変身忍者嵐より 千恵(毒蛾くノ一)の異なる未来 作:shpfive03
一方、ここは骸骨丸が医術班四名と共に転移の術でやって来た血車党の新たな髑髏館である。
骸骨丸は、ここを化身忍者を生み出すための新たな拠点とするつもりであり、実際に新たな化身忍者が、今日、たった今、完成したばかりである。
そんなところに血車党の現在の首領である魔神斎が姿を現した。
「骸骨丸よ!」
魔神斎は、血車党を事実上指揮する上忍の骸骨丸に対し、苛立ちをこめて叱責の言葉を発する。
「はは、魔神斎様」
骸骨丸は、内心はどうであれ、今は『こいつ』に頭を下げるしかないと割りきっており、実際、素直に頭を下げた。
魔神斎は骸骨丸を問いただす。
「鬼十の息子ハヤテのみならず、こともあろうに、指導的立場として選ばれたはずの中忍である化身忍者から裏切者を出すとは何たる失態、どう対処する!?」
それに対して
『元をただせば毒蛾くノ一を処刑し損ねたのはお前だろ?』
などという無用の発言を骸骨丸がすることはない。
本心はどうであれ。
「魔神斎様、お怒りのことと思いますが、結果として我らに敵対し、様々な妨害活動をしてきたハヤテの、いわば『弱点』が明らかになりましたゆえ、今度は意識してそこを突きたいと考えております」
骸骨丸はそのように答えた。
「ほう」
魔神斎は興味を寄せる。
「ハヤテは女子供を斬れないということを自ら明らかにしました」
骸骨丸が、そんなハヤテを嘲笑するかのような悪意ある笑みを浮かべる。
「ならば、奴の親友の妹であり、『兄の仇』という負い目を持つ、我が血車党のくの一が化身忍者となり」
骸骨丸はそこで言葉を切ると、背後にいる化身忍者をチラリと窺う。
そして言葉を続けた。
「ハヤテを討とうとするなら、ハヤテはこれを斬ることも出来ますまい、後は我らが手順をしっかりとすれば、奴を討つのも難しくないと思われます」
骸骨丸は背後の化身忍者に声をかける。
「そうだな?、化身忍者『血吸いコウモリ』よ」
化身忍者は頷いた。
「キー、キキィィー!」
大きな黒い翼を広げ、化身忍者は答えた。
黒い翼の内側は赤みをおびており、まさに吸血コウモリの翼を感じさせるのにふさわしいものである。
無論、『彼女』はこの翼を使っての飛行の術も心得ていた。
ウサギのように少し立った感のある黒い耳、子犬を思わせるひだのある鼻。
「お任せください、骸骨丸様。私が我が兄の仇ハヤテを必ずや仕止めてごらんにいれます。そして、もう一匹の裏切者である毒蛾くノ一とやらも」
血吸いコウモリはニヤッと笑う。
「あわせて、この私が始末いたします!」
「そして伊賀忍のカスミも、この私が血を吸うことで、生きたまま我が奴隷とし、骸骨丸様のもとにお連れいたします。なあに、私の吸血により魂を奪われれば、その知識なども、我が血車党の役に立てるのは思いのまま」
血吸いコウモリは、旧知でもあるカスミのことをチラリと思い出す。
無論、彼女の心は既にその時とは変わり果てているのだが‥‥
骸骨丸は
「よく言った!、血吸いコウモリよ。では作戦計画にとりかかれ!」
と化身忍者血吸いコウモリに命じた。
「キー!、キキィィー!」
血吸いコウモリは頷き、そして早速下忍たちを引き連れ、その場から出発する。
「骸骨丸よ、では吉報を待つ」
魔神斎はそう言うと、その場から煙と共に姿を消した。
骸骨丸は呟く。
「あざみよ、お前の仇、必ずとってやるぞ!」
彼は拳を握りしめた。
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ここはハヤテたちが現在いる宿場町から、ちょうど江戸へいく通り道にあたる、いわば「次の宿場町」に当たる有力大名の城下町である。
が、こちらは相模の国であり、間には箱根の天嶮もあるため、ハヤテたちのいる宿場町と、日常的な交流がそれほどあるわけでもない。
この城下町は、今、まさに悪魔に支配されようとしていた。
「フッフッフッ‥‥」
漆黒の翼をもつ化身忍者、血吸いコウモリが目の前の夜の天守閣を見上げながら笑う。
血吸いコウモリは、この毒牙により血を吸ったものを、自分の意のままに動く吸血鬼に変えてしまう能力を持っていた。
彼女がこの町に来て、まだ三、四日というのに、彼女に血を吸われ、彼女と同じく誰かの血を吸わずにはいられなくなる吸血鬼と化すものの数はねずみ算的に増える一方であり、その影響力は町全体にとどまらず、既に城内にまで及んでいた。
無理もない。
初日に血吸いコウモリが噛みつき、自らを媒体として吸血鬼としたのは三人。
この血吸いコウモリを含む四人の吸血鬼が翌日には二人ずつ以上を噛んで、十二人以上になり
三日目には十二人が二人ずつ以上を噛み、吸血鬼は三十六人以上
そして、今日四日目には三十六人の吸血鬼が二人以上の吸血鬼を増やし、既にこの町の吸血鬼の数は既に百人以上。
明日、百人以上の吸血鬼が二人ずつ仲間を増やせば、吸血鬼は三百人以上。
このまま等比数列的に吸血鬼が増えていげば、この町の住民すべてが血吸いコウモリの意のままに動く吸血鬼と化すのは確実である。
既に城内でも、この問題は取り上げられているのだが、何しろ誰が吸血鬼なのか、そうではないのかの判別ができない。
無論、血吸いコウモリは抜かりなく、初日には城内にも自らの影響下にある吸血鬼を増やしており、既に家老職にあるものまで吸血鬼とされているものがいる有り様である。
血吸いコウモリはニヤニヤしながら天守閣を見つめている。
何しろ、自分が今のこの姿ではなく
化身忍者になる前の人間の娘だった頃の姿で近づきさえすれば
その見かけのあどけなさ、愛らしさから、まさか彼女が城内を恐怖に陥れた吸血鬼などとは夢にも思わず、容易く毒牙にかかってしまうのだから、こんなに簡単なことはない。
人間だった頃の姿‥‥…
彼女は、もはやその頃の自分ではなく、その魂が悪魔と化した今の自分の方が好きだった。
人間だった頃の自分は惨めだった‥‥
血車党の下忍の家に生まれ、忍者の家に生まれたものとして、厳しい修行は受けたものの、忍術は優秀だった兄とは異なり、鈍くさく、不器用な自分は針仕事などで兄を支える日々。
その兄が、かつて親友だった、今は血車党にとり裏切者と化した上忍の子、ハヤテを討ちたい一心で、自ら化身忍者となったとき
彼女の心は潰れそうになり、何とか兄とハヤテの死闘を止めようと、必死になったが
当のハヤテは無慈悲に、化身忍者と化した兄を無惨にも斬り殺した。
彼女は、それでも、仕方がなかったことと諦めようとした。
だが、骸骨丸様の、あのお言葉‥‥
「お前の兄を無慈悲、冷酷に、何の躊躇いもなく斬り捨てたハヤテは、別の見ず知らずの化身忍者を、見た目が可愛い女だからという理由で助け、今は仲間として迎え入れているのだぞ!」
それを聞いたとき、彼女の心には鬼が宿った。
本気でハヤテを殺してやろうと思った。
ハヤテにとって、親友だったはずの兄の命はそんなに軽かったのか‥‥
彼女が兄の技を受け継ぐ化身忍者になることを骸骨丸に対して志願したのは、その言葉を聞いた翌日である。
彼女は化身忍者となった、今の自分の姿は好きではなかったが、納得はしていた。
この身体は人間だった頃にはとても扱えなかった困難な忍術が易々と使え、人間だった頃には考えられない強い力を持つことも出来る。
空を飛ぶことも、必要な場所に瞬時に移動することも出来る。
人間だった頃の姿にだって、いつでも戻れる。
そして労せずして彼女は、あと数週間もすれば、一つの城下町を自分の意のままに支配することさえ出来るかもしれないのだ。
「裏切者のハヤテめ!」
彼女は闇夜に呟く。
「あと少しすれば、この私がお前をこの世から抹殺してやる、楽しみに待っているがいい!」
それは強い彼女の決意だった。