忠誠は獅子座の影に   作:ぼくの友達

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第一章 忠誠は影の中で息をする

ブラック家の屋敷は、いつも冷たい静寂に包まれていた。

分厚いカーテンは光を拒み、壁に並ぶ先祖たちの肖像画は、

来る者を値踏みするように目を細める。

 

その空気の中で、私は生まれた。

屋敷しもべ妖精として、ブラック家に仕えるために。

 

名はミスト。

まだ若く、クリーチャーほどの経験もない。

だが、屋敷の隅々を掃除し、主人たちの命令に従うことだけは、

誰よりも忠実にこなしてきたつもりだった。

 

とりわけ、レギュラス様の部屋を任されるようになったのは、

私にとって誇りだった。

 

レギュラス・ブラック。

ブラック家の次男であり、家族の期待を一身に背負う青年。

 

彼の部屋は、兄シリウスのものとはまるで違っていた。

シリウス様の部屋にはマグルの女性のポスターが貼られていたと聞くが、

レギュラス様の部屋は、

深い緑と銀色――スリザリンの色で統一されていた。

 

壁には、ブラック家の家訓が刻まれた古い盾。

机の上には、魔法薬学の本と、整然と並べられた羽ペン。

そして、ベッドの脇には、

ヴォルデモートに関する新聞の切り抜きが丁寧に貼られていた。

 

私はそれを見るたび、胸がざわついた。

 

「ミスト、そこは触れなくていい」

 

レギュラス様は、いつも穏やかな声でそう言う。

怒鳴られたことは一度もない。

ブラック家の者は、屋敷しもべ妖精を道具のように扱うのが普通だ。

年老いた妖精の首を刎ねて壁に飾るという、

恐ろしい伝統すらある。

 

だが、レギュラス様は違った。

 

「クリーチャー、ミスト。寒くないか?」

 

そんな言葉をかけてくれる主人など、他にいない。

 

クリーチャーは誇らしげに胸を張る。

「レギュラス様は、優しいお方でございます」

 

私はうなずくしかなかった。

優しい――その言葉は、ブラック家では異質だった。

 

だが、同時に気づいていた。

レギュラス様の瞳には、いつも影があった。

 

兄シリウス様が家を出ていってから、

その影は濃くなったように思う。

 

純血主義を拒み、家族と対立し、

グリフィンドールに組み分けされた兄。

 

その背中を見て育ったレギュラス様は、

まるで反対方向へ歩いていった。

 

純血主義に従い、

スリザリンに入り、

家族の期待を裏切らないように振る舞う。

 

だが、それは本心ではないと、私は知っていた。

 

レギュラス様は、

家族を裏切りたくなかっただけなのだ。

 

その優しさが、

彼を縛りつけていた。

 

ある日、レギュラス様は私に言った。

 

「ミスト。兄上のようには、なれないんだ」

 

その声は、かすかに震えていた。

 

私は答えられなかった。

屋敷しもべ妖精は、主人の心に触れてはならない。

ただ、静かに頭を下げるしかなかった。

 

それでも――

私は思った。

 

レギュラス様は、

この家で最も優しい人だ。

 

その優しさが、

いつか彼を傷つけるのではないかと、

胸の奥で不安が膨らんでいった。

 

そして、その不安は、

ある夜、現実となる。

 

クリーチャーが、震えながら帰ってきた夜だ。

 

その夜のことを、私は一生忘れない。

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