吾輩は猫である、ただしゴジラが来たせいで飼い主に置いてかれて死にそうです 作:よよよーよ・だーだだ
歩道橋の上で、猫たちはしばらく誰も動かなかった。
濡れた毛を舐める猫もいない。喧嘩をする猫もいなければ、餌を探す猫もいない。ただ、みな腹を床につけて耳を伏せ、遠くの海の音と壊れた街の匂いを聞いていた。
ここは高い場所である。少し前なら、わたしは高い場所にいることを誇らしく思っただろう。高い場所はよい。下にいる万物を見下ろせるし、愚かなものたちの動きを眺めるのにも向いている。
だが、今は違った。高い場所にいるからといって偉いわけではないし、高い場所にいるからといって安全なわけでもない。
高い場所に執着した猫がどうなったかを、わたしは見たばかりだった。
モモコの白い毛が灰の中に消えていくところを思い出し、胸の奥がまた少し冷たくなったのでわたしは前足を舐めた。猫は不愉快なことを思い出したときはとりあえず前足を舐める。たいへん理にかなった行為である。人間も見習うべきだ。泣いたり叫んだりするより、前足を舐めた方がずっと静かでよい。
その時、黒い影が二つ、わたしの前に来た。
カストルとポルクスだった。右耳の先が白い方と、左前足の先だけが白い方、どちらがどちらなのかわたしは最後まで覚えきれなかったが、今となってはたぶん二匹にとっても大した問題ではなさそうだ。
二匹は、以前のように胸を張っていなかった。毛は濡れ、尻尾は細く、目は落ち着きなく揺れている。モモコの横にいた時にはあれほど偉そうだったのに、そのモモコがいなければ二匹は本当にただの黒い猫である。いや、もとからただの黒い猫だったのかもしれない。
「鈴つき、いや、サリー」
「なんだ」
二匹に呼びかけられわたしが顔を上げると、二匹は互いに顔を見合わせて同時に頭を下げた。
猫が頭を下げるなど、そうあることではない。人間はよく頭を下げるが、あれは首の使い方を間違えているだけである。猫の頭は、撫でさせるか、噛みつくか、眠るためにある。下げるためにあるのではない。
カストルとポルクスは言った。
「おまえの言うことは正しかった」
「地下には卵があった」
「人間は火を落とした」
「ショッピングモールは壊れた」
「モモコは……」
そこで二匹は言葉を止めた。
モモコのことをまた言うのかとわたしは思ったが、言わなかった。言わない方がよいこともある。わたしは最近そういうことを少し覚えた。
カストルかポルクスの片方が、もう一度わたしを見た。
「だから、おまえが『次』になってくれ」
「次?」
聞き返すともう片方が言った。
「モモコの次だ。この群れの、この場所の、新しい上に立つ猫に」
わたしは耳を動かして、周りを見る。
三毛が、子猫を腹の下に抱えたままこちらを見ていた。首輪の跡がある灰色の猫も、年寄りも、濡れて震えていた猫も、何も見ていないような目をしていた猫もみなこちらを見ている。
皆の視線には期待の匂いがして、それから恐怖の匂いもした。そして、もっと面倒な匂いもする。
誰かに決めてほしい、という匂いである。
……カストルとポルクス、そしてこの猫たちは、きっと自分たちを支配してくれる者がほしい猫なのだろう。自分たちで道を嗅ぎ、自分たちで危ない場所を避け、自分たちで餌の順番を考えるより、高いところに座った誰かの声を聞いていた方が楽なのだ。
そして今、モモコがいなくなったから猫たちは次を探している。猫というものは時々人間より面倒くさい。
わたしはもう一度、猫たちを見た。
もしここでわたしが「よかろう」と言えば、きっと彼らは従うのだろう。餌場をどうするか。寝床をどう分けるか。誰が見張るか。どの道を通るか。どの猫を先に食べさせるか……なにもかも決めてくれ、と彼らは言っている。
少し前のわたしなら、悪くないと思ったかもしれない。いや、たぶん思った。屋根があり、餌があり、水があり、猫たちがこちらを見る。ならば治めてやろう、と。
だが、わたしは高いところから降りられなくなった猫を見た。王国を守っているつもりで王国に守られていた猫、足元を見ないまま足元から来たものに呑まれた猫。わたしはそういうモモコが嫌いであったが、そんなモモコはどこかわたしでもあった。それがいちばん気に入らない。
わたしは立ち上がった。濡れた鈴が首の下で小さく鳴り、猫たちの耳がいっせいにこちらを見上げた。
わたしは言った。
「猫は何も支配しない」
カストルとポルクスが目を丸くした。
「餌場も、寝床も、ほかの猫もだ。おまえたちも支配者を作るな。高いところに座る猫を、もう一匹増やそうとするな」
沈黙が落ちた。
風が吹き、海の塩の匂いが鼻を刺した。ゴジラとZILLAがどうなったのかはわからないが、今ここにいる猫たちは生きている。
それだけで、十分に厄介だった。
「でも、決まりがなければ……」
「決まりなら作ればいい」
困惑した様子のカストルとポルクスに、わたしは言った。
「水が来たら上へ行け。子猫や年寄りは先に逃がせ。犬の匂いがしたら鳴け。餌を見つけたら、ひとりで食い尽くす前に周りを見ろ。それくらいは、わたしが高いところに座らなくてもできる」
「でも、誰が決めればいい?」
「おまえたちは猫だろう。鼻を持っている猫が決めろ。耳を持っている猫が聞け。足がある猫は歩け。足の悪い猫がいたら、押せ」
二匹は何も言わなかった。ジャックが小さく笑った。
ソーセキが、歩道橋の端に座っていた。
彼は海の方を見ていた。灰まみれで、埃だらけで、作家という肩書を名乗るにはますますみすぼらしい姿だが、その目だけは妙に澄んでいた。
「行くのかい」
「ここに残る理由がない」
ソーセキに訊ねられて、わたしは答えた。
「餌もない。寝床もない。なにより、わたしに向いていない。わたしは他の猫に命令するために生まれてきたわけではない」
「そうかな」
「何だ」
「君はけっこう命令がうまかったよ」
「褒めるな。不愉快だぞ」
ソーセキは少し笑った。
「ぼくの作品に加えておくよ。高慢なヒロインが、支配者にならずに去っていく場面」
「書けるのか」
「構想はある」
「では、まだ書けていないのだな」
「大作というものは、急いではいけない」
「そのまま一生できないのではないか」
「可能性はあるね」
「相変わらず役に立たない作家だ」
「でも、生き残った」
ソーセキは言った。
「生き残った作家には、作品の続きを考える権利がある」
それは良い言葉のように聞こえた。ほんの少しだけである。褒めすぎるとこの作家はすぐ調子に乗るから、わたしは口にはしなかった。
代わりにこう言った。
「では、せいぜい大作を作るがいい」
「もちろん」
ソーセキは胸を張った。
「まずは構想を練る」
「やはり何もしない気だな」
「物語には余白が必要なんだ」
「わたしは餌をさがしに行く。猫には餌が必要だ」
「それも重要なテーマだね」
この猫は最後までこの調子である。
わたしはソーセキに背を向けた。ジャックが歩き出し、わたしもその横に並んだ。
後ろで、カストルとポルクスがまだこちらを見ている気配がした。三毛とその子猫も、首輪跡の灰色の猫も、年寄りも、その他の猫たちもみな見ている。
わたしは振り返らなかった。振り返れば、また何か偉そうなことを言わなければならなくなる気がしたからだ。猫は必要な時に鳴くが、必要でなければ鳴くべきではない。今はもう鳴く必要はなかった。
ジャックが訊いた。
「どこへ行く」
「知らない」
「知らねえのか」
「おまえもいつも知らないではないか」
「俺は知らねえまま歩くのに慣れてるからな」
「なら、ちょうどいい」
わたしは濡れた道の先を見た。
壊れた街。
焦げた匂い。
海から来る風。
遠くでまだ響く、でかいものたちの声。
行く当てはない。
だが、とりあえず歩くしかない。猫は、歩けるうちは歩く生き物である。
わたしは鈴を小さく鳴らしながら、ジャックの横を歩き出した。
それから、わたしたちはしばらく歩いた。
しばらく、というのがどれくらいなのかは知らない。猫は時間を人間のようには数えない。腹が減ったか、眠いか、日が当たっているか、雨が降っているか、そのくらいで十分である。
街はまだ壊れていた。
当然である。あんなでかいのが二匹も暴れまわったあとに、何事もなかったような顔をしている街があったら、その方がどうかしている。道路には割れたガラスが落ち、倒れた看板があり、焦げた車が道を塞いでいた。人間の匂いは薄くなっていたが、完全には消えていない。恐怖の汗、焦げた布、濡れた靴、開きっぱなしの店、置き去りにされた食べ物。
わたしはそれらの匂いを嗅ぎ分けながら歩いた。少し前のわたしなら、こんな匂いのほとんどを知らなかった。以前なら知る必要もなかったのだろう。家の中には、皿の匂い、砂の匂い、さとみの匂い、洗濯物の匂い、時々さとみが焦がすパンの匂いがあれば十分だった。
外は、匂いが多すぎる。
「足、大丈夫か」
ジャックが訊いた。
「大丈夫に決まっている」
「引きずってるぞ」
「これは疲れた者にしかできない優雅な歩き方だ」
「便利だな、おまえの優雅さは」
ジャックは鼻で笑った。
ジャックも汚いと言えば汚い。彼の毛は灰と泥で固まり、尻尾にはどこかでついた黒い煤が残っていた。薄汚れた野良猫はさらに薄汚れていて、ジャックはどこからどう見ても外の猫だった。
わたしは違う。首には鈴があるし、毛にはまだかすかに家の匂いが残っている。ネズミを食べ、泥水を呑み、犬からも逃げた。ゴジラも見たし、猫の王国が潰れるところも見たが、それでもわたしはどこかでまだ皿の音を知っている猫だった。
気がつくと、わたしたちは見覚えのある道に出ていた。
わたしは足を止めた。
「どうした」
「ここは……」
言いかけて、わたしは黙った。
ここはわたしの家だった。
いや、正確に言えば、さとみがわたしを飼っていた家、ということになるのだろう。たいへん不本意だが、実態に即して言えばそうである。
建物はまだ立っていたが、あれから月日が経って多少劣化していた。窓ガラスの一部は割れ、外壁には細かな亀裂が走っており、最初にジャックと共に這い出たエアコンの穴もそのままになっている。階段には泥がつき、廊下の隅には風で飛ばされた紙が溜まっていたが、それでもわたしが住んでいた部屋のある建物はまだそこにあった。
胸の奥が、変なふうに動く感触があった。腹が減った時の動きではないし、毛玉を吐く前のえづきでもない。もっと厄介で、もっと名前のつけにくい動きだ。
その時、階段の上から足音がした。
「人間の足音だ」
わたしは反射的に車の下へ身を低くした。ジャックも隣に滑り込む。二匹並んで、泥のついた車の腹の下から外を見た。
人間が降りてきて、建物の入口の扉を開ける。
黒い靴。
少し汚れたズボン。
揺れる鞄。
そして灰色の箱、キャリーだ。
わたしは、全身の毛が一瞬で逆立つのを感じた。あの病院の匂いがする箱。知らない犬の息、消毒液、さとみの緊張、わたし自身の怒りが染みついた箱。
キャリーを抱えて出てきたのは、さとみだった。
さとみ。わたしの同居人。
朝によく壊れる人間。焦げたパンを食べ、黒い板を忘れて戻り、足の小指をぶつけて奇妙な悲鳴をあげる愚図。袋を開ける指を持ち、夜にはわたしの頭をそっと触ってから眠る人間。
さとみは最後に見たときより少し汚れていた。髪は乱れ、顔は白く、目の下には黒い影があった。服からは湿った匂いがした。たくさんの人間が一か所に集まった時の、疲れきった、落ち着かない匂いだ。
さとみは階段の下まで来て、振り返った。わたしの部屋の方を見上げ、そしてつぶやく。
「サリー……」
テレビの声でも、Gフォースの声でも、でかいのの鳴き声でもない。わたしの名前を呼ぶ、さとみの声だった。
さとみはしばらくそこに立っていた。キャリーを胸に抱えたまま、動かない。やがて、唇を噛むようにして、ゆっくり歩き出そうとする。
わたしにはわかった。
さとみは、わたしを探しに来ていた。
あの灰色の箱は、わたしを閉じ込めるためだけの箱ではなかった。少なくとも今日だけは、わたしを連れていくための箱だった。
あの朝、さとみはわたしを連れて逃げようとしていた。わたしが入らなかっただけだ。
わたしはキャリーが嫌いだった。今も嫌いだ。あんないやらしい灰色の箱など、この世からなくなればよいと思っている。だが、嫌いなものが、いつも悪いものとは限らないらしい。
外へ出てからというもの、世界はややこしい。
さとみはわたしに気づいていない。
車の下にいるわたしを見ていない。なにしろ鼻も耳も鈍い人間である。わたしなら、皿の中に残った一粒の匂いだって見つけられるのに。
さとみはこのまま立ち去ろうとしていた。キャリーを抱えて、わたしのいない家を見て、そこにいるはずのわたしを見つけられないまま。
隣で、ジャックが動いた。彼はさとみを見て、それからわたしを見た。しばらく何も言わなかったが、やがて短く言った。
「どうする」
それだけだった。
来い、とは言わなかったし、行くな、とも言わなかった。人間なんかやめておけとも、戻ってやれとも言わなかった。
ただ、どうする、とだけ言った。
わたしは、さとみを見た。
さとみと暮らせば、皿に餌が入る。水は澄み、砂は替えられ、寒い夜にはベッドがある。窓辺には日が当たり、洗濯物の上にはやわらかな巣ができる。さとみはわたしの名前を呼び、わたしは返事をするかどうか選ぶことができる。
だが、それは人間を信じる暮らしでもある。人間はキャリーを出す。人間は怪獣が来れば逃げる。人間は扉を閉めて猫を閉じ込め、猫を連れていけないことがある。そして人間は戻ると言って実際には戻れないことがある。
人間の家は怪獣一匹で失われるほど脆いし、そこに閉じ込められればわたしの砦はあっという間にわたしの檻になる。餌の皿も、誰かが満たしてくれなければ空のまま。人間と暮らすということはそういうことでもある。
続いてわたしは、ジャックを見た。
ジャックと行けば、誰にも飼われない。行く先を決めるのは自分の鼻と足である。雨が降れば濡れるし、腹が減れば自分で探し、犬が来れば逃げる。寝床は毎日違い、水はいつもおいしいとは限らない。
だが、それは確かに自由だった。
外には天井がない。それは恐ろしいことであったが、同時にどこまでも行けるということでもあった。わたしは外で生きている味を知った。血と土の味。泥水の味。ネズミの重さ。自分の足で逃げ、自分の鼻で選び、自分の爪でしがみつくこと。本当の猫とはこういうものではないのか、そう思う気持ちもまだどこかにある。
皿の前で待っていたころよりわたしは痩せた。過酷な野良暮らしで毛は汚れ、足は痛み、腹は何度も空になったが、家の安寧な暮らしに安住していた頃よりも、野良で暮らしていたあいだは少しだけわたしは真に猫であった。
しかし、と思う。
さとみは、戻ってきた。
すぐ戻ると言ってすぐには戻れなかったが、それでもキャリーを持ってわたしを探しに戻ってきた。さとみはわたしを置き去りにしたのではなかった。たぶん、本当に連れていけなかったのだ。
そんなことを認めるのは、たいへん不本意である。なぜならそれを認めると、あの朝からずっと腹の奥にあった固いものが少しだけ形を変えてしまうからだ。
わたしは捨てられた猫ではなかった。
本当は愛されていた猫だったのかもしれない。
……まったく、迷惑な話である。
愛していたならもっとわかりやすくしておけばよいのだ。人間は匂いも鈍いし言葉も多いくせに、肝心なところが下手すぎる。
さとみが角を曲がろうとした。もう少しで見えなくなるだろう。
とっさにわたしは首を動かした。
ちりん。小さな音だった。
わたしの鈴の音など、ゴジラの雄叫びや街の喧騒に比べれば無いような音である。Gフォースが操る鉄の亀の音に比べても、空から落ちた火の音に比べても、海が押し寄せた音に比べても、あまりに小さい。
だが、さとみは足を止めた。わたしはもう一度鳴らした。
ちりん、ちりん。
さとみが振り返った。
目がこちらを探す。鈍い目だ。遅い。これだから鈍い人間は困る。仕方が無いので、わたしは車の下から一歩出た。
泥だらけの足。痩せた体。濡れて乱れた毛。ゆるくなった首輪。そこについた、小さな鈴。それらすべてを掲げてわたしはさとみに向かって歩いてゆく。わたしは急がなかった。猫が選んで歩く時は、急ぐ必要などない。
さとみの表情が変わった。
「サリー……?」
その声は、最初わたしの名前かどうかわからないほど震えていた。
わたしが近づいてゆくと、さとみはキャリーを落としかけ、慌てて抱え直し、それから膝をついた。膝をつくのが遅い。人間は本当に動作が大きくて不器用だ。
「サリー!」
さとみは泣き出した。
泣くのが早い。人間というものは、すぐに目から水を出す。水を出すなら皿に入れてほしい。
「サリー、サリー……!」
さとみの手が伸びてきたが、わたしは逃げなかった。
その手は、あの朝と同じ手だった。ベッドの下へ伸びてきた手。指先が震えていた手。袋を開ける手。夜、わたしの頭を撫でる手。
さとみはわたしを抱きしめた。
「ごめんね……ごめんね……!」
強い。力加減がなっていない。毛が乱れる。腹が圧迫される。首が少し苦しい。涙でわたしの頭が濡れる。人間というものは、愛情表現まで下手である。
だが、わたしは爪を立てなかった。今だけは、この大きな愚図にわたしを抱くことを許してやる。
「ごめんね、サリー……連れていけなくて、ごめんね……ずっと、ずっと探して……」
言葉の全部はわからない。
だが、匂いで少しわかった。後悔。疲れ。恐怖。そして、わたしを見つけた時の、あの変な匂い。
さとみはわたしを抱いたまま泣いていた。
わたしはその腕の中から、横目で後ろを見た。
ジャックがいた。車の陰に、薄汚れた野良猫が一匹。雨と泥と灰の匂いをまとい、片耳を少しだけ動かしてこちらを見ている。
目が合った。
「…………。」
ジャックは何も言わなかった。
来い、でもないし、行くな、でもない。馬鹿だな、でもないだろう。たぶん、じゃあな、に近かったように思う。
ジャックはジャックの足で歩く猫だ。誰かの家に入るために生きているわけではないし、誰かに抱かれるために生きているわけでもない。
彼は野良である。それは寒く、腹が減り、危なく、時々ひどく自由な生き方だ。彼が敢えてそれを選んだのか、それとも選ばざるを得なかったのかわたしは知らないが、今のジャックが自らの意思でその足で歩いていることだけはわかる。
だからわたしも何も言わなかった。
ジャックは尻尾の先を一度だけ振り、それからくるりと背を向けた。薄汚れた尻尾が、壊れた街の影の中へ入っていく。彼は振り返らなかった。振り返らないことが、彼の礼儀なのだろう。
さとみに抱かれながら、ふと思う。
家というものは、壁ではない。餌場でもないし、寝床でもない。もちろん、王国でもない。
家というのは誰かが戻ってくる場所。そして、こちらから戻ってやってもよいと思える相手がいる場所。たぶん、そういうものなのだ。
ただそのことを認めるのはたいへん癪であったので、わたしはごろごろと喉を鳴らした。人間には、それで十分であろう。
ちりん。さとみの腕の中で、わたしの鈴が小さく鳴った。
おわり。エンドタイトルは打首獄門同好会の楽曲から。
執筆BGM:遺言動物ドルバッキー(筋肉少女帯)、ロコ!思うままに(特撮)
好きなキャラクター
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サリー
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ジャック
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モモコ
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ソーセキ
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カストルとポルクス
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さとみ
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Gフォース隊員