが、飛びかかった下忍によって叩き落とされてしまう。
「しまった!」
ほぞを噛むカスミ。
「その笛がつかえなければハヤテは呼べまい!」
毒蛇くノ一が勝ち誇ったようにいう。
幾人かの下忍は斬り伏せたものの、やはり多勢に無勢、タツマキもカスミも捕まってしまう。
「くそ!」
とタツマキ。
カスミも暴れるが、やはり取り押さえられてしまう。
「殺しはしないさ」
ニヤニヤしながら、毒蛇くノ一は笑う。
「もしかしたらハヤテは今ごろになって、こちらに向かっているかもしれないが、それならそれで、あの役立たずを片付けるのにはちょうどいい」
毒蛇くノ一は舌をなめ回した。
「今頃はそちらにも別な刺客が向かっている。このタイミングを待っていたのさ」
勝ち誇るように毒蛇くノ一は笑うと
「連れていけ!」
と下忍たちに命じる。
下忍たちはカスミとタツマキに当て身をくらわせて気絶させると、二人を担いで寺の中へと急いだ。