忠誠は獅子座の影に   作:ぼくの友達

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第四章 影の底へ向かう足音

翌朝、屋敷は異様なほど静かだった。

ブラック家の肖像画たちは、いつもの朝から嫌味を含んだ挨拶を投げかけてくるのに、

この日は誰一人として口を開かなかった。

 

まるで、今日という日が“何かを失う日”だと知っているかのように。

 

私は早朝から廊下を歩き、レギュラス様の部屋へ向かった。

扉の前に立つと、すでに中から気配がした。

 

「……入れ」

 

静かな声がした。

 

扉を開けると、レギュラス様は机の前に立っていた。

深い緑のローブを身にまとい、

その背中は、昨日よりもずっと大きく見えた。

 

机の上には、

古い魔法薬学の本、

スリザリンの紋章が刻まれたロケット、

そして――一枚の紙。

 

私はその紙に見覚えがあった。

 

ヴォルデモートの新聞記事の切り抜き。

かつてレギュラス様が崇拝していた“英雄”の姿。

 

だが、その紙は破られていた。

丁寧に、静かに、しかし迷いなく。

 

レギュラス様は振り返り、私を見た。

 

「ミスト。クリーチャーを呼んでくれ」

 

「……はい」

 

私は部屋を出て、クリーチャーの元へ向かった。

彼はまだ震えていたが、レギュラス様の呼び声を聞くと、

ゆっくりと立ち上がった。

 

「ご主人様……」

 

その声は弱く、だが忠誠に満ちていた。

 

レギュラス様の部屋に戻ると、

彼はクリーチャーを見つめ、静かに言った。

 

「行くぞ。クリーチャー」

 

クリーチャーは一瞬だけ怯えたように見えた。

だが、すぐにうなずいた。

 

「……はい、レギュラス様」

 

その声は震えていたが、

忠誠は揺らいでいなかった。

 

レギュラス様は私に向き直った。

 

「ミスト。屋敷を頼む」

 

「……レギュラス様」

 

言葉が喉でつまった。

止めたい。

行かないでほしい。

 

だが、屋敷しもべ妖精は主人の決意を否定できない。

 

私はただ、深く頭を下げた。

 

「……必ず、お戻りください」

 

レギュラス様は微笑んだ。

その微笑みは、昨日までのものとは違っていた。

 

影をまといながらも、

どこか光を宿している――

そんな微笑みだった。

 

「ミスト。

 忠誠は……時に影を照らすものだ」

 

その言葉は、胸の奥に深く沈んだ。

 

レギュラス様はクリーチャーと共に歩き出した。

廊下を進む足音は、静かで、重くて、

まるで湖底へ向かう道を踏みしめているようだった。

 

私はその背中を見送るしかなかった。

 

扉が閉まる音が、屋敷に響いた。

 

その瞬間、

ブラック家の肖像画たちが一斉に目を閉じた。

 

まるで――

これから起こる悲劇を、

見たくないと言うように。

 

私は廊下に立ち尽くし、

胸の奥で何かが崩れる音を聞いた。

 

レギュラス様は、もう戻れない。

影の底へ向かう足音は、

確かに湖底へ続いていた。

 

そして私は、

その影の行き先を知ることになる。

 

だが、それは――

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