ある日の昼下がり。セイカがマチエールからの依頼を受けて花屋に向かうと……
「……カズミさん?」
「え……あ、セイカ」
そこには、花たちを睨むカズミがいた。
「もしかして…不審者ってカズミさんのこと?」
「……不審者?」
「今朝からずっと花屋さんの前で立ってる怪しい男がいるから調査してくれって……見た目も証言通りだし…」
「…そっか、そんなに時間経ってたんだ」
「なにかお悩みですか?悩み事ならわたしが聞きますよ!」
「…確かに、同じ性別だしわかるかも。あそこのカフェで話そう」
近くのカフェに移動し、席に着くと、早速カズミは真剣な顔で切り出した。
「……実は、今度ユカリさまの誕生日。何を渡せばいいのか、悩んでた」
「あー、そういえば招待状届いてたなぁ……」
・ユカリの招待状
『セイカさまへ 実は近日わたくしが誕生日を迎えます わたくしの誕生日を記念してシュールリッシュで盛大なパーティを行います セイカさまにはぜひとも参加していただきたく もちろんバトルもございますのでいらしてください 追伸 絶対にいらしてください』
「それで、オレもなにかプレゼントを渡したいって言った。そうしたら、ユカリさまが…」
『まぁ、それは嬉しいわ♡でもそうねぇ……だったら、ありきたりなプレゼントはイヤだわ?ジュエリーやバッグ、お洋服は普段から好きなだけ買えますし……カズミの思う、特別で唯一なプレゼントを頂戴?』
「……って」
「うわぁ、無理難題……」
実際、ユカリはほぼ全てを持っていると言っていい。どれだけ高価であろうと、金で買えるものはユカリにとっては「ありきたり」なのだろう。だからと言ってこんな無理難題を要求するものだろうか……セイカは改めて、ユカリのフリーダムさを噛み締めた。
「ユカリさまを失望させたくない、でも何を渡せばいいか分からない……花屋さんできれいな花を見たけど、なんだか違う気がして」
「そうですねぇ、お花もお金で買えちゃうし……」
「うぅ、困った……セイカは、なにかもらって嬉しいものはある?」
「わたし?うーん、でも相手がわたしのことを想って選んでくれたものなら嬉しいけどなぁ……ユカリさんもそこは違わないと思うんですけど」
「なるほど、ユカリさまのことを想って……」
うーんと頭を捻るカズミを見て、セイカは改めて彼の忠誠心を実感した。
「だったら、カズミさんとユカリさんについて詳しく教えてくれませんか?そうしたらなにか分かるかも!」
「オレと、ユカリさまについて?」
「はい!ずっと気になってはいたんですよ、なんでカズミさんはユカリさんに仕えているのかなって。それとは別に、カズミさんの見てきたユカリさんを思い出していけば、何で喜んでくれるか分かるはず!」
「なるほど……それはいい考え。」
若干考えつつ、カズミはぽつぽつと自分とユカリについて話し始めた。
「……もともと、オレは母親と一緒にミアレに来た。でもすぐに男を作って出ていって…お金も少ししか残ってなくて。家を追い出されて、路地裏とかで暮らすようになった。」
「そうだったんだ……」
「ZAロワイヤルのことはあまり知らなかったけど、勝負で勝ったらお金がもらえるから、お金を持ってそうなトレーナーを狙ってた。そうしたら…ユカリさまに見つかった」
「それから、どうして犬なんていう立ち位置になったんですか?」
「もともと、ユカリさまは犬が欲しかったんだって。素直で、忠実で、かわいい……。そのイメージにオレがぴったりだったって。……正直、オレも良く分かってないけど。でもユカリさまは、それからオレに色々教えてくれた。読み書きとか、食事の作法とか。今のオレがあるのは、ユカリさまのおかげ」
「………」
セイカは感動していた。ユカリにそのような一面があるとは。プリズムタワーの暴走時に見せたノブリス・オブリージュは口先だけのものではないのだと、実感させられた。……それでも犬発言は分からないが。
「だから、オレはユカリさまがスキ。ユカリさまに喜んで欲しい。ユカリさまにはいつも笑顔でいてほしい。」
「カズミさん……」
改めて話を聞いて、セイカの中にあったカズミへの憧れは形を変えた。もちろん無くなったわけではない。ただ、以前はカズミのことを王子様のように思っていた。だが、カズミの心はユカリのもので、そこに他者が入る余地はなかったのだ。今セイカの心にあるのは、カズミというひとりの健気な少年への優しい気持ちであった。
「……そうだ、思い出した!」
「何を!?」
「前に、オレがユカリさまの名前を書いて渡したとき。ユカリさま…すごく喜んでくれた。……うん、なにを渡せばいいか、分かった気がする…!!」
「本当ですか、よかった!」
「うん、ありがとう……セイカ。よし、今から早速書いてくる!これはお礼!」
ゴージャスボール10個とラブラブボールを置いて、カズミは走り去っていった。セイカはただ、カズミのプレゼントがうまくいくことを願うばかりであった。
ユカリの誕生日 当日
「みなさま!本日はわたくしのためにお集まりいただきありがとうございました!!たくさんのプレゼントにたくさんのバトル!わたくしとっても幸せでした!ではまた、次のユカリトーナメントでお会いしましょう〜〜!!」
ユカリの誕生日パーティは、結局ユカリトーナメントとほぼ変わらなかった。バトルを行い、MSBC会員がユカリを讃え。そうしてパーティは終わりを迎えた。
「うふふ、素晴らしいパーティでしたわ♡……さあ、ハルジオ、カズミ?わたくしへのプレゼント、ちゃあんと用意できているのかしら?」
「……はい」
「はい」
「それではカズミ、プレゼントをちょうだい?」
「オレの用意したプレゼントは……これです」
カズミが手渡したのは……花柄の小さな封筒。それを開くと、カズミの拙い字で書かれた手紙が入っていた。
「あらあら、まあまあ……」
「オレは、ユカリさまに出会ってからずっと幸せ。だから……その気持ちというか、お礼を書きました。」
「…………」
ユカリは静かに、カズミの手紙を読み進める。そうして読み終えると……
「カズミ!!!」
「うわっ」
カズミを抱きしめた。むぎゅーという音が聞こえてきそうなほどに強く。
「ああ、なんて素敵なの!!カズミ、あなたは最高です!!わたくしの望むものをこんな形でくれるだなんて!!やっぱりあなたはわたくしに忠実で、誠実で、素直で!!そして何よりかわいい!!素敵!!ファビュラス!!なんてマーベラス!!よ〜しよしよし!!」
「ユ、ユカリさま……」
「うふふ、すぐに額縁を手配して飾らないと!ああでもそうすれば読み返せない……悩ましいわ!!」
「……よかったな、カズミ」
「……うん」
そのあとはテンション上がりまくりのユカリにハルジオがボコボコにされたりしたが、ユカリの誕生日は無事に終わりを迎えた。
それから数日。今日も今日とてユカリトーナメントは開催されていた。
「さあ、ユカリトーナメントを始めましょう!!最初の対戦はこの2人!!」
「ZAロワイヤル最強にしてミアレの英雄!セイカさま!そして……」
「わたくしの愛しき番犬!!」
「カズミですわ〜〜!!」
Fin
カズミ
ユカリさまの犬。ユカリさま大好き。
ユカリ
超絶わがままお嬢様。フェアリー使いじゃなくてフェアリータイプそのもの。
これにて完結です。もしかしたらまた更新するかもね。
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