甘音おゆさんの単発小説です。
元気がない事を気にして、もしこれで元気になればいいなと思い、作りました。
もし面白かったら嬉しいですので、どうぞご覧ください。

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第1話

 

 空には天使という神の使いが住んでいた。

 彼らは穢れ無き白い翼を持ち、地上で亡くなった人を天界へ旅立つお手伝いをしている。

 そして、神様へ信仰として聖歌を歌い、天界を綺麗に維持していた。

 

 ……だが、そんな天界でも悲しい出来事はある。

 

 稀に翼が小さい、片翼しかない天使も産まれたりするが、そんな彼らを穢れを浴びた落ちぶれた天使と差別され、例え同じ天使でも仲間として混ぜて貰えず、神の信仰としての聖歌も歌わせて貰えなかった。

 

 そんな翼がない天使の物語が始まる。

 

 ある天国の一軒家に、天使ではない人間の女の子がいた。

 だけど、彼女も天使であり、両親は立派な白い翼も持っていた。

 

 その彼女の名は甘音おゆ。

 彼女も差別されており、両親以外の天使の冷たい視線を恐れて、なかなか外には出れなかった。

 両親はそんなおゆをかなり心配していた。

 

 「ではおゆ、私たちは仕事に行ってくるね」

 「さて、今日も頑張りますか」

 とおゆの母親と父親は玄関から出て、翼を広げて仕事へと飛んで行く。

 

 そんな両親の後ろ姿を見届け、家の中でたった一人、おゆは家の家事などをする。

 「空を飛ぶのってどんなのだろうな……」

 おゆはそう呟いてしまう。

 それは飛ぶ事の興味でもあるが、飛べない事に対する自傷でもあった。

 

 食器洗いやテーブルを拭いたりし、洗濯物を干したりするが、家でたった一人なので、何処か寂しさをおゆは感じていた。

 

 その寂しさを紛らわす為におゆは父親が持ってきた『テレビ』という物の電源を点ける。

 これはおゆが家で寂しくならないように父親が何処からか買ってきた物である。

 

 電源が点けられたテレビはバラエティーや映画、アニメなど豊富に流れており、特におゆが好きなのはアイドルなどの活動者達が映っている音楽番組などが好きであった。

 何故その番組が好きになったのかは、神の為でなく、自分自身が好きなように歌い、まるで輝いて見えていたからだと感じていた。

 

 「……私もこんな風になれるのかな」

 

 好きなように歌い皆を喜ばしてる姿におゆは夢見ていた。

 

 暫く家事などをしていると、もう夜の時間で天界は暗くなり始める。

 両親も仕事から戻り、家族の時間が訪れる。

 

 父親と母親は深く椅子にもたれ、ゆっくりとしていた。

 おゆもゆっくりしていたが、テレビで見てからずっと気になった事を話そうと決めた。

 

 「ねぇお父さん、お母さん、聞きたいことあるんだけどいい?」

 「お?なんだいおゆ?」

 と父親は言い、母親もおゆが何を話すだろうか視線を向ける。

 

 「お父さんの買ってくれたこの『テレビ』で見てたんだけど、このアイドルという人達は神へ捧げるのでなく、自分から好きに歌えるの?」

 とおゆは『テレビ』の電源を点け、録画していたアイドルの番組を見せる。

 例え録画であっても、まだおゆから見た彼らアイドルは輝いて見えていた。

 

 「アイドルか……彼らは好きに歌ってないよ。元気がない人々の為に歌っているんだ。例えるなら、自身を神様として人々を導いてる感じかな?」

 

 「その解釈でいいんじゃないかな貴方」

 

 と父親は説明し、母親は笑って肯定する。

 

 その説明を聞いたおゆは、なるほどと関心する。そして、もう一度テレビの方へ見つめ返す。

 

 ……私もあんな風になれるのかな?

 

 驚い歌う彼らはやっぱり輝いており、お客さんを笑顔にしている姿におゆはそう思い始め、ふと口を滑らす。

 

 

 「……私もあんな風になれるのかな?」

 

 と呟いた。

 その呟きを聞いた父親と母親は目を丸くする。

 

 今まで他の天使の視線を恐れていたあのおゆが、アイドルみたいになれるのかなと口にしたことは、生まれて初めてで、それは両親にとってかなり嬉しい事であった。

 

 「そうかそうか、なりたいか~それなら地上に降りて頑張らないとだな」

 父親は笑顔でおゆの頭を撫でて、アイドルに興味持った事に喜び、

 「おゆは可愛いから、きっとなれるわよ」

 母親もおゆのアイドルになった姿を思い浮かべ、将来を楽しみにしていた。

 

 ……ただ、おゆはふと悩んだことを話す。

 

 「……だけど、アイドルになってもいいのかな……私は天使の子供なんだし、天使じゃない事をしてもいいのかな……?」

 それは不安そうな声で、目指していいのかと迷い始めていた。

 

 そんな迷っているおゆに両親は優しく微笑み、

 「そんな事はない、誰だってそれぞれの生き方があるんだ」

 「そうよ。迷う気持ちは分かるわ。だけど、初めておゆが興味を持てた事に私達は嬉しいし、応援したいわ。」

 

 「「だから、やってみたい事をやってもいいんだよ」」

 

 そう両親は話す。

 その言葉は、おゆの迷いを消し、興味を持ったアイドルの道を導いた。

 それはおゆの心に響き、涙を流す。

 泣いているおゆに両親は優しく抱きしめ、落ち着くまでずっと側に居た。

 

 夜が過ぎる。

 おゆはアイドルの道に進む事を決め、地上に降り立つ為に持っていく物の用意したり、どうやって地上に降りるか調べたりしていた。

 両親もおゆの力になれるように、他の天使達から地上の事を色々と聞き回っていた。

 

 そんな準備期間はあっという間に過ぎ、もう地上へ降り立つ日へとなる。

 

 父親の紹介で、地上で亡くなった人達を天国へ連れていく天使が連れて行ってくれるという事で、外で待っていた。

 

 おゆはしっかりケースや身支度をし、もう地上へ旅立つ準備を終え、いつでも向かえる状態であった。

 「そろそろか……」

 と父親は少し寂しそうに言い、母親も隣に居た。

 

 「うん……!」

 おゆは見知らぬ地上に降り立つ事に緊張はしていたが、何処か楽しみにしているのか、ドキドキと心臓の鼓動が早かった。

 

 おゆは家の扉を開け、待っている天使の元へ向かう。

 両親もお見送りする為、その後をついていく。

 

 「お?来たか?」

 家の前に待っていた天使は少し背伸びして、お仕事モードへと切り替える。

 そんな天使の隣に、地上の人達が使う『車』というのが停まっていた。

 

 その『車』は亡くなった人の物が大きかったり、重かったりする時に使われ、天界を行き来出来る乗り物である。

 それで地上へ連れていくという事だそうだ。

 

 おゆは『車』の後部座席にケースを乗せて、両親の方をもう一度見つめる。

 もういつ戻れるか分からないので、忘れないようにしっかりと脳裏に焼き付けるように。

 

 「……おゆ、貴方に伝えたい言葉があるの」

 

 母親はもうすぐ旅立つおゆへ最後の言葉を伝えたい事があるみたいだ。

 おゆは(何を言いたいんだろう?)と頭にハテナを浮かべる。

 

 母親と父親が急におゆを優しく抱きしめて、こう伝える。

 

 「「私達はこれからもおゆの進みたい道を応援しているよ。」」

 

 そんな両親の言葉は、おゆはこんな私を応援してくれる事に少し涙を流し、おゆもそのまま抱きしめ返した。

 

 

 「お父さん、お母さん、行ってきます!!」

 

 と動きだした『車』の窓から身を出して、両親へ手を振る。

 

 「「いってらっしゃい!!」」

 

 両親も手を振り返して、『車』が見えなくなるまで手を振っていた。

 

 ……もう天界は見えなくなり、もうすぐ地上が見えてくる。

 やはりまだ緊張があるのか、おゆの手は震えていた。

 一人で大丈夫かと不安になり始める時、天界から聖歌が聞こえてくる。

 

 それは2人の天使の聖歌で、歌声の正体はおゆが知っていた。

 

 そう、両親の聖歌だった。

 その聖歌は神様へ送るものでなく、おゆへ向けて、新たな生活に祝福を向けた、おゆだけの聖歌であった。

 

 両親の歌声はとても美しく、透き通った歌声で、あまりの感動におゆはまた泣き出しそうになるが、お陰で先程の不安感は不思議と消えていた。

 

 

 今、翼の無い天使がアイドルを目指す話が始まったのだ。


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