忠誠は獅子座の影に   作:ぼくの友達

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第三章 獅子座は動く

クリーチャーが語った“洞窟の出来事”は、

屋敷の空気を一瞬で変えた。

 

その夜、ブラック家の壁に飾られた肖像画たちは、

いつもより静かだった。

まるで、レギュラス様の心の揺らぎを見守っているかのように。

 

私は廊下の隅で、クリーチャーの震える背中を見つめていた。

彼は暖炉の前で膝を抱え、

レギュラス様の帰りを待っていた。

 

「……ミスト」

 

レギュラス様が静かに呼んだ。

その声は、いつもより低く、重かった。

 

「クリーチャーを休ませてやってくれ」

 

「はい、レギュラス様」

 

私はクリーチャーを部屋へ連れていき、

毛布をかけてやった。

だが、彼は震えが止まらなかった。

 

「……ご主人様……レギュラス様……どうして……」

 

その呟きは、痛みそのものだった。

 

私は何も言えず、ただそばに座った。

屋敷しもべ妖精は主人の心に触れてはならない。

だが、この夜だけは、規則が遠く感じられた。

 

しばらくして、レギュラス様が部屋に入ってきた。

 

「クリーチャー」

 

その声は、優しさと決意が混じっていた。

 

クリーチャーは涙で濡れた目を上げた。

 

「レギュラス様……クリーチャーは…………守れませんでした……」

 

「いいんだ」

 

レギュラス様は膝をつき、

クリーチャーの肩にそっと手を置いた。

 

「お前は命令に従っただけだ。

 それが、お前の忠誠だ」

 

その言葉は、クリーチャーの心を少しだけ救ったように見えた。

だが、私は気づいていた。

 

レギュラス様自身は、救われていない。

 

むしろ――

彼の影は、濃く、深く、静かに形を変えていた。

 

「ミスト」

 

名を呼ばれ、私は背筋を伸ばした。

 

「準備をする。

 クリーチャーと共に、もう一度……あの洞窟へ行く」

 

その言葉は、雷のように胸を打った。

 

「レギュラス様……それは……」

 

「止めるな」

 

レギュラス様は静かに言った。

その瞳は、決意で固く閉ざされていた。

 

「ヴォルデモートは……クリーチャーを道具のように扱った。

 それを許すことはできない」

 

私は息を呑んだ。

レギュラス様は、純血主義の息子であり、デスイーターであり、

ヴォルデモートを崇拝していたはずだった。

 

だが――

その忠誠は、クリーチャーの苦しみを前にして崩れた。

 

「レギュラス様……ヴォルデモート様は……」

 

「もう“様”と呼ぶ必要はない」

 

その言葉は、屋敷の空気を震わせた。

 

レギュラス様は立ち上がり、

窓の外の暗い空を見つめた。

 

「ミスト。

 お前はここに残れ。

 クリーチャーと私が戻るまで、誰にも何も言うな」

 

「……はい」

 

忠誠は影の中で息をする。

だが、この夜、私は初めて理解した。

 

レギュラス様の忠誠は、

既にヴォルデモートに向けられてはない。

 

その心は――

クリーチャーに向けられたものだった。

 

そしてそれは、

獅子座の影の中で静かに燃え始めていた。

 

レギュラス様は、背を向けて歩き出した。

その背中は、影をまといながらも、

どこか光を宿しているように見えた。

 

私はその姿を見送りながら、

胸の奥で何かが軋むのを感じた。

 

レギュラス様は、もう戻れない。

影の中へ進む道を、自ら選んでしまったのだ。

 

そして――

その影の先に待つものが何かを、

私はまだ知らなかった。

 

ただ一つだけ、確信していた。

 

忠誠は獅子座の影に沈む。

 その影は、やがて湖底へと続いていく。

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