夜会《Oneness》~なぜ支配者たちは、魂なき少年を求めるのか~   作:なんか火花

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夜会参加者の戯言 満たされぬ狼/希う少女

――Side:グレイ――

 

 退屈だった。

 

 人も。

 

 世界も。

 

 己さえも。

 

 だが、今夜は違った。

 

 崩れた瓦礫をかき分けて、黒褐色の人狼が姿を現す。広間には、もう誰もいなかった。

 

「チッ……派手にやりやがって」

 

 毛皮に滲む赤色。右腕で全身を抱くようにしながら、グレイは足を引きずり歩いていく。

 

 その後を追うように、赤黒い血の跡が続いていた。

 

 弱者をいたぶるのが好きだ。

 

 自分が劣っているのだと。

 

 決して届かないのだと。

 

 そう悟った時に浮かぶ顔が好きだった。

 

 この前のあいつもそうだった。

 

 あいつも。

 

 あいつも。

 

 あいつも。

 

 最後にはみんな、同じ顔をする。

 

 それはとても甘美で、

 

 退屈だ。

 

「マルク」

 

 弧を描く口元から、鋭い牙が覗く。

 

 魂無しのガキ。

 

 この世から否定された存在。

 

『“何者”だなんて、僕には過ぎた言葉です』

 

 あのガキは自分にさえ許されていない。

 

 そして、それを悲しいとも思っていない。

 

 いや、思えない。

 

 しかし、それだけではない。

 

 奴には何かがある。

 

 他の有象無象には無い何かが。

 

 獣の本能がそう告げていた。

 

 まだ、それが何かは分からない。

 

 長い廊下を抜ける。

 

 扉を開いた瞬間、冷たい夜風が吹き抜けた。

 

 その先には、夜を見下ろすバルコニーが広がっている。

 

 街の灯りも見える。

 

 人々の影も。

 

 しかし、見覚えのある景色は、どこにもなかった。

 

 バルコニーの隅に置かれたロッキングチェアへ身を沈める。

 

 傍らに置かれた酒瓶を手に取り、一気に呷る。

 

 奴は最後、どんな顔をするのだろう。

 

 どんな言葉を紡ぐのだろう。

 

 どんな色の血を流すのだろう。

 

 どんな。

 

 どんな。

 

 どんな。

 

「あァ、知りてェなァ……」

 

 瞳が愉悦に細められる。

 

 狼はまだ知らない。

 

 その執着の先に待つモノを。

 

 渇望を。

 

 その正体を。

 

 夜空に月が浮かぶ。

 

 まだ、満ちない。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

――Side:アンジェリカ――

 

 

 

○月○日

 

 

 

 

今日、マルクに会ったよ!

 

きゃー!

 

嬉しい!嬉しい!嬉しい!

 

 

 

やっと会えた!!

 

 

 

顔はちっちゃいし

 

困った顔も本当にかわいい!

 

でも動揺して

 

思わず知らないふりしちゃったよー!

 

首も上手く縫えなかったし

 

嫌われてないよね……?

 

 

 

 

 

 

あとね!あとね!

 

マルクったら本当に人気者なの!

 

グレイもフォルツきゅんも

 

みんなマルクに夢中で

 

いつの間にかみんなの中心にいるの!

 

おれっち感心!

 

 

 

 

 

やっぱり中心はアイツじゃないよねー笑笑

 

 

 

 

 

 

 

ムカつく

 

 

 

 

 

お風呂

ケーキ

お買い物

漫画

ネイル

可愛い文房具

ぬいぐるみ

マルク

マルク

マルク

マルク

マルク

マルク

 

マル

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それにね。

 

ヴォルパパだってそう!

 

あんな怒っちゃってさ!

 

みんなのお父さんも大変!って感じ。

 

ふふ

 

あはは!

 

 

 

 

 

やっぱりマルクはすごいなぁ。

 

おれっち、見合う女の子になれるかなぁ。

 

 

 

……ううん!

 

 

 

弱気になっちゃダメだよね!

 

苦手な裁縫も

 

掃除も

 

洗濯も

 

料理だって!

 

上手にならないと!

 

 

 

マルク、待っててね。

 

すぐに迎えに行くから!

 

その時は

 

 

 

■■■しようね♡

 

 

 

 

 パタン。

 

 アンジェリカは日記帳を閉じた。

 

 今日はいつもより長くなってしまった。

 

 マルクのことを想うと、ついつい筆が乗ってしまう。

 

 ああ、マルク。

 

 胸の奥が熱い。

 

 思い出しただけで、頬が緩んでしまう。

 

「ふふ」

 

 小さく笑う。

 

 机の引き出しを開ける。

 

 その中には、色とりどりのシールや便箋、さらには用途不明のネジ、何かの破片まで、様々な物が雑多に置かれていた。

 

 そこに、日記をしまい入れる。

 

 まるで宝物を隠すように。

 

「よし!」

 

 引き出しを閉めると、アンジェリカは部屋の隅へ駆け寄った。

 

 そこに置かれていた小さなミシンを、よいしょ、と机の上へ運ぶ。

 

 まだ新品同然だ。

 

 何度も挑戦しているが、上手くいった試しはない。

 

 それでも。

 

「練習しないとねぇ」

 

 えへへ、と照れたように笑う。

 

 指先で布を撫でる。

 

「喜んでくれるよね?マルクは優しいから」

 

——君もそう思わない?

 

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