忠誠は獅子座の影に   作:ぼくの友達

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第八章 残された忠誠②

炉の火は、夜が深まるにつれて弱くなっていった。

その揺らぎは、まるで屋敷の心臓がゆっくりと鼓動を失っていくようだった。

 

クリーチャーは暖炉の前に座り込んだまま、

ロケットを抱きしめて震えていた。

 

「クリーチャー……少し横になりませんか……」

 

私はそっと声をかけた。

 

だが、クリーチャーは首を振った。

 

「……ご主人様が……帰ってくるかもしれません……

 クリーチャーは……ここで……待ちます……」

 

その声は、壊れた心の残響だった。

 

私は胸が痛んだ。

だが、何も言えなかった。

 

屋敷しもべ妖精は主人の心に触れてはならない。

しかし、この屋敷にはもう“主人”がいない。

 

その事実が、規則よりも重くのしかかった。

 

 

レギュラス様が帰らなかった翌朝、

ブラック家の屋敷は、夜よりも静かだった。

 

昼になっても、

屋敷の空気は沈んだままだった。

 

私は廊下を掃除しながら、

ふと足を止めた。

 

レギュラス様の部屋の前で、

影が揺れた気がした。

 

風は吹いていない。

誰もいない。

 

その影は、まるで誰かがそこに立っているかのように揺れた。

 

私は息を呑んだ。

 

「……レギュラス様……?」

 

声に出した瞬間、

胸が痛んだ。

 

返事はない。

影はただ、静かにそこにあった。

 

まるで、

レギュラス様の忠誠だけが残っているかのように。

 

私はその影に手を伸ばした。

触れられるはずがないのに、

触れたくなった。

 

だが、影はただそこにあり、

私の指先をすり抜けた。

 

夕方、クリーチャーはようやく立ち上がった。

その目は赤く腫れ、

声はかすれていた。

 

「……ミスト……

 ご主人様の……部屋を……掃除したいのです……」

 

私はうなずいた。

 

二人でレギュラス様の部屋に入ると、

そこには昨日までの温度が残っていた。

 

整然と並んだ本。

丁寧に置かれた羽ペン。

破られたヴォルデモートの記事の切り抜き。

そして――

レギュラス様が最後に触れたであろう机の木目。

 

クリーチャーは震える手で机に触れた。

 

「……ご主人様……

 クリーチャーは……戻ってきました……

 ご主人様の……命令通り……」

 

その声は、

部屋の空気を震わせた。

 

「……でも……

 ご主人様は……戻ってこない……」

 

クリーチャーの指が机の木目をなぞった。

その指は、まるでレギュラス様の手を探しているようだった。

 

「……ご主人様……

 クリーチャーは……

 ご主人様のために……生きてきました……

 これから……どうすれば……」

 

その問いは、

誰にも答えられなかった。

 

私は静かに目を伏せた。

 

レギュラス様は、もう戻らない。

 

この部屋には、

確かに“忠誠の影”が残っていた。

 

夜になると、

屋敷の闇はさらに深くなった。

 

暖炉の火は弱く揺れ、

廊下の影は濃くなり、

階段の軋みは消えた。

 

屋敷全体が、

レギュラス様の不在を抱えたまま沈んでいくようだった。

 

私は窓の外を見た。

空は曇り、星は見えなかった。

 

その曇り空の向こうに、

レギュラス様の影があるような気がした。

 

「……レギュラス様……」

 

その名を呼ぶと、

胸の奥が痛んだ。

 

忠誠は獅子座の影に沈んだ。

その影は――

屋敷全体を静かに包み込んでいた。

 

そして私は知った。

 

この屋敷はもう、

以前のブラック家ではない。

 

レギュラス様の不在という影が、

屋敷の中心に沈んでいる。

 

視界の中の影は、消えない。

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