日が暮れた頃、黒ウサギと十六夜と俺は噴水がある広場に来ていた。
俺? 俺は勿論、黒ウサギの頭の上に座ってますがなにか?
いや、だってさ、ウサ耳の間に挟まれてみたいじゃないですか! 感想? 最高だと言っておこう。十六夜もヘッドホンが無ければ座れそうな、居心地の良さそうな頭してるのに。
「な、なんであの短期間に“フォレス・ガロ”のリーダーと接触してしかも喧嘩を売る状況になったのですか!?」「しかもゲームの日取りは明日!?」「それも敵のテリトリー内で戦うなんて!!」「準備している時間もお金もありません!」「一体どういう心算があってのことです!」「聞いているのですか三人とも!!」
「「「ムシャクシャしてやった。今は反省しています」」」
「黙らっしゃい!!!」
誰が言い出したのか、見事にハモった三人。フォレスト・ガトーショコラって何? 美味しそうな名前だな。
『フォレス・ガロだよ、コウヤ』
そう、それそれ!
まあ、話から考えるにコミュニティとかいうのの名前だろうなー。それとゲーム? 急展開だな。カラスの俺には関係ないよな。
『色々変身できるけどね~。この間は何になってたっけ?』
ああ、ゴジラになってギャオーって叫んでた。異変か!? って霊夢とか紫が焦ってたから消えて逃げたけど。
本当に、済まないと思っているッ!
『……まだあったよね』
………アラガミになったこと? ちょっとキュウビになって走ってただけなのに大事になったやつだろ? 本当に(ry…
ま、まあいいよな! 薫がジト目で見てくるけど、大した事じゃなかったんだし! まぁ…幻想郷をちょっとやばい雰囲気にしちゃっただけだし。
それより黒ウサギのハリセン。うん、ハリセンだよ! それどこから出したやつ? 動くなら動くと言ってくれ。俺が落ちるから。
二人の頭を叩く際に俺は黒ウサギの頭から逃げて、近くの家の屋根に止まる。
それにしてもさっきから凄い見られてるな~。あの猫と一緒にいる女の子に。ふむ…名前は何だったかな?
『春日部耀さんだよ』
春日部。ん~…耀の方が言い易いし、耀でいいや。その耀がずっと見てくる。なんだ、カラスが珍しいのか。首にリボン巻いてちゃ悪いのか。
それにしても。
そう思いながら周りを見渡す。色んな人種の人達が、この道を歩き、店などに入っている。どうも賑わっているようだ。ノーネームのようなコミュニティがあるので、もしや廃れているのではないかと思ったが、ノーネームが少し特殊なだけのようだ。
これらの人も何かしらのコミュニティに入っているのだろう。
もし、俺がゲームをしたいと言ったとして、カラス相手にギフトゲームは出来るのだろうか。してくれないとしたら、俺はとてもつまらないところに来てしまったかもしれない。
……いざとなったら人化しよう。うん。
「そんなことより。ねえ黒ウサギ」
「そんなことって……何ですか?」
「あの赤い目のカラスはどうしたの? 黒ウサギの頭に乗ってたようだけど……ペット?」
「いえ、違いますよ。あのカラスは四人目の方です。名前はコウヤですよ」
「……カラスが呼ばれたの?」
「YES。なぜかはわかりませんけど、カラスだったんデス」
「か、カラス……こんなことは初めてじゃないでしょうか」
そして仲間だとわかった耀は俺においでおいでと、鳥を招き寄せるような行動をする。なんか…あの子は動物が好きなオーラがあるような気がする。
だがしかし、俺はそんなに安いカラスじゃない! 大体、猫が近くに居るのに行けるわけ無いだろうが。喰われたらどうするんだよ。そんなことないだろうけど。
無視してグルーミングをする。余裕のあるとき、だいたい俺は…と言うか鳥はグルーミングに時間を費やす。さっき水の中に入ったのでちょっと荒れた。
羽繕いをして丁寧に羽を整え、嘴をこすり、羽毛を滑らかにする。これを時間を掛けてするのだ。
夢中になるといつの間にか時間を忘れていて、アリスが寝ていたりする。机に腕を組んでそこに顎を乗せ、その状態でいつも見てくるんだよ。時々指でつついてきたり。
せっせと羽繕いをしていると、いつの間にやら話は終わっているらしく、どこかに行くらしい。
そしていつの間にか耀が後ろに!? 屋根まで跳んできたのか!?
「クァ!」
「あ……」
後ろから捕まえられる前に屋根から転がり落ちて途中で羽ばたき、十六夜の頭まで行く。
「逃げられた……」
「残念だったな。春日部より俺の方がいいらしい」
「むぅ……」
あぁ…俺っていつも暴れたりACMしたりするから羽が乱れるのに。結構グルーミングは凝るタイプだから、途中で邪魔されたら怒るのだ。天魔やフランでも邪魔はしてこないぞ。
人化でグルーミング? おいおい、自分の肌を舐めろというのか。変態じゃないですかやだー!
人化でもグルーミングしようとするぞ? 頑張って耐えるけど。だからいつも咲夜に髪を梳かして貰ったりする。自分じゃよく分からん。
「“サウザンドアイズ”? コミュニティの名前か?」
「YES。“サウザンドアイズ”は特殊な“瞳”のギフトを持つもの達の郡体コミュニティで超巨大な商業コミュニティです。幸いこの近くに支店がありますし」
「ギフト鑑定ってのは?」
「勿論、ギフトの秘めたちからや起源などを鑑定する事デス。自分の力の正しい形を把握していた方が引き出せる力はより大きくなります。みなさんも自分の力の出処は気になるでしょう?」
そのまま耀に見られながら揺られること数分、桜が見えてきた。
おー、桜だ桜。平行世界?は時間軸が違うんだなぁ…。
それからちょっとしたら、どうやら目的の場所に到着したらしいね。商店の旗には、蒼い生地に互いが向かい合う二人の女神像が記されている。あれが“サウザンドアイズ”の旗のようだ。
しかも看板を下げようとしている、割烹着姿の店員がいる。それに黒ウサギが待ったをかける。
「まっ…」
「待ったなしですお客様。うちは時間外営業はしていませんので」
あえなく轟沈。なんてそっけない店員なんだ。じゃあカラスは客じゃないので入ってもいいんですかね? 突撃しますよ。
『ちょっと待って、ここは大人しくしておこう! ね?』
え~。しょうがないな~、薫に免じて大人しくしておこう。羽繕いでもしてるか。
黒ウサギがロリに飛びつかれて水に着水しても、どこかの部屋に入っても、バームクーヘンが何とかと言われても、知ったことではない。
そう、世界がいきなり変わろうと、知ったことでは…………どこだ此処!!?
『今更!?』
白い雪原と凍る湖畔―――そして、水平に太陽が廻る世界に投げ出されていた。らしいね。気づかなかったよ。
薫が言うには此処は白夜叉? とかいうロリの持つゲーム盤だということだ。まわる白い太陽、デカイ山、森。この一つの世界のような場所がゲームをするための場所とは…むちゃくちゃに変えてしまってもいいですかね?
こう、ディスティニーランド的なものに。もしくはデスニードラウンドに。ニッティーがお出迎えしてくれるんじゃないですかね?
「今一度問おう。おんしらが望むのは“挑戦”か? それとも“決闘”か? そこのカラスは知らぬが…」
「白夜叉様…一応、このカラスのコウヤもノーネームの一員なのですが……」
「あ~…先ほど言っておったの。なんでカラスなのやら…」
「わからないのですよ…」
はぁ…と小さくため息をつく二人。馬鹿にしているのだろうか。ヤズマットにでも変身してやろうか。みんなのトラウマをここに召喚してやろうか。
そんな俺の考えも虚しく、皆さん試されてやることにしたそうですよ。そして遠くの山脈から甲高い鳴き声が聞こえてきた。やってきたのは鷲の翼と獅子の身体を持つ獣。グリフォンだ。
「グリフォン……嘘、本物!?」
「フフン、如何にも。あやつこそ鳥の王にして獣の王。力と知恵と勇気、三つとも兼ね備えたギフトゲームを代表する獣だ」
……何? ならば俺はその鳥の王とやらに平伏した方がいいんですかね?
しかしまぁ、立派なものだ。俺の身体がより小さく見えるな。ただでさえ、人の頭に乗っても邪魔にならない程度の身体。これ、俺と比べるだけ失礼というものかね。
俺はカラスのこの身が好きだが、なんかグリフォン見てると虚しくなってくる。
『そんな事考えなくてもいいのに。幻想郷の皆は、コウヤだから好きなんだよ?』
うぅ…薫が優しい。気晴らしに飛んでこよう。あの山脈まで行ってこよう。見物と行こうじゃないか。
十六夜の頭からバサリと飛び立つ。
「コウヤ…? おい、どこに行くんだよ。これからゲーム始まるぞ!」
俺以外の奴らのな。別にゲームが終わる頃には戻ってくるさ。俺はカラスだぞ? 自由気ままに飛び回りたいに決まってるじゃないか。飛べない生活なんて嫌だ。
それに、謎生物とさえやりあった俺が危険な状況になるわけない。能力もあるし問題ない。無問題!
それにしても結構遠いなぁ…やっぱり寒いのかな?
『だと思うよ。白くなってるじゃない』
氷点下行くかな? 行ったとしても俺の体は能力で守られているので凍りつくことはない。一度、酸素濃度も気温も低い雲の上で飛んでいたけど、問題なかったしな。
雲の中を飛ぶ…そんな夢が叶った瞬間でもあった。感動したね! 白い雲の中を飛ぶのは! 竜の巣は無かったけど。
悠々と空を飛ぶ中、突如後ろから何かが迫ってくる気配がする。後ろを向いてみると、そこにはなんとグリフォンが猛スピードで迫ってきているところだった。
ゲームってグリフォンと何かすることだったのか! うお、逃げろ! 巻き込まれる!
『先ほどのカラスだと!?』
一度羽ばたくときに進む距離と速度を、能力で大幅に変え、音速さえもゆうに超える速度に達する。衝撃やGなどは能力で護られているので無事だ。
グリフォンが横を通るとき、俺が羽ばたくのもその瞬間だった。
一度羽撃いて加速しただけでグリフォンに並び立ってしまう。グリフォンは何やら羽ばたきながら走っているご様子。走って空を飛んでいるのか~…変わってるなぁ。
背中には耀が乗っている。そして安定の驚愕である。俺を見て驚いてるんですかそうですか。
『ただのカラスに並ばれるだと……ありえん…』
「カー!」
『ッ! 言うじゃないか、小さき者よ! そこまで言うなら、私の速さに着いて来いッ!』
俺が言ったことは単純。「俺の方が速かっただけだろ。ドンマイ!」だ! とても挑発して舐め腐ってますね有難うございます。舐めプですね。
いつの間にやら始まる俺とグリフォンの競争。耀とのゲームはいいのか?
だがまぁ…俺もただただ負けるのは癪なんでなぁ! 追い抜いてやんよ!
そして少し離れた所で俺は今の状況でのトップスピードに入る。
皆は音速に入っている時の戦闘機を見たことあるか? あの途轍もない音と衝撃。あれを俺の体が…カラスが起こしている。
バァァァンッッ!! と途轍もない音と共にソニックムーブが発生する。空は水面のように波打ち、俺の体の後ろには小さな円錐状のソニックムーブが出来上がる。
普通の鳥なら無理だろう。だけど、能力の恩恵がある俺だからこそ出来る。文も音速に入ると戦闘機のような音を出すぞ? そして後ろには白い一筋の雲ができる。
音はこの湖畔と山脈に響き渡る位の大きさだった。花火の爆発音よりも大きく轟く。羽ばたけば羽ばたくほど速度は加速する。
ACM…空中戦闘機動をする俺が音速まで達すると、もう小さな戦闘機と呼ばれてもいいくらいだよな。鴉型戦闘機でっす! よろしく! 的な?
そしてコーナーへ。山を時計回りに回るようで、大きく迂回する。そしてなんと俺のほうが速いという。大体、音速なんて出たら耀は衝撃で、ソニックムーブで身体が大変なことになり、下手すると死ぬだろう。良くて失神。
大体今の俺がマッハ5程度。これに追い付いてくるグリフォンは少し遅い程度だろう。耀は既に死んで……居ませんね。何の力か知らないが生きてるね。
身を低くして手綱を握り耐えている。体は所々凍っているようだ。
回りこむ時に身体を、翼を地面に対して垂直にして進む。回りきった所で上から下へと降りていく。高高度からの降下により更に加速。超音速での飛行に更に速度がプラスされた。
地面は衝撃に抉れ、風と共に螺旋に散り、舞っている。そして十六夜達の所にゴール…だと思ったか? まだ終わらんよ!
いつの間にか耀はグリフォンの背中から消えていた。十六夜達の上空を通るとき、ソニックムーブが当たらないように少し上を飛ぶ。しゃがんで衝撃に耐え、耳を塞いでいるお嬢さん…名前なんだっけ?
『飛鳥じゃなかったっけ?』
そう、なんとか飛鳥さんが悲鳴をあげていた。
俺とグリフォンは更に進み、上空へと上がっていく。
『認めよう! 疾きカラスよ! 見事な飛行だ! だから…本気で行くぞ!!』
「カァッ!!」
互いが更に加速して高度を増す。空間が波打つ。衝撃が雲を散らした。
そしてある程度上空まで来たら、今度は下へと行く。グリフォンは体を捻って下を向くが、俺は翼を止め、失速してから少し横の方に流れて落ちていく。
『ハンマーヘッドターン』。垂直に立てた金づちの頭が横向きに回転し真下を向く様子に似ていることから名付けられた技。
そして落ちていく際にリカバリー。再び翼を力強く羽ばたく。グリフォンは既に俺より少し下にいる。
追いつく。その思いで加速する。羽ばたき、速度が乗ると翼をたたんで弾丸のように回転。そして羽ばたく。最高速度が出ているときは弾丸のように飛翔し、落ちてくる寸前に再び羽ばたく。
常に羽ばたいている時よりも、翼がない分と動作がない分空気抵抗が減り、無駄がなくなるので最初から最後まで一定の速度を保てる。それに回転すれば真っ直ぐ進めるし。
真っ直ぐ行くのと迂回するのでは真っ直ぐ行くほうが速く着くだろう? 走るグリフォンは直線上ではなく、走って揺れる分と身体が大きいせいで重心が定まらず少し蛇行している。
そこを直線上に進む俺が追い抜いた。地面に打つかる前に地面と水平になり、先ほどの競争コース…山脈までもう一度飛んだ。
そして本当にゴール。勿論、俺の勝ちだ。このまま行くと速度がとんでもないことになっているので、失速しなければいけない。
本日何度目のACMだろうか。今回お見せするのは『クルビット』です!
『コブラ』というACMがあるのだが、これは水平飛行中に進行方向と高度を変えずに身体をピッチアップし迎角を90度近くに変え、そのまま水平姿勢に戻る機動を指す。これで失速出来るのだ。
でだ。クルピットとはコブラで失速してから身体を前に戻さず、そのまま後方に一回転させる。つまり、失速して止まり、そのまま自重と重力に任せて向きを変えるんだよ。
翼と身体の内側を前に向け、顔を上に向ける。身体の腹のほうで風を受けて失速し、止まった所で後方に回転して今来た方に向き直り、ポテリと黒ウサギの頭の上に着地した。
「クァ…」
ふぅ…と一息ついて翼を休める。あー、疲れたけど全力で飛べて最高に楽しかった! もうちょっと速く飛べるんだけどねー。
ついでにグリフォンも失速して到着。黒ウサギの目の前に降り立った。
『実に良き競争であった! カラスよ、名をなんという?』
「カァ」
『コウヤか…覚えたぞ、我が友コウヤよ』
「カー」
なんか知らんけど、グリフォンに友認定されたぞー! やったぜ。グリフォンの友達のカラスなんて俺が初めてじゃない?
そんな俺とグリフォンの会話を、呆然としながら…しかも俺だけを見つめながら呆けていた。その沈黙を破るかのように、十六夜がポツリと呟いた。
「……春日部のこと、忘れられてるよな」
「「「「……あ」」」」
本人も忘れてたのかよ。
『そうであったな。そちらも見事だ。少しだけ見えたが、私と同じようなギフトを使っていたな。勝利した証として使って欲しい』
「あ…うん。ありがとう…」
それを切っ掛けに耀の話に戻った。なにやら耀のギフトは凄いもので、“生命の目録”というやつらしい。真ん中の幾何学的な文様がなんとかかんとかと言っていたが、正直俺はよく分からん。
それに、黒ウサギの頭に乗っていたら十六夜が話している黒ウサギの後ろから俺を抱きかかえた。
その豊満な胸と腕に挟まれて、親指や人差し指で撫でてきたり、掌で頭から背中まで撫でてくる。
「まったく…心配させるなよ。グリフォンとぶつかったと思ったじゃねえか」
その眼は本当に心配しているような目だった。俺がただのカラスに見えたから心配だったというところか?
あ~…もう普通じゃないってバレてるけどな。
「それにしても、やっぱり普通のカラスじゃなかたんだな、お前。ソニックムーブ出しても怪我一つ無いとは…それに勝っちまうとはなぁ…」
「カァ?」
「あと、見事な空中戦闘機動だったぜ。なんでカラスのお前が出来るんだよ」
ぶつくさと言いながら俺を撫でてくれる十六夜は、羽を整えてくれていた。
なんだかんだ言いながら面倒見はいいんだから……このツンデレさんめ! ……ツンデレではないか。
耀とグリフォンのゲームだと思った? 残念! カラスとグリフォンのスピード勝負でした! 速度に関しては適当なのでそんなものとでも思っておいてください。