洞窟の入口は、海の風に削られた黒い口のように見えた。
レギュラス様とクリーチャーが足を踏み入れた瞬間、
外の世界の光は完全に遮断された。
中は、冷たく湿った空気が肌にまとわりつき、
まるで影そのものが形を持っているようだった。
レギュラス様は杖を掲げ、
小さな光を灯した。
だが、その光は弱く、
洞窟の闇を追い払うにはあまりにも頼りなかった。
「……ここだな、クリーチャー」
クリーチャーは震えながらうなずいた。
「……はい……レギュラス様……
この先に……入口が……あります……」
二人はゆっくりと進んだ。
洞窟の壁には、古い魔法の痕跡が残っている。
ヴォルデモートが施した“血の結界”だ。
壁には、血をこすりつけた跡が生々しく残っていた。
クリーチャーがここで血を捧げたのだ。
レギュラス様は壁に手を触れ、
静かに血をこすりつけた。
その瞬間、洞窟全体が低く唸り、
岩の裂け目がゆっくりと開いた。
冷たい風が吹き抜け、
奥の闇が姿を現した。
「……これが、入口か」
クリーチャーは震える声で答えた。
「はい……レギュラス様……
この先に……湖が……あります……」
レギュラス様は頷き、
闇の奥へと進んだ。
やがて、洞窟の奥に広がる湖が姿を現した。
黒い水面は、光を拒むように静まり返っていた。
その下に何が潜んでいるのか――
クリーチャーは知っている。
そして、レギュラス様も知っている。
湖の中央には、
小さな島があった。
その島へ渡るための道は――
水の中に隠されている。
レギュラス様は杖を振り、
水面を探った。
すると、黒い水の下から、
古い小舟がゆっくりと浮かび上がった。
「……これが、ヴォルデモートの小舟か」
クリーチャーは震えながらうなずいた。
「水に触れると……亡者が……
クリーチャーを……引きずり込みます……」
レギュラス様は湖を見つめた。
その水面は静かだが、
その下には“何か”が潜んでいる。
影が、息をしている。
「行くぞ、クリーチャー」
二人は小舟に乗り込んだ。
舟は音もなく進み始めた。
湖の中央へ向かう道中――
水面の下で、何かが動いた。
クリーチャーが息を呑んだ。
「……レギュラス様……
亡者が……見ています……」
レギュラス様は静かに答えた。
「見ているだけだ。
私は……お前を守る」
その言葉は、
影の中で光る星のようだった。
舟が島に着くと、
そこには石盆があった。
石盆の上には、
毒薬が満たされた水盆。
その毒薬は、
クリーチャーを地獄へ落としたもの。
レギュラス様はその前に立ち、
静かに言った。
「クリーチャー。
これは……私が飲む」
クリーチャーは叫んだ。
「だめです……レギュラス様……!
クリーチャーが……代わりに……!」
「だめだ」
レギュラス様は首を振った。
「お前は……もう十分苦しんだ。
これ以上……お前を傷つけたくない」
その声は、
優しさと痛みが混じっていた。
クリーチャーは涙を流しながら膝をついた。
「……レギュラス様……
クリーチャーは……ご主人様を……守れません……」
「守らなくていい」
レギュラス様は静かに言った。
「これは……私の役目だ」
その言葉は、
影の中で光る星のようだった。
レギュラス様は水盆に手を伸ばし、
毒薬をすくった。
その瞬間、洞窟の空気が震えた。
クリーチャーは叫んだ。
「レギュラス様――!」
だが、レギュラス様は振り返らなかった。
「クリーチャー。
最後の命令だ」
その声は、静かで、強くて、優しかった。
「私が毒薬を飲み干したら……
本物のロケットを取り、
偽物とすり替えろ。
そして――帰れ」
クリーチャーは泣き叫んだ。
「いやです……レギュラス様……!
クリーチャーは……ご主人様を置いて帰れません……!」
レギュラス様は微笑んだ。
その微笑みは、影をまといながらも、
どこか光を宿していた。
「帰れ。
それが……お前の忠誠だ」
そして――
レギュラス様は毒薬を口に運んだ。
洞窟の闇が、静かに揺れた。
影が、湖底へ沈んでいく。
忠誠は獅子座の影に沈む。
その影は――
確かに、終わりへ続いていた。