ウマ娘ONE PIECEダービー~黄金の浮沈船は大海原を駆ける~ 作:武藤 桜
ジャヤへ向けて航海を続けるゴーイングメリー号。
アラバスタでの激闘を終え、新たな仲間も加わった船内は、以前にも増して賑やかになっていた。
そんな中、船の厨房ではサンジが昼食の準備を進めていた。
「さてと、今日は何を作るか……。肉料理に魚料理、それから野菜も使って……」
食材を確認しながら手際よく包丁を動かすサンジ。
その時、厨房の扉が開いた。
「おーい、サンジ。今、ええか?」
「ん? タマモか。どうした?」
入ってきたのはタマモクロスだった。
「飯作っとるんやろ? ウチも手伝うで」
「手伝う? 料理ができるのか?」
サンジが意外そうに尋ねる。
「当たり前や! オグリの食欲に付き合っとったら、料理の一つや二つ覚えんとやっとられへんわ!」
タマモは腕まくりをして、厨房の中へ入ってきた。
「オグリのために?」
「せや。あいつ、腹が減ったら遠慮なく食べるやろ? それも普通の量やない。せやから、ウチがよう飯を作っとったんや」
「なるほどな……」
サンジは納得したように頷いた。
「ほな、何をすればええ?」
「そうだな。そこの野菜を切ってくれるか?」
「任しとき!」
タマモは包丁を手に取ると、慣れた手つきで野菜を切り始めた。
トントントン――。
包丁の音が小気味よく厨房に響く。
「へえ……随分手際がいいじゃねェか」
「毎日のように作っとったからな。オグリの腹を満たすんは、なかなか大変やで」
「分かるぜ……」
サンジは思わず苦笑した。
「俺もオグリには何度か驚かされた。作った料理があっという間になくなるんだからな」
「せやろ? しかも、あいつは悪気がないんや。美味しそうに食べてくれるんは嬉しいんやけど、こっちが作る量を考えると頭が痛くなるんや」
「まったくだ。料理人としては嬉しい反面、食材の消費が凄まじいからな」
二人は顔を見合わせ、思わず笑った。
調理が進むにつれ、二人の連携は自然と噛み合っていった。
サンジが魚を捌けば、タマモが野菜を切る。タマモが下ごしらえを終えれば、サンジが鍋に食材を加える。
初めて一緒に料理をしているとは思えないほど、作業は順調だった。
「タマモ、そこの塩を取ってくれ」
「ほい!」
「次は皿を並べてくれ」
「了解や!」
サンジはふと、タマモの横顔を見た。
普段はゾロと一緒に行動することが多いタマモ。二人で剣を振るい、時には息の合った連携を見せる姿は、サンジにとって少々面白くないものだった。
もちろん、ゾロとタマモが仲間として信頼し合っていることは理解している。
それでも、ゾロと組んでいる姿を見ると、どうにも複雑な気分になるのだった。
「……何や、サンジ。ウチの顔に何かついとるか?」
「いや、何でもねェよ」
「そうか?」
タマモは首を傾げながら、切った野菜を鍋へ入れる。
その様子を見ていたサンジは、ふと思い出した。
ゾロは方向音痴だ。
一度歩き出せば、目的地とはまったく違う方向へ進んでいく。船の中ですら迷うことがある。
そして、そんなゾロと行動するタマモは、いつも苦労しているようだった。
「そういや、お前も大変だな」
「ん? 何がや?」
「ゾロの面倒を見るのも」
「……ああ」
タマモは深いため息をついた。
「ほんま、あいつの方向音痴はどうにかならんのかいな。ちょっと目ぇ離したら、全然ちゃう方向へ歩いていくんやで?」
「分かる。あいつには何度も頭を抱えさせられてる」
「しかも本人は迷っとる自覚がないんや。『こっちで合ってる』とか言い張るし!」
「そうそう! そのくせ、間違いを指摘すると不機嫌になる!」
二人の愚痴は、いつの間にか妙な盛り上がりを見せていた。
「……なんや、サンジも苦労しとるんやな」
「お前もな」
サンジは苦笑した。
どうやら自分たちは、似たような苦労を抱えているらしい。
サンジはオグリの食欲に悩まされ、タマモはゾロの方向音痴に悩まされる。
それぞれ違う悩みではあるが、仲間の面倒を見る苦労という意味では、妙な親近感があった。
「ま、でも……」
タマモは鍋の中を覗き込みながら言った。
「オグリが美味しそうに飯を食べてくれるんは、やっぱり嬉しいんや。あいつ、食べる時はほんま幸せそうな顔するからな」
「……そうだな」
サンジも頷いた。
料理人にとって、自分の作った料理を喜んで食べてもらえることほど嬉しいものはない。
「ゾロも、方向音痴さえなければ頼りになるんやけどな」
「剣の腕だけは認めてやるさ。性格は気に食わねェが」
「ははっ! それはお互い様やろ!」
タマモの笑い声に、サンジもつられて笑った。
その時だった。
厨房の扉が、そっと開いた。
「……いい匂いがする」
顔を覗かせたのはオグリだった。
その目は、鍋の中の料理に釘付けになっている。
「オグリ? まだ昼食には早いぞ」
サンジが声をかける。
「分かっている。だが、少し味見をしてもいいだろうか?」
「まだ完成してねェよ」
「そうか……」
オグリは残念そうに肩を落とした。
しかし、その背後から別の人物が顔を出す。
「おっ、飯の匂いがするぞ!」
ルフィだった。
「なあサンジ! 俺にも味見させてくれよ!」
「お前まで来たのか!」
二人は示し合わせたわけでもないのに、ほぼ同時に鍋へ手を伸ばそうとした。
「こらァァァ!!」
サンジとタマモの声が厨房に響いた。
「まだ完成しとらん言うとるやろ!」
「料理ができるまで待て!」
「ちょっとくらい、いいじゃねェか!」
「よくない!」
ルフィとオグリは揃って叱られ、しょんぼりと肩を落とした。
「……タマモ、昔からこうやって叱っていたのか?」
「せや。オグリは隙あらば食べようとするからな。ほんま、目ぇ離されへんで」
「なるほど。俺も同じようなことを毎日やってるぜ」
二人は再び顔を見合わせた。
「お前ら、何でそんなに仲良さそうなんだ?」
ルフィが不思議そうに尋ねる。
「別に普通や」
「料理の話をしてただけだ」
サンジとタマモは同時に答えた。
そして、タマモがオグリを指差す。
「ほら、オグリ! まだ完成しとらんのやから、席に戻っとき!」
「分かった。楽しみにしている」
オグリは素直に厨房を出ていった。
ルフィも名残惜しそうに鍋を見つめながら、後を追う。
「サンジー! できたら呼んでくれよー!」
「分かってる! だから待ってろ!」
それからしばらくして、料理は完成した。
サンジとタマモが協力して作った昼食は、いつも以上に豪華なものとなった。
「おおっ! 美味そうだ!」
ルフィが目を輝かせる。
「いただきます!」
オグリも嬉しそうに手を合わせた。
「うん! 美味しい!」
オグリの満面の笑みに、タマモも満足そうに頷く。
「そらよかったわ。今日はサンジと一緒に作ったんやで」
「そうなのか。二人ともありがとう」
「礼を言うなら、ちゃんと味わって食べろよ」
サンジが笑う。
「もちろんだ」
オグリは料理を頬張り、幸せそうに目を細めた。
その様子を見て、タマモは満足げに笑う。
サンジもまた、料理人として嬉しそうにその光景を見つめていた。
「……タマモ」
「ん?」
「また気が向いたら、厨房を手伝ってくれよ」
「ええで。ウチも料理するんは好きやしな」
「助かるぜ」
「ただし、オグリの食欲には覚悟しときや!」
「それはもう十分分かってるさ」
二人は笑い合った。
普段はゾロと組むことの多いタマモに、少しばかり複雑な思いを抱いていたサンジ。
しかし、料理を通じて話してみれば、彼女もまた自分と同じように仲間の世話に苦労していることが分かった。
オグリの食欲に悩むサンジと、ゾロの方向音痴に悩むタマモ。
そんな共通点から生まれた、ほんの一時の厨房での交流。
この日、二人の間には新たな絆が生まれたのだった。