変身忍者嵐より 千恵(毒蛾くノ一)の異なる未来 作:shpfive03
カスミの剣が鈍く光を放ち、そのことがハヤテに異変があったことを今の彼女に教えてくれる。
カスミは心の中で呟いた。
『ハヤテさん、待っててね』
そして、そのためにこそカスミはしなければいけないことがある‥‥
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ここは早川城内にある、城主、阿部備中守の私室である。
ガタッと天井から聞こえる音。
読書をして寛いでいた備中守は、すかさず立ち上がると
「何者!」
と声をあげようとするが
「備中守様、ご無沙汰しております、カスミです」
と天井から、まだ少女と言ってもよい年頃の、桃色の忍び装束を着たくノ一が笑顔を見せる。
ただ、髪の方はいつもの特徴的な長髪ではなく、後ろに総髪で纏めていたが、これは天井裏に忍び込む必要からである。
阿部備中守にとり、一応は知らぬ相手ではない。
とは言え
「カスミ殿か‥‥、お久しゅうといいたいところだが」
と言いつつ、警戒心は隠そうともせず
「公儀隠密がこのような形で、恐らくは使者として姿を現すということは、すでに御公儀にも、我が領内、家中で起きている問題が耳に入っているということか?」
と逆に問い返す。
が、カスミは動じず、天井から舞うようにして、備中守の前に降りてくると、目上の者に報告をする『忍びの礼法』として、片膝をつき、頭を下げる。
そして備中守に返事をする。
「『鳩が飛びました』ので、恐らくは一両日中には上様も現在の早川城下の様子はお知りになるとは思われますが、現時点では、まだ江戸では今の城下の様子は把握していないはずです」
キッパリと答える。
『鳩が飛びました』、この言葉の意味を、徳川家譜代の有力大名の当主である阿部備中守は知っている。
また、その言葉こそが、目の前のカスミが正真正銘の公儀隠密であることを示す『証拠』そのものでもある。
血車党対策により各方面に出かける、その件の責任者とされている名張のタツマキ宛に、江戸から伝書鳩が一週間に一度くらいの割合で飛んでおり
タツマキからの返書を江戸へ持ち帰っていることは、少数の関係者が知る秘密ではある。
が、将来の老中候補ともいわれる阿部備中守は、それを知る一人でもあるのだ。
カスミは続ける。
「また本件について、江戸の方で備中守様を咎め立てするという話も現時点ではありません。血車党のやること一つ一つについて、現地諸侯の落ち度としていては、逆に治安の維持にも不安が生じます。私たちの『お役目』としては、現地の治安を預かる方々の注意を喚起し、抜本的な血車党対策を軌道にのせることが本筋。そして、私カスミは今、そのためにこそ、ここに参りました」
備中守は唸る。
「ううむ、さすがはカスミ殿、お見事な答弁じゃ!」
そして
「どうじゃ、以前もお話しさせてもらったが、『お役目』の方が終わったら、ウチの松丸の嫁になるというのは。家格など養子縁組でどうにでもなる」
と言った。
松丸というのは備中守の長子で、早川阿部家の跡取りでもある。
『上様の鷹狩りの一件』以来、阿部備中守と、その子松丸がカスミのことを気に入っていることは、彼女自身も知っている。
だからこそ、今回はこのようなことをやってみる気にもなったのだが
まあ、この話はお世辞半分だろうとはカスミも思いつつ
「申し訳ございません、今は『お役目』のことを考えることでいっぱいでして」
と、それについてはやんわりと返し
「それよりも城下で『吸血』による流行り病が増える一方、また、それにより人々の不審な動きも目立ってきているとのことを、こちらでも把握しております。まずはこの件について備中守様のお考えをうかがいたく思います」
と、本題に入る。
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「ううむ‥‥」
阿部備中守は言葉に詰まった。
「まだ、その噂が城下に出るようになってから六日くらいなのだが‥、今や我が家中にも、その『吸血』の癖に感染したものがおり、どうしたものか対策に頭を痛めておったところなのだ」
と話をはじめ、どうやら、この『吸血の癖』は、相手の血を吸ったものが、吸われたものにも、その『吸血の癖』を伝染させ、それが急速に城下において広がりを見せているということ
家中にも、どうやら『吸血の癖』の感染が広がっており、調査の必要を感じて入るのだが、首席家老であり、一族でもある阿部外記などの反対があり、思うように対策が出来ずにいること
などをカスミに伝える。
「恐らくはこの件、血車党の仕業」
とカスミ。
「その動きの中心となるものを明らかにするのは火急のことでもありますが、同時に『吸血の癖』という病におかされた人たちを元に戻すための対策も考える必要があります」
備中守は、カスミの確信ありげな様子に何事かを感じた。
「カスミ殿には、何かお考えがおありのようじゃな」
「はい!」
とカスミ。
「私は過去に一度ならず、血車党の『毒』、あるいは『催眠』により支配された人たちを薬効により治癒したことがあります。様子を見たところ、恐らくは以前にこの近くで流行った『死人血液』によるものと同じく、今回の『吸血の毒』も、それほど治療は難しくないと思われます」
備中守は感嘆した。
この少女と言っていい年頃のくノ一は、自分に任せてくれれば、城内にて感染した人々の治療を行う自信があると言っているのだ。
そして、カスミは実際にこう断言したのだ。
「なので、私に江戸から来た医術の心得のあるものという名目で、城内にて場所を設け、人々の治療をさせてください。そうすれば、必ずや暗躍している者たちは、これを阻止せんと食いついてきます」
備中守は、なるほどと思いつつ
「なるほど、だが、それだけの大仕事となると人手もいるはず、カスミ殿だけでは無理では‥‥」
と問う。
カスミは淡々と
「父、弟、それから協力してくれる女性が一名おります。勿論、家中にて備中守様の信頼されている方の助力をいただければ、それはもっと助かりますけど」
と答える。
「わかった、早速手配しよう!」
備中守は立ち上がった。
ここでカスミは
「つきましては、備中守様にご確認いただきたい儀がございます」
と備中守に声をかける。
「何なりと」
備中守はカスミに返事をした。
「私たちの大切な同行者であり、『変身忍者嵐』として備中守様もご存じのはずのハヤテが」
ここでカスミは言葉を切ると
「恐らくは、この城内にて囚われ人となっているはず。その確認と、釈放を備中守様にお願いできませんか?」
と、真っ直ぐに備中守を見つめた。
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阿部備中守は驚いた。
「少なくとも、そのような話はわしの元には届いていない。それは真のことなのか?」
そういわれるとカスミも返答に窮する。
ハヤテからの剣を通じてのメッセージは確かに貰っているが、それをどのように説明すればよいのか?
カスミ自身、ハヤテがどこで、どのようにして捕縛され、今、どのようにしているのか、まったく分からないのである。
あるのは、ただ確信だけ。
が、結果的にカスミは、その件についての説明に労力を使わずにすんだ。
「曲者じゃ!!、出合え!、出合え!」
という大声とともに、続続と城内の武士たちが、この部屋に入ってくる。
そして、ニヤニヤしながら初老の男が前に出てきた。
早川阿部家にて筆頭家老をつとめる阿部外記である。
「殿、御自らが、ご自身の私室に曲者を招き入れるとは、これは、どのような了見でございますかな?」
そう言い放つ阿部外記の表情はギラついているものの、目はどこか虚ろであり、どことなく操り人形のように見えなくもない。
一方で城主としての面子を潰された感もある備中守は怒りを露にし
「外記!、これは一体どのような了見だ!!、誰が家中のものを勝手に動かしてよいと言ったか!」
と一喝する。
その上で
「お前もカスミ殿のことは存じ上げているはず、なのに、これでは場合によっては御公儀を敵にまわすことにならないとも限らん、この振舞い、何事だ!」
と外記に向かって厳しく反論する。
「カスミ殿であれ、誰であれ、公式な訪問なら堂々と表玄関から入ればよい話」
外記も主君に対して怯んではいない。
そして
「そもそも、そこの女人、本当に我らの知る公儀隠密のカスミ殿であるのか?、我が方には御公儀を騙る曲者が我が領内に侵入しているとの報告も入っており、実際にも、つい先ほどそのような男を捕らえたばかり」
と強気に言い放つ。
が、これでカスミは
騙るに落ちたな
と、確信した。
『そのような男』とは、ハヤテのことに違いあるまい。
しかし、ハヤテともあろうものが、普通の人間でしかない早川城の武士たちに易々と捕縛されるものだろうか?
一方で、それを聞いた備中守は
「御公儀を騙る曲者が我が領内に侵入しているとの報告など、わしの耳にすら入っておらんぞ!、貴様の一存の下知か!、そもそも、それは一体、誰の報告だ?」
と、ますます怒りを露にする。
が、そこへスッと入ってきた女性がいる。
「私が外記様に、そうお伝えしました」
そして、その女性の顔を見て、カスミは衝撃を受け、そして彼女を指差した。
「あ、あなたはこずえさん!!」
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「カスミさん、久しぶりですね」
こずえはニヤニヤする。
そう、まるで先ほどまでの外記のそれと同じように。
カスミの知る、かつてのこずえは丸顔、童顔で、ちょっと可愛らしい感じの、自分と、ほぼ同じくらいの歳の優しい女の子だった。
が、今、目の前にいる『こずえ』は、姿形は紛れもなく同じであっても、雰囲気は別人もいいところ。
何よりも、その眼の光が余りにも冷酷さに満ちており、表情も、それこそ優しさの欠片も感じられない冷たいものである。
千恵さんの言った通りだ!
カスミも、また確信した。
少なくとも、今、自分の目の前にいる『こずえ』は、自分の知る、以前のこずえさんではない。
同一人物であったとしても、もはや同じ人格ではない。
その『こずえ』は冷酷に、目の前の備中守とカスミに対して宣言する。
「ここにいる人たちは、皆、今は私の意のままに動きます。あなたたちに、もう逃げ場はない!」
もはや体裁さえ取り繕う気もなくなったのか、こずえが合図するかのように右手を挙げると
首席家老である阿部外記を含む、ここに現れた武士たちの表情が一斉に変化した。
その表情は青白く、口からは小さな牙を生やした『吸血鬼』に一変し、そして、その『吸血鬼』たちが、じりっ、じりっ、とカスミ、そして主君であるはずの備中守を取り囲む。
「なんと、いつのまにか、これだけの家中のものたちが、皆、『吸血』の病におかされていたのか!」
驚愕する備中守。
その様子を見て
「お気の毒なお殿様」
と、こずえが嘲笑する。
「この人たちは、一番遅い人でも昨日のうちには『私の操り人形』。知らぬは殿様ばかりなり」
カスミは怒りのあまり前に出ようとする備中守を手で制する。
「備中守様!」
言うなり、ここでカスミは素早く涼風を吹いた。
ハヤテがこの城内のどこかの牢内にいるなら、すぐにでも駆けつけてくれるはず。
だが、それを見たこずえは
「カスミさん、甘ったれるのもいい加減にしたら!」
と怒りの表情を見せた。
「私には『涼風』なんてなかった、私の手元に必要なとき、そのようなものはなかった!」
やはり、とカスミは確信した。
自分たちと別れ、寺に残ったこずえに対して、その後、血車党の方から何らかの接触があったのは間違いない!
こずえが高らかに笑う。
「ハヤテさんは今、剣を持っていないわよ。いや、着衣ごと丸々着替えてもらった上で囚人服で牢に入ってもらっているから、あなたが涼風を吹いたところで、その確認は出来ないはず。そして『変身忍者嵐』に変身することすら叶わないはず」
確かにハヤテが『変身忍者嵐』に変身する方法は、背中の刀の鍔を鳴らし、その特殊な振動により脳神経の活動を強引に促進し、自らの体の細胞配列を変えるというものであり、背中の剣なしでハヤテが嵐に変身するところは、カスミも、まだ見たことはない。
こずえの言葉を聞き、臍を噛みつつも、カスミは、でも、そんなはずはないと確信していた。
ハヤテさんは絶対に来てくれる!
そして、そのカスミの確信は当たっていた。
一方こずえは、まるで鼠を追い詰めた猫のようにニヤニヤしながら
「さあ、カスミさん、備中守様共々、私の『吸血』の虜にしてあげるわ、せっかくだから、あなたたちは私、自ら噛んであげる」
そう言ったこずえの口には、しっかりと牙が生えていた。