ガープじいさんが「じゃ、あとはよろしくな!」とだけ言い残してフーシャ村へ戻ってしまい、俺──17歳の遊城十代(結城大雅)は、本当にコルボ山の山賊「ダダン一家」の隠れ家に泊まることになってしまった。
最初は海軍の制服を着ていないとはいえ、本部の関係者である俺を警戒していたダダンたちだったけれど、俺のノリの軽さと「美味そうな肉だな!」という一言で、あっという間に空気は宴会モードに切り替わった。
「おい、十代! 最後のワニ肉は、おれが先に目をつけたんだぞ!」
「あはは! 悪いなルフィ、早い者勝ちだぜ! ほら、クレイマンももっと食え!」
「マスター、恐縮です」と心の中で声を返しながら、実体化させたクレイマンが器用に骨付き肉を咀嚼している。その光景を、山賊のドグラやマグラが「やっぱり何度見ても化け物じゃねぇか……!」と怯えながら眺めていた。
ダダンの家の中は、お世辞にも綺麗とは言えないけれど、飛び交う怒声と笑い声、そして皿がぶつかる音で溢れていて、最高に活気があった。
「おい、十代」
少し喧騒から離れた部屋の隅で、13歳のエースが鉄パイプを床に置き、じっと俺を見つめていた。その隣には、静かにスープを飲んでいるサボもいる。
「ん? どうしたエース、サボ。肉ならまだあっちにたっぷりあるぜ?」
「肉の話じゃねぇよ。……お前、さっき『仲間を信じて一緒に勝利を掴むのが俺のスタイル』って言ったろ」
エースの瞳の奥に、どこか焦燥感に似た熱い火が灯る。
「おれは、この山を出たら海へ出る。海賊になって、世界中に名を知らしめるんだ。どんな悪党や化け物が相手でも、力でねじ伏せて、おれ自身の生きた証をこの世界に刻んでやる」
エースの言葉には、13歳とは思えないほどの重みと、どこか悲痛なまでの決意が籠もっていた。自分の存在価値を世界に証明したくてたまらない──そんな、危ういほどのハングリー精神。
「へぇ、いいじゃん。世界中に名を轟かせる、か。カッコいい目標だな!」
「……お前、海軍のくせに否定しねぇのかよ。クソじじい(ガープ)なら、今すぐ拳骨を落としてくるところだぞ」
エースが意外そうな顔をする。サボもハットの縁を少し持ち上げて、興味深そうに俺の言葉を待っていた。
「じいちゃんはじいちゃんの『正義』があるからさ。でも俺は海軍である前に、遊城十代だからな。周りがなんて言おうと、自分の心の中にある『ワクワク』を信じるのが、一番の勝ち筋だと思うんだぜ」
俺はポケットのカードたちにそっと触れながら、まっすぐにエースの目を見返した。
「エース。お前がどんな過去を持ってようが、これからどんな荒波にぶつかろうが、お前自身が『これが俺の生きる道だ』って胸を張れるなら、俺はそれを全力で応援する。自分の限界を自分で決めるなよ!」
「十代……」
エースが息を呑む。その隣で、サボが少し照れくさそうに笑いながら口を開いた。
「じゃあさ、十代。おれの夢も聞いてくれるか? おれは、この狭くて息苦しい国を出て、世界中を旅して回りたいんだ。そして、自分の目で見たものを全部、一冊の本にまとめたい。それがおれの『自由』なんだ」
「世界を旅して本を書く! 最高じゃん、サボ! 誰も見たことのない景色を最初に見つけるなんて、それこそヒーローの冒険そのものだぜ。その本、完成したら絶対に俺に一番に読ませてくれよな!」
「あはは、約束するよ。十代なら、おれの冒険の価値を分かってくれそうだしね」
サボが嬉しそうに目を輝かせる。4歳年上の俺から発せられる言葉は、彼らにとって、初めて自分たちの「夢」を真っ向から肯定してくれる大人のエールだった。
「なーに話してんだよ、お前ら! ずるいぞ、おれも混ぜろ!」
そこへ、口の周りを油だらけにした10歳のルフィがドタドタと割り込んできた。ルフィは俺の膝の上にぐいっと乗っかると、麦わら帽子を誇らしげに叩いた。
「おれはな! エースやサボよりも、もっともっとすげぇ海賊になるんだ! ──おれは、海賊王になる男だ!!!」
満天の星空が覗く窓の外へ向かって、ルフィの声が響き渡る。
海賊王。この世界の頂点。その言葉の持つ途方もない熱量に、俺の胸の中のマグマが一気に沸騰した。かつて俺が、世界一の決闘者(デュエリスト)や本物のヒーローを目指したあの頃の、純粋で絶対的なエネルギーが、目の前の少年の体から溢れ出している。
「ハハハハ、言ったなルフィ! よし、お前ら三人の夢、俺がこの魂(デッキ)にかけて保証してやる!」
俺は立ち上がり、ルフィの頭をガシガシとしごき、エースとサボの肩を組んだ。
「お前ら三人は、今すでに最高のチーム(仲間)だ。どんなに強い敵が現れても、どんなピンチに追い込まれても、仲間を信じて、自分を信じていれば、絶対に『ターンエンド』にはならねぇ!」
17歳の俺の真っ直ぐな言葉が、三兄弟の心にしみ込んでいく。
「いつかお前らが海に出て、世界をひっくり返すような大物になった時……俺も負けないくらい強いHEROをたくさん引き連れて、お前らの前に立ちはだかってやる。その時は、最高に楽しい『勝負(デュエル)』をしような!」
「おう! おれ、絶対に十代にも負けねぇぞ!」とルフィが笑う。
エースはフンと鼻を鳴らしながらも、嬉しそうに口元を綻ばせている。
サボは静かに、しかし強く拳を握りしめていた。
山賊の隠れ家の夜は更けていく。
海軍と、未来の大海賊たち。交わるはずのなかった線が、このコルボ山で熱く固く結ばれた。俺は、いつか訪れる未来の戦場に思いを馳せながら、今この瞬間を、心の底から楽しんでいた。