某STEP4を見て感じた「学P、プロデューサーの立場を抜いて話すときだけ眼鏡外しててほしい」の気持ちから派生した「学P、眼鏡をかけることでプロデューサーとしてのスイッチを切り替えてる概念」に基づくお話です。

親愛度コミュのネタバレを含みます。

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「象牙の塔は熱と踊る」を書いて程なくして、公式で広が学Pの部屋上がり込むのを見て椅子から転げ落ちた。

※拙作「象牙の塔は熱と踊る」の時系列を引き継いでいます。



篠澤広:割れた穴から君を見ている

 温風を吹く空調の駆動音とノートパソコンの控えめな打鍵音が、そう広くないプロデューサー科用の学生寮の一室に響く。肘掛けのないデスクチェアに腰を落ち着けている彼は、傍らに置いていたマグカップを片手に取り、温くなったブラックコーヒーを啜った。

 苦味の中の酸味を舌の上で少し遊ばせてから飲み下し、カップをコースターの上に戻す。耳に挿したワイヤレスイヤホンを指先で一回叩けば、一時停止していた担当アイドルの歌声が流れ出した。

 

 再びキーボードを叩き、ちびちびと減っていくマグカップのコーヒーがついに無くなる頃。

 

「ぐっ、う。これで、後はまとめだけ……」

 

 青年は椅子に座ったまま背伸びをして、固まった体をほぐす。ノートパソコンの右下は15時を告げていた。

 

「今日中には終わるだろうし、少し休憩――」

 

 そう零した矢先。

 ぴんぽーん、と。インターホンが鳴り、彼の身体が固まる。

 

「………またか」

 

 ケースから取り出した眼鏡をかけたプロデューサーは、カメラ越しの誰何もせず玄関扉を開けに向かう。この時間に来客の予定などないが、だからこそ彼には扉の向こう側にいる人物を察せていた。

 

「はあ、はあ……。来た、よ。プロデューサー」

 

 彼が扉を開けるのを待っていたのは、彼の担当アイドルである篠澤広だった。

 防寒のためかコートとマフラーを着込み、身バレ防止のつもりかキャップ型の帽子と色眼鏡をかけている。

 あまり統一感のない『とりあえずあるものを身に着けてきました』な風貌だが、それがどこか様になって見えるのは、曲がりなりにも彼女が今をときめくアイドルである証左だろうか。

 そして、そんな出で立ちより何よりプロデューサーが意識を向けるのは、立っているのも辛そうなほどの疲弊っぷりだった。冬場なのに顔は汗だく、その汗が冷たい風に曝されて体温を奪うのか、ただでさえ白い肌が一段階血色を薄めていた。

 

「………とりあえず、早く上がってください。万が一見られたら終わりなので」

「ふう……わかってる。お邪魔する、ね」

 

 プロデューサーは眉間を揉みながら、担当アイドルの手を取り自宅へ招き入れてから扉を閉める。

 プロデューサーとしてあるまじき行いであることなど百も承知。だが、それでも上げねばならない――追い返すわけにはいかない――理由は。

 

「……体力が戻ったら、さっさと帰ってくださいね」

「ふふ。うん、そうする。今日は遊びに来ただけ」

「いつもそうでしょうに」

 

 広がプロデューサーの部屋を訪れるとき、決まって必ずへとへとに消耗して来ていた。アイドル科の寮からはそこそこ距離はあるものの、入学当初ならばいざ知らず一年弱かけて体力を鍛えてきた広がここまで苦戦するほどではない。

 つまるところこれは、彼女が用意した上がり込むための口実だ。今追い返せば彼女はまず間違いなくアイドル科まで戻れない。だから帰る分の体力が戻るまでプロデューサーの部屋で休む必要があるのだ――と。

 

 自分のハンデを武器に変える強かさ。過酷なアイドル業界を生き抜く機転を身につけていると見れば歓迎すべきところだが、それでやることが一人暮らしの男の部屋に堂々と足を踏み入れるだけなのだからプロデューサーとしては大変に複雑だった。

 

(ああ、あの日に戻れるなら俺をぶん殴ってでも止めてやるのに)

 

 なぜ、こんなことになってしまったのか。勝手知ったるとばかりにリビングへと歩みを進める広の背中を、プロデューサーは土間に突っ立ったまま遠い目で見つめた。

 


 

 NIA期間中のある日、プロデューサーは一度だけ担当アイドルを自室に招き入れた。それは篠澤広の計画のもと、様々な事情が絡み合った結果の不可抗力だったが、プロデューサーが己の犯した真の過ちに気づいたのは、次の休みに広が彼の部屋まで勝手にやってきた時だった。

 篠澤広の優秀な頭脳には、プロデューサーの部屋への行き方が完全にインプットされていた。彼女はもう、いつでもプロデューサーの部屋に押しかける事ができるのだと悟り、彼は玄関に立つアイドルの目の前で膝から崩れ落ちた。

 炎上、スキャンダル、パパラッチ。様々なネガティブワードが脳内で編隊飛行を繰り広げ、しかしプロデューサーに最早抗う術はない。仮に何らかの交換条件で部屋に来るのを辞めさせたとしても、また別の形でスキャンダルのリスクが発生するのは火を見るより明らか。

 

 かくしてプロデューサーは、自室にアポ無し突撃をかましてくる担当アイドルを已む無く受け入れるに至ったのだ―――。

 


 

 自分の椅子に腰掛けたプロデューサーは、ベッドのマットレスを背もたれに床に座りペットボトルの麦茶をくぴくぴと飲む担当アイドルを眺めていた。

 

「ふう、ひと息」

「そうですか」

 

 彼女は両手で包むように持ったペットボトルから口を離し、湿った息を吐く。そのままきょろきょろと部屋を見回した。

 質素な部屋だった。娯楽に繋がるモノが殆どなく、ステンレスラックの本棚にはプロデュース論の書籍や元トップアイドルのエッセイ、芸能界を取材し続けたジャーナリストの自伝本など、参考資料になりうるものばかりが並んでいる。

 いくつかだけある漫画もアイドル物なあたり、かなり徹底されたストイックさを感じさせた。

 

「いて楽しい部屋じゃないと思いますよ」

「そう? そんなことない、よ」

 

 ぴっちりと伸ばされたベッドのシーツ、綺麗に整理整頓されゴミや無駄なものをほとんど置いていない空間。部屋にモノをため込みがちな広にとっては、数回訪れた程度では見慣れられない新鮮さがあった。

 

(いっしょに暮らすことになったら、プライベート空間はきちんと分けないとだ、ね)

 

「ふふ……」

「なんですか、急に笑い出して不気味な」

「なんでもない、よ。でも、担当アイドルが笑ってるだけで不気味はひどい」

 

 将来の楽しみを考えて笑う広を、プロデューサーは怪訝な目つきで見た。優秀な頭脳を持ちながら、無謀な選択肢を取りたがる彼女の事を理解しようと食らいついてきた――そしてなんだかんだと彼女の思考回路が分かるようになっていた――彼だが、それでも時折、本当に何を考えているのかわからなくなる。

 

「すみません。失言でした」

「うん、いいよ。許してあげる」

「じゃあ、俺は課題の続きに戻るので。広さんは適当に寛いでいてください」

「え。せっかくあなたの担当アイドルが同じ部屋にいるのに、目もくれずに課題? プロデューサーは薄情」

 

 あまりにもあっさりと担当アイドルに背を向けるプロデューサーに、広はショックを受ける……ふりをしていた。

 

「元々今日は課題を片付ける予定だったんです。そこへ押しかけてきたって構う余裕はありませんからね」

「むう」

 

 不機嫌にわざとらしく頬を膨らませた広は、ペットボトルをテーブルに置いて立ち上がり、とてとて歩いてプロデューサーの肩に手を置く。

 肩越しからひょこりとディスプレイを覗き込むと、文書エディタに文字がびっしり並んでいた。レポート系の課題らしい。

 

「ふーん、これが私を差し置いてプロデューサーを独り占めする課題なんだ、ね」

「なにに対して嫉妬してるんですか」

「でも、もうすぐ終わりそう」

「……ええ、まあ。後はまとめを書いたら終わりです」

「課題はこれだけ?」

「はい。終わったら週明けにやる予定だったH.I.F対策のミーティングをしましょうか。業腹ですが広さんがここにいるので、せめて有効に活用しなければ」

「ふふ、わかった。課題が早く終わるよう応援してる、ね」

「では肩から手を退けてください。気が散ります」

「おーきーどーきー」

 

 広は言われるまま、プロデューサーの肩から手を動かし、椅子の背もたれに指先をひっかける。離れる気など毛頭なく、プロデューサーがレポートを進める様を愉しそうに眺めていた。

 


 

(………?)

 

 そうしてしばらくプロデューサーの様子をみていた広だったが、小さな違和感を覚えていた。今見ている光景のどこかが変だと思いつつも、その正体が広の頭脳を以てしてもわからない。少々もやもやとしつつも、広はプロデューサーの観察に戻った。

 

 指先の動きが液晶の中に整った文章を形成していくのは見ていて飽きない。斜め後ろからプロデューサーの表情を伺えば、少し細めた鋭い目つきに胸が小さく高鳴る。時折タイプミスして、恥ずかしそうに唇を引き結びながら鼻を鳴らす様を見てしまうと、抱きしめたくなるほどに愛おしさがこみ上げる。

 

(ふふふ、でも我慢。抱きつく機会はプロデューサーが課題を終わらせてさえしまえばいくらでもあるから、ね)

 

 今度は少し顔を近づけて、プロデューサーの眼鏡越しの視界を見てみようとした広は。

 

「……あ」

 

 ここで違和感の源に気づいて思わず声を漏らした。

 

「な、なんですか」

 

 耳元でいきなり声を出され、広へと振り返った青年の目を広は見つめる。もっと言うと、青年の眼鏡のレンズを。

 

「……そのレンズ。伊達?」

 

 広の問いに、プロデューサーの眉が震える。一瞬、口を開きかけたが噤んで、課題に向き直った。

 

「……ええ、まあ」

「矯正用だと思ってた。てっきり」

「事実良くはないですが。日常生活に支障はありません」

「ファッションのため?」

「……担当アイドルに話すことでは、ありません」

 

 わざわざ『担当アイドルに』とつけるくらいなのだから、相応の理由があるのだろう。プロデューサーは意地悪でそんなことを言わないと、広はよく知っている。聞かれたくないことなのも理解する。

 無論、それで何もせず引くような殊勝さを―――篠澤広という少女は持ち合わせていないが。

 

「私とプロデューサーの間に隠し事はなしだ、よ」

 

 頬をぷにぷにと突いてくる広の抗議をしばらく無視して課題を進めていたプロデューサーだったが、やがて観念して広の手を払い除けた。

 

「……わかりました。話しますので、あとちょっとだけ待ってください」

 

 プロデューサーはタイプ速度を速め、残り僅かな文章を書き上げる。

 保存してノートパソコンを閉じ、椅子を回して担当アイドルに向き直った。

 

「少し、長くなるので。座ってください」

「わかった」

 

 広は言われるまま、ベッドのへりにちょこんと腰を下ろす。プロデューサーは心底言いづらそうにため息を吐き、あっちこっちに視線を彷徨わせた後、口を開いた。

 

「広さんは、学園長が唱えるプロデューサーのあるべき姿を知っていますか?」

「おじいちゃんが? たしか……魔法使い、だっけ」

「ええ、そうです。よくご存知ですね」

「受験するからには、受ける学校のことはちゃんと調べた、よ。アイドル科と、アイドルに関係するプロデューサー科については特に、ね」

「よい心がけです」

 

 『話を戻します』プロデューサーは咳払いした。

 

「『プロデューサーは、アイドルにとっての魔法使いであれ』。ここでいう魔法使いとは、シンデレラにドレスとカボチャの馬車を用意した魔法使いのような存在だと、俺は解釈しています」

 

 眼鏡の位置を整えたプロデューサーは、ため息を一つ吐く。背もたれから背中を外して身体をうつむけ、組んだ手を見下ろす。

 

「アイドルの成長と栄達のため、万難を正しく排するもの。己の水面下の努力などおくびにも出さず、不運に怯えず、窮地を恐れず。不安も懸念も無いかのようにアイドルを励まし、煌めきの檜舞台へと送り出す。それこそが、理想的なプロデューサーなのだと」

「なるほど、ね。たしかに魔法使いみたい」

「ええ、そうでしょうとも」

 

 広も、青年も。同じ事を考えていた。

 確かにそれは理想的だ。だが、人間はそこまで完璧ではいられない。もし真にソレを体現する者がいたとするなら、正しく魔法使いの如く、人の枠を越えるような傑物でもなければ成し得ないだろう、と。

 

「それでも俺は、その思想に賛同しました。初星学園の門をくぐる前から、アイドルの魔法使いになれるよう努力しました」

 

 青年は、その身を投げ出すように背もたれに預け、首だけを上向け天を仰ぐ。

 

「……できません。できるわけがない」

 

 広に、今の彼の顔は見えない。けれど、その言葉に含まれた、あふれるほどの慚愧と悔恨を感じ取っていた。

 

「元より常人に務まる代物ではないとしても、知識しか持ち合わせていない俺には、理想の足元すら実現は困難を極めました」

「………」

「それでも、せめて担当することになるであろうアイドルの前では、少しでも理想に近い姿を見せたい。その為に用意したのが、コレです」

 

 プロデューサーは眼鏡を外し、顔の前に掲げてみせる。

 

「この眼鏡を掛けている間、俺は俺の理想になる。どんな事態にも狼狽えず、どんなピンチもチャンスに変える。何一つ間違いなど起こさず、アイドルを守り、導き、トップアイドルへと最短最速で辿り着かせられる。そんな、鉄の意志と剛腕を振るう者に」

 

 プロデューサーにとって、その眼鏡はスイッチ、ないしは仮面だった。『完璧なプロデューサー』に自らを切り替えるための、『理想と現実の差に苦しみもがく大学生』を隠すための。

 

「そういう暗示を、俺自身に刻み込みました」

「……そっか」

 

 広はプロデューサーの独白を聴き、深く、深く―――腑に落ちた。

 プロデューサー科に通う学生は、現役の大学生ばかりではない。社会人の年齢になってから通う者も多いと聞く。

 単純な学力を競う場でないプロデューサー科において、蓄積された人生経験はそのままアドバンテージになる。逆に言えば、目の前にいる彼は既に不利を背負っていた。それでも、一時期は――広と契約を結ぶまでは――優秀な成績を納めていた。

 そのカラクリを、無謀な夢を叶えるために彼が磨き上げた武器の正体を、広は今知ったのだ。

 

「と、いう訳です。担当アイドルに話す内容では無かったでしょう」

「そう……だ、ね」

 

 知ったが、ゆえに。

 もっと、気になる事ができてしまった。

 

「ねえ、プロデューサー」

 

 広はすっくと立ち上がる。プロデューサーは眼鏡を掛け直し、広に向き直った。

 

「なんですか?」

「そういうこと、なら」

 

 広は、真正面からプロデューサーに近付き、その前に立つ。知的好奇心から――あるいはその先の光景を想像して――胸の高鳴りと頬の紅潮を自覚しながら、そっと彼の眼鏡のヒンジに触れる。

 

「コレを、外したら」

 

 いつでも眼鏡を外せてしまう。その状態にあって、プロデューサーはまるで抵抗しなかった。

 

「あなたは、プロデューサーじゃないあなたで、私を見てくれる、の?」

「―――」

 

 プロデューサーは脱力したように動かない。広は考える。プロデューサーは期待しているのかもしれない。きっと身に余るほど重いその仮面を、外してくれる存在を。

 あるいは、もしかしたら。

 

(私、が――)

 

 数ミリ単位で、少しずつ彼の顔から離れていく仮面。あと少し、ほんの少しで。飾らない彼が顕れる。その予感に胸を踊らせていた広の手は。

 

「ハハッ」

「!?」

 

 プロデューサーの口からこぼれた笑いに、唐突に止められた。

 その反応は、広の頭脳でも予想外だったから。

 

「ど、どうして笑う、の?」

「いえ、天才少女も自分の行いが齎す影響までは読み切れないのかなと思いまして」

 

 ズレた眼鏡を戻し、クックッと喉を鳴らすプロデューサーは、愉快そうな表情を浮かべた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「………あ」

「広さんの突飛な言動に、冷や汗を流した回数は両手じゃ足りない。ありえない無茶振りに眼鏡(コレ)を越えて何度動揺してきたと思っているんです」

 

 プロデューサーは、眼の前に立つ担当アイドル――この部屋に、本来いてはならない存在――を見上げながら、背もたれに体重を預ける。

 

「とっくにボロボロですよ、こんな暗示。あなたが俺の想定を遥かに越えて――ままならない人だったおかげで、ね」

 

 自己暗示は万能ではない。暗示の許容量を越えれば効果は無いし、暗示の有無で分かれる世界の両方に、越境して存在するものがあれば、ON/OFFの切り替えが曖昧になり暗示そのものが弱っていく。

 例えばそう―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、とか。

 

「コレに気休め以上の意味はありません。広さんのおかげでいつの間にかそうなってしまいました」 

「〜〜〜っ」

 

 羞恥でも、歓喜でも、怒りでもない。言いしれぬ感情に広の顔が真っ赤に染まる。自分が、彼の人生設計をいかに狂わせたか。それを改めて突きつけられて。

 しかしそれで湧き上がる感情は、決して後悔ではなかった。

 

「理想は崩れて、俺はずっと前から不完全な俺のままであなたと歩んできました。なので、今の俺なりに、今の広さんにできる最大限の支援をして、H.I.Fを勝ち抜いてもらいます」

 

 だらんと垂れた広の手を、プロデューサーは両手で取り、優しく包み込む。

 

「俺の夢と、理想と、未来をあなたに賭けます。あなたの敗北は俺の破滅。広さん、だから―――」

 

 鬼のような無茶振り。勝算は絶望的。死の淵まで負けが込んだギャンブラーでも躊躇うような賭け(ベット)に、彼は己の全てを委ねて。

 

 

「―――勝ってくださいね」

 

 

 担当アイドルを、死地に突き落とす。

 あまりにも無謀で、無慈悲な言葉に。

 

「ふ、ふふ。わ、かった、よ。プロデューサーの夢も理想も、未来も。私が掴み取ってあげる、ね」

 

 だからこそ彼女は、不敵に笑った。

 

「いい返事です。ではそろそろ――」

「やだ」

 

 『お開きにしましょうか』。言いかけたプロデューサーの言葉を広が遮る。

 

「えっ」

「プロデューサーは本当にひどい、きちく。担当アイドルにありえない無茶振りをして、それで終わりなんて信じられない」

「……では、どうすれば」

「……ふふ」

 

 広はプロデューサーが包み込んだ手を引き抜く。

 憤りと興奮が混じった表情を浮かべたまま彼女は、プロデューサーの膝の上に乗り上がって。

 

「べたー」

 

 彼の肩に頭を乗せながら、真正面から身体を預けた。

 

「……ええと」

「私が良いっていうまで、抱きしめて。そうしたらこの先も頑張れる、よ」

「……そんなことしなくたって、あなたは頑張るでしょう。趣味なんですから」

「じゃあ、もっと頑張る。一番星(プリマステラ)にだってなれるくらい」

「…………わかりました」

 

 観念してプロデューサーは、細い身体に両の腕を回す。

 少し、キツめに。彼女を抱きしめた。

 


 

 プロデューサー科の寮の一室。温風を吹く空調の駆動音だけが響き続ける、そう広くないその部屋で、更に狭い二人だけの世界を構築しながら。

 

「んふふ」

 

 篠澤広は、満足げに笑った。




概念を思いついたきっかけは別のキャラだけど、SSは担当で書くぞと意気込んだところ、出来上がったのはこの概念に対する変化球でした。なんでやろなあ……

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