忠誠は獅子座の影に   作:ぼくの友達

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第八章 残された忠誠①

ブラック家の屋敷は、夜の闇に沈んでいた。

いつもの闇ではない。

その静けさは、まるで屋敷そのものが息を潜めているようだった。

 

暖炉の火は弱く揺れ、

壁にかけられた肖像画たちは、

いつもなら夜でもひそひそと囁き合うのに、

この夜は誰一人として口を開かなかった。

 

私は暖炉の前に立ち、

レギュラス様とクリーチャーの帰りを待っていた。

 

胸の奥が重い。

理由は分からない。

ただ、何かが“欠けている”ような気がした。

 

その時――

屋敷の扉が、静かに開いた。

 

「……ミスト……」

 

その声は、クリーチャーのものだった。

 

私は振り返り、息を呑んだ。

 

クリーチャーは、

洞窟へ向かった時の姿とはまるで違っていた。

 

濡れた身体。

震える手。

虚ろな目。

そして――

その小さな腕の中には、

古いロケットが握られていた。

 

「クリーチャー……?

 レギュラス様は……?」

 

その問いは、

言葉にする前から胸が痛んだ。

 

クリーチャーは答えなかった。

 

ただ、膝から崩れ落ちた。

 

「……ご主人様が……

 湖の底へ……」

 

その声は、

泣き声でも叫びでもなかった。

 

ただ、壊れた心が漏らした音だった。

 

私は駆け寄り、

クリーチャーの肩を支えた。

 

「クリーチャー……

 何が……あったのですか……」

 

クリーチャーは震える手でロケットを握りしめた。

 

「……レギュラス様は……

 クリーチャーに……命令を……

 最後の……命令を……」

 

その言葉は、

屋敷の空気を凍らせた。

 

「……帰れ、と……

 クリーチャーは……

 ご主人様を……置いて……

 帰ってきてしまいました……」

 

その瞬間、

クリーチャーは声にならない叫びを上げた。

 

「いやです……いやです……!!

 ご主人様を……置いて……

 帰りたくなかった……!!

 クリーチャーは……

 ご主人様を……愛して……いたのに……!!」

 

私は抱きしめることしかできなかった。

 

屋敷しもべ妖精は主人の心に触れてはならない。

だが、この夜だけは、

その規則があまりにも残酷だった。

 

暖炉の火は、

その涙を照らすことしかできなかった。

 

やがて、

屋敷の肖像画たちが一斉に目を閉じた。

 

まるで――

レギュラス様の死を知っているかのように。

 

私は静かに目を伏せた。

 

レギュラス様は、もう戻らない。

 

だが――

その影は屋敷のどこかに残っている気がした。

 

暖炉の火が揺れるたび、

レギュラス様の足音が聞こえるような気がした。

 

廊下の闇が深まるたび、

レギュラス様の影がそこに立っているような気がした。

 

そして何より――

クリーチャーの震える肩に寄り添うように、

レギュラス様の“忠誠の残響”がまだ温かく残っていた。

 

影は消えた。

だが、忠誠は消えなかった。

 

その夜、ブラック家の屋敷は静かに沈んだ。

 

レギュラス様の不在という影を抱えたまま。

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