変身忍者嵐より 千恵(毒蛾くノ一)の異なる未来 作:shpfive03
それからが大変だった。
早川城下には『血吸いコウモリ』による吸血のおかげで『吸血鬼』と化してしまった人々が数多くおり、それらの人々を『血吸いコウモリ』が思念波で操ることは、もうなくなったものの
夜になると『吸血の衝動にかられる』という症状はそのままになっており、これを短期間で治癒しなければならない。
このため、カスミは非常に多忙になった。
とりあえず早川城内に場を設け、城内の奥医者だけでは足らず、町医者なども総動員する必要があった。
まず、その準備作業だけでも大変なことである。
勿論、タツマキとツムジも、カスミを助けるために動き回る。
また治癒のために清雲寺に行き、薬効のための材料となる『蘇り草』を大量にもらい受ける必要もあった。
ハヤブサオーに乗り、大急ぎで清雲寺へ行くのはハヤテと千恵である。
ハヤテが千恵を清雲寺に連れていくのは、場所を覚えてもらうことで転移の術により、清雲寺まで瞬時に移動してもらうことが出来るようになってほしいとのことからである。
ハヤテとしては、せめて、こずえの遺体を清雲寺で弔ってほしいとの気持ちがあり、そのために千恵の力を借りたかったのである。
その話を聞いた千恵は、ハヤテにかねてからの疑問を聞いてみることにした。
「ハヤテさんは、嵐に変身しても、『転移の術』は使えないんですか?」
それに対してハヤテは答える。
「私一人だけなら、ある程度の『移動の術』を使うことが出来るが、血車党が行っているような、複数の人間を同時に移動させられるような『転移の術』を使うことは出来ない。私が父の谷鬼十により『変身忍者嵐』に改造された当時、まだ、その技術は完成していなかった」
千恵にとって、はじめて聞く話である。
「そうなんですか?」
ハヤテは頷いた。
「ああ、『転移の術』の技術そのものは、私の父、谷鬼十が考え出したものだが、それを完成させ、化身忍者にその能力を持たせるようにしたのは、明らかに別の人間だ。だから、残念ながら私は千恵さんのように転移の術を使って『他の人たち』と一緒に瞬間移動することは出来ない。だから、こずえさんを清雲寺に連れていってあげることも出来ないんだ」
その話を聞いた千恵は、ハヤテのいう『別の人間』に心当たりがあった。
それは、他ならない自分を『化身忍者毒蛾くノ一』に改造した人間と、恐らくは同一人物。
綺麗な長い黒髪だけならカスミそっくりだが、雰囲気はまるで違っている、冷たい感じのする女性。
年の頃は、ハヤテよりも少し上くらいだろうか?
血車党では骸骨丸に次ぐ地位にあると聞いた。
千恵とハヤテがそのような話をしている間も、俊足のハヤブサオーは清雲寺に向けてひた走る。
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「そうですか‥‥、こずえさんが急にいなくなってしまい、私たちも心配していたのですが‥‥」
訪問したハヤテの説明を聞いた、清雲寺の和尚である了然は、がっくりと肩を落とす。
「まずは、こずえさんをここに帰してあげたい。そして小次郎と一緒に葬ってあげたいんです。それが彼女の意思でもありましたから」
ハヤテは辛そうにしながらも、了然にそのような説明をする。
こずえが希望していたのは
『ハヤテから貰った鈴と自分の髪飾り』を、兄の小次郎と一緒に葬ってほしい
だったのだが、こずえの内心の不安をよそに、彼女の遺体は自爆することなく、今も早川にある。
である以上、彼女の遺体を、この清雲寺に葬って、出来れば、後でタツマキ、カスミ、ツムジも連れて、こずえの葬儀もあげたかった。
了然はそうしたハヤテの話を聞き
「わかりました、こちらで出来ることはいたしますので、まずはこずえさんのことお願いします」
と答える。
そして
「『蘇り草』の方も、今、珍念に準備させています。珍念もこずえさんのことで気を落としているようですが、『やることはやる!』と申しておりますので」
と、もう一つの件についても答えた。
「一度、ハヤブサオーは置いていきます」
とハヤテ。
「私と千恵さんは、いったん『転移の術』で向こうに戻り、直ぐにこずえさんを連れていきますので」
そして
「早川も今、混乱しています。なるべく早めには皆であらためてうかがいますが、それまでは、どうか‥‥」
と了然に後事を託すためにお願いをする。
「大丈夫ですよ」
了然は快諾した。
「善は急げです、ハヤテ殿」
ハヤテはそれを聞くと、側にいる千恵の方を振り返る。
「それじゃ、千恵さん、頼む!」
千恵は頷くと
「外に出ましょう」
と短く答えた。
そして、ハヤテと千恵の二人は
「ありがとうございます、失礼しました!」
と異口同音に言うと、了然に向かって深く頭を下げ、寺から出た。
外に出た千恵は早速両手をクロスさせると
「変身!」
と叫び、両手を大きく回して、再びクロスさせる。
千恵の体は光に包まれ、そして『蛾の変身忍者千恵』の姿になっていた。
もはや『化身忍者、毒蛾くノ一』ではなく
ハヤテもそれを実感し、『変身忍者千恵』に掴まる。
「千恵さん、忝ない!」
千恵はそれには答えず
「忍法、転移の術!」
と印を結び、叫んだ。
次の瞬間、千恵とハヤテの姿は煙と共に清雲寺から消えた。
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早川まで『蘇り草』を持ち帰ったハヤテと千恵は、あらためてタツマキ、カスミ、ツムジも連れて、再び清雲寺に行く。
そして清雲寺にて略式ながら、こずえの通夜、葬式が行われ、今は多忙なカスミは通夜のみ出席し、通夜の終了後に千恵が転移の術でカスミを早川まで送った。
朝には、もうカスミだけは早川にはいないわけにはいかないのだ。
そしてハヤテ、タツマキ、ツムジ、千恵の四人が葬儀にも出席した。
了然和尚、あと珍念など清雲寺の僧侶たちが形は整えてくれたこともあり、葬儀は無事に済ませることができ、こずえの埋葬もその日のうちには終えることが出来た。
いくら悲しんでも、もう、こずえは戻ってこない。
ハヤテはそう思うと共に、あらためて今の血車党を打倒しなければ、との思いも新たにした。
そして、千恵もハヤテのその気持ちを今は共有していた。
こずえの葬儀が終わったあと、千恵はあらためてハヤテにその決意を語った。
「ハヤテさん、私は今までは血車党は自分の命を狙う敵になったのだとは思っていても、憎いとまでは思っていませんでした。他ならない自分がいたところですし‥‥」
その上で千恵は今の思いを告げる。
「けれども、今はこずえさんを殺した血車党のことが心底憎いです!」
「だから、ハヤテさんの血車党に対する気持ちが、ほんの少しだけかもしれませんけど、わかります。だからこそ、私もこれから血車党と戦います!」
ハヤテは、そんな千恵に対して
「ありがとう、千恵さん」
と返事をし
「いずれにしても、まず江戸に行き、秀忠公とお会いしよう。その上で千恵さんが納得できるような答えが出せればいい」
とだけ、答えた。
千恵も深く頷く。
そこへ了然和尚や、珍念たち寺の僧侶たちと挨拶を済ませたタツマキとツムジがやってくる。
このこずえの葬儀、埋葬などにかかった費用を御公儀の負担とする、ということでタツマキが話をつけてきたのだ。
それを見てハヤテが千恵に
「今は早川へ戻り、阿倍公にご挨拶をしよう」
と言った。
千恵は両手をクロスして
「変身!」
と唱えると、その両手を大きく回し、再びクロスさせる。
千恵は『蛾の変身忍者』の姿になった。
「タツマキ、すまなかった。私もとうも、こうした交渉ごとは苦手で‥‥」
ハヤテがタツマキに礼を述べる。
「いいや、なんの」
タツマキはこともなげに笑った。
「落ち着いたら、また、ここに来ようね!、こずえさんが寂しい気持ちにならないように」
とツムジ。
千恵は、そんなツムジに言った。
「今度は私の方で『転移の術』が使えますから、いつでもここには来れますよ」
ツムジが笑って頷く。
「うん!、千恵お姉ちゃん、ありがとう!!」
千恵は、そんなツムジの笑顔を見ると、とても心が安らぐのだ。
それにしても、ツムジは自分に大怪我を負わせたはずの(血吸いコウモリ)こと、こずえを少しも憎んでいない。
そのツムジの優しさに、千恵は強く惹かれるのだ。
が、今は早川に行くのを考えるときだ。
こうしている間にも、カスミは早川で多忙な時間を過ごしているのだから。
今度は、その手助けを皆でしないといけない。
千恵のまわりにハヤテ、タツマキ、ツムジの三人が集まる。
「忍法、転移の術!」
千恵が印を結び、叫ぶと
四人の姿は清雲寺から姿を消した。
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それからはカスミ、タツマキ、ツムジ、そしてハヤテ、千恵の五人は、早川で多忙な日々を過ごした。
集めた材料を元にした薬の調合はカスミが担当するが、その手伝いもしなければならないし、お湯の準備、おしぼりの準備、炊き出し、集まった人たちへの順番の案内等々‥‥
火を起こすだけでも、やってみると、けっこう大変。
千恵は思わず、自分が他の化身忍者のように火を吐けたらよかったのに、などと思ってしまった。
阿部備中守の方で手配した医師団も頑張ってくれたが、その中に『吸血の病』に感染しているものがいたことがわかって、ちょっとした騒ぎの一幕もあったりした。
そうこうしているうちに
あっという間に4日間が過ぎ、漸く5日目には早川の町も落ち着きを取り戻すようになった。
阿部備中守が、息子である松丸と共に、今回の功労者というべきカスミに語りかける。
「カスミ殿、この度は御苦労をおかけしました」
カスミはさすがに疲れていたが、備中守に対しては
「いいえ、これもお役目のうちですから」
と健気に答える。
そこへ松丸が、ちょうど談笑しているハヤテと千恵の姿を見て
「あのお二人、お似合いですね」
と、カスミの内心を逆撫でするようなことを言った。
が、カスミは一応、それは表に出さずに
「松丸様、気のせいですよ、ハヤテさんと千恵さんはそういう関係じゃありませんから!」
と釘を指す。
備中守は、そんなカスミの内心はお見通しだったのだが、それは表に出さない。
「明日には江戸に向けて出発されるのですな」
カスミは答える。
「はい。『吸血の病』も、どうやら落ち着きましたし、上様への御報告の儀もありますので」
その『御報告の儀』の中には、千恵を現将軍である秀忠に面会させ、今後の処遇を決めてもらうことも含まれているのだが、それは口には出さない。
「今回はいろいろ世話になりましたな」
と備中守。
「今度はこのようなことではなく、もう少し目出度いことでお会いしたいものですな」
カスミは少し考えて
「まだまだ先のことと思います。まだまだ血車党はいろいろな手で天下を乱そうとしてくるでしょうから、私たちの『お役目』も、そう簡単には終わりません」
と返事をし、その先を上手くはぐらかした。
カスミは勿論、阿部備中守の意とするところは理解している。
お互い、口には出さないだけだ。
阿部備中守は、前回の鷹狩りの一件といい、今回の件といい、年少の身でありながら、これだけの大仕事を、多くの人をまとめた上で成し遂げる『カスミの手腕』を高く評価していた。
戦国の世が終わったばかりであり、まだまだ能力本位の気風が残っているご時世である。
立場は特殊であるとはいえ、家柄も支流とはいえ
カスミの家は伊賀の名門、百地家であり、公的には父親のタツマキも表の顔は御公儀の旗本である。
別に早川阿部家の嫁に迎えても差し支えがあるわけではない。
必要なら養子縁組という手もある。
何も公儀隠密などという命の危険がある『お役目』をいつまでも続けていなくてもよかろうに
そう思ってはいるのだ。
松丸は松丸で、勿論、カスミのハヤテに対する気持ちには気づいている。
だからこそ、さりげなく牽制球を投げた。
が、今は気持ちよく送り出してあげようと思う。
「明日の出発に必要なものがあらば、何なりと。当方、見送りもさせていただく所存ゆえ」
阿部備中守はそう言うと
「しかしながら、カスミ殿とは近いうちの再会を期待していますぞ」
と、さりげなく付け加えた。
「はい、機会があれば」
カスミは恭しく備中守に礼をする。
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カスミだけは早川城内で寝泊まりしていた(せざるを得なかった)のだが、ハヤテと千恵、そして、それに付き合う形でタツマキとツムジも、こずえが働いていた『早川宿緑屋』に、この数日間は宿泊していた。
宿の女将である糸は、こずえについて
「真面目で、働き者で、本当にいい子だったんですよ。あの子が城下を騒がした吸血鬼だったなんて、私は、まだ信じられないんですよ」
とハヤテたちに語っていた。
「女将さんは、こずえさんに吸血などの被害には合わなかったのですか?」
怪訝に思ったハヤテが糸に尋ねる。
「いいえ、全然」
糸は首を横に振ると、懐から手紙を出した。
「こずえちゃんの部屋から見つかった置き手紙です。結果的には遺書ということでしょうか‥‥」
ハヤテは、それを読んでみることにした。
以下、こずえの手紙である。
*************
旦那様、女将さん、緑屋の皆さん
今まで黙っていて、ごめんなさい。
この手紙が皆さんの目にふれるということは、私はもう生きていないということだと思います。
私は本当は血車党という忍軍に属する忍者です。
この早川には『お役目』を果たすためにやって来ました。
目的の一つは『吸血の病』を広め、最終的に、この早川を血車党の支配下におくこと
もう一つは
兄を殺した仇であるハヤテと、三人の公儀隠密、そして血車党を裏切った女一人を討つことです。
そのために私は、筆頭家老阿部下記様の紹介という形で、この緑屋で働くということにしました。
血車党の上忍からの指示です。
上忍からは、私の吸血で皆さんを支配し、この緑屋を利用し、五人のうち四人をもろともに爆発によりぶっ飛ばし、一人だけは血車党に連れて帰れという指示を受けていました。
そのためには、私の吸血により皆さんを奴隷にしてしまう必要があり、その指示も受けていました。
でも、見ず知らずの私を暖かく迎えてくれ、誠心誠意、宿のお仕事も丁寧に教えてくれた皆さんを裏切るようなことは、私には出来ませんでした。
上忍には、私の方で、既に全員吸血も済ませ、意のままに動くようにしてあるという嘘の報告をしました。
でも、そんな嘘は直ぐに露見してしまいます。
だから、私の方で先に行動を起こすことにしました。
結果さえ出せれば、責任も問われないだろうと。
仮に失敗しても
その時は、私が事敗れて死ぬだけのこと。
私は皆さんをどうしても巻き込みたくなかった。
だからといって、私が城内を騒がす吸血鬼の正体だったことに変わりはないんですけどね
また、仇であるハヤテは強敵で、多分、私は敵わない。
それでも、私は戦うしかないんです。
ごめんなさい、まとまりがなくなりましたね。
短い間でしたけど
私は皆さんと出会えて、一瞬だけでも幸せでした。
それだけは伝えさせてください。
さようなら、お元気で。
山彦こずえより
*************
ハヤテは手紙を読み終えると、それをギュッと握りしめた。
「戦う必要なんか、なかったのに‥‥」
糸は手紙を読み終えたハヤテに向かって言った。
「こずえちゃんは上足柄の清雲寺に葬られたんですよね?」
ハヤテは黙って頷く。
糸は続ける。
「そのうちに宿の皆で清雲寺に行き、こずえちゃんのお墓参りをしてこようと思います。ええ、板前さんの中にはこずえちゃんに一目惚れして、結婚したいと思っていた者もいたんですよ‥‥」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
早川での『吸血鬼』の一件も無事に落ち着き、再び
ハヤブサオーに乗るハヤテを囲むようにして、タツマキ、カスミ、ツムジ、そして千恵の五人は江戸に向けて出発する。
阿部備中守以下、筆頭家老の阿部下記はじめ、家中の武士たちが、それを見守る。
松丸が大きくカスミに向けて手を振った。
「カスミ殿、気をつけられよ、また会いましょうぞ!」
カスミは悪戯っぽく笑うと
「松丸様もお元気で!、いつの日か、またお会い出来ることがありましたら!」
と手を振る。
お会い出来ることが『ないかもしれませんけどね』
などということをカスミが口に出すことはない。
それは失礼というものである。
そんなカスミと松丸の様子をタツマキは苦笑いしながら見ていた。
「千恵お姉ちゃん、やっぱり、おいらたちと歩いて行くのかい?」
ツムジは千恵に声をかける。
「はい、今の私には、それが必要ですから」
千恵はツムジに、そう答えた。
偽らざる気持ちだった。
皆が普通に出来ることが、自分には出来ないなどというわけにはいかない!
相変わらず意地っ張りな千恵だった。
一行は早川を出て、次の目的地である相模川沿いの馬入宿を目指していた。
そこに新たなる難敵が待ち受けていることは、まだ知る由がない。