忠誠は獅子座の影に   作:ぼくの友達

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第九章 忠誠と影

スピナーズ・エンドの薄暗い部屋に、

雨の音が静かに響いていた。

 

セブルス・スネイプは、

古い魔法薬の瓶を棚に戻しながら、

その音を聞いていた。

 

死喰い人としての任務を終え、

ようやく帰ってきた夜だった。

 

だが、

その夜はいつもと違っていた。

 

「……聞いたか、スネイプ」

 

背後で、

同じ死喰い人の男が低く囁いた。

 

「ブラック家の坊ちゃんが……死んだらしい」

 

スネイプは振り返らなかった。

 

「……誰のことだ」

 

「レギュラス・ブラックだよ。

 シリウスの弟だ。

 ヴォルデモート様の“お気に入り”だったはずだが……

 どうやら裏切ったらしい」

 

裏切った。

その言葉が、

スネイプの胸に重く沈んだ。

 

「……どうやって死んだ」

 

「さあな。

 ただ……湖で沈んだとか、

 亡者に引きずられたとか……

 そんな噂が流れてる」

 

男は笑った。

 

「愚かな坊ちゃんだよ。

 ヴォルデモート様に逆らったんだ。

 当然の報いだ」

 

スネイプは瓶を棚に戻す手を止めた。

 

レギュラス・ブラック。

ホグワーツでは一つ下の学年。

スリザリンの優等生。

純血主義の家系に育ち、

死喰い人としてヴォルデモートに従った少年。

 

だが――

その少年が、

ヴォルデモートに背を向けた。

 

「……理由は」

 

スネイプの声は低かった。

 

男は肩をすくめた。

 

「知らんさ。

 ただ……

 “ヴォルデモート様の秘密を知った”とか、

 “何かを奪おうとした”とか……

 そんな噂だ」

 

スネイプは目を閉じた。

 

噂話は断片的で、

どれも曖昧だった。

 

だが――

その断片の向こうに、

ひとつの“影”が見えた。

 

レギュラス・ブラックは、

何かを知り、

何かを奪い、

そして死んだ。

 

ヴォルデモートの“秘密”。

“奪おうとしたもの”。

“湖で沈んだ死”。

 

スネイプは手元にある瓶の向こう側を見ていた。

 

「……愚かではない」

 

男が笑いながら去っていく背中を見ながら、

スネイプは静かに呟いた。

 

「愚かではない。

 ……あの少年は、ただあの方を裏切るはずがない」

 

その言葉は、

誰にも聞こえなかった。

 

だが、

スネイプ自身にははっきりと聞こえていた。

 

レギュラス・ブラック。

死喰い人でありながら、

ヴォルデモートに背を向け、

何かを守ろうとして死んだ少年。

 

その影は、

スネイプの胸に深く沈んだ。

 

そして――

その影は、

スネイプの心の奥で静かに揺れ続けた。

 

レギュラスの選択は、

噂話の断片だけであっても、

スネイプの心を揺らすには十分だった。

 

その夜、

スネイプは初めて思った。

 

忠誠とは――

恐怖ではなく、

守るべきもののために捧げるものだと。

 

レギュラスが残した影は、

スネイプの中で静かに形を変え始めていた。

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