ここまで読んでくださりありがとうございます。
黎明のアベンジャーオルタが出てくるまでに何があったかを書いてみました。
冬木市。
街は静かだった。
静かすぎるほどに。
その静寂は、
これから始まる最後の嵐を予感させていた。
聖杯は、もうすぐ姿を現そうとしていた。
アベンジャーは夜空を見上げる。
月。
少しだけ欠けた白い月。
「……ああ。」
「ここからは一人倒れるたびに世界が変わる。」
「誰も退けなくなる。」
その時だった。
空気が裂ける。
魔力。
いや──
剣気。
セイバー。
彼は一人で現れた。
鎧には無数の傷。
だが立ち姿は少しも揺らがない。
「……来たか。」
アベンジャーは前へ出る。
「貴公とは、もう一度話してみたかった。」
セイバーは静かに言う。
「復讐者。」
「いや。」
「守護者よ。」
アベンジャーは苦笑した。
「その呼び方は少し照れる。」
「私は復讐者だ。」
セイバーは首を振る。
「違う。」
「貴公は自らを盾にしている。」
「盾は守る者だ。」
「それは復讐ではない。」
アベンジャーは静かに目を閉じた。
「……そうかもしれない。」
「だが私は憎んでいる。」
「理不尽を。」
「絶望を。」
「人を壊す環境を。」
セイバーは頷く。
「知っている。」
「だから問おう。」
「その憎しみは。」
「勝利の後も残るのか?」
沈黙。
風だけが吹く。
マスターも答えを待った。
アベンジャーはゆっくりと言葉を探す。
「……消えない。」
「多分、一生。」
「傷は消えない。」
「朝になると怖い日もある。」
「吐き気がする日もある。」
「何気ない一言で昔へ戻る日もある。」
「全部、残る。」
「だから私は。」
彼は空を見た。
「忘れない。」
セイバーは目を細める。
「なるほど。」
「つまり。」
「傷を抱えたまま歩く。」
「それがお前か。」
「……ああ。」
セイバーは笑った。
ほんの少しだけ。
「ならば安心した。」
「貴公は最後まで人間だ。」
「私は。」
「英雄ではない。」
アベンジャーは答える。
「英雄になりたいとも思わない。」
「救える人数にも限界がある。」
「それでも。」
「目の前だけは護る。」
「それで十分だ。」
セイバーは剣を抜く。
「ならば。」
「その信念。」
「この剣で量ろう。」
黄金の光。
大地が震える。
「来る!」
マスターが叫ぶ。
戦闘開始。
セイバーの剣は速い。
速すぎる。
アベンジャーは真正面から受ける。
轟音。
地面が割れる。
「ぐっ!」
腕が痺れる。
「筋力では敵わない!」
マスターが叫ぶ。
「分かっている!」
セイバーは休まない。
二撃。
三撃。
四撃。
剣が雨のように降る。
アベンジャーは一歩も退かない。
全て受ける。
全て。
スキル発動
「俺が苦しむことで誰かが救われるのなら──!」
『身代わりの苦難(スケープゴート・シールド)』
巨大な盾。
結界。
光。
セイバーの斬撃が全てアベンジャーへ集まる。
「……!」
マスターは息を呑む。
「全部受けてる!」
ダメージ。
累積。
一万。
二万。
三万。
五万。
七万。
アベンジャーは笑った。
「まだ耐えられる。」
「あと少し。」
「もう少し。」
セイバーが止まる。
「……何故笑う。」
「痛いだろう。」
アベンジャーは答える。
「痛いさ。」
「でも。」
「この痛みは。」
「知っている痛みだから。」
セイバーは目を見開いた。
その瞬間。
彼は理解した。
この男は。
肉体ではなく。
心で耐えてきた。
セイバーの宝具。
「ならば。」
「これで終わらせる。」
世界が白く染まる。
黄金。
星。
剣。
「集え。」
「我が理想。」
「我が王道。」
光柱。
「エクス・カリバー!!」
マスターが叫ぶ。
「来るぞ!」
アベンジャーは静かだった。
「ありがとう。」
「ここまで私を信じてくれて。」
マスターは頷く。
「当然だ。」
「君は。」
「絶対に立ち上がる。」
アベンジャーは笑う。
「そうだな。」
「私は。」
「何度でも。」
「耐える……この一秒を!」
『耐え難きを耐え(グラデュエーション・ホープ)』
五重ガッツ。
魔力が溢れる。
黄金の奔流。
冬木が揺れる。
爆発。
轟音。
光。
そして──
静寂。
煙が晴れる。
そこには。
膝をつく男。
血まみれ。
何度も死に。
何度も立ち上がった男。
アベンジャー。
「……まだ。」
「終われない。」
ガッツが一つ。
消える。
二つ。
三つ。
四つ。
最後の一つだけが残る。
マスターは涙を流していた。
「何で。」
「何でそこまで……」
アベンジャーは笑った。
「私は。」
「こういう生き方しか。」
「知らないんだ。」
累積ダメージ。
108,460
観測者が静かに呟く。
「……条件達成。」
空間が震えた。
マスター達やサーバント達が振り向く。
「何?」
観測者は月を見る。
「終幕条件。」
「累積被害十万。」
「NP二百。」
「揃った。」
アベンジャーの霊基が軋む。
黒い炎。
銀の光。
月光。
そして。
誰も聞いたことのない鼓動。
観測者は初めて微笑んだ。
「さあ。」
「復讐者。」
「君は。」
「どちらを選ぶ?」
「必要悪か。」
「あるいは──」
「もう一人の自分か。」
アベンジャーの瞳が揺れる。
その瞳に映ったのは、一瞬だけ現れた"もう一人"。
黒い炎を纏い、憎悪だけを宿した自分。
黎明のアベンジャー〔オルタ〕。
「……お前は。」
その影は笑う。
「ようやくここまで来たか。」
「甘い俺。」
「その力、本当に守るためだけに使い切れるか?」
黒い影は、月明かりの中で静かに手を広げた。
「終幕は近い。」
「選べ。」
「世界を護るか。」
「世界を壊すか。」
前回と整合性が無いかもしれないけど、オルタが生まれる条件や観測者が狙っていたこと等々、補足出来たと思います。
次回もお楽しみに。
【毎日17時更新 / 全17話+α・7月23日完結予定】