Fate/Scapegoat   作:KMST

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13話目です。
ここまで読んでくださりありがとうございます。


第十三章 黒き月、白き盾

夜空に浮かぶ月が黒く染まる。

 

その瞬間。

 

観測者が静かに呟く。

 

「始まったか。」

 

地面が揺れる。

 

冬木中に黒い霧が流れ始める。

 

霧ではない。

 

あれは――

 

人間の絶望。

 

叫び。

 

後悔。

 

怒り。

 

嫉妬。

 

諦め。

 

積み重なった負の感情が、

聖杯によって物質化している。

 

マスターは息を飲む。

 

「これが……聖杯……?」

 

アベンジャーは首を振った。

 

「違う。」

 

「これは聖杯じゃない。」

 

「人間そのものだが、人間ではない。」

 

「■■■だ。」

 

−−−−−

 

オルタは笑う。

 

「俺は。」

 

「傷を誇れなかった未来。」

 

「救われなかった未来。」

 

「壊れたまま生き続けた未来。」

 

「そして。」

 

「誰も信じられなくなった未来だ。」

 

アベンジャーは黙っていた。

 

怒らない。

 

否定しない。

 

ただ、

 

静かに見つめる。

 

「……辛かったな。」

 

オルタの笑みが止まる。

 

「……は?」

 

「辛かったんだろう。」

 

「だからそこまで壊れた。」

 

「違うか。」

 

沈黙。

 

風だけが吹く。

 

「……黙れ。」

 

「黙れ。」

 

「黙れ!!」

 

黒い炎が爆発する。

 

「何が分かる!」

 

「俺は!」

 

「何度も助けを求めた!」

 

「誰も助けなかった!」

 

「全部終わった後で!」

 

「頑張ったね?」

 

「偉かったね?」

 

「そんな言葉!」

 

「何になる!!」

 

黒い月が軋む。

 

冬木中が揺れる。

 

アベンジャーは、

 

静かに答えた。

 

「……ならない。」

 

オルタが叫ぶ。

 

「その通りだ!」

 

「壊れた心は戻らない!」

 

「適応障害は勲章じゃない!」

 

「傷は美談じゃない!」

 

アベンジャーは肯定する。

 

「全部その通りだ。」

 

「私は否定しない。」

 

「だから。」

 

一歩前へ出る。

 

「私は、お前を否定しない。」

 

オルタの瞳が揺れる。

 

「……やめろ。」

 

「やめろ。」

 

「そんな顔するな。」

 

「俺を哀れむな!」

 

アベンジャーは首を振る。

 

「違う。」

 

「私は。」

 

「お前だから分かる。」

 

「お前がどれほど苦しかったか。」

 

その瞬間。

 

黒い炎が暴走した。

 

「黙れぇぇぇぇぇ!!」

 

宝具解放。

 

「一度壊れた心はもう元には戻らない!」

 

「俺は俺の心を壊したお前らを壊す!」

 

「俺の心を壊した構造を壊す!」

 

「壊れたまま生きろ!」

 

『月は我が屍を喰らう、これぞ無価値な生の理

(エクリプス・オブ・マインド)!!』

 

黒い月が降ってきた。

 

冬木全域を覆うほどの巨大な闇。

 

まさしく終末。

 

マスターが叫ぶ。

 

「避けろ!!」

 

しかし。

 

アベンジャーは動かない。

 

静かに立ったまま。

 

「私は逃げない。」

 

「お前の痛みは。」

 

「全部受け止める。」

 

スキル発動。

 

「身代わりの苦難。」

 

世界中の呪いが、

 

彼一人へ集中した。

 

肉が裂ける。

 

骨が砕ける。

 

血が舞う。

 

それでも。

 

立っている。

 

観測者が初めて驚いた。

 

「馬鹿な。」

 

「真正面から受け止める気か。」

 

「自らの別側面の宝具を。」

 

アベンジャーは笑った。

 

「当然だ。」

 

「私なんだから。」

 

黒い炎が消える。

 

オルタが震えている。

 

「何故。」

 

「何故だ。」

 

「何故。」

 

「俺を責めない。」

 

「俺を斬らない。」

 

「俺は世界を壊そうとしてるんだぞ。」

 

アベンジャーは答えた。

 

「知っている。」

 

「でも。」

 

「お前は。」

 

「本当は。」

 

「世界を壊したいんじゃない。」

 

「これ以上。」

 

「自分みたいな人を作りたくないだけだ。」

 

その言葉は、オルタの心の奥底にしまい込んでいた願いそのものだった。

 

黒い炎が大きく揺らぐ。

 

オルタは歯を食いしばり、拳を震わせる。

 

「……違う。」

 

そう否定しながらも、その声には迷いが混じる。

 

観測者は空を見上げ、小さく目を閉じた。

 

「なるほど。」

 

「聖杯が映したのは、憎悪ではない。」

 

「可能性の衝突か。」

 

夜空の黒い月に、わずかな亀裂が走る。

 

世界そのものが、次の局面へ進もうとしていた。

 




アベンジャーとオルタの関係性を深めてみました。
とは言え■■■って何でしょうね?
次回もお楽しみに。

【毎日17時更新 / 全17話+α・7月23日完結予定】
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