変身忍者嵐より 千恵(毒蛾くノ一)の異なる未来 作:shpfive03
正直、千恵が二人を連れた状態で上へ飛んでいくのかと思っていたタツマキとカスミは、ちょっと驚いたものの、すぐに事実を受け入れる。
「千恵殿、忝ない、お陰で助かりましたわい」
タツマキは素直に毒蛾くノ一の姿をした千恵に深々と頭を下げると、直ぐに剣を構え、下忍たちと向かい合った。
カスミは無言のまま、ただし、やはりタツマキ以上に深々と頭を下げると、やはり剣を構えて下忍たちと向かい合う。
千恵はカスミの様子が気になったものの
「いいえ、とにかく今はこの場を切り抜けることです」
とタツマキに答え、やはり剣を構えた。
「親父!、カスミ姉ちゃん!」
つい先程まで一人で十人以上の血車党下忍たちと戦い、辛うじて防戦一方の状態だったツムジは一気に勇気づけられ、心強くなる。
今や、ツムジだけではなく、千恵と、タツマキ、カスミも加えて四人。
人数では劣っても、それぞれの実力を考えれば、むしろ、こちらの方が優位かもしれない。
それまでは、どちらかというとツムジをなぶりものにしてきた感もあった血車党の下忍たちも、この「形勢逆転」に不利を感じ取っていた。
それでも何人かの下忍たちが四人に向かって斬りかかってきたものの、逆にあっさり斬られてしまう。
様子を見ていた骸骨丸も我が方不利を考え、普通の下忍たちならまだしも、新たな化身忍者を作るのに必要な医術班からの犠牲を出すのは避けるべし、と判断した。
彼らの技術を失うのは、たださえ医術班の層が薄い血車党にとっては大きなダメージである。
現在、この場にいる医術班の人員は四名。
うち二名は剣を持ち、タツマキ、カスミ、ツムジ、毒蛾くノ一の四名と対峙してはいるが、彼らの腕では敵のいずれかにあっさり斬られておしまいだろう。
「医術班!」
骸骨丸は号令した。
「これより、いったん別の髑髏館に転移し、化身忍者出生の拠点をそこに変更する。我の身に集まれ!」
たちまち黒覆面の医術班とおぼしき四人が骸骨丸の周囲に集まる。
やはり彼らもムザムザとは死にたくはないのだろう。
「毒蛇くノ一!」
骸骨丸はさすがにすまなそうに、現在、嵐と剣を交え、戦っている毒蛾くノ一にも声をかける。
「すまぬが、医術班の安全も考え、我が身は医術班四名とともに、これより別の髑髏館にいぅたん転移する。このような状況でお前にこの場を預けるのは、さすがに心苦しいが‥‥」
「ご案じめさるな、骸骨丸さま!」
嵐と剣を交えながらも、キッパリと毒蛇くノ一は健気に答える。
「私も血車党の忍として覚悟は出来ております。最悪、我が身は刺し違えてでも、この出来損ないの裏切者二人、そして伊賀忍たちを返り討ちにし」
そして‥‥
「可能であればカスミを、骸骨丸様のいる新しい髑髏館にお連れしたします!」
骸骨丸も少し涙ぐんだ様子を見せるが
「では、頼むぞ!」
と言い残し、医術班四名と、煙とともにこの場から姿を消した。
もはや血車党にこの場で残されたのは、嵐と剣を交える毒蛇くノ一、そして、ツムジたち四人と辛うじて対峙している数名の下忍たちに過ぎない。
その毒蛇くノ一も、嵐に斬り合いに持ち込まれると、やはりハッキリと体力差を感じずにはいられず、苦戦を強いられていた。
「分身の術」、そして「毒蛇攻撃」も、先ほどからの嵐の剣さばきに、それを使うタイミングを見いだせず、次第にハアハアと息が上がってくる。
「毒蛇くノ一、降伏するんだ!」
嵐は言った。
「私は戦いはしても、女子供を斬るつもりはない!」
一方、残された下忍も果敢にタツマキたち四人に斬りかかるが、次々斬られてしまい、恐らくは全滅も時間の問題。
そうなれば文字通り毒蛇くノ一は孤立無援である。
「なめるな!、私は血車党の誇りを背負って戦っている!」
毒蛇くノ一は嵐に斬りかかった。
「仕方ない」
嵐は決断した。
「秘剣!影うつし!」
影うつしは言わずと知れた嵐の必殺技であり、愛刀「速風(はやかぜ)」の刀身に敵の影を映し、間合いをはかって敵に光を浴びせ、タイミングを狂わせて斬る技である。
光を浴びせられた毒蛇くノ一は目がくらみ
「ううっ!」
と、思わず目をおおう。
が、嵐は飛び上がってから急降下し、斬りつけたが
「二段斬り!」
と毒蛇くノ一の右腕のみを斬りつけた。
「シャーァァァァァア!」
思わず右腕を押さえながら倒れる毒蛇くノ一。
それを見ながら、千恵は思い出していた。
これは、少し前に毒蛾くノ一であった自分が嵐と戦ったときとほとんど同じ光景である。
彼女にとって、これは複雑な心境ではあった。
なら、彼女、あざみは
どういう選択をする?
が、次の瞬間に千恵の、いや、その場にいた誰もが驚くような光景が、そこにはあったのだ。
毒蛇くノ一はたちまち姿を消し、その場には
恐らくはカスミと同年代くらいのおかっぱ頭の少女がそこにはいたからだ。
勿論、その少女は千恵の知るあざみではない。
おそらくは彼女の技の一つである血車忍法「変幻目眩まし」の術で咄嗟に化けたのであろうことは、直ぐに千恵にはわかった。
あざみは何を考えている?
千恵は思わず彼女を注視した。
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次の瞬間、おかっぱ頭の少女は大声で泣き出していた。
「うえーん!、えーんー!、えっ!」
体を震わせながらなく少女。
「怖かったあァァァァ‥‥」
これには毒蛇くノ一と対戦していた嵐のみならず、毒蛾くノ一の姿をした千恵、そしてタツマキ、カスミ、ツムジの三人も戸惑いを隠せなかった。
既にこの場の決着はついている。
残っていた血車党の下忍たちは全て討ち果たされ、その意味で、この場にいるのは嵐、千恵、タツマキ、カスミ、ツムジの五人と、目の前の「少女」だけである。
やや躊躇った後に嵐が
「お嬢さん、どうしたんだい?」
と問いかけてみる。
おかっぱ頭の少女は泣きながら
「私、、町を救うために、、生け贄になれと言われて、、血車様への生け贄として、、強制的に連れてこられたんです‥‥」
と答えた。
それを見ながら千恵は
『嘘だ』
と内心でつぶやく。
彼女は間違いなく、自分の知る血車党のくノ一「あざみ」である。
それは同じ血車党によって作られた化身忍者である自分には分かるし、こうして見ていても、自分には彼女の波長も伝わってくる。
しかし、あざみは何を考えている?‥‥
『ハヤテさん、騙されないで‥‥』
とりあえず千恵は見守ることにする。
嵐は変身を解き、ハヤテの姿に戻った。
「とりあえず安心してくれ、私はいずれにしても貴女を斬るつもりはない‥‥」
何しろ、このおかっぱ頭の少女は、つい先ほどまで「毒蛇くノ一」として戦っていた相手である。
多少は警戒しながらもハヤテは
「とにかく事情を話してくれないか?」
と少女に問う。
「私、血車様の化身忍者にされてしまったんです!」
泣き顔で少女は訴える。
「ええっ!」
これにはハヤテも驚く。
「とっても怖い夜、私は他の女の人と手術させられ、その女性と合体させられました。その手術は、とっても痛かったです‥‥」
ハヤテは剣を鞘にしまう。
「その女性は、私の中からどっかにいっちゃったみたいです‥‥」
まだ泣きペソをかく女の子。
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「お兄さんは、私をどうするんですか?」
おかっぱ頭の少女がハヤテに問いかける。
ハヤテは少し考え込んだが
「とにかく、私たちと一緒にここから出よう。そして町の方へ行こう。安心してくれ、『血車様』はもういない」
と少女の手をとろうとする。
ここで少女の目がニヤッとしたのを千恵は見逃さない。
「イーッ!ヨーウゥゥー」
思わず、千恵は、それも毒蛾くノ一としての声をあげてしまった。
「ハヤテさん!、騙されないでください。彼女、いや『毒蛇くノ一』あざみはこの子の姿に化けているだけです、私には分かります!」
その『毒蛾くノ一としての姿の千恵』を指差して、おかっぱ頭の少女は
「この人、だれ?、怖い!、血車様の化身忍者なの?」
と、ことさら震えてみせる。
「私、あざみという人じゃありません‥‥」
「千恵さん」
ハヤテは慎重に言葉を選んだ。
「貴女のいうことは本当なのかもしれない。でも、私はこの子を信じてみたいんだ」
千恵はハッとする。
ハヤテがそういう『甘い』人物だからこそ、自分も彼のことを信じる気になったのではなかったか?
ハヤテはさらに千恵に語りかける。
「あの森の中で足に怪我をした貴女を見た時、正直に言うと、血痕のつき方や、怪我の場所などから、私は貴女のことを疑わなかったわけじゃない」
ハヤテは続ける。
「でも、それと同時に貴女の瞳の優しさと、その語りから、私は、もし仮に、貴女が自分の追う化身忍者だったのだとしても」
そこで、いったん言葉を切ると
「化身忍者にはふさわしくない心の綺麗な女性なんだと直感的に思ったんだ」
キッパリというハヤテに、千恵は言葉を一瞬失う。
ハヤテは分かっていたんだ‥‥
「だから、私は貴女を信じた。そして、それは今でも間違っていなかったと思っている」
ハヤテは真っ直ぐに千恵を見た。
「もう一回、バカな私が騙されたとしても、それは許してもらえないか?」
千恵は、この場はハヤテの意思を尊重することに決めた。
「わかりました」
千恵はハヤテにそう返事する。
ただし、何かあった時、直ぐに動く決心をしてはいたが‥‥
「さあ、早く、私たちと行こう」
ハヤテは少女に手を差し伸べ、同時に千恵を指して
「この女性のことなら心配いらない、今はさっきまでの私と同じで『変身』しているだけで、本当は優しい女性なんだ」
と少女に説明する。
「いや!、この人怖い!」
少女が激しく首を振る。
ハヤテが少し困った顔をすると
「ハヤテさん」
ふいにカスミが声をかけた。
「その子はここに来る前に、私に助けを求めてきた子です。歳も同じくらいだし、私が連れていきましょう」
ハヤテは少しホッとした。
「カスミ、そうだな、その方がいいのかもしれない」
その時、少女の表情に『してやったり』と言わんばかりの笑みが、わずかだが浮かんだのを千恵は見逃さなかった。
が、今は、まだ手出しをする時ではない、と思い、千恵は自分を戒める。
「カスミお姉さん、これ‥‥」
少女が懐から取り出した笛は、勿論、この場にいる誰もが見覚えのあるものだった。
言わずと知れた『涼風』である。
「さっき、化身忍者だった私が、お姉さんから取り上げた笛です」
少女は震える手で『涼風』を差し出す。
「カスミお姉さんに、これをお返しします、受け取ってください‥‥」
それを見たカスミは
「ありがとう」
と、軽く頭を下げると少女に近づいていく。
そしてカスミが少女から『涼風』を受け取ろうとした時である。
「引っ掛かったわね!」
ふいに少女の声がかわり、恐らくは千恵と同年代か、それより少し上の大人の女性の声となった。
そしてカスミの右手を引っ張ると、強引に羽交い締めにし、そして、カスミの細い喉に懐に隠し持っていた短刀を突きつける。
「あざみ、あなた、やっぱり!」
毒蛾くノ一の姿のままの千恵は叫んだ。
「ふーん、わかっていて何も出来なかったの」
少女、いや、少女の姿のままのあざみは笑った。
「随分と間抜けなあなたらしいわね、私がこうすることくらい、本当はわかっていたんでしょ」
彼女はケラケラと笑った。
「さあ、伊賀忍のカスミさん」
カスミの喉に短刀を突きつけたあざみは彼女に言った。
「私と一緒に骸骨丸様のいる新しい髑髏館に行きましょうね、血車忍法『転移』の術さえ使えば、直ぐにでも向こうに行ける」
あざみは心底嬉しそうだった。
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千恵は歯噛みしたが、あざみが転移の術を使う一瞬の隙をつくつもりで、カスミを取り返すタイミングを見計らっていた。
勿論、それはハヤテも同じなのだが、彼自身は今回ばかりは自分の『甘さ』を悔いてもいた。
それにしても、カスミは一体なぜ‥‥
これでは、まるで、わざわざ人質になりに行ったようなものではないか。
「あざみさん、ですね」
この状況にも関わらずカスミは落ち着いた声で、自分の喉に短刀を突きつけている少女に質問する。
「この髑髏館には、何人もの女の人が囚われていたはずです、その女性たちはどうなったんですか?」
あざみは答えた。
「安心しなさい、みんな死んだわ。化身忍者改良のための実験の犠牲などによってね」
カスミは、あざみのその返事に対して、短く
「ありがとう」
と呟く。
次の瞬間
「グッ!」
という声が漏れたかと思うと
少女の姿をしたあざみの口から鮮血がこぼれ、そして、手に持っていた短刀を落とした。
カスミの左手には小刀が握られており、それであざみの心臓を貫いたのだ。
「お、お前は‥‥」
少女はヨロッとすると、その場に倒れる。
そして少女の姿から、もう少し上、恐らくはハヤテと同じ年頃の女性へと変貌を遂げる。
「変幻目眩まし」の術を維持できなくなった、あざみの本当の姿である。
「ありがとう、私の大切な『涼風』を返してくれて」
カスミは、あざみに向かってニッコリと笑った。
「勘違いしないで、私、最初からあなたがこうすることがわかっていて、わざとあなたに近づいたの。私はあなたのことを信用していたからこそ」
「あなたが決して血車党を裏切るわけないと思ってた。けど」
そしてカスミはキッパリと言った。
「あなたが血車党の誇りを賭けて戦っていたように、私たち伊賀忍もお役目のためには命をかけている!」
あざみは既に虫の息だが、そのカスミの言葉に大きく頷いたように見えた。
「私は、もしあなたが私を人質にとろうとするなら、最悪、刺し違える覚悟であなたに近づきました。いざというとき」
カスミはニコッと笑う。
「ハヤテさんにはあなたを斬れなくても、女子供である私には、あなたを殺ることはできるから」
千恵はカスミのその言葉を聞いて、心ひそかに自問自答した。
血車党の化身忍者だった時の自分に、今のカスミほどの覚悟があっただろうか?
だが、ここで今、自分がしなければいけないことはハッキリわかっている。
そのために、あえて自分は毒蛾くノ一からの『化身』を解かなかったのだから。
「カスミさん!」
千恵は必死の声で叫んだ。
今は自分が命を懸ける時だ。
「ハヤテさん、早くハヤブサオーを逃がしてください!、出来るだけ遠くへ走ってもらって!」
ハヤテは急ぎ頷くと、ハヤブサオーに飛び乗り
「ハヤブサオー、急げ!」
と号令する。
ハヤブサオーは物凄い勢いで走り去っていった。
千恵としては転移の術でハヤテも連れていくつもりだったが、これは当然の判断だろう。
千恵は更に
「タツマキさん、ツムジさんも、今はとにかく私には掴まってください、そして、決して手を離さないでください!」
それを聞いて一番先に千恵につかまってきたのはカスミである。
「千恵さん、お願いします」
ハッキリとした声でカスミはそう言った。
タツマキとツムジも急いで千恵に掴まる。
「あざみは息絶えたら自爆します。本人もそのつもりでしょう」
取り急ぎ千恵は説明する。
「そして、それに誘導されて、この髑髏館のあちこちに火がつき、最後はこの建物自体が燃えてしまいます、証拠を消すために」
千恵は既に印を結んでいた。
「私たちがそれに巻き込まれる必要はありません!」
言い終わると千恵は叫ぶ。
「忍法、転移!」
次の瞬間、千恵、そしてカスミ、タツマキ、ツムジの四人は、この髑髏館から煙とともに姿を消し
まもなくあざみは自爆、そして髑髏館のあちこちが燃え広がり
最後は建物全体が炎に包まれた。