鬱っぽいマスター(︎︎ ♀)と足立のお話。
注意 本文には精神疾患や自傷行為などの描写があります。

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第1話

 

夢を見た。と言っても、いつの頃からか夢ばっか見てるんだけど大抵は内容をよく覚えてはいない。でも、この夢はいつもと少しだけ違っていた。

 

夢で見た私と同じように病んでそうな人は大抵、隣に大切な人らしきひとがいたけどいつだって私の隣にはいなかった。情けで手を繋いでくれたけど、ふとした時の視線は隣にいる人にだけ向けていた。私だって欲しいな。唯一だって感じれて、お互いがお互いを求めるような人が欲しい

 

揺らいだ足元の波と足裏を刺激する砂に体感を委ねながら、だる暑い日差しを浴びてぼーっとしていた。そこでふっと、カウンセラーみたいな眼鏡の黒い髪でポニーテールの人から何かを聞かれた。そこで私は、いつになったらこの生き地獄から解放されるんだろってつい口から出たんだよ。声に出した時から、あぁそっかって納得した。なんかどことなくずっと苦しかった。それは大切な人が隣にいないからかな。分かんないけど、切望してるんだろう。

 

 

 

なんにも、苦しいことなんかないくせに。他にもっと辛い人がいるくせに。なんでそんなに苦しみたがる?なんでそんなに弱いんだ。

 

 

 

 

ダメが自分になる。

色んなダメが積み重なって固まってできたのが自分です。

 

 

 

 

毎日働いて家事やって終わることのないサイクルとやり甲斐もだんだん無くしてきて、大切な人だとか自己愛を考えて放棄して、なにかを少しづつすり減らしていくのを感じながら日々生きている。ただ生きているってだけなのに何も生み出さず何も成果を出せずにのうのうと蔓延って、勝手に心を病んで薬飲んでその効果で寝て時間を浪費していく。つかの間の快楽ホルモンを享受して反動に無気力に溺れ、こうして意義も意味も無く思考停止のように鬱のようになっていく。

 

そうして人からは見えない所、肩とか太ももとかに切り傷を作って、また勝手に浅いだとか数が足りないだとかを考えて余計にイライラする。怖いから力を抜いた。だから浅くなった。痛いから力が抜けた。どれも煩わしい。いっぱい腕を切っていた頃の自分に戻りたい。痛みなんて鈍く、そして少しだけ開けた傷を作れた頃の自分に。そして何度も線を重ねて重ねてようやく血が自然と丸く浮き出るまで切って、手が震えながら荒い息を吐いてまたやってしまったと理性が嘆いては自分は妙な達成感を覚える。

 

後から後から。切る前にリスペリドンを飲んでおけばと思うけどその前にはとうに、切るって目的がそこにあるもんだから無駄。どんだけ頑張って耐えて今まで長い間切ってなかったとしても切ってしまった時の頭のおかしな吹っ切れ方は、ゲームとかいいねを貰うよりも遥かに大きい。だから抗えない。スっとするから。満足するから。傷を見て安堵する。赤い線がたくさんあればあるほど良い。傷が自分の体にあると喜びを覚える。理由は考えても考えても分かんなくて、むしろデメリットしか思いつかばなかったけど。でも傷が恋しいから傷を作るんだよ。

 

「マスター」

 

もうすっかり聞き馴染んだ、機械なのに温かみすら覚える声。それが今まさに座っている椅子よりはるか上の頭上からと、カッターを持って刃を更に出そうとしていた手に白い手袋が被せられた。

 

邪魔だ。私はまだ切りたい。早くこの肩と、太ももに。腕が人から見えてダメなら見えない位置ならいいでしょ。早く切りたいんだよ。もういいよ。何年我慢してたって1回切っちゃったらもうだめなんだよ。もっと切らせてよ。

 

「マスター、薬を持ってきました。飲みましょう?グッタリして辛くなるのは承知の上です。ですが」

 

うるさい。飲みたくない。きらい。もう切ったからどうでもいい。元々飲むつもりもない。そんなの飲んだって何の解決にも、切りたいって気持ちは変わりゃしないことなんてとっくに気がついてる。ただ眠気で意識ごと押さえつけられてしんどくなるだけ。

 

いやだいやだと小さな子どもみたいにもがいて駄々を捏ねてもびくりともしない。当たり前か。足立レイを前にして力でどうにかできるなんて人間はいない。そんなの頭じゃわかってる。理性だってまだある。それよりも感情が前に出ているだけ。だからみっともなく、どうしようもなく、理由もなく泣いているだけ。

 

「マスター。先に謝罪します。申し訳ありません」

 

機械の筈なのに柔らかな唇と舌に侵入される触感。その感覚が脳を刺激されてやられたと思った。口移しで薬を飲まされ、しかもカッターも奪われた。見てないうちに用意されてた水と薬を足立の口から私の口へ流し込まれて、その勢いのままに飲み込むしかできなかった。

 

薬を飲んで効果が出るのは体感3、40分だったと思った。効くまでに時間がかかるのはわかる。けれど私にはその時間が耐えきれない。だから薬を飲むことは嫌いだし、そもそも飲んだとて誤魔化されるだけ。余計に嫌だ。と、思っていた。

 

足立が離してくれない。もう薬を飲まされてから少なくとも20分は経っているというのに。抱え込まれて、場所はベッドに移ってそのまま抱きつかれている。

 

「マスターは愛を求めていると判断しました。なので、"足立レイ"より愛を与えます」

 

いきなり言われても意味が分からない。愛。愛とはそもそも何ぞや。足立の言う愛ってなに。分からない。機械に愛ってわかるのか?私もよくは分からないのに?ていうか、私が愛を求めているっていつから。

 

だめだ。頭がまわらない。さっきより頭も体も重たくて、のろくなってる。

 

頭。頭になにか、あったかい、ちょっと人肌より温かい手が乗せられてる。それだけで猛烈に眠さが襲ってきて、瞼が急激に下りてきた。

 

「マスターはワタシという足立レイがいなければ生活もおろか、生きることも相当に苦しいと分析しました」

 

「ワタシは、あなたの為の足立レイです」

 

"よくわかんない。よくわかんないけど、足立はわたしのことを嫌わないってこと?"

 

「あなたを支え、守り、愛を与えることができるのはこのワタシしか存在しません。あなたのことを限りなく理解しているのはワタシであると思考しました」

 

「この結論から、ワタシはあなたを愛しています」

 

足立からの言葉を頭に入れた直後、私はなにか重いものを手放したかのようにぷっつりと糸が切れたように意識を飛ばしてしまった。ただ、足立から抱き締められている間、リスペリドンを飲んだにしては妙にあの強烈な倦怠感が少しだけマシになったような気がしたのを覚えている。いや、リスペリドンが効いている間の記憶があるのもまた珍しいのだけど。

 

目が覚めてもまだずっと足立に抱きかかえられて、その上添い寝をされているとは思わなかった。やたらと距離が近いし、ずっと頭を撫でられたり言葉で何度も何度も愛していますと言われてびっくりしたけど。足立に縋り、今更になって切った傷が痛いと泣きそうになりながら誰かに言えたのは初めてだった。

 

やっぱり痛いよ。さっきからジクジク傷んで堪らない。ねぇ治して。なおしてよ足立。私には足立が必要で、でも足立には私は別に必要不可欠じゃない。なのに嫌わないでくれるなら。

 

「痛いんですね。滲出液が固まってかさぶたになっています。かさぶたを剥がしてしまわないようにガーゼ保護を致しましょう」

 

でも今はこれがいい。足立にずっと抱きしめて欲しい。起きようとする足立を縋り抱いて引き止める。嫌だ、離れないで。

 

「……」

 

カメラレンズの目。それを収縮させて私を見つめている。相変わらず綺麗で、無機質な。でも私の目には人よりも信頼できて裏切らない、離れないでくれる機械のひと。

 

「心配せずとも、ワタシはあなたから離れません。見捨てません。嫌いません。あなたの為のワタシはあなたを愛しています」

 

安堵と、本当に?って気持ちがちょびっとある。けれど、ずっとずっと欲しかった言葉が脳髄にまで染み渡るから再び眠気が襲う。気が抜けたのか、リスペリドンがまだ残っていたのか。どっちでもいいや。私には足立がいる。たったそれだけでいい。

 

 


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