忠誠は獅子座の影に   作:ぼくの友達

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第七章 湖底へ沈む星

レギュラス様が毒薬を口に運んだ瞬間、

洞窟の空気が震えた。

 

黒い水――

それは飲んだだけでは死なない。

だが、飲んだ者の心を壊し、

身体を焼き、

そして“喉の渇き”という地獄を与える。

 

その渇きこそが、

ヴォルデモートの罠の本質だった。

 

水を求めて湖へ近づけば、

亡者が手を伸ばし、

飲んだ者を湖底へ引きずり込む。

 

毒薬は死を与えない。

死へ向かわせる。

 

レギュラス様は一口目を飲んだ。

その瞬間、身体が大きく震えた。

 

「……っ……!」

 

声にならない声が漏れた。

クリーチャーは叫んだ。

 

「レギュラス様――!」

 

だが、レギュラス様は手を上げて制した。

 

「……クリーチャー……命令だ……

 飲ませ続けろ……」

 

その声は、痛みに焼かれながらも、

確かに“主人”の声だった。

 

クリーチャーは涙を流しながら、

震える手で次の杯を差し出した。

 

レギュラス様はそれを飲み干した。

 

二口目。

三口目。

四口目。

 

飲むたびに、レギュラス様の身体は痙攣し、

膝が崩れ落ちそうになった。

 

黒い水は、レギュラス様に悪夢を見せていた。

 

家族の期待。

兄シリウスの背中。

純血主義の重圧。

ヴォルデモートへの誤った忠誠。

そして――

クリーチャーが湖で引きずられていく光景。

 

レギュラス様は、

そのすべてを一度に飲み込んでいた。

 

「……クリーチャー……

 お前を……守れなかった……

 あの日……」

 

その呟きは、

毒薬よりも痛かった。

 

クリーチャーは泣き叫んだ。

 

「レギュラス様……!

 クリーチャーは……ご主人様を……愛しております……!

 どうか……どうか……!」

 

レギュラス様は震える手で、

クリーチャーの頬に触れた。

 

「……知っている……

 だから……私は……ここに来た……」

 

その言葉は、

クリーチャーの心を完全に壊した。

 

最後の杯を飲み干した瞬間、

レギュラス様は崩れ落ちた。

 

そして――

黒い水の“第二の作用”が訪れた。

 

「……水を……」

 

レギュラス様は喉を押さえ、

苦しげに呻いた。

 

「……水を……くれ……

 クリーチャー……水が……欲しい……」

 

その声は、

毒薬の苦痛よりも深い渇きに焼かれていた。

 

クリーチャーは震えた。

 

「だめです……レギュラス様……!

 湖の水は……亡者が……!」

 

「……水を……

 水を……くれ……!」

 

レギュラス様は立ち上がろうとした。

その足は、湖へ向かっていた。

 

黒い水は、飲んだ者を湖へ誘う。

それがヴォルデモートの罠だった。

 

クリーチャーは泣き叫びながら、

レギュラス様の腕を掴んだ。

 

「だめです……レギュラス様……!

 行かないで……!」

 

だが、レギュラス様は弱く首を振った。

 

「……クリーチャー……

 最後の……命令だ……」

 

その声は、主人としての最後の言葉だった。

 

「ロケットを……

 本物とすり替えろ……

 そして……帰れ……

 クリーチャー……

 お前は……私の……家族だ……」

 

その瞬間――

湖が動いた。

 

黒い水面が波打ち、

無数の亡者が姿を現した。

 

白く濁った目。

腐った手。

水に濡れた皮膚。

そのすべてが、レギュラス様へ向かって伸びた。

 

「レギュラス様――!!

 いやです……いやです……!!」

 

クリーチャーは叫び、

レギュラス様にしがみつこうとした。

 

だが――

レギュラス様は最後の力で、

クリーチャーを押し返した。

 

「帰れ……

 クリーチャー……

 お前は……私の……家族だ……」

 

何度もレギュラス様の口から出るその言葉は、

湖の闇に飲まれる最後の光だった。

 

亡者たちがレギュラス様を掴み、

湖の底へ引きずり込んだ。

 

クリーチャーは泣き叫びながら、

その光景を見ているしかなかった。

 

「レギュラス様――!!

 ご主人様――!!

 いやです……いやです……!!

 クリーチャーを……置いていかないで……!!」

 

だが、レギュラス様の姿は、

黒い水の中へ沈んでいった。

 

影が、湖底へ沈んだ。

 

忠誠は獅子座の影に沈む。

その影は――

もう戻らなかった。

 

クリーチャーは泣きながら、

レギュラス様の命令に従った。

 

姿くらましで洞窟を離れ、

ブラック家へ帰った。

 

その瞬間――

洞窟から光は消え、闇に包まれた。

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