まだ二十日程度しか経ってないし、良いよね?
向日葵が咲き誇る場所の真ん中で、テーブルとイスを置いてその上に紅茶とクッキーなどが置かれている。二つの席には片方にフラン、対面のもう片方に緑の髪を持った美女、向日葵たちを育てている風見幽香が座っている。
そして俺こと、カラスのコウヤはテーブルの上に乗っております。
自家製だというカップに入った紅茶は鮮やかな色をしてふわりと安らぐような香りがしてくる。俺も飲んでみたが、咲夜が入れてくれる紅茶とは全然違ったもので、これはこれで最高に美味しい。
フランも一口飲んで笑顔になっている。
「むむむ…咲夜とは違った味わいがあってこれはこれで……美味しいッ!」
「ふふっ、それは良かったわ」
フランの屈託のない笑顔に幽香も微笑みながら紅茶を飲んでいる。可愛いは正義ですなぁ…綺麗な美人もいいけど。
さて、なぜこうも噂と全然違う幽香が見られるかというと、全部向日葵の仕業でございます。
俺達が散歩をしている時には幽香は既に起きていたらしい。流石に花達が騒がしくて起きたようで、今までなかったこの一致団結したテンションに驚愕しながらも急いで支度をする。
そして家を出てみて唖然としていたらしい。そりゃ向日葵がフィーバーしていれば驚くだろうな。しかも俺達を中心に行われていることなのだから。
フランしか見えていなかったらしい幽香は話しかけようと動いた時に、近くの花と向日葵に声をかけられたらしいのだ。
それからは俺達の行動をずっとその場で見ていたらしい。まぁ、傍から見れば微笑ましいの一言だろうな。無邪気な子供が向日葵と戯れているだけだから。
俺もいるけどな。いるけどな! 誰がミジンコドチビだってぇッ!?
『誰もそこまで言ってないけど!?』
コホン…花達の楽しそうな声と光景に警戒心なんて既になくなっていた。まああれだ、簡単に言えば花が認めてる奴に、花が好きな奴に悪いやつはいねーぜってことですな。
誰よりも花が好きな幽香だから声を聞いて見て、ここまで優しくなれたのだろう。
一歩間違えば戦闘だったけど…フランが地面の花を踏まない子で良かった。俺? この小さな足で踏めると? 目の前で揺れる花なんて踏めるわけないじゃないですかやだー。
「そういえば、フランは吸血鬼なのになんで太陽は大丈夫なの?」
「んー、まあお兄ちゃんに魔改造されたからとしか言いようが無いんだけど…強いて言うなら気合?」
「気合で種の弱点を克服できたら、世の中の弱点持ちは苦労しないわよ……」
全くもってそうだな。でもフランだからってことで全てオーケイになりそうだ。
それにしてもこのクッキーは美味しいですな。ああ、今は朝だから朝食代わりに俺は食っているが、二人はサンドイッチを食べている。ちなみにフラン作で幽香にも好評だった。
魔法陣から召喚してたけど、どこに作り置きしてたん? え? 亜空間? ちょっと何言ってるのか分かんない。
「それとコウヤとなんで話せるのよ」
「まあそれも幽香が花と話せるのと同じということで」
「私のは能力なんですけど?」
「いや、実は私もお兄ちゃんもこのことに関してはなんにも分かってないんだよねー。愛のなせる技って事で!」
「カァ!」
フランがウインクしながらビシっとサムズアップしたので、俺も便乗してフェザーズアップしておいた。なんか敬礼みたいになったけど気にしな~い。
「ふ~ん…で、なんでお兄ちゃんなんて呼んでるのかしら?」
「フッフッフ…実はお兄ちゃんは後二段階の進化を残しているのだ!」
「ガァッ」
バサッと荒ぶる鴉のポーズ。ガオー!
でもちょっと待って。二段階って何? 人型で一段階…おやぁ? もう一段階は何に進化すればいいんですかねフランさん!?
「ジャバウォックとか?」
鴉じゃ無いじゃん! それって不思議の国のアリスの方? それともARMSの方? はたまたPandoraHearts?
「いえいえ、魔物娘図鑑の方です」
あー、あの褐色エロい美女ねー、俺も大好きだよー…………俺に女になれってか!? いやなろうと思えばなれるんだけどね!
「マジで!? いや、知ってたけどね! まあそれはまたの機会…具体的には私と部屋で二人きりになった時で」
二人きりの密室で俺をジャバウォックに…? 何する気だ。あ、私に酷いことするのね!? エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!
「よく分かったね。残念、妹系ヒロイン吸血鬼からは逃げられない…!」
……………お、このクッキーって紅茶に合うように作られてるんだな。幽香も女子力高いなー。
『現実逃避しちゃったよこの子!』
え? 何かあったっけ? 別にフランがなにか危ないことを言ってたなんて事実は無かった、いいね?
『アッハイ』
聞き分けのいい子で助かったよ。
「何を話してるかなんてまるでわからないわね…これ、私が花に話しかけてる時と同じことよね」
「正しくその通りだよ、幽香さん。傍から見れば私も君も危ない奴なのさ…私も幽香も今更だがなッ!」
「手を広げていい顔して言うことじゃないわよ、それ……」
腕をバッと広げてドヤ顔でそう叫ぶフランだが、ちょっと格好良いと思ってしまった。チィ、既に俺にも魔の手が……!!
『元を辿ればコウヤが発信源だからね? ゾンビパンデミックの原因がコウヤだったってことと同じだからね?』
まだ幻想郷は毒されてない。失敬な、俺がいつこんなことをフランに教えたというのかね!?
『ねえ、本当に思い当たらない?』
……え
『思い当たらないかな? あの時とか、あの場面とか……ほら、思い当たらないかな?』
え、いや…あれ? …もしかして……
『身に覚えはないかな?』
その…確か…
『身に覚えはないかな?』
え…? まさかぁ、あれか…? それともあの時か…?
ずずいと迫ってくる薫の顔に顔を背けながら冷や汗を滝のように流す。そ、そのような事があろう筈がございません…
おっと見ろよ薫、あんな所にチュパカブラが居るぞ!
『そこには幽香さんしか居ないけど…何が見えてるの?』
未来さ! 幽香と結婚しているという未来が視える! カラスだから無理だけど。人化すればワンチャン…俺がイケメンになればそういう可能性も微レ存……。
「ネーヨ」
フランに拒否られた。ちょいといらっときた俺はクッキーをフランに向かって蹴り飛ばす。バシッと弾き飛ばされたクッキーは一直線にフランの顔に向かっていくが、それを余裕を持って弾き返してくる。
「無駄ァ!」
「クァ!」
人差し指で弾かれて宙を舞うクッキーを、ジャンプして咥える。いやぁ、もったいないじゃん? 蹴った俺が言うのも何だけどな。
そしてぽふりと緑色の柔らかく良い匂いのクッションに着地と同時に、クッキーを少しだけ放って改めて食う。ちなみに着地までの時間は約一秒での攻防。
「あらら、幽香の頭の上に乗っちゃったよ」
「カァ?」
「ちょっと、何してるの。降りなさい」
降りろと言われると降りたくなくなるのがカラスだよな。永琳の時と同じように乗ったまま過ごしてやろう! 髪質が髪質だから座りやすいし、心地良い。イイね!
叩き落とされかけてジャンプして回避、傾けられて移動、掴みかかられて翼で迎撃。負ける要素が何一つ見当たらない!
「コウヤ…! 糞でもしたら焼いて肥料にするわよ…!」
骨粉!?
「あはは! うん、可愛い可愛い! いやぁ、幽香似合ってるよ。パイルダーオンされたままでいいじゃない」
「フラン、貴女ったら……はぁ、カラス相手にムキになるのも馬鹿らしいわ」
「でもお兄ちゃんはただのカラスに見えないでしょ? 他とは違って魅力的だよ~」
「……まぁ、確かに他とは違って可愛いけど」
頭上の俺を上目遣い?で見てくる幽香に、頭だけで覗きこむようにして傾げる。何か用ですかい? おいちゃん、ちょっと羽繕いで忙しいからまた後でかまってあげるね。いい子にしてて。
「羽繕いで忙しいから後でかまってあげる、いい子にしててね。だってさ!」
「……………いい子にしててねなんて、生まれて初めて言われたのだけれど…」
「おお、お兄ちゃんに幽香の初めてが奪われたね!」
「言い方どうにかならないの? というか、構ってあげるって…」
「ご褒美じゃん」
「ご褒美なの?」
「うん」
「そう……」
真顔で答えるフランに幽香はなんとも言えない顔をしている。そりゃそうだ、誰でもそうなるだろうさ。
幽香の香りを堪のゲフン! 幽香の太ももの上から撫でられながら話を聞くこと二十分…そろそろ暇してきた。ゆるりと進む女同士の会話は男の俺にはよくわからん未知の領域でござる。
何が合ったのかこの二人は結構仲良くなったらしいけど、その柔らかさと撫で技術を堪能していた俺はいつの間にやら無表情で向日葵を眺めていた。
なるほど、これが無我の境地……じゃなくて、無気力の境地というやつか。
これより先は常に死と隣り合わせの秘境…ガラスハートのカラスハート。少しの衝撃で壊れてしまう笑撃のハート。覚悟のないものは去るがいい…我が無気力の真髄、無気力の実力、その身で味わい堕ちてゆけッ!!
『盛り上がってるとこごめん、何言ってるの?』
簡単に言おう、暇だと! ぶっちゃけてしまおう、暇だけど何もやる気が起きないというのだと! お前も無気力にしてやろうか…!
『コウヤのやる気スイッチはどこかな? 牙突食らわせてあげる!』
やだこの子、怖すぎる! 隠せ、隠すんだコウヤ! 俺のやる気スイッチなんて見せて押されたら、俺はオーバーワークにより壊れてしまうぞ! 仕事なんて無かったんや…。
じゃなくて、ちなみに俺のやる気スイッチはガラスハートなカラスハートの中。
『見つけた、そこだ! 受けてみて、これが私の全力全壊…!! ――コウヤ、一緒に寝よ?』
――ガシャァァァァンッ!!――
グッハッ……!!! 俺のカラスのガラスなハートが一瞬で砕け散った…だと…?
着物を肌蹴させてからの上目遣い…そしていつの間に出したんだその枕! 胸元に抱いて怖い映画を見た後の寝れなくなったから、恥ずかしいけど一緒に寝たいと言ってきた彼女みたいな感じが出てる……ノックアウト!
上目遣い――ワンアウト!
甘えてくるような声――ツーアウト!
その絶妙なあざとさ――スリーアウト!
チェンジ!
妥当な判断だろう…ここでチェンジしておかなければ理性が持たない気がする。助けてゆうかりん!
幽香の下腹部にダイブするように突っ込んで薫を見ないように視界をシャットアウト。
「ん…いきなりどうしたのよ、天敵でも居た?」
「いたんじゃ…ないんですか……ねぇ……?」
「フランは何をそんなに震えてるのよ…」
「薫お姉ちゃんとお兄ちゃんの茶番に入る機会を見逃した…くそぅ、中々面白そうだったのに…! 突っ込みどころが多かったのに……!!」
「……あぁ、我慢と後悔に震えてるのね。短時間で二人のことがなんとなくわかってきた私が怖いわ…」
おぉ、俺達と相性が良いんじゃないですかね?
『それは二人がわかり易すぎるんじゃないのかな?』
そんなこと無い、無いったら無い! なにせ俺は巷で有名な、鉄面皮で冷静すぎるコウヤと人気だったからな。常に情熱と冷静の間にいた。俺のことを理解するのは難しいぞ。
『それ、普通ってことじゃん。もはや冷静じゃないじゃん。嘘じゃないですかー!』
ば、馬鹿な…そんなはずは…俺は完璧な言い訳を言っていたはずだ! そ、そうだ、これは妖怪の仕業だ!
『言い訳って言ってるところで片足が泥に沈んで抜け出せない状態って気づいてー。あとここ、幻想郷は妖怪沢山いるからね、その言い訳通用しないから!』
それもそうか。じゃあポケモンの仕業だ! 対抗馬出してやんよ!
あ、どうでもいい話だけどさ、最近スーパーとかに行ってもポケモンパン見ることが少なくなったんだよね。妖怪パンにパンコーナーを侵食されて見ることが滅多になくなってきた。
俺は悲しいよ、ポケモンが一番良かった…ダイパからのシリーズはしてないけど。
―――アニメのゲッコウガで笑った件について。
妖怪パンで妖怪出すならさ、せめて幻想郷の妖怪たちを出して欲しい。物凄く売れるだろうし、俺自身も保存用・観賞用・実用の三つを揃えるために全部コンプリートしておくのに。
『シールだから実用って観賞用と被らない?』
持って眺めるのと、ふと眼にした時に貼られているのを見るのとじゃあ全然違うだろう! つまりはそういうことだ。あ、ぬら孫でもいいかも。
おっと、また薫と色んな話しててフランが入りそびれたから噴火しそう。落ち着かせるために幽香を誘導して頑張るから、また昼頃に会おう。じゃあな!
『またね!』
昼っていつですかねぇ?