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黒い月には、なお亀裂が走り続けていた。
オルタは膝をつき、肩で息をしている。
しかし、その瞳から憎悪は消えていなかった。
「……認めない。」
「俺は間違っていない。」
「壊された者には、壊す権利がある。」
アベンジャーは静かに頷く。
「ある。」
その返答に、マスターまでもが驚いた。
「アベンジャー!?」
「復讐を望む気持ちは否定しない。」
「奪われた者が怒るのは当然だ。」
「泣くのも当然だ。」
「憎むのも当然だ。」
「その感情まで否定すれば、人は本当に壊れてしまう。」
オルタは苦々しく笑う。
「だったら何が違う?」
「お前と俺は同じじゃないか。」
アベンジャーは静かに目を閉じた。
「違う。」
「私は復讐の"終わり"を知ってしまった。」
その言葉と共に、周囲の景色が変わる。
そこは、一つの学び舎だった。
薄暗い研究室。
深夜まで灯りが消えない実験室。
机に伏せる学生。
涙をこらえる青年。
震える手。
吐き気。
眠れない夜。
終わらない焦燥。
オルタが静かに呟く。
「……覚えている。」
「全部。」
アベンジャーも頷いた。
「ああ。」
「忘れた日は一日もない。」
そこへ、一人の学生が現れる。
顔は見えない。
その学生は静かに研究室を去っていく。
もう戻らない。
「彼は大学を辞めた。」
また別の学生。
「彼は心を壊した。」
さらに一人。
「彼は今でも通院している。」
誰も英雄ではない。
誰も悪人でもない。
それでも、多くの人が傷ついた。
その光景を見ていたマスターは拳を握る。
「こんなの……。」
「誰も救われてないじゃないか。」
アベンジャーは静かに答える。
「そうだ。」
「だから私は聖杯を求めた。」
「個人ではなく、構造そのものを変えるために。」
「悪しき構造は憎めど、人は憎まない。」
オルタが立ち上がる。
「だから甘いんだ。」
「構造なんて変わらない。」
「人間は変わらない。」
「なら全部壊せばいい。」
「そうすればもう誰も傷つかない。」
アベンジャーは首を横に振る。
「違う。」
「全部壊せば。」
「守りたい人まで壊れる。」
オルタは怒鳴る。
「仕方ないだろ!」
「犠牲は必要だ!」
「必要悪だ!」
その瞬間。
アベンジャーの表情が初めて厳しくなる。
「違う!」
「それは必要悪じゃない。」
「ただの虐殺だ。」
静寂が落ちる。
「必要悪とは。」
「自分が傷つくことだ。」
「他人を傷つける免罪符じゃない。」
その言葉は、オルタの胸に突き刺さる。
観測者が静かに笑った。
「なるほど。」
「ようやく見えてきた。」
マスターが振り向く。
「何がだ!」
観測者は黒い月を見上げる。
「彼はまだ完成していない。」
「いや。」
「完成しようとしている。」
その瞬間。
オルタの霊基が震え始める。
黒い炎。
白い光。
二つが衝突する。
アベンジャーが目を見開く。
「これは……。」
観測者が呟く。
「アヴェンジャーとシールダー。」
「二つの可能性が融合する。」
聖杯から白い光が出る。そして、彼らを包む。
オルタが苦しげに叫ぶ。
「何だ……これは!」
「やめろ!」
「俺は……!」
「俺は復讐者だ!!」
アベンジャーが近づく。
「違う。」
「お前は。」
「元々。」
「誰かを護りたかった。」
「違う!」
「違わない。」
「研究室で。」
「苦しんでいた後輩を。」
「辞めようとしていた同期を。」
「笑わせようとした。」
「励まそうとした。」
「相談に乗った。」
「全部覚えている。」
オルタの瞳が揺れる。
「……。」
「その優しさは。」
「誰にも奪えない。」
「傷ついても。」
「壊れても。」
「消えなかった。」
「だから。」
「お前は完全な復讐者にはなれなかった。」
その瞬間。
黒い炎が弾け飛ぶ。
オルタの身体が光に包まれる。
鎧が砕ける。
2人が合わさり、黒い外套が白銀へ変わる。
巨大な盾。
夜明けを思わせる蒼白い外套。
胸元には、黒い月と昇る太陽を重ねた紋章。
観測者はゆっくり頷いた。
「なるほど。」
「これが第三の可能性。」
「そして抑止力か!」
世界が震える。
英雄でもない。
王でもない。
一柱の守護者、いや守護神とも呼べるであろう力を持った者が立っていた。。
クラス変更→SHIELDER
マスターが息を呑む。
「アベンジャーが……シールダーに……。」
彼はゆっくり振り返る。
その表情は穏やかだった。
「そうだ。」
「だが私は復讐を捨てた訳じゃない。」
「復讐を護る力へ変えただけだ。」
巨大な盾が地面へ突き立つ。
「誰かが傷ついた事実は消えない。」
「消してはいけない。」
「だからこそ。」
「その傷を。」
「未来を護る盾にする。」
観測者は微笑んだ。
「これで役者は揃った。」
マスターは叫ぶ。
「まだ終わってないのか!?」
観測者は頷く。
「もちろん。」
「ここからが本当の戦争だ。」
「いや、人類存亡をかけた戦いかな…?」
黒い月が完全に割れる。
その奥から現れたのは、
巨大な"何か"。
人型ですらない。
都市を覆うほど巨大な、漆黒の繭。
それは脈動していた。
ドクン。
ドクン。
まるで世界そのものが鼓動しているかのように。
観測者の声が、静かに響く。
「これこそ、この戦争の黒幕。」
「人類が何千年も積み重ねてきた負の感情が、一つの存在へと収束したもの。」
「憎悪でも、悪魔でもない。」
「人が生み、人が育て、人が見て見ぬふりをしてきた"構造"そのもの。」
マスターは、その圧倒的な存在感に言葉を失う。
シールダーは盾を握り直し、一歩前へ出た。
「……ようやく辿り着いた。」
「私が本当に戦うべき相手。」
アベンジャーとオルタが融合して、復讐心を持ちつつも、護ることを覚悟した姿。黎明のシールダー。
彼が本当に戦う相手とは?
ヒントは観測者のセリフの中に。
次回もお楽しみに。
【毎日17時更新 / 全17話+α・7月23日完結予定】