東方憑鴉録   作:きりがる

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第1話 カラス、憑依する

 これが人間だった頃の話。で、今はカラスである。

 

 いや、俺だってわからないぞ? 死んだはずなのになんでカラスになってるんだ、って話ですよ。目が覚めた時は畑に居たんだが、体の異状に気づいて納屋の横にあった水の入っている樽みたいなのを覗いて、自分がカラスだと知った。

 

 何故こうなったかを考えようとして……わからなかったから考えるのをやめた。

 

 別にどうでもいいし、カラスもいいものだ……多分。カラスの種類は恐らくだが、ハシボソガラスだ。でも目が真っ赤なんだよな。ホラゲーとかに出てくるカラスによく似ている。てことは違うかも。

 

 さて、そろそろ情報でも収集してくるかね。ということで、翼をはためかせて空に舞い上がった。この体は最初からそうであったように、自由に動かせるし空でも陸で歩くときでも自由に動ける。

 

 見たところ人が住んでいる里の文明レベルが結構低い。それこそ日本史に出てくるレベルである。暫く飛び回り、人々の会話を盗み聞き。

 

 聞いた所、この里の稗田阿求は数多くの書物を持っているし知識が多いと聞いた。早速飛んでいって近くの木に止まり、開いている障子から盗み見る。

 

 開きっぱなしの書物によると、此処は幻想郷といい、妖怪や妖精なんかも居て、魔法も使えるらしい。

 

 これと幾らかの情報しか得られなかったが、収穫は大きい。中々面白い世界に来たらしいな。

 

 だが残念なことに、俺はカラスだ。不思議な力もなければ能力もない。ただ他の動物より賢いだけのカラス。…………ま、いいか。自由にカラス生活でも送るかね。

 

 

 バサッと飛び上がり、食料を確保しに行く。この身は既にカラス……だから米とか種子とか果実なんかでいい。動物の死体でもいいが、ハシボソガラスは大体植物質を好む。

 

 カラスでも雛の時期から人間に飼育された個体は、キュウカンチョウなどのように、人間や犬の声などを真似ることもできるようになる。

 

 だけど俺の場合は元が人間なので、短時間で真似られる…というか少しなら喋れるようになった。ぴょんぴょん跳ねるだけだったのが、脚を交互に出して歩いたりも出来るように。

 現代でもカラスが走っているのはよく見かけるので、そのカラスである俺自身が走ることに関してはそこまで難しくなかった。

 

 また、宝飾品やガラス製品を収集するなど、繁殖・生命維持に無関係と思われる行動も行う。これは俺にも適応された。さすがカラスである。光物には目がない。

 

 あと、遊戯行動…つまりは電線にぶら下がる、滑り台で滑る、雪の斜面を仰向けで滑り降りるなどの行動も確認されていたらしいので、かなりアクロバティックな動きもできるようだ。 

 

 飛ぶ早さには結構自信があるぜ。

 

 これがカラスと俺の説明だな。

 

 それより、このカラスの体になってから未だ何も食べていないために腹が減った。簡単に済ませるために、道端に落ちているゴミでも食おうかと思ったんだが、流石に大勢に踏まれて悲惨な姿になっている野菜を食おうとは思わないんだわ。

 

 だから少しばかり遠出して川の近くに生えていた胡桃の木、その下に落ちていた胡桃を咥えれるだけ咥え、路地裏に戻ってきた。

 

 さて、ようやく飯だと意気込むはいいが、やはりというかなんというか……そりゃ硬すぎて食えねぇよ。

 

 胡桃を咥え、近くの石に首を振ってワンヒット!

 弾かれた勢いを使って鍬に向かってシュートのツーヒット!

 弾かれて帰ってきたところを咥え、背後の壁に振り返りざまにスリーヒット!

 最後の最後に足を滑らせる…が、ここで諦めてはカラスではない!(?) そのままゴロゴロと転がって地面を蹴り、空中に飛び上がってから斧を振り下ろすかのように首を振って地面にフィニッシュ!

 

「クァァァ……!」

 

 く、頸が頭が腰が痛い……!!!

 あんな無茶な動きすれば痛くなるってなんでわからないんですかねぇッ、カラスの脳様よぉ!

 

 人々が大勢歩く道の小脇、薄暗い路地裏で悶えながら転がっているカラスというシュールな光景に、全カラスが泣いた。

 

 暫く悶に悶えてから、このまま諦めるというのも嫌なので、仕方ないからカラスの有名な行動を真似てみますか。

 

 胡桃を咥えて道まで出る。視界の端では遠くから来る馬車を捉え、通路に胡桃をセット!

 

 ガラガラガラガラガラ……………

 

 よしよし、来たな……

 

 ガラガラガラ……バキッ!

 

「カァ!(ジャスト!)」

 

 ついつい叫んでしまった……近くに俺のことを見ている人がいるのに気付かずに……。

 

 ちなみに俺の声は『ガー』ではなく『カー』と音程が高い。少し喋れるからかな。それより飯だ。

 

 見事に割れた胡桃を突付き、中身を取り出す。食べた中身はまんま胡桃だった。味覚も憑依したからか、変わってしまったようだ。人間の時は胡桃などのナッツ系は嫌いだったのに、今では結構美味く感じる。

 

 暫く食べていると、後ろに人が来る気配がした。どうやら夢中になっていたようで気づかなかった。先程からずっと見てたらしいな。

 

「お前、面白いことするね」

 

 見てみると、白髪赤眼のもんぺ履いた美少女がしゃがんで俺のこと見ていた。いや~、しまったな……逃げるか。

 

 そう思って翼を広げた瞬間、この少女に捕まった。捕まってしまった。

 

「よし、慧音に見せよう」

 

 くっ…不覚! まさか背後を取られるなんて!

 

 抜け出せないので、もう大人しくその慧音とやらの所に運ばれることにした。

 

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