変身忍者嵐より 千恵(毒蛾くノ一)の異なる未来   作:shpfive03

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伊賀の手裏剣、そして町へ

 

「もう大丈夫です」

 

千恵はタツマキ、カスミ、ツムジの三人に、そう伝える。

 

次の瞬間、四人は煙とともに、小高い丘の上に立っていた。

 

下を見下ろすと、先ほどまでいた寺の外観をした髑髏館が炎に包まれてはいたものの、早くも町の人たちが消火活動にあたっており、どうやら大きく燃え広がることはなさそうだ。

 

町の人たちも、これで血車党から解放され、再び活気を取り戻すのだろう。

 

が、それを確認した次の瞬間、千恵はいきなり、ふらっと倒れそうになり、そのまま毒蛾くノ一の姿から、黒装束の「千恵」の姿に戻ってしまった。

 

そして人間体に戻った千恵は、その場にドゥッと倒れ、うつ伏せになった。

 

「千恵お姉ちゃん!!」

 

いち早くツムジが飛んでいき、急いで千恵を抱き起こす。

 

「大丈夫?、千恵お姉ちゃん!」

 

心配そうに抱き起こした千恵を見つめるツムジ。

 

「ツムジさん‥‥、心配しないで‥‥、私は大丈夫だから‥‥」

 

千恵は弱々しく、しかし、ハッキリとツムジに返事をした。

 

「ただ、緊張感が緩んだだけ‥‥、ちょっと疲れただけ‥‥、一休みすれば大丈夫だから‥‥」

 

「千恵殿!」

 

タツマキが心配そうに声をかける。

 

「本当は、かなり無理をなさっていたのではないか?」

 

千恵は弱々しく首を振った。

 

「転移の術を一日に何度も使うと、肉体的にも、精神的にも、やっぱり負担はあるんです。体調が万全なら、どうということもないんですけど‥‥」

 

そういった後で、再度首を振り

 

「でも、大丈夫です。ちょっとだけ一休みすれば‥‥」

 

と、千恵はタツマキに答えた。

 

「千恵お姉ちゃん、ごめんね!」

 

とツムジ。

 

「転移の術が、千恵お姉ちゃんにそんなに負担だなんて知っていたら、おいら‥‥」

 

「ツムジさん、本当に心配しないで」

 

千恵は優しく微笑んだ。

 

「私がやりたくてやったことだし、本当に少し一休みすれば大丈夫だから‥‥」

 

そこへカスミが千恵に近づいてきたと思うと、彼女に対してペコリと頭を下げる。

 

「千恵さん、ごめんなさい、私、貴女のことを誤解していました」

 

「そうなんですか?‥‥」

 

千恵はカスミに返事をする。

 

「一休みして体力が回復したら、絶対に一緒に江戸までいきましょうね、私、貴女といろいろお話ししたい!」

 

その後でカスミは、顔を真っ赤にしてボソッと言った。

 

「でも、、ハヤテさんは渡さないから!」

 

千恵は破顔一笑した。

 

そういうことなんだ‥‥

 

そこへ、ハヤブサオーに乗ったハヤテが駆けつけてくる。

 

が、ハヤテは明らかに怒っているようだ。

 

「おお、ハヤテ殿、ご無事で何より」

 

タツマキが、そんなハヤテの様子に気づいていながら、何食わぬ顔をして出迎える。

 

「タツマキ、すまない。心配をかけた」

 

ハヤテは短くいうと、ハヤブサオーから降りる。

 

そして

 

「カスミ!」

 

とカスミの方を睨み付けた。

 

「なぜ、あんな危ないことをしたんだ!、そんなことしなくたって!」

 

ハヤテの、その様子を見て

 

「ハヤテさん、ごめんなさい」

 

カスミは素直に頭を下げる。

 

ハヤテが怒っているのが、先ほどの自分の無茶とも言える行為についてであるということを、カスミは勿論、知っている。

 

「本当に、どれだけ心配したと思っているんだ!?、だいいち、あれじゃあの人も魔が差して‥‥」

 

「ハヤテさん‥‥」

 

ツムジに支えられた千恵が、ハヤテに声をかける。

 

「千恵さん、大丈夫か?」

 

ハヤテも千恵の様子が心配になって声をかける。

 

「私は大丈夫です」

 

千恵はニッコリと笑って見せる。

 

「少し休めば体力は回復します。それよりハヤテさん、カスミさんを責めないであげてください」

 

「‥‥‥‥」

 

ハヤテは戸惑った。

 

千恵さんからは、私がカスミを責めているように見えるのだろうか?

 

「私は彼女を斬るつもりはなかった」

 

ハヤテはあざみのことを思い出しながら、そう話し始めた。

 

「私は父、鬼十から、常日頃からこう教えられて育ってきた」

 

 

いいかハヤテ、感情に任せて女子供に手を上げるような奴には絶対なるな!

 

 

そんな奴は「強い忍者」になんか、絶対になれるわけがない

 

 

女子供が本当に困っているとき、力強く守ってあげられるのが、真の甲斐性のある「男」だ!

 

 

「そう言われて育ってきた‥‥」

 

ハヤテは父、鬼十のことを思い出しながら、そう振り返る。

 

「では、それは‥‥、私が『女』だから斬らなかったということですか?」

 

と千恵。

 

「敗けた私は『殺してくれ!』と言っていたのに?」

 

ハヤテは即答した。

 

「千恵さん、それは違う!」

 

「私は確かに貴女を斬れなかった。でも、それは貴女に生きていてほしいと思ったからだ。亡くなった弟さんのためにも!」

 

ハヤテは感情が昂ってきたのか、首を振る。

 

 

「そして、それは今でも間違っていなかったと思っている」

 

ハヤテは千恵を見つめる。

 

千恵は少し間をおいて答えた。

 

「ハヤテさん、ありがとうございます」

 

そう言って、彼女はハヤテに頭を下げる。

 

そして

 

「でも、多少の違いはあってとしても、やっぱり、あざみは同じようなことをしたと思います」

 

千恵はそう言った。

 

「彼女は骸骨丸を愛していましたから」

 

これをそばで聞いたカスミは

 

「えっ!!?」

 

と驚きを隠すことが出来なかった。

 

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ハヤテも驚きを隠さない。

 

「私は血車党には愛する人もいなければ、信じられるような人もいませんでした、ただ、復讐のために組織の力が欲しがっただけ」

 

淡々と千恵。

 

「でも、あざみは骸骨丸を愛していたし、骸骨丸の方も彼女を憎からず思っていました」

 

カスミは衝撃を受けていた。

 

「私、彼女、、あざみさんは、、血車党のために命をかけていたのだと思ってたのに‥‥」

 

 

「それはそれで、本当です」

 

千恵は血車党にいた当時のことを振り返りながら答える。

 

「けれども、あざみは骸骨丸を愛し、やはり、その『忠誠』に殉ずるつもりだったと思います」

 

 

「‥‥‥‥」

 

ハヤテは無言であった。

 

そこへ、カスミが

 

「私、あざみさんは血車党からの『お役目』に命を懸け、何がなんでも降伏したくなかったんだと思ってた‥‥」

 

と言う。

 

「ハヤテさんは、あざみを助けたかったんですよね?」

 

千恵はハヤテに聞いた。

 

「ああ」

 

短く、ハヤテは答える。

 

「時間をかければ、彼女もきっとわかったくれると思っていたんだ。私は彼女も斬りたくなかった‥‥‥‥」

 

「ハヤテさん、私も女です」

 

と千恵。

 

「そしてカスミさんも、同じ女性として、彼女が最後まで諦めず、命を懸けても、自分の『気持ち』を守りたかったたということに気づいたんだと思います」

 

カスミは大きく頷く。

 

「あざみさんの気持ちを大切にしようと思ったら、彼女の目的を果たさせてあげるか、彼女を『討つ』しかないと思いました‥‥‥‥」

 

そして、カスミはハヤテを見る。

 

「ハヤテさんは、あざみさんを斬りたくないと思っていたのは知っていました。でも、あの人が『女の子』の姿に『化けた』とき、逆に私は、あの人が私たちに決して心を開こうとせず、騙そうとしていることに気づいてしまったんです‥‥」

 

カスミはハヤテを見つめる。

 

「そんなことをしなくても、ハヤテさんはあの人を助けるつもりだったのに‥‥」

 

カスミはハヤテにペコリと頭を下げる。

 

「ごめんなさい、ハヤテさん。私、わかってて余計なことをしました」

 

ハヤテは少し考え込むと

 

「カスミ」

 

と声をかける。

 

「今回のこと、少し考える時をくれ。私も少し頭の中を整理したい」

 

と述べた後で

 

「だからと言って、やっぱり無茶はしないでくれよ!、本当に心配したんだぞ」

 

とカスミに対して言った。

 

「ハヤテ殿」

 

それまで沈黙していたタツマキが、ここで割って入る。

 

「もう、そのくらいにしましょう。もともと無鉄砲は我が家の家風、カスミもツムジも、結局は親父であるわしに似たんでな」

 

ここで

 

「えへん!」

 

とカスミがわざとらしく咳をする。

 

ハヤテも決まり悪そうにする。

 

「それより、千恵さんの今後のことを、あらためて話し合おうじゃないですか。過ぎたことより、これからのことを考える方が大事」

 

とタツマキ。

 

これには、この場にいる誰もが異存はなかった。

 

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「さて」

 

タツマキは懐に手を入れると、小さな麻製の包みを取り出した。

 

「今後のことも考えて、これを千恵殿に渡しておきたいのだが、受け取ってもらえますかな?」

 

そう言ってタツマキは、まだ座り込んだままの千恵に、その包みを手渡した。

 

千恵はそれを手に取り、それが何であるのかを直ぐに理解した。

 

「これは‥‥」

 

それは黒光りする手裏剣だった。

 

「これは名張の里で、代々の鍛治をつとめる最高の職人が、我々、御公儀に仕える伊賀忍に専用のものとして丹精こめて作っているもの」

 

タツマキが説明する。

 

「我々、伊賀忍にとっては誇りでもあり、カスミ、ツムジも同じものを持っております、これは何かの時の予備として、わしが用意していたもの」

 

その上でタツマキは、千恵の目をまっすぐに見ると

 

「千恵殿には、何かの時にこれを使っていただきたい」

 

とキッパリ告げる。

 

「‥‥‥‥‥‥」

 

千恵は当惑した。

 

「私は、つい数日前まで血車忍者として皆さんと殺し合いをしていた女ですよ‥‥」

 

するとツムジが横から

 

「千恵お姉ちゃんは、もう、おいらたちの仲間だよ!」

 

と口を挟む。

 

タツマキは千恵に向かって

 

「千恵殿が、先ほどあざみ殿と戦ったとき、宙に舞ったものの、何も出来なかったのを見て、今、手裏剣をお持ちでないことがわかりましたでな」

 

と言った。

 

「それゆえ、今後の護身のためにも必要と思ったまで、わしらのささやかな好意の証として受け取ってはくださらぬかな?」

 

千恵は

 

「あの時、下忍から奪った短筒を使って『狂い毒粉』を発射し、撒き散らすということも考えなかったわけじゃありません‥‥」

 

と、呟くように答える。

 

「でも、そうすればツムジさんに害が及ぶ可能性もあるし、何よりも私が元に戻ってしまうような気がして‥‥」

 

そこでツムジが

 

「だからこそ、親父も、この手裏剣を使ってほしいって千恵お姉ちゃんに言ってるんだよ、ほら、」

 

と言って、自分の懐から二枚の手裏剣を取り出すと

 

「少ないけど、おいらからも」

 

と言って、タツマキからいったん麻の包みを受けとると、その中に入れた。

 

カスミも

 

「千恵さん、私からも」

 

と言い、同じく二枚の手裏剣を取りだし、その麻の包みに入れる。

 

千恵は深々と頭を下げる。

 

「タツマキさん、ツムジさん、カスミさん、ありがとうございます」

 

千恵はタツマキから、その麻包みを受けとると、それを受けとると、懐にしまった。

 

そして、千恵の瞳にはうっすらと涙が浮かんだ。

 

血車党にいたところの自分は、一度でも、このような暖かい気持ちを感じたことがあっただろうか?‥‥‥‥

 

ハヤテも大きく頷く。

 

「千恵さんも、もう、これからは私たちと行動をすることに決めてしまった方がいいと思う」

 

そして

 

「血車党にとっては、もはや貴女も私と同じく『抹殺すべき裏切者』でしかない」

 

「だったら、お互い、力を合わせた方がいい。私だって、タツマキたちが支えてくれるから、こうやって戦っていける」

 

と千恵に言った。

 

「まあ、それはこの場ではなく、どこか適当な場所に落ち着いてから、あらためて話し合いましょうや」

 

とタツマキ。

 

「それよりも、ここから町へ下りていくことを考えるのが先決」

 

ハヤテは

 

「そうだな!」

 

というと

 

「ハヤブサオー!!」

 

と、『彼』に向かって声をかける。

 

ハヤブサオーはわかっていると言わんばかりに「ブルルル!」と唸る。

 

そしてハヤテ、タツマキ、ツムジ、カスミの四人は千恵を抱き起こすと、ハヤブサオーの左肩横に立った。

 

ハヤテが注意深く左手で手綱とハヤブサオーのタテガミをつかみながら、四人で千恵の左足を鐙にかけ、静かに鞍へ座らせると、千恵の右足も鐙へかけた。

 

ハヤブサオーに限らず、馬というのは繊細な動物であり、このような乗せ方を好まないものだが、ハヤブサオーは千恵に対しては警戒心を示すこともなく、彼女を馬上の人とすることを許した。

 

ハヤブサオーにとって、千恵を乗せていくのは二度目である。

 

一度目は、森のなかで足を怪我している千恵を、その「家」まで送るため、ハヤテが彼女を乗せたのだが

 

全くはじめての相手であるのにも

かかわらず、ハヤブサオーはなぜか千恵に対する警戒心を見せることはなかった。

 

ハヤテは、それを今さらのように思い出す。

 

 

「さあ、行きましょうや」

 

タツマキの声を合図として、ハヤテ、タツマキ、カスミ、ツムジ、そしてハヤブサオーに乗る千恵の五人は、ゆっくりと麓の町へ向けて出発した。

 

 

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