ここまで読んでくださりありがとうございます。
クライマックスも近いです。
夜空は完全に沈黙していた。
黒い月が砕けたその向こう。
現れたものは――
空ではなかった。
宇宙でもなかった。
そこには、
無数の研究室。
無数の学校。
無数の会社。
無数の病院。
無数の工場。
無数の役所。
無数の家庭。
世界中の「人が生きる場所」が映し出されていた。
しかし、
その全てに共通していたものがある。
泣いている人間。
怒鳴る人間。
追い詰められる人間。
見て見ぬふりをする人間。
マスターが震える。
「これは……」
観測者が静かに答えた。
「人類史だ。」
「英雄の歴史ではない。」
「人類そのものの歴史。」
「誰かが誰かを壊し続けた歴史。」
闇が鼓動する。
ドクン。
ドクン。
都市全体が震える。
その中心から、
一つの声が響いた。
男でもない。
女でもない。
老人でも子供でもない。
無数の声が重なっている。
「私は世界。」
「私は社会。」
「私は組織。」
「私は正義。」
「私は常識。」
「私は空気。」
「私は伝統。」
「私は人類。」
観測者が初めて名を告げる。
「顕現するか、人類悪――BeastⅧ。」
世界が静まり返る。
マスターが呟く。
「人類悪は確か7体じゃなかったのか!?」
観測者否定する。
「そうとも限らない。
今の人類が創り出した新たな人類悪。」
「『構造』の理。構造悪とでも言おうか」
観測者は続ける。
「人は時に悪意で他人を傷付ける。」
「だが。」
「もっと恐ろしいものがある。」
「悪意が無いまま。」
「正義だと思ったまま。」
「善意だと思ったまま。」
「人を壊してしまうことだ。」
映像が流れる。
「昔からこうだから。」
「みんな耐えてきた。」
「君のためを思って。」
「社会はそんなものだ。」
「我慢しろ。」
「甘えるな。」
「気合が足りない。」
「努力不足だ。」
誰も悪人の顔をしていない。
それでも。
誰かが泣いている。
「これが。」
観測者は静かに言う。
「構造悪。」
「誰も悪人ではない。」
「だから誰も責任を取らない。」
「だから終わらない。」
その瞬間。
巨大な闇が裂けた。
中から現れたものは、
人ではない。
無数の腕。
無数の口。
無数の目。
スーツ姿のモノ。
白衣姿のモノ。
制服姿のモノ。
私服姿のモノ―――
全てが笑顔だった。
笑いながら、
誰かを追い詰めている。
――――それは、人類の進歩を喜ぶ、人類の原罪。
−−−−−−−
BeastⅧ
『構造』の理
構造悪
−−−−−−−
観測者が続ける。
「人類悪、その本質は人類愛。」
マスターが叫ぶ。
「人類愛!?」
観測者は頷く。
「そう。」
「人類悪とは。」
「人類を愛した結果。現在よりも未来を良くしようとした結果、人類を滅ぼす存在だ。」
「この獣も同じ。」
「より良い社会。」
「より良い教育。」
「より良い会社。」
「より良い組織。」
「より良い正義。」
「その理想だけを積み重ねた結果、壊れていった個人がいた。そして、その積み重ねによって社会が崩壊し、人類が滅びる。」
Beastが笑う。
「私は悪ではない。」
「私は正義。」
「私は効率。」
「私は秩序。」
「私は合理。」
「私は進歩。」
「切り捨てられる者が出るのは当然だ。」
シールダーは静かに前へ出た。
「違う。」
Beastが笑う。
「違わない。」
「お前もそうだ。」
「必要悪。」
「多数を犠牲に少数を救う。」
「同じ思想ではないか。」
マスターが息を飲む。
確かに。
彼は何度も言っていた。
必要悪。
その言葉を。
シールダーは目を閉じる。
静かに答える。
「……違う。」
Beastが止まる。
「必要悪とは。」
「誰かを犠牲にすることじゃない。」
「自分が傷付く覚悟だ。」
「他人へ押し付けるものではない。」
「自分が背負うものだ。」
「決して、自分が壊れた過去を、今も苦しむ現実を否定するものではない。背負い、生きる。そして、支え合う。
大義名分を掲げて誰かが壊れて成り立つ構造なんて許せる訳ないだろ!」
静寂。
観測者が小さく笑う。
「正解だ。」
その瞬間。
世界中の盾が光り始めた。
学校。
病院。
会社。
家庭。
様々な環境が映し出される。
誰かが、
誰かを守ろうとした記憶。
誰かが、
「大丈夫」と言ってくれた記憶。
誰かが、
手を差し伸べてくれた記憶。
それら全てが、
シールダーの盾へ集まる。
Beastが初めて怒鳴った。
「黙れ!」
「そんなものでは!」
「世界は!未来は変わらない!」
シールダーは笑った。
「知っている。」
「一人じゃ変わらない。」
「だから。」
「一人ずつ増やす。」
「絶望を止める人を。」
「護る人を。」
「寄り添う人を。」
「それだけで。」
「世界は昨日より少しだけ良くなる。」
Beastが腕を振り上げる。
都市を飲み込む黒い奔流。
それは、
人類史全ての絶望。
観測者が叫ぶ。
「来るぞ!!」
シールダーは、
巨大な盾を構えた。
マスターを見る。
「あとは。」
「君だ。」
「令呪を。」
マスターの右手が光る。
涙を流しながら叫ぶ。
「令呪を以て命ずる!」
「シールダー!!」
「
三画全てが砕け散る。
莫大な魔力がシールダーへ流れ込む。
彼は静かに目を閉じ、深く息を吸った。
そして、かつてアベンジャーであった男は、
守護神として最適の宝具を解放する。
巨大な盾が、夜明けの光を映し出す。
Beastの黒い奔流が、世界を呑み込もうと迫る。
シールダーは、一歩も退かない。
世界が白く輝く。
「どんなに辛くても、
どんなに苦しくても、
今日を耐え抜き明日を迎える
明日が辛くて、
明日が怖くとも、
夜を耐え抜き朝を受け入れる
辛いだろう
苦しいだろう
怖いだろう
それでも。
その一歩を踏み出す力は、
確かに我らの中にある。
だから私は盾となろう。
誰一人、同じ絶望へ落とさぬために。
──その希望の標となれ
『違えた道が一つとなりて、今、守護神は立つ
(ロード・オブ・ガーディアン)』!!」
盾から放たれた光は、単なる防御ではなかった。
それは、人が誰かを思いやった無数の記憶。
折れそうな誰かに寄り添った、数え切れないほどの小さな善意。
その光は黒い奔流と真正面からぶつかり、冬木の空を昼のように照らした。
ビーストに関してはあんまりよく分かってないんですが、
今回の話的に敵としてそういう設定が相応しいなと思いました。
『構造』の理、構造悪という設定にしたのは、誰かが壊れる原因の根本がそれだと思うからです。確かに人に暴言を吐いたり、いじめたり、人が原因で壊れる人がいることは知ってるし経験したこともある。でも、それを止められなかった、防げなかったのはその人の責任もあるけど、そういう構造だったからとも言える。だからこそ、皆がシールダーのように、助け合い、支え合う事が出来たらいいなと思いました。
最終決戦は近いです。
次回もお楽しみに。
【毎日17時更新 / 全17話+α・7月23日完結予定】