某年四月、星尾女子高等学校に通う少女、一之瀬花名。
彼女には、周りの人々には言えないある秘密があった…。

ひとまわり、遅れ始まる物語。



※スロウスタートの主人公花名ちゃんの性格が阿良々木くんみたいだったら…という妄想から生まれた二次創作です。


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マジで何?って作品です。
温かい目で見てくださいっ!(強制)






はなレイトループ 壱

 

001

 

 

 朝。

 夜が過ぎ、太陽が昇り始めてから昼前までの時間帯を指す──。

 

 などと格好をつけて解説してみるが、要するに言えば起床時刻。

 今日も今日とて目覚まし時計が元気に鳴り響き、朝の訪れを私の脳に告げてくる。

 心地よい眠りを妨げられた苛立ちをぶつけるように、やや強めにそれを停止させる。寝ぼけ眼を強めにこすり、半ば強引に身体を再起動させていく。

 

 立ち上がってカーテンを開けば、これまた朝を告げる日差しが部屋へと駆け込んできた。

 

 

 

 ───朝。

 

 願うならば、訪れてほしくなかった、朝。

 

 

 

 窓から見えるのは、流石に見慣れた景色。

 これから約三年の間、身続けることになる景色。

 ………生まれ故郷とは違う(、、、、、、、、、)、見慣れた景色。

 

 

 

花名(はな)ちゃーん!?

 

 起きてる!? そろそろ出ないと遅刻しちゃうかも…」

 

 

「…うん、今起きたところ。

 すぐ行くから待っててくれる?」

 

 

 インターホンから聞こえてきたのは、私も住まうこのアパート……『てまりハイツ』の管理人である、京塚(きょうづか)志温(しおん)の声。

 彼女は私の五歳年上の従姉(いとこ)に当たり、元々管理人だった祖父(私にとっても祖父に当たる人物だが)より管理人の椅子を譲り受け、昨年よりこのアパートにて管理人をしている。

 

 私が故郷である東京を離れ、このアパートにて暮らしていることの理由を挙げるとするのならば、間違いなくその点は一つとして食い込んでくることだろう。

 

 ………(もっと)も。

 (もっと)もっとも(、、、、)な理由を挙げるとするのならば、それは聞くも涙、語るも涙───などということは無い、

 実にくだらない、取るに足らない個人的な理由があるだけだ。

 

 なので、そんなくだらない理由を解説するまでもないだろう。

 さっさと朝の支度を済ませるため、クローゼットを開く私だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

002

 

 

 

 玄関を出る。

 

 

 新しい春。

 新しい街。

 新しい制服。

 新しい学校。

 

 

『新しい』に満ちた私の世界の中で。

 

 ただ一人、その中心に立っている筈の、他ならぬ一之瀬(いちのせ)花名(はな)という私だけが。

 新しくない私、としてここにいるのは、なんと皮肉な話だろうか。

 

 

 通学路を歩けば、やはりと言うべきか当然と言うべきか、もはや必然と言ったほうがいいのか。

 今まさに私が身に纏う制服と同じ姿の少女たちの姿を見た。

 

 

 新たな春に浮かれる者。

 新たな学校に浮かれる者。

 新たな学年に浮かれる者。

 

 

 ただ一人の例外もなく、浮かれた笑顔を浮かべる少女たちをみて確信する。

 

 

 

 彼女たちの中で、『新しくない』のは私だけなのだと。

 

 

 

「……まあ。 そりゃあ、そうだよな」

 

 

 

 などと、

 自嘲するように、

 自虐するように私は笑う。

 

 

 そうやって感情を反芻させているうちに、学校へとたどり着いたのだった。

 

 星尾女子高等学校。

 

 今の時代には珍しい女子校である。他学園の男子部との共用施設もあるらしいのだが、大して気にすることでもないだろう。

 玄関にて外履きから内履きへと履き替え、クラス分け表を確認し、そのクラスへと向かい自身の席へと着席する。

 実に一年ぶりの作業であるが、やろうとすれば案外すんなりと出来たものだ。

 

 

 そして入学式。

 特に語ることもない、ごく普通の入学式だった。

 

 

 教室に戻れば、ホームルームが始まる。

 私の席は一番端にして一番上。五十音順の宿命というやつである。今の時代に“あ”から始まる名字など大して珍しくもないはずなのだが、残念ながら私は五十音の神というやつに見放されてしまったようだ。

 

 

「おーい一之瀬、早く自己紹介しろー」

 

「あ……すみません」

 

 

 先生からの催促が飛んできた。考えすぎたようだ。

 まあ、大して言うこともないのでとっとと言ってしまおうか。

 

 

「一之瀬花名です。何年の付き合いになるかは分かりませんが、平穏に過ごせれば幸いだと思っています。よろしくお願いします」

 

「お前なあ…ビジネスシーンじゃねぇんだから」

 

 

 そうは言われても、特に語ることなど無いのだから仕方がない。一つあるとして、そんなモノをこの場で語ろう物ならば一瞬にしてクラスの空気が氷河期レベルに瞬間凍結すること請け合いだろう。

 そんな自体はさすがの私としても望ましくはない。

 

 

「お……何だよ話すネタあんじゃん。

 一之瀬、今日誕生日だぞ」

 

 

 誕生日。

 特定の人物の生まれた日、或いは毎年迎える誕生の記念日のこと。

 本日四月六日は、一之瀬花名という私の誕生日なのである。

 

 私という存在が生を認定された日。

 私という人間が歳を重ねた日。

 私という存在の歩みに関わらず、毎年訪れる日。

 

 普段より豪勢な食事を摂れること以外、特に語ることもない日だ────ったのだ。一年前までは。

 

 

 話を戻す。

 意外なことに、クラスメイトからは祝福の声や拍手が飛んできた。本日出会ったばかりの、素性も知らない私の誕生日を純粋に祝っていた。

 

 

 純粋な、祝福。

 それをまっすぐに受け止められない、捻くれた私。

 

 それが益々、私が『取り残されている』ことを訴えかけてくるようで。

 ────どうにも、痛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

003

 

 

 

「お誕生日のビジネスマンさん!」

 

 

 自己紹介も終わり、本日は解散となったクラスルームで。

 声を、かけられた。

 

 

「………その実に愉快な呼び方は、私に向けたられたものと考えてもよいのだろうか」

 

「まあ、あなた以外に今日がお誕生日の方は居ませんからねぇ」

 

 

 眼前の少女は、そう愉快そうに笑いながら言った。

 それから、さらに二人の少女が近づいてきて、手を差し出してくる。

 

 

「…えっと、百地(ももち)さん、だっけ?

 この手は何なんだ?」

 

「お気軽にたまちゃんとお呼びいただいて結構ですよー。

 これ、良かったらプレゼントです」

 

 

 ……ああ、成る程。

 確かにそんな理由でもなければ、(えん)(ゆかり)も無い赤の他人にわざわざ話しかけることなど無いだろう。

 ……まあ。それはあくまでも『私ならば』という前提の話であり、眼前の彼女もそのような性質を持つのかというのは怪しい話ではあるのだが。

 

 と、いつまでも差し出された手を放ったらかしにするわけにもいかないので、その下に手を広げて差し出す。

 百地さんの握った手が(ほど)かれると同時、私の手の上に小さな物が落ちた感覚がした。そこには、小さな絵馬が、これまた小さなビニール詰めにされたものが乗っていた。だいたい携帯ストラップ位のサイズ…というより、それそのものという小さな絵馬が。ちなみに、『交通安全』の『安』の字だけがやたらと達筆だった。

 

 

「じゃあ私からも。ハイ」

 

「わたしも。はい。」

 

 

 ………これを三つ貰ったとしてどうしろというのか。彼女たちの目には私がこの後事故に遭う運命でも見えているというのだろうか?

 

 

「いんやー。お誕生日だと知らなかったものでこんなものしか用意できずすみませんです。来年こそはもっと良いものを用意しときますからね!」

 

「というか、後でちゃんとしたもの渡すわ」

 

「誕生日といえばホールケーキ。あとロールケーキも。」

 

「それはかむが食べたいだけでしょ?」

 

 

 ──おかしな話だ。

 つい先程出会ったばかりの私にプレゼントを渡し、あろうことか来年の計画までしている。

 彼女たちのなかで私は、既に友人にカテゴライズされているとでも言うのだろうか。

 

 まあ、真意がどうであれ。プレゼントを貰ったのは事実なのだから。

 

 

「………その、なんだ。ありがとう。

 これだけあるなら、少なくとも向こう三年は無事故で過ごせそうだな」

 

「……」

「……」

「……」

 

 

 アレ。 なんだ、この空気は。

 私はそんなに場を冷やすようなことでも言っただろうか。

 

 

「あははっ!うん、おめでとう。

 でもそれ、なんかものすごく事故りたくない人みたいになってない?」

 

「確かに!これなら登下校も安心ですね!」

 

「ありがたや。」

 

「いや、私に拝まれても」

 

 

 あくまでご利益(りやく)だとかそういうのはこの絵馬から来るものだろうに。

 

 

「あ、でも……交通安全の絵馬あげちゃったから、私達が事故に遭う。」

 

「いや、流石に考えすぎだろ…」

 

 

 こんなものの有無で人の運命が定めれてたまるか、とも口に出そうとしたが、一応誕生日のプレゼントであるものに対してそのような言い方をするわけにもいかず口をつぐんだ。

 

 

「じゃあ、私たちが一緒に帰れば良いんじゃない?」

 

「おお!それは名案ですね!

 駅までご一緒しましょう!」

 

「いやいやちょっと待て。私は徒歩通学だから駅までは歩かないぞ」

 

「なんと!徒歩圏内ですと!?」

 

「わあ、羨ましい」

 

「毎日夜ふかしし放題。」

 

「褒めるとこそこかよ……」

 

「あ、でも徒歩通学なら……駅前の桜並木、まだ見てないんじゃない?」

 

「もうすんごいんですよ!桜吹雪で、こうブワーっと桜のトンネルが!!」

 

 

 ……確かに、桜の花は嫌いではない。

 日本国の代表として選ばれ続ける事も納得な美しさは、それだけで日本人に生まれたことを感謝してもいいレベルだろう。

 

 

「……そういうことなら、お言葉に甘えるとするか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

004

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後の帰り道。

 私は思いがけず、三人の少女とともに駅までの道を歩いていた。

 

 

「にしても、入学式とお誕生日が同日とは。

 めでたいこと続きですねぇ、はなちゃんさん!」

 

「『ちゃん』なのか『さん』なのかどっちなんだよ。

 あと、どちらかと言うと私は入学式には億劫な方だと言っておく」

 

「およ、そうでしたか。

 では今後は『花名ちゃん』とお呼びさせていただきますので、私のこともぜひ『たまちゃん』とお呼びください!」

 

「了解した、百地」

 

「了解してませんねえ!? まさかの名字呼び捨てとは!」

 

「こっちの方が気兼ねが無い気がして良いと思わないか?

 あと個人的に呼びやすい」

 

「ム。一理ありますね」

 

「アハ、確かに。

 ねえ、ちょっと聞きたいんだけど」

 

「何だ、ええと……十倉(とくら)

 

「うーん、できれば栄依子(えいこ)って呼んでもらいたいんだけどなあ……まあいっか。

 花名って、やっぱり春生まれだからそういう名前になったの?」

 

「私の両親の言う限りでは、そうだな。

 ただ……それで調子に乗った両親が弟たちの名前もそれ由来の名前を付けたもんだから、『姉ちゃんのせいで男らしくない名前にされた!』ってとばっちりを食らったよ」

 

「へえ、花名って弟がいるんだ。

『たち』、ってことは何人かいるの?」

 

「双子だよ。上が咲人(さきと)で、下が実里(みのり)

 どっちも私の自慢の弟なんだぜ」

 

「ふうん…弟くんたちにも会ってみたいなあ」

 

「イベントスチル!イベントスチルの匂いがします!」

 

「どんな匂いだよ……。

 ところで名前の話に戻るんだが、百地の名前も結構珍しいよな」

 

 

 そう私の言葉を聞いた瞬間、百地はあからさまな拒否反応を見せる。私の言葉が気に障ったんだろうが、反応が見えたのは『百地の名前』の部分だった。自分の名前に嫌な思い入れでもあるのだろうか。

 

 

「あれ…たまて、自分の名前好きじゃない感じ?」

 

「うーむ…そういうわけでは無いのですが…。

 えっとですね。たまてという名前は玉手箱が由来な訳でして…」

 

「ああ、開けると歳をとらされるとか、遅れた時間を無理矢理もとに戻させるとかいうあれだろ?」

 

「…ええと、花名ちゃんの浦島太郎新解釈については後日議論するとしまして。

 玉手箱という言葉はですね、玉手/箱と区切るのではなく玉/手箱と区切るのですよ!」

 

 

 何気に初耳な情報だった。

 余談ではあるが、玉手箱とは美しいものを意味する『玉』、小道具を入れておく小箱を意味する『手箱』を組み合わせた造語なのだという。大抵の場合では一息で言い切ってしまうことがほとんど故、その本来の区切り方には気づかないものなのだろう。

 加えて、現代において『手箱』という単語が殆ど登場する機会は失われていること、『箱』という単語がそれひとつとして扱われやすいことがそれを助長させていると言える。

 

 つまり、あくまでも百地の両親が愛娘に『玉手箱』から『たまて』と取って名付けたのは、呼び方の聞き心地だとか愛らしさだとか、そういう事を意識しただけに違いない。

 

 

「ん、分かった。」

 

「? 何だよ千石(せんごく)

 

「『玉手箱』から『たまて』って名前にするのは、

 『肉団子』から名付けようとして『肉団』って名前にするようなもの」

 

「プッ」

 

「ぶふっ」

 

 

 失礼を承知で言うが、吹き出した。

 千石の言ったそれはもう、ギャグ漫画顔負けの論だった。私の腹筋が即座に降伏を受け入れてしまったほどには。

 ちなみに十倉の方が私以上に重症だ。腹を抱えてヒィヒィと悶えている。

 

 

「あっははは!肉団子から、肉団って、ははは…!!」

 

「つまり、その場合は…百地、肉団……んフフッ」

 

「あははっ、花名、余計なこと言っちゃダメだって…!!」

 

「ちょっとお!二人とも笑いすぎですよ!!

 なんですか百地肉団って!お笑いグループですか!!」

 

「お笑い、グループ……!!あっはは…!!」

 

「はぁ、はぁ、ははは…!! おえっ」

 

「花名ちゃんに至っては笑い過ぎで吐き気(もよお)してるじゃないですか!」

 

 

 その後、百地の怒りなどまるで気にかからないほどに、私と十倉はひとしきり笑った。

 

 

「あーもう!私の話はここまで!おしまいです!

 かむちゃんのお話をしましょう!」

 

 

 そして議題は再び移り変わり、千石の名前へと。

 にしても千石(せんごく)(かむり)とは、なかなかどうして仰々しさを感じさせる名前である。この愛くるしさを前面に押し出した見た目からは、先んじて聞いておかねばまるで合致しないだろう。

 名前負け、などという単語があるが、この場合負けているのは文字通り名前の方ではなかろうか…。

 

 

「むう…花名、失礼なこと考えてる」

 

「え?」

 

 

 私はまるで口に出した覚えはないのだが、ひょっとして千石は超能力でも備えているのだろうか。

 

 

「かむちゃんのお名前もなかなか珍しいですよねぇ」

 

「確かに。(かんむり)って書いてかむりだもんねぇ」

 

「かんむり…つまりティアラですか!?

 もしかしてかむちゃんって、とてつもなくやんごとなき血筋の御方だったりするんですか!?」

 

「そんな血筋の子がこんな平々凡々な学校に通うかよ…。

 それで千石、実際のところはどうなんだ?」

 

「んん…たぶん、カンムリワシから取ってる」

 

 

 カンムリワシ。漢字で書くと冠鷲。

 鳥綱タカ目タカ科カンムリワシ属。

 イメージの中ですら、やはり千石とは似ても似つかない。

 

 

「コレも、カンムリワシからいただいた。」

 

「そのリボン冠羽なの?」

 

 

 ……後で調べてみて発覚した話だが、カンムリワシの冠羽は白と黒色で、扇状に広がるタイプのものだった。

 まあ、やはりと言うべきか、千石の装備する青いリボンとは似ても似つかないものであった。

 

 

 そんな雑談を繰り返しているうちに、目的地に到着した。

 道路を挟んだ両側に並んだ桜の木が、(およ)そ数百メートルに渡ってその花弁を美しく散らしている。

 私に松尾芭蕉並みの詠力(よみぢから)が備わっていたなら、直ぐ様この光景を句に纏めていたに違いない。

 

 

「……お腹すいた。

 肉団食べたい。」

 

「かむちゃん、そこは普通に肉団子で良いんじゃないですか?」

 

「んフッ」

 

 

 不意打ちだった。

 百地からの視線が痛い。

 

 

「あ!そういえば。

 花のJKともなれば、帰り道にカフェなんてアリかもしれませんね」

 

「アハ、確かに。

 ねえ、花名はオススメのお店とかある?」

 

「………その手の店は、寧ろ十倉の方が知ってそうなものだと思うんだが」

 

「ううん、もう全然。これから知りたいって感じかな。

 でもその感じだと、花名も知らないみたいね」

 

「───そうだな」

 

 

 そう、知らない。

 去年ここに来て、知っている外の世界は。

 家の窓から見えていた、あの景色だけ。

 

 

「………」

 

「…そういえば。

 花名のお家って、学校の近くなのよね?」

 

「そこまで近所、ってほどでもないけどな」

 

「桜並木の事も知らなかったし、ずっとあの辺りに住んでたのかなって思うんだけど…どう?」

 

「………いや。去年、引っ越してきたんだよ。

 従姉が経営してるアパートが、近くにあって、そこに住んでる」

 

「ん、ってことは一人暮らし?」

 

「いや、その件の従姉に世話してもらってる身だから、実質二人暮らしみたいなものだと思う」

 

「おお!従姉さんと二人暮らしですか…!」

 

「アダルティ。」

 

「……念の為断っておくけど、志温ちゃんは女の子だからな?」

 

「いやいや!今の時代、性別の壁なんて大した問題ではありませんよ?」

 

 

 

 止まりかけた会話が、再び流れ始める。

 十倉のような奴を、俗的に『話し上手』と呼ぶのだろう。

 きっと彼女は、どこにでも重宝される存在に違いない。

 

 

 

 

「とうちゃーく!です!」

 

「皆で話してたらあっという間ね」

 

「………」

 

「花名?」

 

「いや…なんだ。

 本当にその通りだ、って思って」

 

 

 久しく忘れていた、『時間を忘れる』という感覚。

 いつか本で読んだことがあるが、人間の神経機能の一つとしてそれは理論付けられているらしい。

 つまり他ならぬ私が、今の時間を楽しかった、と思っているわけで。

 

 

「………」

 

 

 何のことはない。

 また、戻るだけ。もう数年近く慣れ親しんだその日々に。今日はただ、たまたまそうなっただけ。

 

 

「それでは、花名ちゃん!

 また明日、ですー!」

 

「また明日!」

 

「ばいばーい。また明日。」

 

 

 ……そう、思っていたのに。

 三人はもう、私といるのが当たり前と言わんばかりに。笑顔でそう言った。

 

 当の私は。

 

 返す言葉が見つからず、ただただ三人を見送った。

 

 

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